『スーパーヒーロー ムービー!! -最'笑'超人列伝-』:2008、アメリカ

冴えない高校生のリック・ライカーは、ずっと前から同級生のジル・ジョンソンに片思いしていた。しかしジルにはランス・ランダースという恋人がいて、リックのことは存在すら知らない。親友のトレイは、「お前は絶対に付き合えない。諦めろ」と言うが、リックはジルのことが頭から離れない。ある日、リックは学校の社会見学でアマルガメイテッド製薬を訪れた。研究部長のストローム博士が生徒たちを案内し、動物の遺伝子融合研究室を見せた。
会社のCEOであるルーは、ランスの叔父だった。彼は生徒たちに挨拶した後で激しく咳き込み、口を押さえたハンカチに付着した血を確認した。それを目撃したリックが「大丈夫ですか」と声を掛けると、ルーは「これは健康的な吐血だよ」と告げた。ルーは相手がブレインとジュリアンの息子だと知って「御両親は元気かな」と尋ねるが、リックは「9年前に殺されたんです」と答えた。リックは両親を亡くした後、叔父のアルバート、叔母のルシールと3人で暮らしていた。
ルーが去った後、リックはランスに突き飛ばされた。服が汚れたリックは、「H2O」と書かれた容器を見つけた。容器の液体を服に噴射した直後、ストロームの「新しい強力なフェロモンを開発した。H2O9」という声が聞こえて来た。容器を確認したリックは、それがH2O9だと知った。研究室の動物たちはリックに引き寄せられ、激しく腰を振る。動物たちを振り払っていたリックは、ケースから逃げ出したトンボに首筋を噛まれた。それは3種のDNAで増強された新種のトンボ、スーパー・ドラゴンフライだった。
ルーは余命わずかな重病を患っており、ストロームに革命的な装置を開発させていた。役員たちの前で、彼はDNAを変化させて完全な健康体へ戻す装置を披露した。まだ試験段階であることをストロームは説明するが、装置に座ったルーは作動させるよう命じた。その実験は失敗に終わるが、ルーは手を掴んだ役員の生命力を吸い取った。彼は他の役員たちに近付き、全員を襲って生命力を吸い取った。
エンパイア・シティー高校では科学フェアが開催され、ゲスト審査員として大学の客員教授も務めるホーキング博士が来場した。リックはランスを怒らせて殴られそうになるが、パンチがスローに見えた。逃げ出そうとしたリックだが、掌が色んな物にくっ付いてしまう。そのせいで会場は大騒ぎになってしまった。町に出たリックは、会得した能力を使えば壁に手を付着させて登ることも出来ると知った。
老女がトラックにひかれそうになっている現場を目撃したリックは、助けに入った。リックは老女を突き飛ばし、トラックを受け止めた。帰宅したリックはアルバートとトレイに、特殊なトンボに噛まれて超能力を手に入れたことを明かした。アルバートが体に突き刺した包丁はグニャリと曲がり、2人はリックの言葉を信じた。「普通の人間でいたい」とリックが言うと、アルバートは「しかし、両親の願いは違ったぞ」と告げる。苛立ったリックは、強盗に襲われた両親が目の前で息を引き取った時のことを思い出した。
死の間際に父親から「ヒーローになれ」と渡された指輪を見つめたリックは、「僕はヒーローなんかじゃない」と苛立った。父と喧嘩して家を飛び出したジルと遭遇したリックは、ダンサーになりたいという夢を聞かされて「君ならなれるよ」と告げた。翌朝、エグゼビア教授という男がネットを通じてリックに接触し、「君は力を制御できない」と告げる。だが、バッファリングが酷くて回線は切断された。
ジルと付き合うために車が欲しいと考えたリックは、銀行で融資を受けようとする。冷たく拒否されたリックは、金を奪った銀行強盗を逃がした。だが、その強盗にアルバートが撃たれてしまう。アルバートは病院へ運ばれ、担当医のウィットビーは余命1週間と宣告した。責任を感じるリックの前に、エグゼビアが現れた。彼は特殊能力を持つ若者たちのための学園を経営しており、そこへリックを連れて行くエグゼビアは妻からインビジブル・ガールとの浮気を指摘され、赤ん坊の特殊能力で吹き飛ばされた。
エグゼビア夫人はリックに、スーパーヒーローになる秘訣として「コスチュームを作ること」と告げる。ドラゴンフライというヒーローのコスチュームを作ったリックは、悪人を退治して人々を救う活動を開始した。一方、ルーはストロームから、1日に1人を殺さないと若さを保つことは出来ないという計算結果を知らされる。ただしホーキングが研究している特殊物質「セリリアム」さえあれば、問題は解決するとストロームは言う。
ドラゴンフライの写真が金になると知ったリックは、広告を出していた新聞社を訪れた。エンパイア・シティー大学に警察が集まっているという情報を知ったリックは、すぐに急行した。ルーは「アワーグラス」という名のヴィランに変装し、大学からセリリアムを奪った。そこへドラゴンフライが駆け付け、格闘になる。しかチタン・ブレードの攻撃を受け、アワーグラスに逃げられてしまった。リックがジルに好意を寄せていると知ったルシールは、「敵はドラゴンフライが大切にしている人を狙って来るわ」と忠告した。
ダンスのオーディションを受けて会場から出て来たジルに、リックは花束を渡す。「何か隠してることがあるんじゃない?」と言われたリックは正体を明かそうかと迷うが、結局は内緒にした。ジルがチンピラたちに追われるのを見たリックは、ドラゴンフライに変身して彼女を救った。ジルは正体がリックだと知らないまま、ドラゴンフライとキスを交わした。一方、ルーは大量殺人によって不死身になる計画を企てていた。そんな中、リックがドラゴンフライだと知ったルーは、ルシールを殺害する…。

脚本&監督はクレイグ・メイジン、製作はロバート・K・ワイス&デヴィッド・ザッカー&クレイグ・メイジン、共同製作はデヴィッド・シーゲル&スコット・トムリンソン、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&マシュー・スタイン、撮影はトーマス・E・アッカーマン、編集はクレイグ・P・ヘリング&ダニエル・A・シャルク&アンドリュー・S・エイゼン、美術はボブ・ジーンビッキ、衣装はキャロル・ラムジー、視覚効果監修はアリソン・オブライエン、音楽はジェームズ・L・ヴェナブル。
出演はドレイク・ベル、サラ・パクストン、クリストファー・マクドナルド、レスリー・ニールセン、パメラ・アンダーソン、ケヴィン・ハート、ブレント・スピナー、ジェフリー・タンバー、ライアン・ハンセン、レジーナ・ホール、マリオン・ロス、ロバート・ヘイズ、ロバート・ジョイ、ダン・カステラネタ、サイモン・レックス、キース・デヴィッド、カート・フラー、ジェニカ・ベルジェール、ニコール・サリヴァン、サム・コーエン、トレイシー・モーガン、マリサ・ローレン、リチャード・ティルマン、アトム・ゴアリク、アリソン・ウッズ、エリック・アーテル、ショーン・シムズ、マイルス・フィッシャー、ブライアン・カーペンター他。


『最‘狂’絶叫計画』『最終絶叫計画4』の脚本家であるクレイグ・メイジンが監督を務めた作品。
彼が監督を担当するのは、2000年の『MIS II メン・イン・スパイダー2』に次いで2度目。
リックをドレイク・ベル、ジルをサラ・パクストン、ルーをクリストファー・マクドナルド、アルバートをレスリー・ニールセン、インビジブル・ガールをパメラ・アンダーソン、トレイをケヴィン・ハート、ストロームをブレント・スピナー、ランスをジェフリー・タンバー、ランスをライアン・ハンセン、エグゼビア夫人をレジーナ・ホール、ルシールをマリオン・ロス、ブレインをロバート・ヘイズ、ホーキング博士をロバート・ジョイが演じている。

クレイグ・メイジンが監督と脚本を手掛け、デヴィッド・ザッカーが製作に携わっているというだけで何となく予想できる人も多いだろうが、これはパロディー映画である。
タイトルが示す通り、今回の作品でネタになっているのはヒーロー物だ。
過去のアメコミ映画に登場したヒーローたちが、パロディーにされている。
ベースとなるのはサム・ライミ版『スパイダーマン』で、他に『バットマン ビギンズ』『X−メン』『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』『スーパーマン リターンズ』などが使われている。

当たり前のことなので今さら言うまでも無いことだが、パロディー映画では元ネタとなった作品を観賞していることが鉄則だ。元ネタを知らなければ、それが何のパロディーで、どういう茶化し方で笑いに変えているのかがサッパリ分からないわけだから、実は観客にも一定の条件をクリアしてもらう必要がある。
ただし製作サイドにも、なるべく有名な作品やヒット作をネタにするという姿勢が求められる。あまりマイナーな映画をネタにしても、「誰が分かるんだよ」ってことになるからだ。
マニアックなネタを盛り込んでオタク心をくすぐる類の映画も存在するが、それは「そういうマニアックなネタが分からなくても楽しめる」という内容に仕上げた上で成立するモノだ。
この作品の場合、そういうマニアックなネタだけを散りばめることは許されない。

パロディー映画で難しいのは、「まずパロディーありき」でストーリーが後付けになってしまう状況に陥りがちってことだ。
それによって何が起きるかというと、「筋書きがデタラメすぎてグダグダになり、肝心のパロディーにまで悪影響を及ぼす」という破綻だ。
とは言え、ストーリー展開ばかりに気を取られるとパロディーが弱くなったり数が少なくなったりしてしまうわけで。
その辺りの塩梅ってのは、そう簡単なことではない。

冒頭、リックが走り出したバスを追い掛けると、急停止したバスにぶつかって転倒し、立ち上がったら飛び出した「ストップ」の標識に顔面をぶつけて転倒し、次に立ち上がったら今度は開いたドアにぶつかって転倒する。
ハイテク機器マニアのトレイはi-Podっぽい形の「IDrink」というジュースを飲み、「IPick」という鼻毛カッターを使い、「ソニー製のサンドウィッチを買って来た」と語る。
トレイが「ジルは人気者グループ以外とは付き合わない」と言い、リックが「グループなんて無いよ」と笑うと「周りを見ろよ」と告げ、体育会系、オタク系、繊細系、ファンタジー系、暗黒街の連中といったグループに分かれて座っているのを見せる。
遺伝子融合研究室でリックは鳥の写真を撮影しようとするが、離れた場所でストロームが「(遺伝子操作の動物には光に弱い物もいるから)フラッシュ撮影もお断り」と言っており、リックがフラッシュを焚くと鳥が炎上する。
そういった辺りは、ZAZトリオのテイストを感じる。

アルバートとルシールが登場すると、仲睦まじい様子で「貴方は結婚してから、ずっといい男」などと話し、「お前は少し年を取って」「貴方は白髪になった」「目尻に皺も」と互いに老けたことを言い合う時もニコニコしている。だが、だんだん「貴方はオシッコに1時間も掛かる」「お前の太ももはゲロのカッテージ・チーズみたいに脂肪でデコボコだ」「貴方のアソコは昔から小さかった」と悪口になっていく(最終的には「愛していれば関係ない」とキスを交わす)。
トンボに噛まれたリックが帰宅すると、彼の方を見ないでアルバートは「魚のエサやりを忘れるなよ」と言う。具合の悪いリックは魚の水槽にゲロを吐くのだが、エサをやったと思い込んだアルバートは「それでいい」と口にする。
いつもと違うと感じたアルバートはリックに「思春期には、この本が参考になるかもしれん」と言い、間違って生理を説明した本を読む。ビールを飲むよう促し、「大人になる儀式として、今日はビール、明日は割礼をしてやるぞ」と告げる。
役員がルーの肖像画を指差し、「こいつのせいで大事な時間を無駄にするのは御免だ」と苛立ちを示す。すると肖像画だと思っていたのはルーが額縁の向こうに立っていただけで、彼が喋りながら出て来る。
「今の私に残されたのは1時間だ」とルーが砂時計を置くと、一瞬で全ての砂が落ちる。ルーが特殊能力を手に入れて役員たちを襲うと、ストロームはスクリーミング・クイーンのような悲鳴を上げる。

具合の悪かったリックが目を覚まして「どれぐらい寝ていたんだろう」と言うと、同じベッドで寝ていたアルバートが「5日間だよ」と告げる。
トンボに噛まれたことが気になったリックはネットで医者に質問するが、なぜかセックスの経験について問われる。経験があると答えるが、すぐに嘘だと見抜かれる。童貞だと認めると、「マジで?お気の毒」とバカにされる。
向かいに住むジルの着替えを覗き、ブラを外すのでワクワクするが、もう一枚のブラを着けている。どのパンティーを履こうか考えたジルは、糸みたいなTバックを選ぶ。少し目を離したリックが再び目をやると、ジルのオヤジが着替えている。
ホーキング博士はコンピュータを使って「私は病気で体が麻痺しているが、落ち込んではいません。学問という強みがあるからです」と話すが、すぐに「というのは嘘。毎日、自殺することばかり考えています。君たちは歩いたり話したり自分のケツを拭いたりセックスすることが出来る。私は何年もセックスしていない。私の看護婦はレズビアンだし、セクシーなタイプじゃない。誰かハイになりたい人はいるかな。大麻を少し持っているんだ」と言う。

ここまで書いたのは序盤戦だけで、それ以降も多くのネタが盛り込まれている。
数としては、かなり多い。だから量としての不満は無い。
ただし、上述した説明でも何となく分かるだろうが、この映画で喜劇としてそれなりにキッチリと描写できていると感じるのは、ヒーロー映画のパロディーではないネタばかりなのだ。
ヒーロー映画のパロディーに関しては、扱っている作品の種類も少ないし、ネタも少ない。そして弱い。

リックが3種のDNAで増強された新種のトンボに噛まれるのは、それが原因で特殊能力を会得するようになるという重要なシーンだ。
しかし、それよりも「H2O9のせいで多くの動物がリックに襲い掛かり、性交渉にしようとする」という描写の方が強くなっている。
それはパロディーの描き方として明らかに間違っており、そこは「リックが特殊能力を会得することになった出来事」そのものをネタにすべきなのだ。
そこは「遺伝子操作されたトンボに噛まれた」という何の捻りも無い普通の内容にしておいて、それとは無関係なトラブルで喜劇を構築するってのは、やり方が違う。

リックが幼い頃、目の前で両親が強盗の襲撃を受ける。
「いつかお前をヒーローと頼るようになる。その日が来たら、しっかりやれるな」という父の言葉を思い出したリックは、強盗に襲い掛かる。しかし強盗と揉み合う中で拳銃が発砲され、両親に弾丸が当たってしまう。
父は「財産は全てお前にやる。グーグルという小さな会社の株は価値が無いから、全て売れ。エンロンに投資しろ」と言う。
「渡す物がある。コートのポケットだ」と言われたリックは別のポケットを探り、入っていた拳銃で父を撃ってしまう。「そっちじゃない」と言われたリックが銃を捨てると、弾丸が発射されて母に命中する。
そのシーンは『バットマン』のパロディーではあるんだけど、そこのネタって全てパロディーじゃなくても喜劇として成立しているんだよね。

アルバートが強盗に撃たれるシーンは、「野次馬が集まっているのでリックが駆け寄ったら猿が曲芸をしている。安堵したら、その近くで撃たれたアルバートが倒れている」という描写になっている。
そこは『スパイダーマン』のパロディーだけど、パロディーという要素を除外しても喜劇として成立する。
リックがヒーローのコスチュームを考える時にテニスルックやウェディングドレスを描いてしまうのも、別に『スパイダーマン』のパロディーじゃなくても成立する。
ウルヴァリンが爪で足の毛を剃っているとか、ヒューマン・トーチがドラゴンフライに能力を披露しようとしたら体が燃え上がって大慌てするとか、ドラゴンフライが逆さまに吊り下がったままジルとキスしようとしたら体がズリ落ちてしまうとか(本家の映画ではズリ落ちずにキスをする)、ルーが部屋に来た時にドラゴンフライの格好をしたリックが天井に張り付いて隠れるけど小便が垂れて気付かれそうになるとか(本家で垂れるのは小便じゃなくて血)、アメコミ映画のパロディーという要素を除外したら喜劇として成立するのは難しいと感じる箇所もあることはあるけど、パロディー以外のネタの方が遥かに多い。

パロディーの中でも面白いのは、アメコミ映画のネタよりも、前述したホーキング博士のネタとか、エグゼビア学園にバリー・ボンズがいて「ここに来た時は体重も軽かったが、ステロイドを使って何でも出来るようになった」という解説が入るとか、トム・クルーズがドラゴンフライについて語るYoutubeの映像とか(2008年に流出したサイエントロジーの受賞インタビュー動画が元ネタ)、「ロージー・オドネルがヌードに」と書かれたゴシップ雑誌の表紙とか、ホーキング博士がドラゴンフライを勇気付ける時にセリーヌ・ディオンの歌詞を丸パクリするとか、そういう有名人関連のネタなんだよね。
だから、ZAZ系のおバカ映画としてはボロクソに酷評するほど悪くないと思うんだけど(でも大して面白いわけでもない)、アメコミ映画のパロディー作品として捉えると、どうなのかなと。
ぶっちゃけ、特定の作品を元ネタにするのではなく「アメコミ映画のセオリー」に対するパロディーとして構成した方が良かったんじゃないかと。つまり、ホラー映画のパロディー的な要素を盛り込んだ『スクリーム』みたいなノリでやった方が良かったんじゃないかなと、そんな風に思ったりするんだよな。

(観賞日:2014年11月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会