『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』:1993、アメリカ&イギリス

6500年前のブルックリンに、巨大な隕石が地球に衝突した。しかし恐竜は絶滅せず、隕石によって作られた別世界で進化を遂げた。彼らは知性を得て、人間のような攻撃性を持つようになった。20年前、ブルックリン。1人の女性が謎の装置を抱えて逃げていた。彼女は装置に石をセットして教会の扉を叩き、それを置いて走り去った。教会から出て来た尼僧が装置を開けると、中には大きな卵が入っていた。女はマンホールから地下洞窟に入るが、待ち受けていたクッパに「石はどこだ」と詰め寄られる。柱を倒し、洞窟を塞いだ。一方、卵が孵化すると、中から赤ん坊が誕生した。
現在のブルックリン。マリオとルイージの兄弟は、配管工事の会社を営んでいた。しかし経営は火の車で、家賃を3ヶ月も滞納していた。カフェの食洗機が故障したという連絡を受けたマリオは、テレビの超常現象番組に夢中のルイージを急かして仕事へ出向く。しかし町の顔役であるスカペリが社長を務める建設会社の車が来ており、仕事を横取りされた。スカペリ建設の担当している建設現場では、大学生が恐竜の化石を発掘するために工事が中断されていた。
スカペリが交渉に赴くと、大学生グループのリーダーであるデイジーは「裁判所命令が続く限り、工事は再開されない」と言う。彼女が「嫌がらせを止めれば早く終わるわ」と告げると、スカペリは「今夜までに終わらせた方がいいぞ。最近、女たちが行方不明になってる」と脅し文句を口にした。クッパの手下であるイギーとスパイクはデイジーを発見し、「あの女に間違いない」と言って監視した。
ルイージはデイジーに一目惚れし、公衆電話を使おうとする彼女に小銭を貸した。ルイージから事情を聞いたマリオは、彼女に話し掛けるよう勧める。ルイージの口下手に呆れたマリオは、「車で送って行こう」とデイジーに告げる。マリオから指示を受け、ルイージは彼女をディナーに誘った。
夜、マリオは恋人のダニエラをレストランへ連れて行き、4人で食事をする。デイジーが首から下げているペンダントには、20年前の装置にセットされていた石が埋め込まれていた。彼女はマリオたちに、自分が捨て子だったこと、発見された時から石を持っていたことを話す。するとルイージは、自分も捨て子でマリオに養育されたことを明かした。食事の後、気を利かせたマリオとイザベラは、ルイージとデイジーを残して先に店を出た。張り込んでいたイギーとスパイクは、イザベラをデイジーの変装だと思い込んだ。イザベラはマリオと別れた後、イギーとスパイクに拉致される。
ルイージはデイジーと町を散歩し、化石の発掘現場へ連れて行ってもらう。すると潜んでいたスカペリの手下たちが排水管を開き、地下道に水を溢れさせて逃亡した。ルイージとデイジーはマリオの元へ駆け込み、助けを求めた。地下道に向かったマリオは、排水管を締めて水を止める。そこへイギーとスパイクが現れ、マリオとルイージを殴り倒してデイジーを連れ去った。マリオとルイージが地下洞窟を捜索していると、岩壁に助けを求めるデイジーの顔が浮かび上がった。
ルイージが手を伸ばすと、デイジーのペンダントだけが手元に残った。ルイージは岩の中に飛び込んで姿を消し、マリオも後を追った。マリオとルイージは不思議な空間を飛ばされ、デイジーがイギーとスパイクに連行されるのを目撃する。2人が後を追うと、見知らぬ街に出た。そこはクッパの支配する世界だが、2人が知るはずも無い。クッパと妻のレナは、石を手に入れようと目論んでいた。クッパは石だけでなく王女であるデイジーも手に入れ、両方の世界を結合させて哺乳類を排除しようと企んでいた。
イギーとスパイクは王女を連れて来たことを報告するが、クッパから「石はどこだ?」と問われて首をかしげた。石のことを完全に忘れていた2人にクッパは激怒し、「隕石を目覚めさせるには、石が必要なんだ」と声を荒らげた。配管工が持っていると聞いたクッパは、市民に賞金を出して捜索させることにした。マリオとルイージは銃を持った老女に脅され、ペンダントを奪われた。そこへバーサという大柄の女が現れて老女を投げ飛ばし、ペンダントを奪って逃亡した。
マリオとルイージの前にトードというギターを持った男が現れ、クッパを批判する歌を歌った。そこへ警官が現れてトードを逮捕し、配管工事の道具を持っていたのでマリオとルイージも連行した。デイジーが部屋に監禁されると、そこにはダニエラと数名の女も捕まっていた。マリオとルイージは留置場に放り込まれ、トードから隕石衝突で2つの世界が生まれたことを聞かされる。トードは「外のキノコ菌を見たか。かつての国王が退化させられた。その報復で町を荒廃させようとしている」と述べた。
クッパはマリオとルイージに会い、「隕石のかけらはどこだ」と質問する。何のことか分からない2人がキョトンとすると、クッパは退化ルームへ連れて行く。クッパはトードを進退化マシーンに拘束し、グンバと呼ばれる生物に退化させた。マリオが「アンタは何から進化した?」と訊くと、クッパは「ティラノサウルス・レックスだ」と言う。トードはクッパの兵隊であるグンバ軍団の一員になった。
マリオとルイージは隙を見てクッパを機械に拘束し、退化スイッチを押して逃げ出した。2人はパトカーを盗み、警察署から脱出した。指名手配となった2人は追って来る警官隊を全て片付けるが、砂漠トンネルに迷い込んでしまった。クッパはレナに、プリンセスを連れて来るよう告げる。クッパは愚かなイギーとスパイクを賢くするため、進退化マシーンを使うことにした。サイモン軍曹は2人を機械に拘束して進化スイッチを押し、ダイヤルを「高等知能」に合わせた。クッパはイギーとスパイクに、マリオたちを捕まえるよう指示した。
クッパの元へ連行されたデイジーは、鎖に繋がれた小型恐竜を目にした。クッパは「ヨッシーは王のペットだ」とデイジーに言う。クッパは「お前は恐竜の子孫だ」と言い、グンバに連れて行くよう命じた。イギーとスパイクは荒野を移動するマリオとルイージを発見し、追い掛けようとする。しかし逆に捕まり、尋問を受ける。イギーとスパイクは、石の正体が地球に衝突した隕石の破片であること、それを隕石にくっ付けることで2つの世界が融合されること、クッパが統合された世界の支配を目論んでいることを話す。
石を渡せばデイジーは引き渡すとイギーたちが約束したので、ルイージは大柄な女に奪われたことを明かした。すぐにイギーたちは、それがバーサだと気付いた。4人は採石用トラックを奪って街へ行き、クラブでバーサを発見した。店員はマリオとルイージに気付き、密かに電話で通報した。マリオはバーサをナンパし、ペンダントを盗んだ。そこへレナがグンバを引き連れて駆け付け、ペンダントを手に入れる。マリオとルイージはバーサの協力を得て、店から逃げ出した。2人はデイジーを救い出すため、クッパの住む高層ビルに潜入する。レナはデイジーに嫉妬心を抱き、彼女を始末しようとする。しかしヨッシーが妨害し、その隙にデイジーは逃げ出した…。

監督はロッキー・モートン&アナベル・ヤンケル、脚本はパーカー・ベネット&テリー・ランテ&エド・ソロモン、製作はジェイク・エバーツ&ローランド・ジョフィー、共同製作はフレッド・カルーソ、製作協力はブラッド・ウェストン、撮影はディーン・セムラー、編集はマーク・ゴールドブラット、美術はデヴィッド・L・スナイダー、衣装はジョセフ・ポロ、視覚効果デザイン&監修はクリストファー・フランシス・ウッズ、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はボブ・ホスキンス、ジョン・レグイザモ、デニス・ホッパー、サマンサ・マシス、フィッシャー・スティーヴンス、リチャード・エドソン、ダナ・カミンスキー、フィオナ・ショウ、モジョ・ニクソン、ジャンニ・ルッソ、フランチェスカ・ロバーツ、ランス・ヘンリクセン、シルヴィア・ハーマン、デザリー・マリー・ヴェレス、アンドレア・パウエル、ヘザー・ペンダーガスト、メラニー・サルヴァトーレ、ジョン・フィファー、ドン・レイク、テリー・フィン、トーマス・マーディス、マイケル・ハーディング、マイケル・リンチ、スコット・マクタヴィッシュ、ウォレス・メルク他。


任天堂のTVゲーム『スーパーマリオブラザーズ』を基にした作品。ビデオ化の際は『スーパーマリオ』という邦題に変更された。
TVゲームが映画化されるのは、これが初めてだ。
だから当然のことながら、任天堂のTVゲームが映画化されるのも、これが最初ということになる。
ただし「実写化」という表現に変えると、これは2作目になる。
なぜなら、テレビの『月曜ドラマランド』の枠で、『おニャン子捕物帳 謎の村雨城』という作品が先に放送されているからだ。

マリオをボブ・ホスキンス、ルイージをジョン・レグイザモ、クッパをデニス・ホッパー、デイジーをサマンサ・マシス、イギーをフィッシャー・スティーヴンス、スパイクをリチャード・エドソン、ダニエラをダナ・カミンスキー、レナをフィオナ・ショウ、トードをモジョ・ニクソン、スカペリをジャンニ・ルッソ、バーサをフランチェスカ・ロバーツ、国王をランス・ヘンリクセンが演じている。
マリオ役にボブ・ホスキンスが決定する前は、ダニー・デヴィートも候補に挙がっていた。
監督のロッキー・モートンとアナベル・ヤンケルは、イギリスのTV映画『電脳ネットワーク23/マックス・ヘッドルーム』の仕事ぶりが評価されての起用。
脚本は『ミステリー・デイト』のパーカー・ベネット&テリー・ランテ、『ビルとテッドの大冒険』のエド・ソロモンによる共同。

冒頭、ゲームで使われている曲が流れて来るが、そこで『スーパーマリオブラザーズ』の映画化に対する意識は終了していると言っても過言ではない。映画の内容は、ゲームとは全く関係が無い。
『スーパーマリオブラザーズ』という大人気ゲームを利用して金儲けをしようと目論んだだけであることが、ハッキリとした形で露呈している。
っていうか、そもそも『スーパーマリオブラザーズ』を実写映画化するという企画の段階で、どう考えたって無理があるのだ。
それなのに、ゲームへの愛やリスペクトなんて皆無で、ただ搾取することだけを考えてゲームの人気や知名度だけを安易に利用したもんだから、酷評を浴びて大コケする結果になるのよ。

冒頭、まずデニス・ホッパーが登場した時に女が「クッパ」と口にした時点で、もう「これは『スーパーマリオブラザーズ』でも何でもない」ということが明らかになる。
原作では亀の大魔王だったクッパが、ここではデニス・ホッパー丸出しなのだ。
「デニス・ホッパーが特殊メイクで亀になっている」ということではない。完全に人間の姿なのだ。
一応は「ティラノサウルスから進化した恐竜族」という設定らしいが、どっちにしろ亀じゃねえし。
舞台となるのがブロンクスみたいな街ってのも、マリオの世界観と全く違うし。

そんなクッパは、この映画では「恐竜の帝国であるダイノハッタンの大統領」という設定だ。
しかし大統領にしてはフットワークが無駄に軽くて、わざわざ捕まったマリオとルイージに会うために出向いている。
その時に警官が同席しているのだが、相手が大統領なのに恐縮する様子も無く、平然としている。他の市民も、クッパに対するリアクションは薄い。
恐怖政治で市民を支配しているのかと思ったら、そういうわけでもないのね。

だけど、デイジーの母親が逃げ出したのは、クッパが前国王を退化させて政権を握った直後のはずでしょ。
ってことは、まだクッパが政権を掌握してから、20年しか経過していないんでしょ。それなら、北朝鮮のように、全ての国民が洗脳教育によって彼を崇拝しているという状況でもないんでしょ。なんせトードが平気で批判する歌を歌ってるしね。
だったら、前国王派の連中とか、あるいはレジスタンスが存在しても良さそうなんだけど、その気配は全く無いのね。
そもそも、どうやってクッパがクーデターを起こしたのかも良く分からんし。

マリオとルイージが登場すると、なんと名前は「マリオ・マリオ」と「マリオ・ルイージ」。
「マリオブラザーズだから苗字がマリオじゃないとダメだろう」という考えなんだろうけど、そんなトコで妙に真面目にならなくてもいいでしょ。
それよりも、2人が血の繋がった兄弟じゃない上に、ルイージに髭が生えておらず、ちっともルイージじゃないトコをどうにかした方がいいんじゃないのか。
まあ2人とも髭のオッサンだと訴求力の面で厳しいってことかもしれんけど、じゃあジョン・レグイザモで客を呼べるのかって、そこは大いに疑問だし。
そもそもゲーム版のマリオだって、見た目はオッサンっぽいかもしれんけど20代という設定なんだぞ。

ヒロインはピーチじゃなくて、ゲームの世界では脇役であるデイジー。しかも、マリオじゃなくてルイージに恋愛劇を用意する。
しかし恋愛劇なんて丁寧にやっている余裕が無かったのか、出会った時から2人は惹かれ合い、数分後にはキスの雰囲気にまで至っている。まあ軽くて浅くて薄いこと。
一方のマリオにはピーチじゃなくて、ダニエラという恋人を用意する。
このダニエラ、存在意義は皆無に等しい。序盤で拉致された後、マリオは彼女が拉致されたことにさえ気付かないまま長い時間を過ごしているし。

高等知能を手に入れたはずのイギーとスパイクだが、ちっとも賢くなっていない。荒野でマリオとルイージを見つけた際、イギーから「真っ直ぐだ」と言われたスパイクは車を真っ直ぐに運転できず、右だと言われても右に行かず、崖から転落している。
クッパはデイジーを牢に入れる時にヨッシーも一緒に収監するが、その理由は不明。そもそもヨッシーをデイジーに披露する意味が無い。後で「ヨッシーがデイジーを助ける」という展開があるので、そのための都合ってことが見え見えだ。
で、そんなヨッシーに助けてもらったデイジーだが、ヨッシーがレナにナイフで首を突き刺されているのに、放っておいて逃げ出している。
そりゃあ助けに戻ったら自分も危ないだろうけど、トードがグンバたちに火炎放射を浴びせられた時は、逃げ出さずに消火器で助けているんだよな。そこは行動に矛盾を感じるぞ。

「隕石と破片をくっ付けると2つの世界が融合する」という設定なんだけど、それによって2つの世界が融合する理屈は全く分からない。そのことをクッパが知っている理由も分からない。
そもそも世界を融合させても、クッパが人間の世界を支配できるとは限らない。
人間だって黙って支配されるわけじゃなくて、当然のことながら反撃するはずだし。
だから「2つの世界を融合させる」ってのが、クッパの中で「人間をの世界を支配する」ってのとイコールになっているのは、ちょっと甘いんじゃないかと思うぞ。

っていうかさ、クッパが「地上の世界へ行けば退化銃で人間を退化させて支配できる」という自信を持っているのなら、なぜ今まで実行しなかったのか。
本気で支配したければ、さっさと人間の世界へ行けばいいのだ。
彼の目的が「人間の世界を支配したい」ということなら、石を使って2つの世界を融合させる必要など無いのだ。
なぜなら、地下洞窟で繋がっているからだ。岩壁からワープして、人間の世界へ移動すれば済む話なのだ。

「なぜ今まで実行しなかった?」というマリオの質問に対して、イギーが「そっちの誰かが爆破するまでは封鎖されてた」と答えるシーンがある。
20年前にデイジーの母が洞窟を塞ぎ、スカペリが建築現場を爆破したことで、その封鎖が解除されたってことだ。
だけど20年前までは洞窟で人間の世界と繋がっていたんだから、その時点では乗り込むことも可能だったはずでしょ。それに洞窟が塞がれても、そっちサイドから爆破すれば穴は開いたはずでしょ。
どうであれ、2つの世界の融合に固執する意味が全く無いのよ。

『スーパーマリオブラザーズ』と全く別物になっているどころか、『スーパーマリオブラザーズ』を貶めているようにさえ感じる内容だが、せめてオリジナル作品としての面白さがあれば、そこが救いになる。
しかし、オリジナル作品としての面白さも全く感じられない。
アクションシーンの爽快感やスピード感は全く無いし、テンポがモタモタしている。
主人公2人にはキャラクターとしての魅力が無いし、悪党サイドにも惹き付けられるメンツが1人もいない。
舞台装置や美術に、見るべきモノがあるわけでもない。使用される道具や機械に、ワクワクさせてくれるモノがあるわけでもない。

大人の鑑賞には堪えないが、子供向けにしては汚い言葉を使ったり、デイジーの父親がゲショゲショでネバネバ状態のキノコ菌になっているという変にグロい描写があったりする。
とにかく、褒める箇所が1つも見当たらない、正真正銘の駄作なのだ。
「意図しない笑いが生まれている」という、ポンコツ映画ならではの面白さも無い。
そりゃあ、主演したボブ・ホプキンスが「生涯で最悪の映画だった」と酷評するのも納得できる。

(観賞日:2015年3月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会