『ストレンジャー・コール』:2006、アメリカ

ある夜、バーフォードという町で殺人事件が起きた。翌朝、連絡を受けたハインズ刑事は、現場である家に赴いた。待っていたルイス巡査 によると、パトロール中に通報を受けたが、相手は名乗らなかったという。殺されたのは3人の子供を持つ母親で、現場は2階の部屋だ。 凶器についてハインズが尋ねると、ルイスは素手だと答える。室内を確認したハインズは、無残な死体を見て嘔吐しそうになった。
コロラド州ファーンヒル。高校生のジル・ジョンソンは、体育館で陸上部の練習に参加している。コーチがタイムを計測するが、ジルは バスケットをしている恋人のボビーに気を取られて集中力を欠いた。ジルとボビーの関係は、険悪になっていた。ボビーがジルの親友で あるティファニーとキスしているのを目撃したからだ。もちろん、ボビーだけでなくティファニーとの関係も険悪になっている。ボビーは ヨリを戻そうとして話し掛けて来るが、ジルは冷たい態度で突き放した。
ジルは親友のスカーレットから、今夜出掛けるパーティーの予定を確認される。しかしジルは「ごめん、行けない」と言い、車の運転も 携帯の使用も、父のベンから1ヶ月禁止されていることを明かす。携帯の使い過ぎで、使用料が高額になったためだ。ジルは彼女に、 マンドラキス家でベビーシッターのバイトをすることを話した。ジョンはジルをマンドラキス家まで送り、「今夜はママと出掛けるから 、帰りはマンドラキス先生に送ってもらいなさい」と告げる。
湖畔にポツンと建つ豪邸に到着したジルがチャイムを鳴らすと、医者であるマンドラキスが出て来た。彼と妻のケリーと共に外出する準備 をしており、子供のアリソンとウィルは寝付いたところだという。ケリーはジルを連れて邸内を案内し、「上で物音がしても気にしないで 。3階にローザっていう住み込みのメイドがいるの。具合の悪い母親がいるから、たまには夜中に出掛けるけど。それと、大学生の息子が 急に来ることもあるから」と語る。
マンドラキス夫妻は、子供たちは風邪が治り掛けて眠ったところなので、起こさないでほしいとジルに頼んだ。ジルは警報装置の暗証番号 を教えてもらう。夫妻は警報システムを作動させて外出する。やがて日が暮れるが、ジルは特にすることもなく、適当に時間を潰す。物音 がしたので行ってみると、中庭でローザが鯉にエサをやっていた。ジルはローサと目が合い、軽く挨拶を交わした。リビングに戻ると、 電話が掛かって来た。ジルが受話器を取ると、ハアハアという男の息遣いが聞こえてきた。ジルはすぐに電話を切った。
隣の部屋の灯りが付いたので、ジルは恐る恐る様子を見に行く。すると飼い猫が部屋から飛び出してきた。スカーレットと電話で話した ジルは、「ボビーからそこの電話番号を聞かれた」と打ち明けられる。スカーレットが「教えてない」と言うと、「じゃあボビーに番号を 教えといて」とジルは告げる。電話を切った直後、警報アラームが鳴り響いた。アラームを切ったジルは、警備会社からの電話に「メイド さんが間違えて鳴らしたみたい」と説明した。ケリーからの電話に、ジルは警報の誤作動があったことを伝える。
ジルは中庭へローザの様子を見に行くが、そこに彼女の姿は無かった。急にスプリンクラーが作動し、そして止まった。電話が鳴ったので 、ジルはリビングヘ戻る。受話器を取ると、「何ともないか」という男の声がして、それだけで切れた。しばらくすると、また電話が 掛かって来た。今度は「今、何着てるの?」と男が話し掛けて来た。腹を立てたジルは、すぐに電話を切った。妙な物音がしたので、ジル は暖炉の火かき棒を手に取って様子を見に行く。キッチンに足を踏み入れると、それは製氷機の氷が落ちる音だった。
また電話が掛かって来たが、その相手は邸内に侵入していたティファニーだった。ティファニーは「ガレージが開いてたわよ」と笑う。 ティファニーは「酒を飲んでボビーとキスしたくなっっただけ」と釈明し、軽い口調で和解を持ち掛ける。ジルはティファニーを許し、 彼女を帰らせた。ティファニーは車で去ろうとするが、何者かに襲われた。ドアが激しく打ち鳴らされたので、ジルはティファニーだと 思って鍵を開ける。だが、ドアの向こうには誰もいなかった。
また電話が掛かって来るが、相手は無言のままだった。電話を切った後、ジルはボビーの携帯に連絡を入れてみた。ボビーはパーティー 会場にいた。「ここに電話を掛けた?」とジルが尋ねると、「親友のコーディーが一度だけ悪戯電話を掛けたので、やめさせた」と彼は 話す。電波状態が悪いため、ボビーがコーディーに確認している間に電話は切れてしまう。ジルはリダイヤルするが、電波の届かない状態 になっていた。
しばらく時間が経過して、また電話が掛かって来た。ナンバーディスプレイで「ティファニー」と出るが、受話器からは男の声がした。 「コーディー?やめてよ」とジルは電話を切った。すぐに電話が掛かり、今度は非通知表示が出た。ハアハアという息遣いだけが聞こえ、 ジルは「もう掛けて来ないで」と怒鳴って電話を切った。ジルはスカーレットに電話を掛けるが、やはり電波状態が悪く、すぐに切れた。 続いてジルはベン、そしてマンドラキス夫婦の携帯に電話を掛けるが、留守電になっていた。
ジルは警察に電話を掛け、「何度も無言電話が掛かって来る」と説明する。だが、応対したバロウズ巡査から、それだけでは動けないと 言われてしまう。窓の外に目をやったジルは、出掛けたと思っていたローザの車が停まっているのに気付いた。安堵したジルは、バロウズ に礼を述べて電話を切った。ジルはローザに呼び掛けるが、返事は無い。そこで彼女の携帯に電話を掛けてみるが、留守電になっていた。 呼び出し音が聞こえるので、ジルは邸内を探す。携帯電話は見つかったが、ローザはどこにもいなかった。
また電話が鳴り響き、男が「子供たちの様子は見たか」と問い掛けて来た。ジルが電話を切ると、また呼び出し音が鳴った。ジルはそれを 無視し、子供たちの様子を見に行く。子供たちはすやすやと眠っていた。また電話があり、ジルが受話器を取ると、男は「子供たちはどう だった」と問い掛けて来た。ジルは男が邸内の様子を見ていると確信し、恐怖を感じる。彼女はバロウズに電話を掛け、「電話の男が窓の 外から見てる」と説明した。バロウズは「電話会社に手配して逆探知しよう。GPSなら、向こうの位置が分かる」と告げる。ジルから 屋敷の住所を聞いた彼は、「また掛かって来たら、60秒は持たせてくれ。パトカーを行かせるが、20分は掛かる」と述べた。
また電話が掛かって来たので、ジルはストップウォッチを使って時間を計測しながら、話し掛けて長引かせようとする。しかし、まだ60秒 に到達しない内に、男は電話を切った。ゲストハウスの灯りが点いたのを目にしたジルは、そこに電話を掛けてみた。留守電になったが、 ゲストハウスの窓には人影が映った。ジルは警戒しつつ、ゲストハウスへ向かう。部屋に入ると、誰もいなかった。ゲストハウスに電話が 掛かって来たので、ジルは話し掛けて長引かせる。今度は60秒を超えてから電話が切れた。しかしジルは、母屋とゲストハウスの電話番号 が異なっていることに気付いた。
3階で照明が付いたのを目にしたジルは、急いで母屋へ戻った。また電話が掛かり、男のハアハアという息遣いが聞こえてきた。3階に 行くが、ローザの姿は見当たらなかった。ジルから「何が目的なの」と訊かれた男は、「お前の血をを体中に浴びたい」と答えた。今度の 電話は、60秒を超えた。水音を耳にしたジルは、バスルームへ向かう。出しっ放しになっていたシャワーを止めた直後、また電話が入る。 その相手はバロウズで、「逆探知が成功した。電話を掛けて来た男は、その家の中にいる」と告げる…。

監督はサイモン・ウェスト、原作はスティーヴ・フェケ&フレッド・ウォルトン、脚本はジェイク・ウェイド・ウォール、製作はケン・ レンバーガー&ジョン・デイヴィス&ウィック・ゴッドフリー、製作総指揮はパディー・カレン、撮影はピーター・メンジースJr.、 編集はジェフ・ベタンコート、美術はジョン・ゲイリー・スティール、衣装はマリー・シルヴィー・ドゥヴォー、音楽はジェームズ・ ドゥーリー。
出演はカミーラ・ベル、ブライアン・ジェラティー、ケイティー・キャシディー、デヴィッド・デンマン、クラーク・グレッグ、デレク・ デ・リント、ケイト・ジェニングス・グラント、テッサ・トンプソン、マデリン・キャロル、アーサー・ヤング、 トミー・フラナガン、スティーヴ・イースティン、ジョン・ボーベック、ブラッド・スロスキー、カリーナ・ローグ、ロジーン・ヘイテム 、エスチャー・ホロウェイ、モリー・ブライアント、ジョン・ワウ、オーウェン・スミス、ジェシカ・フェイ・ヘルマー他。


1979年のアメリカ映画『夕暮れにベルが鳴る』のリメイク。
監督は『将軍の娘/エリザベス・キャンベル』『トゥームレイダー』のサイモン・ウェストで、脚本を担当したジェイク・ウェイド・ ウォールはこれがデビュー作。
ジルをカミーラ・ベル、ボビーをブライアン・ジェラティー、ティファニーをケイティー・キャシディー、バロウズをデヴィッド・ デンマン、ベンをクラーク・グレッグ、マンドラキスをデレク・デ・リント、ケリーをケイト・ジェニングス・グラント、スカーレットを テッサ・トンプソン、アリソンをマデリン・キャロル、ウィルをアーサー・ヤングが演じている。

「激しくノックした後、ジルがドアを開けるまでのわずかな間に姿を消すなんて、犯人はすげえ素早い奴だな」と感じる。
「シャワーカーテンを閉じている間にティファニーの死体を後ろに寝かせて立ち去るなんて、犯人はすげえ手際のいい奴だな」と感じる。
「ゲストハウスに移動して、そこからジルに気付かれずに母屋に戻れるんだから、犯人は屋敷の構造をすげえ把握しているんだな」と 感じる。
そのように、ツッコミを入れてほしいのかと思えるようなポイントが幾つもあるが、あえてスルーしておこう。

『夕暮れにベルが鳴る』はアメリカで有名な都市伝説“The Babysitter and the Man Upstairs”をモチーフにした作品だが、その伝説を 使っているのは前半だけだ。
途中で犯人は捕まり、後半は7年後に飛んで、脱走した犯人にヒロインが狙われるという展開になっていた。
ちなみに“The Babysitter and the Man Upstairs”の都市伝説とは、ザックリ言うと、「不気味な電話を掛けて来る男にベビーシッター が怯えて、調べてみたら屋敷の中に潜んでいることが判明する」という内容だ。
似たような都市伝説は、日本にも存在する。ザックリ言うと、「ある女性が、遊びに来た友人から半ば強引に外へ連れ出される。そこで 女性は友人から、寝室にあるベッドの下に鎌を持った男が潜んでいたことを知らされる」という話だ。

さて、今回のリメイク版は、『夕暮れにベルが鳴る』の前半部分だけを使っている。
つまり、“The Babysitter and the Man Upstairs”をモチーフにした部分だけを使っているわけだ。
その心意気は決して悪くないのだが、しかし大きな問題がある。
都市伝説の部分は、せいぜい15分か20分程度の短編映画の分量にしかならないということだ。
だからこそ、『夕暮れにベルが鳴る』は後半部分を足していたし、同じ都市伝説をモチーフにした1974年の『暗闇にベルが鳴る』も、大幅 に手を加えた内容になっていた。

ところが本作品の場合、ホントに“The Babysitter and the Man Upstairs”の内容だけで、ホラー映画として勝負しようとしているのだ 。
つまり、「実は屋敷の中に犯人が潜んでいた」ということが判明するまでの間は、ほぼ「不気味な男からの電話が何度も掛かって来る」 というところだけで恐怖を煽ろうとしているのだ。
それは、あまりにも無謀な挑戦だわ。
「無茶しやがって」と言いたくなるぞ。

87分の上映時間の中で、それ以外のネタも一応は用意されているのだが、これが「実は何でもなかった」というコケ脅しの連続。
「物音がするけど、ローザが鯉にエサをやっているだけ」とか「部屋の灯りが付くけど、飼い猫の仕業だった」とか、「台所で物音がする けど、製氷機の氷が落ちる音だった」とか、「部屋の隅に誰かがいるように思えたけど、ただ上着が吊り下げてあるだけだった」とか、 そんなことばかりだ。
一度や二度ならともかく、そればかりやっていると、逆に恐怖を薄めてしまう。

まだ怖いこと、不気味なことなんて何も起きていない内から、不安を煽るようなBGMが流れて来る。
映画を盛り上げるために、音楽というのは重要な働きをする存在だ。しかし、実際の内容が全く伴っていないにも関わらず、あまりにも 音楽が先走り過ぎると、それは逆効果になってしまう。
この作品の場合、なかなかホラーらしい場面が訪れないので、何とか雰囲気だけでも怖くしようという気持ちは、分からないではない。
ただ、それなら音楽だけでなく、映像表現でも工夫を凝らすべきだったんじゃないかな。
っていうか、むしろ序盤は何も起きそうにない雰囲気にしておいて、そこから不気味な雰囲気を少しずつ高めていくという方法を取った方 が、この映画には適していたんじゃないかと思うんだけどね。

終盤になって犯人は姿を見せるが、その正体は「Stranger」。
つまり、「誰か良く分からん初登場の男」である。
この手のホラー映画の場合、「実はヒロインの知っている相手、これまでに何度か登場していた人物」というケースが大半だが、ここでは 「見知らぬ他人」になっている。
「うそーん」と思った人、気持ちは分からないではない。
ちなみに、不気味な電話の声を、犯人を演じるトミー・フラナガンではなく、わざわざランス・ヘンリクセンに担当させるという手間を 掛けているのだが、「だから何なのか」と思ってしまう。
だったら犯人もランス・ヘンリクセンにすりゃいいでしょ。

“The Babysitter and the Man Upstairs”を忠実に映像化するのであれば、犯人を見知らぬ男にしているのは正しい。
だけど映画として、正体を明かさずに引っ張り、そこまでにヒロインの周辺人物を何人か登場させておいて、それで「犯人は良く知らない 奴」という着地ってのは、「なんだ、そりゃ」と観客に思われても仕方が無いと思うよ。
『夕暮れにベルが鳴る』でも犯人は見知らぬ他人だったわけだが、本家の場合、後半の物語が続くので、そこからは「ヒロインの知って いる男が犯人」という形になるわけだし。

それと、冒頭シーンで「殺人事件がありました」というシーンが描かれており、犯人は素手で殺害したこと、死体は見るも無残な状態に なっていたことが示されている。
どう考えたって、それはマンドラキス家にいる男の仕業という設定のはずだ。
ところが、マンドラキス家に侵入した彼の行動は、冒頭シーンと整合性が取れないものになっている。
ティファニーの死体は見るも無残な状態になっていないし、ジルと格闘になった時には素手で人を殺すようなモンスター性を全く見せず、 あっさりと捕まっているんだよね。

この映画を見た限り、サイモン・ウェスト監督にホラー演出のセンスがあるとは感じない。
「じわじわと忍び寄る恐怖」ってのがあるべき作品のはずなのに、それが全く感じられず、ショッカー演出ばかりだ。
ただ、このシナリオで撮影のゴーサインを出したことが、そもそも間違いだったんじゃないかと。
この映画がダメな仕上がりになった責任の内、サイモン・ウェスト監督が背負うべきパーセンテージは、それほど多くないと思うよ。
まあ、せいぜい30パーセントぐらいかな。
って、そこそこ多いな。

(観賞日:2013年3月2日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)

ノミネート:【ちっとも怖くないホラー映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会