『ステップフォード・ワイフ』:2004、アメリカ

EBS局長として視聴率競争で5年連続トップを譲らなかったジョアンナ・エバハートは、テレビ業界の女王と呼ばれている。系列局の面々が集まったセレモニーで彼女はステージに立ち、新たにスタートさせる2つの番組を紹介した。既に第1回は撮影が終わっており、映像の一部がスクリーンに映し出された。すると会場に来ていた番組参加者のハンクが立ち上がり、「妻を失って僕の人生はメチャクチャだ」と怒鳴る。ジョアンナは全く悪びれず、「愛は複雑なのよ。貴方も人生をリセットしたら?」と告げる。会場からは拍手が起きるが、ハンクは隠し持っていた拳銃を発砲した。
幸いにもジョアンナは無傷だったが、ハンクは会場へ来る前に別れた妻と5人の愛人を襲撃していた。全員が命は助かったが、危篤状態に陥っていた。ジョアンナは重役から責任を問われ、「医療費は全て持つわ。全員をファーストクラスでニューヨークへ連れて行って特番を作る」と語る。重役は「事態が分かってないわね。告訴されたら局は潰れる。それに新番組を買う系列局も無いわ」と言い、彼女にクビを通告した。ジョアンナは動揺を隠し、その場を後にした。
ジョアンナは精神を病んで家に閉じ篭もり、心配した夫のウォルターは副局長の仕事を辞めた。結婚記念日も忘れていたジョアンナは「私を殺そうとした男が正しかった。大切な物を見失ってた」と言い、違う町に引っ越して結婚生活をやり直そうと持ち掛けた。2人は娘のキンバリーと息子のピートを連れて、コネチカット州にある高級住宅街のステップフォードへ引っ越すことにした。急な引っ越しに不満を漏らしていた子供たちだが、大きな邸宅を見ると喜んだ。
一家が邸宅に着くと不動産業者のクレア・ウェリントンが待っており、手配した屋内を案内した。屋敷には最新システムが搭載されており、壁のパネルで家電を全て操作することが出来た。モニターしているトイレでは排泄物から血糖値や体脂肪を計算することが出来るし、他に自動制御のロボット犬も用意されていた。キンバリーとピートは新居に興奮するが、ジョアンナは全く興味を示さず、到着した当日は何もせずに就寝した。
翌朝、クレアが車で迎えに来て、ジョアンナに町を案内した。彼女はジョアンナに、二百年前に町が出来てから犯罪も揉め事も無いと話す。丘の上の建物を見たジョアンナが「あれは?」と尋ねると、クレアは「男性教会の建物で女人禁制です」と答える。「じゃあ女性は?」という質問に、彼女は「これから行くスパです」と答える。スパに到着したクレアは、集まっていた主婦の面々にジョアンナを紹介した。女性たちは微笑を浮かべ、上品に挨拶した。
クレアはジョアンナに、今からエクササイズを始めると告げた。すると妻たちは、喜んで取り組む姿勢を見せた。クレアも女性たちも化粧やヘアセットはバッチリで、ちゃんした服装に身を包んでいた。ジョアンナは黒い服を着て、ボサボサ頭でノーメイクだった。クレアは彼女に、「妻たるもの、常に美しくなくては」と語った。クレアと女性たちは、家事の動きをモチーフにしたエクササイズを楽しそうに始めた。一方、ウォルターは男性教会へ出向き、町の男たちに歓迎された。
独立記念日、ステップフォードでは町の全員がピクニックに参加した。ウォルターも一家で参加するが、ジョアンナは「10分だけよ」と乗り気ではなかった。彼女はウォルターに、「気付いてないの?この町の女性たちは変よ。みんな客室乗務員みたいな親しげで」と話した。4人の女性たちが挨拶に来ると、ジョアンナは顔をしかめた。そこへ女流作家のボビー・マコーウィッツが現れ、「こんなピクニックはおかしいと思わないの?アフリカ系アメリカ人も先住民もいないなんて」と人々に話し掛けた。
ボビーはジョアンナに気付き、声を掛けた。夫のデイブも一緒に来ており、ウォルターは彼と男性教会で既に会っていた。「クッキーを食べに行きましょう」とボビーはジョアンナを誘い出し、2人は有名建築家のロジャーに気付く。2人が話し掛けると、ロジャーは恋人で弁護士のジェリーを紹介した。クレアが「これから名物のスクエア・ダンスが始まります。パートナーを探してね」と呼び掛け、町民はダンスホールへ移動した。ジョアンナは戸惑いつつも、周囲の面々を真似してダンスを始めた。
そんな中、ハーブとサラのサンダーソン夫婦も踊っていたが、異変が起きた。ハーブの手を離したサラが同じ言葉を繰り返し、ずっと回転を続けたのだ。回転を止めたサラは意識を失って転倒し、ジョアンナは慌てて駆け寄った。するとクレアの夫であるマイクが現れ、「ここは私に任せろ」と言う。すると男性陣はジョアンナを妨害し、後ろへ下がらせた。ジョアンナが人々の隙間から様子を見ると、サラに歩み寄ったマイクの手元から火花が上がった。
マイクが「私の車に乗せる」と言うと、ジョアンナは「救急車を呼ばなきゃ」と反発する。クレアはバンドに演奏を指示し、町民は何事も無かったかのように踊り始める。マイクは「大したことは無い、脱水症状だ」と告げ、ジョアンナを引き下がらせた。帰宅したジョアンナは「絶対に脱水症状じゃない。火花も散ってた」と苛立つが、ウォルターは全く賛同しない。それどころか彼は、「この町の人々は親切に受け入れようとしてるのに、君は拒絶してる。こんなのは耐えられない」と離婚を要求した。ジョアンナは慌てて「何もかも貴方の言う通りよ」と言い、夫に詫びた。ウォルターが「僕がEBSに勤めたのは、君の力になれると思ったからだ」と語ると、ジョアンナは「貴方の優しさに気付かなかった」と反省の弁を述べた。
ジョアンナは生まれ変わろうと決め、翌日からウォルターの指示通りに黒い服を着なくなる。彼女は遊びに来たボビーとロジャーに、専業主婦になる難しさを吐露する。彼女はサラの見舞いに行こうと2人を誘い、サンダーソン家を訪れた。しかしノックしても応答は無く、ドアが開いていたのでロジャーは勝手に中へ入る。ジョアンナとボビーも後に続くと、2階からサラの喘ぎ声が聞こえた。彼女が絶頂に至ると、ロジャーは好奇心で2階へ行こうとする。ジョアンナとボビーが慌てて制止すると、ハーブの「何かスナックを取って来てくれ」という声が聞こえた。
サラが寝室から出て来た後、ロジャーは床に落ちているリモコンを拾う。リモコンには「サラ」と書いてあり、ロジャーは適当にボタンを押す。するとサラの動きが停止したり逆回転したりするが、そちらを見ていなかったジョアンナたちは全く気付かなかった。サンダーソン家を抜け出した3人は、ボビーの家へ行く。彼女の家は散らかり放題だが、「本を書くのに忙しくて」と全く悪びれなかった。ジョアンナはボビーもロジャーも家庭生活に何かしらの問題を抱えていると知り、「幸せになれる方法があるなら試してみない?降圧剤に頼ったり過食症になったりせずに済むのなら、ステップフォードに溶け込むのもいいかもしれない」と語った。
男性教会で男たちと遊んでいたウォルターは、マイクから「ステップフォードの暮らしに慣れたようだね」と言われる。彼は「ここの生活は最高だ」と言い、男たちの妻を絶賛した。ジョアンナはボビーやロジャーと共に、クレアが主催する読書クラブに参加した。ジョアンナは小説を想像していたが、クレアは「永遠に読み継ぐべき本」として『クリスマス飾りの全て』を紹介した。ジョアンナは困惑するが、妻たちは拍手を送った。彼女はクリスマスの歌にも参加するが、ロジャーは呆れ果てた。
ウォルターはマイクたちに、「僕とジョアンナは心を開いて話し合った。これから彼女は生まれ変わるはずだ」と語った。すると男たちは笑い飛ばし、全員の妻がリモコン制御のロボットだと明かして証拠を見せた。ウォルターは動揺するが、帰宅してもジョアンナには何も言わなかった。彼は男性教会に感化されたデイブと共に、その夜も男性教会の集まりに出掛けた。気になったボビーはジョアンナを誘い、男性教会を調べに向かった。
デイブはジェリーと共に男性教会へ赴き、マイクたちに嫌味を飛ばした。ボビーは尻込みするジョアンナを連れて教会へ侵入し、何枚もの家族の肖像画が壁に飾られているのを見る。ロジャーは2人を発見し、隠れるよう指示した。ジョアンナたちが逃げ出した後、マイクたちが来るとロジャーは「このドアの向こうって何があるの?」と質問する。マイクは彼にドアを開けさせ、ジェリーは下を見るよう促した。ロジャーは狼狽し、「ジェリー?」と振り向いた。
ボビーはロジャーが2日も電話に出ないので心配になり、彼の家を訪れた。しかし外から呼び掛けても応答は無く、ロジャーが気に入っていた服が何着も外のゴミ箱に捨てられていた。同行したジョアンナは「寄付するつもりなのかも」と軽く考えるが、ボビーはロジャーの大切なコレクションまで捨ててあるのを発見した。ジョアンナとボビーはジェリーに呼ばれ、屋外集会の場へ赴いた。すると上院議員の立候補者として、以前と全く違う男らしい印象に変貌したロジャーが登場した。ジョアンナとボビーが困惑する中、聴衆はロジャーに喝采を送った。
ジョアンナはステップフォードを出て行こうと決意して荷物をまとめ、「キャンプに行っている子供たちを連れ戻す」とウォルターに話す。ウォルターが同意しなかったので、彼女は夫を残して家を出ることにした。「君は変わらないんだな」とウォルターは納得できない様子だったが、「それなら引っ越そう」と告げた。その夜、ベッドで目を覚ましたジョアンナは近くにいるロボット犬に気付き、くわえているリモコンに「ジョアンナ」という文字を発見する。ネットで調べた彼女は、ステップフォードの妻たちが企業のトップや裁判所の判事など社会的地位の高い女性ばかりだと知る。
翌朝、ジョアンナがボビーの家へ行くと、彼女はすっかり変貌して「ステップフォードの妻たち」になっていた。ボビーはコンロの火に手を突っ込むが、まるで動じず笑顔を浮かべた。ジョアンナは動揺して飛び出し、キャンプ場に電話を掛ける。彼女は子供たちを迎えに行くことを伝えるが、既にウォルターが来て連れて行ったことを知らされる。ジョアンナが帰宅すると、ウォルターも子供たちもいなかった。彼女が男性教会へ乗り込むと、自分の家族の肖像画が追加されていた。ジョアンナが「いるんでしょ」と叫ぶと、そこに男たちが現れた。ウォルターは「君といると僕は劣等感に苛まれる。僕には何も無い」と語り、苛立ちをジョアンナにぶつけた。「そんな女と結婚した男は卑屈になる」と彼が言うと、他の夫たちも賛同した。マイクはジョアンナに、妻の脳にチップを埋め込んで変貌させる改造システムのプロモーション映像を見せた…。

監督はフランク・オズ、原作はアイラ・レヴィン、脚本はポール・ラドニック、製作はスコット・ルーディン&ドナルド・デ・ライン&エドガー・J・シェリック&ガブリエル・グランフェルド、製作総指揮はロン・ボズマン&ケリー・リン・セリグ、共同製作はレスリー・コンヴァース、撮影はロブ・ハーン、美術はジャクソン・デゴヴィア、編集はジェイ・ラビノウィッツ、衣装はアン・ロス、振付はパトリシア・バーチ、音楽はデヴィッド・アーノルド、音楽監修はランドール・ポスター。
主演はニコール・キッドマン、共演はマシュー・ブロデリック、ベット・ミドラー、グレン・クローズ、クリストファー・ウォーケン、ロジャー・バート、フェイス・ヒル、ジョン・ロヴィッツ、デヴィッド・マーシャル・グラント、マット・マロイ、ディラン・ハーティガン、ファロン・ブルッキング、ケイト・シンドル、ティム・リース・ファレル、ロリ・バグリー、ロバート・スタントン、リサ・マスターズ、クリストファー・エヴァン・ウェルチ、コリーン・ダン、ジェイソン・クラヴィッツ、エミリー・ウィング、C・S・リー、トニー・トーン、メアリー・ベス・ペイル他。


アイラ・レヴィンのSFホラー小説を基にした1975年の映画『ステップフォードの妻たち』(DVDでは『ステップフォード・ワイフ』)のリメイク。
監督は『イン&アウト』『ビッグムービー』のフランク・オズ。
脚本は『イズント・シー・グレート』『マーシーX フレンズ以上、恋人未満!?』のポール・ラドニック。
ジョアンナをニコール・キッドマン、ウォルターをマシュー・ブロデリック、ボビーをベット・ミドラー、クレアをグレン・クローズ、マイクをクリストファー・ウォーケン、ロジャーをロジャー・バート、サラをフェイス・ヒル、デイブをジョン・ロヴィッツが演じている。

ジョアンナたちが新居に引っ越した当日、クレアは全てがコンピュータ制御されていることを説明する。このシーンでは、ロボット犬まで登場している。
しかし、それ以降のシーンで、そんな最新システムが有効活用されることは一度も無い。そのシステムを一家が使うシーンも無いし、それが原因でトラブルが起きるわけでもない。
いきなり階段から転げ落ちていたロボット犬だけは何度か登場するが、そんなに上手く使えているとは思えない。
なので新居に関する紹介シーンは、ほぼ無駄になっている。

そういうシステムを紹介しておいた理由は分かる。「ステップフォードという町は、そういう場所ですよ」ってことをアピールしておくための作業だ。
その後で明らかにされる「実は」という真相に関わる伏線を張っておくという意味で、そういう新居の設定にしてあるのだ。
「だったら無駄とは言えないんじゃないか」と言いたくなるかもしれないけど、ちゃんと使いこなせていない以上は無駄なのよ。
紹介した途端に忘れ去られてしまうような雑な扱いだから、伏線としての機能も果たしていないし。

そろそろ批評に必要なのでネタバレを書くが、ステップフォードの女性たちは全員がロボット化されている。
ただし厳密に言うと、今回のリメイク版では「脳にチップを埋め込まれている」という設定だ。
「ネタバレ」と書いたけど、どうせ早い段階で分かるようになっている。
粗筋でも触れたように、サラが異常な動きを見せて機能停止し、マイクが処置をすると火花が散るシーンがある。この段階で、何となく分かる人も多いだろう。その後にはリモコンも見つかるし、とにかく隠しておくつもりは全く無いわけだ。

オリジナル版では終盤まで隠していた「実はロボット」というネタを、今回は前半で実質的にバラしていることになる。
オリジナル版を見ていればオチは知っているので、そこの力に頼っても厳しいという判断だったのかもしれない。ただ、そういうドンデン返しを使えなくなった代わりに何で観客を引き付けるのかというアイデアが、この作品には足りていない。
コメディーとしての味付けでオリジナル版との違いを出しているのだが、それで充分かというと答えはノーだ。ブラック・コメディーを狙っているんだろうと思うけど、中途半端。
最後にしても、ブラックな味付けにしたいのならウォルターをベビーフェイスにターンさせちゃダメだし。

原作やオリジナル版では写真家だったヒロインの職業を、リメイク版ではテレビ局のプロデューサーに変更している。
それだけではなく、「華々しく活躍して得意満面だったヒロインが急にクビを通告され、精神を病んでしまう」という導入部を用意している。
だけど、それが上手く機能しているとは到底言い難い。
「精神を病んで引っ越したから、自分が悪いのだとヒロインが思い込む」というトコへ繋げようとしているのかもしれない。
でも、そういう事情を考慮しても、慌ただしいという印象は変わらない。

その後には「ジョアンナが変わろうと決意する」という展開があるので、そこまでに多くの時間を割いていられないという事情はあるんだろう。
ただ、ジョアンナがクビになっていると、もはやウォルターからしても「社会的に地位があって大成功している」ということじゃなくなるでしょ。むしろ「以前は成功者だったけど、一気に転落してしまった」という状態なわけで。
なのでウォルターからしてみれば、ロボット化する前から既に「ちょっと劣等感から解放されている」という状態になるんじゃないかと。
そこはジョアンナが大成功している状態のままで引っ越さなきゃダメなんじゃないか。

そこに限らず、この映画って展開が慌ただしいと感じるのよね。ジョアンナがステップフォードの妻たちに違和感を覚えてウォルターに「変だ」と訴えるのが早すぎる。
最初に違和感を覚えるのは別にいいのよ。あまりにも上品で、ジョアンナとは全く別世界の住人だからね。
ただ、「そういう生活をしているブルジョアな人々もいるんじゃないか」という程度の違和感でしかないので、いきなり「変だ」と主張するのは拙速かなと。
「あまりに上品なので戸惑う」「上品なだけでなく家事も完璧なので違和感を覚える」「それどころじゃなく他にも色々とあるので何か裏があると怪しむ」といった具合に、丁寧に手順を追うべきじゃないかと。
そうじゃないと、ジョアンナの言動の方が、ステップフォードの妻たちよりも不自然に見えてしまう。

あと、「妻がエリートだから夫は卑屈になる」と男たちは言ってるけど、彼らの以前の勤務先はマイクロソフトやディズニーなど一流企業ばかりなのよね。
それで「劣等感で卑屈になる」とか言われてもなあ。どんだけ高いレベルでの劣等感なのかと。
「むしろ高学歴で自分もエリートだからこそ、余計に劣等感を覚える」ってことなのかもしれないよ。
ただ、映画を見ていても、そこまで丁寧に男たちの心情を伝えられているわけではないからね。

ウォルターに怒鳴られた途端、ジョアンナが急に従順になって「ステップフォードに溶け込もう」と決めるのは、かなり強引に感じる。
そんな彼女がロジャーの立候補を見て「ステップフォードを去る」と決めるのも、これまた性急に感じる。
彼女が「ステップフォードに溶け込もう」と決意してボビーとロジャーにも賛同を求めてから「ここを去る」と決意するまで、15分ぐらいしか経っていないのよ。
その前に「違和感を覚えていたけど馴染もうとする」という1つ目の変化があったことも、そこの性急な印象に拍車を掛けている。

ゲイのカップルを登場させたのは時代に合わせた改変なのかもしれないけど、これが余計に話の軸をブレさせている。
これって「男性至上主義に対する風刺」という図式のはずなのに、それが男性同士のカップルだと成立しなくなるでしょ。
あと、子供たちの存在価値が全く無いのよね。
描いている内容を考えれば、それも当然だろう。夫婦関係を巡る話であって、「家族の在り方」とか「親子関係」は全く関係ないんだから。
そんなことは最初から分かり切っているんだから、最初から子供たちなんて出さなきゃいいのに。

原作やオリジナル版が発表された1970年代のアメリカでは、「ウーマン・リブ」と呼ばれる女性解放運動が活発に展開されていた。
それまで「女は家庭を守ればいい」「女に学歴など不要」というマチズモ全開の中で生きて来た男たちにとって、これは厄介な社会運動だった。
古い考えを持つ男どもにとって、ウーマン・リヴは恐怖の対象となった。
それを投影したのが原作小説で、だから「ステップフォードの男たちは妻を家庭に縛り付けるためにロボット化した」という内容になっていた。

しかしリメイク版が製作された2004年になると、女性の社会進出は当たり前になっている。
相変わらずマチズモは残っているし、女性が職場で差別を受けることも多いだろう。しかし、それでも会社のトップに立つような女性、多くの男どもを従えて仕事をする女性は少なくない。
なので原作と同じような図式は使えない。そこで今回は、夫を「自分より成功した妻を持つ男たち」という設定にしてある。
彼らは妻への劣等感や嫉妬心から、チップを埋め込んで妻を従順にさせたというわけだ。

社会情勢を考えて「夫が妻をロボット化す理由」を変更したのは、悪くない考えだと思う。
しかし問題は、「そこで終わらなかった」ということだ。
この映画、試写での評判が芳しくなかったことを受け、原作やオリジナル版には無かった新たなドンデン返しを用意している。完全ネタバレだが、「実は全てを仕切っていたのは世界的な脳外科医のクレアで、彼女は浮気したマイクを殺害して瓜二つのロボットを作り、ステップフォードを理想郷にしようと企んでいた」という設定が追加されたのだ。
しかし、最初からそのオチに会わせて物語を進行していたわけではなく、急に追加したせいで全く辻褄が合わなくなってしまった。
辻褄を合わせるために再撮影することも無かったため、ミステリーとしては完全に破綻してしまった。

(観賞日:2020年5月14日)


第27回スティンカーズ最悪映画賞(2004年)

ノミネート:【最も嬉しくないリメイク】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会