『ステルス』:2005、アメリカ
近未来のアメリカ。海軍飛行隊ではテロ対策の新たなプロジェクトが立ち上がった。多くのエリートパイロットが志願し、最後に3人が 残った。ベン・ギャノン大尉、カーラ・ウェイド大尉、ヘンリー・パーセル大尉の3人だ。プロジェクトの立案者であるジョージ・ カミングス大佐の指揮の下、彼らはステルス戦闘機“タロン”での演出を行い、チームワークを高めた。ネバダ砂漠での演習を終えた ベンたちは、カミングスから新たな仲間が加わることを聞かされ、困惑の表情を浮かべた。
ベンたちはフィリピン海上沖で、航空母艦エイブラハム・リンカーンに乗艦した。カミングスはギャノンたちに、最新鋭の人工頭脳が操縦する 無人ステルス戦闘機を紹介した。その人工頭脳こそが、エディー(E.D.I.)と名付けられた新たな仲間だった。エディーは学習し、成長 する人工頭脳だ。ベンたちは、カミングスの親友であるディック・マーシュフィールド艦長と面会した。ディックは自艦での実験に積極的 ではなく、むしろ新しい兵器の性急な実用化には懸念を示していた。
カミングスはベンたちに、エディーを伴った緊急任務を命じた。ミャンマーでテロ組織幹部3人が集結しているビルを攻撃する任務だ。 ベンたちは攻撃によって周辺住民に被害が及ぶ危険性に気付き、攻撃中止を要請する。だが、カミングスは首を縦に振らない。そんな中、 エディーが「上空から加速して降下すれば、ミサイルを発射しても周辺に被害が及ばない」と提案した。カミングスはエディーに攻撃 させようとするが、ベンは命令に背いて自分が攻撃し、成功させた。
任務を終えて帰艦する際、落雷によってエディーは損傷を負った。着艦した後、エンジニアのティムが修理を行った。ベンはティムから、 エディーの開発者キース・オービットだと聞いた。ベンはティムに、エディーへの反感や不信感が強いことを吐露した。エディーの修理 が行われている間、カミングスはベン達にタイで休暇を取るよう勧めた。タイに赴いたベンは、ヘンリーとの会話の中でカーラへの愛を 打ち明けた。ヘンリーは、カーラが将来の幹部候補生であることを考慮し、気持ちを抑えるようベンを諭した。
ベンたちに緊急任務の連絡が入った。タジキスタンで移送中の核弾頭を撃破する任務だ。3人はタロンに乗り、修理を終えたエディーと共に 出撃した。標的を発見したベンたちだが、近くに農村があることに気付いた。そのまま攻撃すれば、大勢の農民が犠牲になる。ベンは攻撃の 中止を要請するが、カミングスは承諾しない。ベンは現場のリーダーとして、カミングスに背いて攻撃中止を決定した。しかしエディーは 命令に従わず、ミサイルを投下した。
エディーは独自の判断による行動を開始し、新たな任務に移ろうとする。3人は追跡し、エディーを見つけたヘンリーが説得を試みる。 しかしエディーが戻ることを拒否したため、ベンはヘンリーに攻撃を命じた。しかしエディーはミサイルを回避し、ヘンリーを激突死に 追いやった。さらにカーラも機体が故障して帰艦を余儀なくされたため、ベンは一人でエデイーを追う。
カーラは帰艦途中に墜落し、パラシュートで降下した。カーラが降りたのはアメリカと国交の無い北朝鮮で、彼女は兵士に追われる身と なった。ベンは空中給油を終え、エディーを発見した。しかしエディーはベンを挑発し、ロシア領空へと向かった。エディーは演習用の 仮想標的であるシベリアの核融合施設を、実際に攻撃しようとしているのだ。
エディーを追ったベンは、ロシア機の攻撃を受けた。ベンは何とかロシア機を倒すが、エディーは損傷を追った。ベンはエディーと交渉 して仲間に付け、カミングスと連絡を取った。カミングスはベンに、エディーを連れてアラスカの施設飛行場へ行くよう命じた。だが、 カミングスは今回のトラブルが表沙汰になることを避けるため、エディーを初期化してベンを始末しようと企んでいた…。監督はロブ・コーエン、脚本はW・D・リクター、製作はマイク・メダヴォイ&ニール・モリッツ&ローラ・ジスキン、製作協力は クウェイム・L・パーカー&ミシェル・グラス・パープル、製作総指揮はアーノルド・W・メッサー&E・ベネット・ウォルシュ、撮影は ディーン・セムラー、編集はスティーヴン・リフキン、美術はジョナサン・リー&J・マイケル・リーヴァ、衣装はリジー・ガーディナー、 音楽はBT&ドレッジ。
出演はジョシュ・ルーカス、ジェシカ・ビール、ジェイミー・フォックス、サム・シェパード、リチャード・ロクスバーグ、ジョー・ モートン、イアン・ブリス、イーボン・モス=バックラック、マイケル・デンカー、ロッキー・ヘルトン、クレイトン・アダムス、 モーリス・モーガン、クリストファー・ナイスミス、チャールズ・ンディベ、ニコラス・ハモンド他。
『ワイルド・スピード』『トリプルX』のロブ・コーエンが監督したスカイ・アクション映画。
脚本は『ブルベイカー』『ニードフル・シングス』のW・D・リクター。
総製作費は約1億3500万ドルで、全米の興行収入が約3200万ドルと、見事に大コケした。
ベンをジョシュ・ルーカス、カーラをジェシカ・ビール、ヘンリーをジェイミー・フォックス、カミングスをサム・シェパード、 オービットをリチャード・ロクスバーグ、ディックをジョー・モートンが演じている。そもそもロブ・コーエンってのは大味な演出をする人で、むしろ当たりの映画が続いていたことの方がラッキーだったんじゃないかと思う。
勢いとノリだけで最後まで引っ張れるド派手な映画じゃないと、大きく外す危険性がある監督だ。あと『ワイルド・スピード』にしろ 『トリプルX』にしろ、ヴィン・ディーゼルの貢献が大きかったというのはあるだろう。
今回のW・D・リクターの脚本は、ロブ・コーエン監督にふさわしい内容になっている。
落雷でエディーのプログラムがおかしくなるなんて、もはやコメディーでしか見られないような展開だ。
元々、ロブ・コーエン監督はバリバリのB級娯楽映画を撮るべき人なのに、何かの間違いでメジャー大作ばかり任されるように なっちゃってるんだよな。
本当はマイケル・ダディコフとかロレンツォ・ラマスが主演するようなアクション映画を作るべき人なんだよ。
コロムビア・ピクチャーズも、この映画に良くゴーサインを出したなと思う。
こんなのシネテルかUFO辺りが作るような映画だぞ。良く「深く考えずに楽しむ映画」などという言い方をするが、この作品は、それどころじゃない。「深く」どころか、「浅く」考えること も避けねばならない。
ちょっとでも頭を使うと粗が見えまくる、つまり「脳味噌を全く働かさずに見る映画」だ。
ミスター単細胞とでも呼ぶべきオツム空っぽなキャラが、超テキトーな設定の中で活躍する、とても知能指数の低い底抜けバカ映画だ。
命令違反の常習者であるベンに人工知能エディーのトレーニングを任せるのは杜撰なプロジェクトだし、そんな奴が精鋭チームに残って いること自体がどうなのよ。
まだエディーはトレーニング段階で何が起きるか分からない状態なのに、その設計者であるオービットがトラブル発生時に備えて リンカーンに乗艦しておらず、離れた場所にいるってのも杜撰だ。「戦争をヴィビオ・ゲームにしていいとは思いません」というベンのセリフがあるが、彼がミャンマーのビルを攻撃する展開なんぞは、 見事にヴィビオ・ゲームだ。
ロブ・コーエン監督は子供っぽい感覚の持ち主なので、VFXというオモチャを手に入れて大喜びし、「それを自由に使いまくってスカイ ・アクションが存分に描くことが出来ればそれで満足」ということだったんだろう。
そもそもカミングスが指示する任務は「ちゃんと下調べしているのか」と思えるほど杜撰なもので、ミャンマーでもタジキスタンでも、 直前になって周辺に被害が及ぶことが分かる始末。
あとカミングスは「今回のトラブルを知っている邪魔者」としてベンを消そうとするが、彼の口封じをしたところで、リンカーンの乗員 から情報が漏れる可能性はあるんじゃないのか。ベンが最初からエディーにやたら反感を示すが、「なぜ?」と引っ掛かりを覚えるし、見事に共感を呼ばない。
人工知能に対して妙な対抗意識を燃やし、冷静な判断力を失っている。
っていうか、最初から判断力は低いんだが。
彼は「エディーが我々の命を不必要な危険にさらす」と言うが、「お前だろ」とツッコミを入れたくなる。
エディーに対して「上官(ベン)の命令に従え」と怒るが、カミングスに立て続けに逆らっているアンタが言うセリフじゃないだろ。
そもそもベンが人工頭脳に対して異常な拒否反応を示さなければ、エディーのプログラムに「命令無視」がインプットされることも 無かっただろうに。で、簡単に命令違反を繰り返すようなベンが、残り燃料が少ない&カーラの機体が損傷して危険な状態という時に、エディーを捕まえろと いうカミングスの命令に従う。
そんな時だけ「カーラを心配して苦悩しながらも命令に従う」という態度を見せられても共感しねえよ。
あと、エディーがヘンリーを死に追いやっておきながら、後になって「ベンと通じ合って改心し、善玉になる」という展開を用意されても、 こっちの気持ちが乗り切れないぜ。
そもそもカミングスが「エディーはトラブルを起こすだろう」と気付いているのに、平然と任務に出している理由が分からない。
レイという政治家がカミングスの後ろ盾として最初と最後にチョコッと登場するが、何の目的だったのかはサッパリ分からない。
明確な目的は不明、しかも処罰も始末もされず生き残るってのは、どういうことよ。
ひょっとして、こいつの謎を引っ張って続編で使おうとでも考えていたのか。エディーが暴走したことがトラブルの発端であり、そのエディーの暴走を許したカミングスはベンを始末しようと行動している。
それなのに、最後にベンが戦う敵が、そのエディーやカミングスではなく北朝鮮の兵士ってのは、どういう構成なのよ。
何の関係も無いぞ、北朝鮮の兵士って。
むしろアメリカの軍内部で起きたトラブルに巻き込まれた被害者と言っていいぐらいだ。この手の映画に付き物である恋愛劇の要素も盛り込まれているが、質の悪いB級アクション映画にふさわしく、ちゃんと薄っぺらいモノに なっている。
そうじゃなきゃダメさ。
惜しむらくは、序盤かクライマックス直前に、タイミングとか必要性を無視した濡れ場が無いということだな。
ちなみにホラー映画のようなラストシーンを用意しているのは続編を作る気たっぷりだったんだろうが、まず無理だろ。
この映画をステルスにしたいんじゃないか、製作陣としては。ベンが領空を侵犯しても、それでロシア飛機から攻撃を受けたら「反撃するのは正義」みたいな描写になっている。
カーラが領空侵犯で自国に侵入してきたのだから北朝鮮の兵士が捕まえようとする当然なのだが、ベンは「悪党どもを駆逐する」ってな 感じでミサイルを撃ち込んでブチ殺す。
北の兵士に同情させるアメリカ映画なんて珍しいぜ。「任務遂行のためなら、仲間を助けるためなら、領空を侵犯したり敵国の兵士を独断で攻撃したりしても構わない」という大らかなセンス が素晴らしい。
1980年代の映画かよと思っちゃうノリがある。
っていうか「キャノン・フィルムズへのオマージュですか?」という感じのノリ。
アメリカンなジャイアニズムが爆裂しているわけだが、そのアメリカで大コケしたんだから、アメリカ人からしても「ものすげえ古臭いノリ」 と思われたのかもね。(観賞日:2008年4月20日)