『スター・トレック』:1979、アメリカ

L14区域をパトロールしていた3隻のクリンゴン艦は、侵入してきた雲状の発行体エイリアンと遭遇する。クリンゴン艦は魚雷を発射するが、それは雲の中で消えてしまう。通信ステーションのイプシロン9はL14区域での磁気嵐発生を察知し、スターシップ“コロンビア号”に進路の修正を通達した。イプシロン9はクリンゴン艦の全滅をモニターで目撃した。このままエイリアンが進むと連邦領域に入る。その目標は地球だと思われた。
地球人とバルカン星人の混血である元エンタープライズ号の乗組員ミスター・スポックは、バルカン星で全感情を捨てる“コリナール”の修業を積んでいた。しかしスポックは迷いを感じ、その修業を中止することにした。一方、サンフランシスコのスター・フリート司令本部にやって来たジェームズ・T・カーク提督は、エンタープライズ号の科学主任となったソナックと遭遇し、自分が艦長として乗船することを告げる。カークはこの2年半、ずっと地上勤務だった。
カークはモンゴメリー・スコット機関長の元へ赴き、改修工事が終わったばかりのエンタープライズ号がドックにあることを聞いた。スコットは、12時間後に出航準備を済ませろという司令部への不満を漏らす。まだ整備も終わっていないのだ。カークは彼に、強大な力を持つエイリアンが地球から3日の距離に迫っていることを教える。迎撃可能な宇宙船は、エンタープライズ号しかないのだという。
カークとスコットと共にドックへ行き、エンタープライズ号に乗り込むんだ。彼がブリッジへ移動すると、乗組員は準備に大忙しだった。カークはスールー操舵手、チェコフ中佐、ウフーラ通信士といった懐かしい面々から歓迎される。スールーはカークに、現在の艦長であるデッカーがエンジン・ルームにいること、まだカークが着任した事実を知らないことを教えた。カークはデッカーと会い、自分が艦長に着任したことを告げる。驚くデッカーに、カークは副長として自分を補佐するよう指示する。カークが「船長に復帰した理由は経験だ」と説明するが、デッカーは不満を隠せなかった。
転送装置の故障により、ソナックの命が失われた。責任を感じる転送担当者のジャニス・ランドに「君のせいじゃない、事故だったんだ」とカークは告げた。彼はデッカーに、科学主任も兼ねるよう指示した。カークは乗組員を集めて事情を説明し、「エイリアンの正体を掴み、侵入を阻止する手段を講じる」という任務の内容を語る。イプシロン9から緊急連絡が入り、発光体の正体はパワーフィールドで、中に何者かが潜んでいるはずだという情報がもたらされた。友好信号を送っているが、応答は無いという。
通信の最中に、イプシロン9はエイリアンの攻撃を受けて消滅した。エンタープライズ号の出航準備が進む中、ナビゲーターを務めるデルタ星人のアイリーア中尉がやって来た。かつてデッカーはデルタ星に配属されていた時、彼女と親しい関係にあった。さらに5名が司令部から転送されて来るが、一人だけ装置に乗るのを嫌がっているという。カークが確認すると、それはドクター・マッコイ医療主任だった。そのマッコイも乗り込み、文句を言うが、カークから「君が必要なんだ」と言われて握手を交わす。
エンタープライズ号は発進し、カークは太陽系を脱出するためのワープ航法に入ろうとする。デッカーはシミュレーターによるチェックを進言するが、カークは直ちにワープに入るようエンジンルームのスコットに指示を出す。マッコイの「強引だぞ」という忠告も、彼は無視した。しかし亜空間に突入した直後、トラブルが発生する。ワームホールに入り込み、エンタープライズ号は小惑星と衝突しそうになる。デッカーはカークの命令を勝手に変更し、魚雷を発射させて小惑星を破壊し、何とか危機は脱した。
カークは艦長室にデッカーを呼び、勝手に命令を変更したことについて非難めいた口調で尋ねる。しかしデッカーの理路整然とした説明を聞くと、「君の処置は正しかった」と言うしかなかった。デッカーはカークに対し、ブランクが長すぎて任務遂行の障害になっていることを指摘した。カークが「その障害は君が補ってくれると信じているんだが」と言うと、デッカーは「ええ、そうします」と述べて去った。マッコイは「デッカーは間違ってない。船の指揮権を取り戻すために、君は今回の危機を利用した。デッカーと張り合おうとして、的確な対応能力を失っている」とカークを諭した。
バルカン星からの長距離連絡船が到着し、スポックがエンタープライズ号に乗り込んできた。彼は船の問題点を指摘し、科学主任に立候補する。デッカーは喜んで仕事を譲り渡した。カークたちも、ブリッジに来たマッコイと女医のチャペルも大歓迎するが、スポックは何の感情も見せなかった。スポックのおかげでエンジンは機能を回復し、地球到達の1日前にエイリアンを阻止できる目処が立った。
ワープ航法に入った後、カークとマッコイはスポックを呼び、「バルカン星に永住するはずでは?」と尋ねた。スポックは、「今までに出会ったことの無い強いテレパシーを感じました。論理的に完璧な思考パターンを持っています。それを発したエイリアンを知れば自分の迷いも消えると思いました」と語る。事務的な態度を崩さないスポックに、カークは「そのテレパシーと出会ったら報告してほしい」と持ち掛ける。スポックは承知して去った。マッコイは「彼は船より自分の興味を優先させるのでは」と懸念を示すが、カークはスポックを信じており、「そんなことは有り得ない」と否定した。
エンタープライズ号は発光体を発見し、友好信号を送信する。スポックは探知信号をキャッチし、カークに知らせる。発光体の中心から発進されており、エネルギーのタイプは未経験のものだという。友好信号への応答は無かったが、カークは挑発行動を取らないよう乗組員に指示した。敵対態勢と誤解されることを避けるため、彼は防御スクリーンを張ることにも否定的な考えを示す。デッカーは相手の強大なパワーを考え、反対意見を強く述べた。
カークはエンタープライズ号を発光体に接近させる。スポックはエイリアンとテレパシーによって接触するが、相手からの応答は無かった。エイリアンが攻撃を仕掛けてきたため、エンタープライズ号は防御スクリーンとデフレクターを最大出力に上げて対応するが、一気にパワーがダウンしてしまう。チェコフがダメージを受け、チャペルが処置に来た。スポックはカークに「エイリアンは交信を求めているようです」と告げる。相手に合わせた信号を発信できるように、コンピュータをプログラミングするので待ってほしいと彼は言う。また攻撃が来るが、スポックがギリギリで友好信号の送信に成功した。
雲の中に侵入したエンタープライズ号は、接近する宇宙船を発見した。カークはスールーに、宇宙船との平行移動を指示した。すると突如として、プラズマ・エネルギーで出来た探査体がエンタープライズ号の中に出現した。その探査体は、アイリーアを拉致して姿を消した。その直後、エンタープライズ号は強力なトラクタービームに捕まり、脱出不可能と判断したカークはエンジン機能を停止させる。やがてトラクタービームは消え、カークは前進を指示するが、宇宙船の出入り口は閉じてしまった。
第5デッキにアイリーアが戻って来るが、それは探査体としてエイリアンによって複製されたアンドロイドであった。アンドロイドは、「私はエンタープライズ号に寄生する炭素体ユニット(人間)を観察・記録するようヴィジャーにプログラミングされている」と語った。ヴィジャーが宇宙船の船長の名前だと推理したカークは、なぜ地球へ向かうのか質問した。するとアンドロイドは「クリエーターを探している。ヴィジャーは彼と合体する。クリエーターとはヴィジャーを作った者だ。ヴィジャーはクリエーターを探す者だ」などと、要領を得ないことを喋った。
マッコイはアンドロイドを医務室へ連れて行き、精密検査を行う。そこにやって来たデッカーを見たアンドロイドは、「デッカー」と呟く。スポックはカークに、「アイリーアの記憶も複製しているとしたら、全てを複製しているかもしれない」と述べた。そこでカークは、デッカーにアンドロイドの補助を任せた。アイリーアの記憶を完全に取り戻させれば、エイリアンとの交信が可能になるのではないかと考えたのだ。
アンドロイドはデッカーに、「私の観察が終われば、全ての炭素体ユニットはデータ・パターンに圧縮される」と話した。デッカーが「君の中には、ある炭素体ユニットの記憶が眠っている。それを蘇らせれば、我々の機能も理解できる」と告げると、アンドロイドは「論理的な案だ」と了解した。デッカーはアイリーアの記憶を一時的に取り戻したアンドロイドに、「ヴィジャーと会わせてくれ」と頼む。だが、アンドロイドは「それは出来ない」と却下した。「クリエーターとは何者だ」というデッカーの問い掛けに、アンドロイドは「ヴィジャーはそれを知りたがっている」と答えた。
スポックはハッチを開けてスラスタースーツを装着し、エイリアンと接触しようと敵宇宙船の奥深くへと侵入する。ヴィジャーの旅の記録を目にした彼は、その宇宙船そのものがヴィジャーだと理解する。精神融合で目の前に現れた光線の正体を探ろうとしたスポックは、強力なエネルギーの衝撃を受けて意識を失った。宇宙船から弾き飛ばされたスポックはカークに保護され、医務室に運ばれる。意識を取り戻したスポックは、「ヴィジャーは意識を持った宇宙船です。ヴィジャーは感情を知らない。だから満たされず、求め続けている」とカークに語る…。

監督はロバート・ワイズ、創作はジーン・ロッデンベリー、原案はアラン・ディーン・フォスター、脚本はハロルド・リヴィングストン、製作はジーン・ロッデンベリー、製作協力はジョン・ポヴィル、撮影はリチャード・H・クライン、編集はトッド・ラムゼイ、美術はハロルド・ミシェルソン、衣装はボブ・フレッチャー、特殊撮影効果監督はダグラス・トランブル、特殊撮影効果監修はジョン・ダイクストラ、特殊科学コンサルタントはアイザック・アシモフ、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はウィリアム・シャトナー、レナード・ニモイ、デフォレスト・ケリー、スティーヴン・コリンズ、パーシス・カンバッタ、ジェームズ・ドゥーアン、ジョージ・タケイ、ウォルター・コーニッグ、ニシェル・ニコルス、メイジェル・バレット、グレイス・リー・ホイットニー、マーク・レナード、ビリー・ヴァン・ザント、ロジャー・アーロン・ブラウン、ゲイリー・ファガ、デヴィッド・ゴートロー、ジョン・D・ゴーワンズ他。


アメリカで1966年から1969年まで放送されたTVドラマ『宇宙大作戦』(『スタートレック』シリーズ1作目)の劇場版第1作。
カーク役のウィリアム・シャトナー、スポック役のレナード・ニモイ、マッコイ役のデフォレスト・ケリー、スコット役のジェームズ・ドゥーアン、スールー役のジョージ・タケイ、チェコフ役のウォルター・コーニッグ、ウフーラ役のニシェル・ニコルス、チャペル役のメイジェル・バレット、ジャニス役のグレイス・リー・ホイットニーは、TV版からの出演者。
他に、デッカーをスティーヴン・コリンズ、アイリーアをパーシス・カンバッタが演じている。
TVドラマの日本語吹き替え版では、スコットがチャーリー、ウフーラがウラ、スールーがカトウに変更されていた。

TVドラマ『宇宙大作戦』は、それほど視聴率が良かったわけではなく、第3シーズンで打ち切られた。
しかし再放送をきっかけにして人気が高まり、これを受けて創作者のジーン・ロッデンベリーは劇場版を企画した。
製作権を持っていたパラマウント映画の承諾が出ずに企画は潰れたものの、1977年には新たなTVシリーズのプランが持ち上がる。
ところが『スター・ウォーズ』の大ヒットにより、SF映画のブームが巻き起こった。
そこで、「やっぱり映画を作ろう」ということになった。

監督には『ウエスト・サイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』の巨匠ロバート・ワイズを起用し、総製作費として当時の日本円で100億円が投入された。
最初に視覚効果監修を担当していたロバート・エイブルが仕事の遅れからクビを切られ、新たに『2001年宇宙の旅』『未知との遭遇』のダグラス・トランブルと『スター・ウォーズ』のジョン・ダイクストラが雇われた。
production illustratorsの1人として、シド・ミードが起用されている。彼が初めて携わった映画である。
ダグラス・トランブルとジョン・ダイクストラが関わる前の視覚効果関連で使った金が莫大だったのか、あるいは広告宣伝費に予算を使いすぎたのか、正直に言って、「100億円も使って、この映像なのか」という印象は否めない。
今と比べて当時の特撮技術の質が良くなかったとは言え、これの3分の1以下の総製作費だった『スター・ウォーズ』と比較して、そんなにクオリティーが高いとは思えない。

それと、パラマウント映画は相当に力が入っていたんだろうけど、132分は長すぎるなあ。しかも、「ギッシリと中身が詰まっていて、小気味良いテンポで進む、アクションたっぷりの娯楽大作」という仕上がりならともかく、そうじゃないのよね。
とにかく、話の歩みが、ものすごくノロ。なかなか先に進まないんだよな。何しろカークとスコットがドックに到着してエンタープライズ号にドッキングするまでに、5分ぐらい使っているんだぜ。
どうやら視覚効果を見て欲しいという気持ちが強かったようで、そこは「エンタープライズ号の外観をじっくりと見て下さい」ってことなんだろうな。
でも、ぶっちゃけ、退屈だわ。
雲のシーンも、すげえ長い。2度目の攻撃が回避されてカークが前進を指示し、宇宙船から探査機が出現するまでに、つまり「雲の中をゆっくり移動している」というシーンだけで、9分ほど使っているのよね。
それは単純に、「引き延ばしてるなあ」「ダラダラしてるなあ」としか感じない。

序盤、カークが船長に復帰することを知ったデッカーが不満そうに去った直後、転送装置が故障するという展開がある。
でも、そこへの流れも無くて唐突だし、誰が死んだのかも良く分からないので、ドラマとしてサッパリ盛り上がらない。何故、そのタイミングで、そのエピソードなのかと。カークが涙ぐんでも、こっちの気持ちは全く動かない。
その後のカークとデッカーの会話で、死んだ1人がソナックってのは分かるけど、そこでソナックを殺す意味が無いのよ。
アイリーアを乗船させるために科学主任を消したかったのかと思ったが、そうじゃないんだよな。科学主任はデッカーに兼任させているし、後でスポックが担当するし。
ソナックなんて、最初から登場させなきゃいいだけのことなのよ。もう完全に無駄死にだよ。

とにかく、すんげえ地味で盛り上がりに欠ける。
一応は敵に攻撃されるシーンがあったりするけど、スペース・オペラじゃないし、派手で見せ場になるようなアクションシーンは用意されていない。
じゃあキャラクターを使った人間ドラマで厚みを持たせるのかというと、そこへの意識も薄い。
カークとデッカーの対立とか、デッカーとアイリーアの恋愛とか、カークとスポックの友情とか、迷いを抱えるスポックとか、使えそうな要素は幾つかあるのだが、そんなに膨らまない。

カークとデッカーの関係性だけを取ってみても、対立していた2人が何かの出来事をきっかけに和解するとか、デッカーと張り合ってムキになっていたカークがデッカーを認めて彼に指示を任せるとか、逆にデッカーがカークの優れたキャプテンシーに触れて態度を改めるとか、そういったドラマは無い。
デッカーは何度もカークに反対意見を述べ、カークは彼の意見を全く聞き入れないという関係が終盤までずっと続く。
だからといって、デッカーが反旗を翻すとか、その不和が原因で大きな危機が訪れるとか、そういう展開があるわけでもない。
いつの間にか、その不和はボンヤリと消滅している。

そういった人間ドラマは二の次で、「ヴィジャーという存在」「そのヴィジャーが捜しているクリエーターという存在」というところでミステリーを作り、やがて「感情を持たない生命体としての機械」というヴィジャーの本質が明らかになる。
で、完全ネタバレだが、ヴィジャーの正体は、遥か昔に地球から打ち上げられた探査船ヴォイジャー6号だったということが明らかにされる。
かなりミステリー&サスペンスの要素が色濃くなっている。
硬派な本格SFってのを意識しているのかもね。

この映画は、「生命体にとっての価値とは何なのか」とか、「人間と機械の違いとは何なのか」とか、そういった哲学的な内容の部分を膨らませている。
『2001年宇宙の旅』のような、高尚な映画でも作りたかったのか。
スペース・オペラの娯楽大作『スター・ウォーズ』とは大きく異なる色を出したかったのかもしれんけど、たぶん『宇宙大作戦』を見ていた大半のファンが期待していたモノって、そこまで小難しい映画じゃないと思うんだけどなあ。
『宇宙大作戦』のファンじゃなくて、SF映画ブームで盛り上がっていた観客からしても、見栄えのする派手な盛り上がりが無くて小難しい話を132分も描かれたら、疲れちゃうんじゃないかなあ。
この映画に必要なのって、もうちょっと分かりやすい娯楽性じゃなかったかと。本格SFとしての意匠で固めつつも、その中で娯楽性を重視したドラマをやっていくべきじゃなかったかと。
まあトレッキーじゃないワシがそんなことを言っても、何の説得力も無いけどさ。

(観賞日:2013年3月26日)


第2回スティンカーズ最悪映画賞(1979年)

ノミネート:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会