『スプリット』:2016、アメリカ

女子高生のクレア・ブノワが誕生日のパーティーを開き、大勢の友人たちが集まった。その中にはクラスメイトのケイシー・クックもいたが、クレアは彼女と仲良くしているわけではなかった。ただ、父親が誘ってあげるよう勧めたこともあり、1人だけ除け者にすることも出来ないだろうと考えて呼んだのだ。ケイシーは変わり者で、学校では浮いた存在だった。ケイシーがバスで帰ろうとすると、クレアの父は「車で送ろう」と親切に申し出た。
クレアの父は娘と親友のマルシア、そしてケイシーの3人を引き連れ、駐車場へ赴いた。子供たちが先に車へ乗り込み、クレアの父は購入したプレゼントを後部トランクに入れる。そこへデニスという男が現れ、クレアの父を襲って気絶させた。デニスは運転席に乗り込むと、3人にスプレーを噴射して意識を失わせた。デニスは3人を部屋に監禁し、「最初は君からだ」とマルシアを連れ出そうとする。マルシアが必死に抵抗すると、ケイシーは放尿するよう指示した。ケイシーはマルシアを隣の部屋に連行し、ドアを閉めた。しかしマルシアが小便を浴びせたため、ケイシーは彼女を監禁部屋に戻した。マルシアはケイシーとクレアに、デニスが踊るよう命じたこと、ドアは外から施錠されていることを話した。ケイシーは震えながら、幼少期に父と叔父のジョンの3人で森へ出掛けたことを思い出した。
セラピストのカレン・フレッチャーが帰宅すると、テレビのニュース番組ではケイシーたちの誘拐事件が報じられていた。クレアの父が意識を取り戻し、すぐに通報したのだ。クレアは犯人と戦おうと提案するが、ケイシーはマルシアを軽々と持ち上げていたことを指摘して「彼には勝てない」と言う。クレアは3人で力を合わせて戦うべきだと主張するが、ケイシーは状況が分かるまで動くつもりはないと拒否した。カレンは患者であるバリーの訪問を受け、彼の描いたデザイン画を見せてもらう。バリーは「あまり長居は出来ない。客が来てる」と話し、カレンは彼が10年も同じ会社で勤務していることを褒めた。
クレアとマルシアはドアの隙間から隣の部屋を観察し、女性がデニスに話し掛けている声を耳にする。クレアとマルシアが助けを求めると、女性が部屋に入って来る。それは女性ではなく、女装したデニスだった。彼女は「彼と話したわ。私の言うことなら聞くの」と告げて、部屋を去った。しばらくすると、今度はデニスが元の姿で部屋にやって来た。彼は洗面所を綺麗に使うよう要求し、「パトリシアが君たちを連れてくるため、私を送り込んだ。君たちは神聖な食べ物だ。もう手荒な真似はしない」と述べて去った。
カレンは解離性同一性障害の専門家であり、ケヴィンという患者を研究していた。そのケヴィンが抱えている人格がデニスであり、女性のパトリシアであり、そしてバリーだった。それだけでなく、ケイシーたちの前に今度はヘドウィグという人格も出現した。ヘドウィグは9歳の少年で、「彼は君たちの所へ来る。酷いことをする」と口にする。ケイシーが助けを求めると、彼は「ここにいなきゃいけない」と拒んだ。ケイシーは内緒の話があると言い、ヘドウィグを呼び寄せた。彼女が「デニスは貴方を渡すつもりよ」と吹き込むと、ヘドウィグは激しく動揺した。
ケイシーは「私たちは貴方のベビーシッターになる。一緒に出ましょう」と話し、脱出方法を教えるようヘドウィグに頼む。ヘドウィグは「ここは安全だ」と言い、部屋から立ち去った。ケイシーたちは室内を調べ、クレアは天井の壁紙で通風孔が塞がれていることを発見した。クレアは通風孔を開けて外へ出ようとするが、ヘドウィグが戻ってくる。ケイシーとマルシアはドアを押さえて阻止し、ヘドウィグは体当たりを浴びせるが跳ね返される。しかし人格がデニスに変貌すると、今度は簡単にドアを押し込んだ。デニスは脱出を図ったクレアを捕まえ、別の部屋に監禁した。
カレンはバリーの訪問を受けるが、相手が別人格だと見抜いた。それは正解で、デニスがバリーを装っていた。しかしデニスはバリーだと主張し、別人格であることを認めようとしなかった。カレンはバリーから、ケヴィンの体内に23の人格が宿っていることを聞いていた。彼女は「貴方はデニスね」と指摘するが、デニスは否定した。パトリシアはケイシーとマルシアの元へサンドウィッチを運び、部屋から連れ出して台所へ案内した。マルシアはクレアと一緒に食べることを要望するが、パトリシアは却下した。パトリシアがサンドウィッチを新しく作っている間に、マルシアは逃亡を決意する。ケイシーは反対するが、マルシアは聞かなかった。
マルシアはパトリシアを椅子で殴り付け、廊下へ飛び出した。ケイシーはパトリシアにナイフで脅され、監禁場所に戻った。マルシアは外へ出ることが出来ず、すぐに捕まって別の部屋に監禁された。ケイシーの部屋にはヘドウィグが現れ、「僕たちは椅子に座って待ってる。誰が光の中に立つか、バリーが決める。だけど僕は好きな時に光の中に立つ特別な力を持ってるから、バリーは役目を失った」と語った。さらに彼は、デニスとパトリシアがビーストという存在を信じていること、自分は彼を見た経験が無いことを話した。
ヘドウィグがキスをしたいとせがむと、ケイシーは承諾した。ヘドウィグが「ダンスが好きなんだ。窓の近くにCDプレーヤーを置いて踊ってる」と言い出すと、ケイシーは「貴方の踊りを見たいわ。内緒で貴方の部屋に行けない?」と持ち掛ける。ヘドウィグはOKするが、デニスの儀式が終わってからだと告げた。カレンはバリーに成り済ましたデニスの訪問を受け、職場見学に来た女子高生2人組が彼に胸を触らせて嘲笑した出来事に触れる。彼女はデニスが児童虐待によって解離性同一性障害によって生み出された人格であることを指摘し、「他の人格が話してくれたわ。貴方とパトリシアはビーストを信じてるって」と言う。
カレンは「私はケヴィンのフルネームを言えば、彼を呼び出すことが出来る。でも貴方たちが混乱するから、今はしない。私は貴方たちを傷付けたくない」と語り、デニスの心を開かせようとする。デニスはバリーとしての芝居を終わらせ、「他の奴らは私とパトリシアを馬鹿にしている。だが、ケヴィンを守れるのは我々だ」と述べた。カレンはデニスに、「ビーストは幻想なのよ。ケヴィンに24番目の人格は無い」と告げた。
ケイシーはヘドウィグに呼ばれ、彼の部屋へ行く。しかし彼の言っていた窓が絵だと知り、ケイシーは落胆した。ケイシーが「外に出たい。鍵を取って来て」と懇願すると、ヘドウィグは「ビーストが来るのに、ダメになっちゃう」と部屋に戻るよう促した。ケイシーが慌てて話題を変えようとすると、ヘドウィグはデニスから盗み出したトランシーバーを見せた。ケイシーはトランシーバーを使って助けを求め、阻止しようとするヘドウィグを突き飛ばした。しかしケイシーが誘拐されたことを説明しても、受信した男は信じなかった。
ヘドウィグはパトリシアの人格に変化し、トランシーバーを取り上げてケイシーを監禁場所に連れ戻した。するとデニスが現れ、「今夜はビーストが来る。神聖な夜だ」と告げて去った。ケイシーはジョンに森で性的虐待を受けたこと、ショットガンを向けたが撃てなかったことを思い出した。パソコンの画面を見たカレンは、バリーから20通のメールが届いていることを知って驚いた。彼女はパトカーに送ってもらい、デニスの元へ赴いた。屋外に出ていたデニスが動揺すると、カレンは彼の機嫌を取って中に入れてほしいと頼んだ。
デニスはカレンを建物の中に招き入れ、ケヴィンが3歳の頃から母親の虐待を受けていたために自分が誕生したことを話す。彼はビーストが実在すると明かし、具体的な姿を語る。カレンが翌日に記録を取ろうと提案すると、デニスは快諾した。洗面所を貸してほしいと告げたカレンは、監禁されているクレアを発見する。そこへデニスが現れ、カレンにスプレーを浴びせて眠らせた。外出したデニスはパトリシアに変身して花を購入し、再びデニスに戻る。そして地下鉄構内へ行き、無人の車両に入ってビーストへと変貌する…。

脚本&監督はM・ナイト・シャマラン、製作はマーク・ビエンストック&M・ナイト・シャマラン&ジェイソン・ブラム、製作総指揮はケヴィン・フレイクス&スティーヴン・シュナイダー&アシュウィン・ラジャン&バディー・パトリック、製作協力はドミニク・カタンザライト、撮影はマイケル・ジオラキス、美術はマーラ・ルペール=シュループ、編集はルーク・チャロッキ、衣装はパコ・デルガド、音楽はウェスト・ディラン・ソードソン、音楽監修はスーザン・ジェイコブズ。
出演はジェームズ・マカヴォイ、アニャ・テイラー=ジョイ、ベティー・バックリー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ジェシカ・スーラ、セバスチャン・アーセラス、ブラッド・ウィリアム・ヘンケ、ニール・ハフ、イジー・リー・コフィー、ユーキー・ワシントン、アン・ウッド、ロバート・マイケル・ケリー、M・ナイト・シャマラン、ローズマリー・ハワード、ジェローム・ギャルマン、リン・ルネー、ケイト・ジャコビー、ピーター・パトリキオス、キャッシュ・ゴーインズ、ロイ・ウィルソン、クリストファー・リー・フィリップス、ジュリー・ポッター他。


未だに「『シックス・センス』の」という冠を付けられることの多いM・ナイト・シャマランが、脚本&監督を務めた作品。
ケヴィンをジェームズ・マカヴォイ、ケイシーをアニャ・テイラー=ジョイ、カレンをベティー・バックリー、クレアをヘイリー・ルー・リチャードソン、マルシアをジェシカ・スーラ、ケイシーの父をセバスチャン・アーセラス、ケイシーの叔父のジョンをブラッド・ウィリアム・ヘンケ、クレアの父親をニール・ハフが演じている。

『シックス・センス』の大ヒットで注目を集めたM・ナイト・シャマランだが、すぐに「他の作品からネタを拝借する人」ってことが露呈した。
それだけが原因ではないが、以降は作品を発表する度に、着実に評価を落としていった。いつの間にかゴールデン・ラズベリー賞の常連になり、雇われ仕事の『アフター・アース』も酷評を浴びた。
しかし私財を投じた低予算映画『ヴィジット』がヒットし、この作品も大ヒットしたことで「ついにシャマランの本格復活」と評された。
ただ、実際に見てみると、「普通にポンコツ映画だよね」と言いたくなる。
良くも悪くも、シャマランは何も変わっちゃいないのだ。

ダニエル・キイスの著書『24人のビリー・ミリガン』が元ネタなのは確実だが、「設定を欲張り過ぎてガッカリ感が半端無い」という結果に繋がっている。
何しろ、「ケヴィンにはビーストを含めて24の人格がある」という設定だが、実際に登場するのは8つだけ。しかも、その内の4つはチラッと出て来るだけで、基本的にはデニス&パトリシア&ヘドウィグ&バリーの4つで回している。
だったら最初から変に欲張ったりせず、せいぜい「7つの人格を持つ男」という程度で済ませておけば良かったでしょ。
数の多さで引き付けようという思惑があったのかもしれないけど、それが「宣伝に偽り有り」になっちゃったら元も子も無いわけで。

まず導入部には、かなりの強引さを感じずにいられない。
「ケイシーたちが先に車へ乗り込み、クレアの父だけが外に残っている」という状況の都合の良さは、まあ良しとしよう。ただ、デニスがクレアの父親を襲撃した時、3人が全く気付かないってのは、さすがに無理があるんじゃないかと。まるで声や音がしないってのは、ちょっと考えにくいし。
まだ後部座席で騒いでいたマルシアとクレアはともかく、ケイシーも全く気付かないってのは、どうなのかなと。
あと、デニスの行動も変だよね。なんでマルシアとクレアだけにスプレーを浴びせ、しばらくはケイシーに何もしないのかと。
そこは「ケイシーが静かに脱出しようとしたけど気付かれる」という手順を踏ませるために、デニスの行動が不自然になっちゃってるのよ。

放尿して監禁場所に戻されたマルシアが「ドアは外から鍵が掛かってる」と言った後、ケイシーが幼少期を回想するシーンがある。そこだけでなく、その後もケイシーの回想シーンは何度も挿入される。
それが「実はケイシーがジョンから性的虐待を受けていた」という真相に至るまでの伏線として用意されていることは分かるのだが、不自然極まりない回想になっている。
最初の回想は、幼いケイシーが父とジョンの3人で楽しそうに会食している内容だ。しかし、見知らぬ男に監禁されて恐ろしい目に遭っている時、そんなことを思い出すのは不可解だ。
これが「犯人にジョンを重ねる」ということであれば、そんな楽しそうな出来事を回想するのも変だし。

ようするに、そこは「伏線を張っておく」ということしか考えず、「その状況に適した回想なのか」ってことが完全に無視されているのだ。
前述したデニスの行動と同じで、「こういう手順を踏んでおきたい」という脚本上の都合に合わせるため、登場人物の行動が不自然なモノと化しているのだ。
しかも、そうやって強引に挿入するほどの重要性を、回想シーンには全く感じないのだ。
回想シーンを全てカットして、ケイシーの体に残る虐待の痕跡を見せる終盤のシーンだけで済ませても、それで充分なのだ。

ひょっとすると何度も回想シーンを挟むのは、「なぜケイシーはクレアたちから協力を求められても犯人と戦おうとしないのか」という疑問の答えに繋がるヒントという狙いがあるのかもしれない。
つまり、「ジョンから長年に渡って性的虐待を受け続け、立ち向かう気力を失っている」という設定があるんじゃないかってことだ。
ただ、そこまで考慮したとしても、やっぱり回想シーンの必要性はそんなに高いと思えないのよね。
その狙いが仮にあったとしても、何度か台詞で匂わせるようなことを言わせておくだけでいい。その上で終盤に「実は性的虐待を受けていた」と明らかになれば、それで事足りる。

っていうか、どういう事情があるにせよ、「ヒロインに逃亡への気力が乏しい」ってのは、監禁サスペンスとしての面白味を完全に消しているよね。
ヒロインに逃げる気が乏しいんだから、そりゃあ「逃亡を図るが未遂に終わったり犯人に阻止されたり」ということが無くなるわけで。
一緒に監禁された2人が脱出を試みる行動によって引っ張ろうとしているんだけど、「そんな中で肝心のケイシーは全く行動を起こさない」という状況が続くと、やっぱり引き付ける力としては著しく弱いわけで。

一応、ケイシーも脱出する気が無いわけではなくて、彼女なりに色々と考えてはいる。犯人に対して力で対抗するんじゃなくて、知恵を使って何とかしようとしている。だからヘドウィグを手懐けて、脱出するための方法を聞き出そうとしているわけだ。
でも、それがヌルいとしか思えないんだよね。
っていうかケイシーに限らず、クレアとマルシアにしても、ヌルいなと。
そう感じるのは彼女たちよりも、犯人サイドに原因があると見た方がいいかもしれない。デニスは怪力キャラの設定だけど、他の奴らに関しては「3人が本気で挑めば何とか制圧できるんじゃないか」と思っちゃうのよね。
デニスにしても、そこまで圧倒的な強さは感じないし。

シンプルに「イカれた男に監禁された女子高生3人が脱出しようとするサスペンス」として見た場合には、ただ退屈なだけの映画だ。
男が多重人格でコロコロと人格が入れ替わるという設定も、そんなに面白い要素として機能しているわけではない。
「ジェームズ・マカヴォイのショーケース」としての意味合いはあるかもしれないが、仕掛けとしての面白味は乏しい。犯人としてはヌルすぎるし、だから緊迫感も弱い。
脱出を試みる女子高生たちの行動で、ハラハラドキドキさせられることも少ない。犯人だけでなく、監禁された3人の動きも低調に終始するのよね。

映画のラスト、事件について報じるテレビのニュースをダイナーで見ていた女性が、「15年前に車椅子の男が起こした事件みたいだ」と口にする。その男に付けられた呼び名を彼女が思い出せずにいると、隣に座っていた男が「ミスター・ガラスだ」と教える。
それを教えた男は、アンクレジットで出演したブルース・ウィリス。そして彼の役名はデヴィッド・ダン。
これは、彼が2000年の『アンブレイカブル』で演じた役だ。
そしてミスター・ガラスというのは、『アンブレイカブル』でサミュエル・L・ジャクソンが演じたイライジャ・プライスの呼び名である。

ようするに、『アンブレイカブル』でスーパーヒーローの誕生が描かれていたのに対し、この作品ではヴィランの誕生が描かれているのだ。
そして、そんな2作を経て、デヴィッド・ダンとビーストが対決する『ミスター・ガラス』へと続くわけだ。
つまり、この作品は「実は『アンブレイカブル』とクロスオーバーする作品でした」というオチだけで成立していると言ってもいいのだ。
その一点を除外してしまうと、普通に退屈な映画だ。
「ヴィランの誕生篇」として捉えても、やっぱり面白くはないしね。

(観賞日:2019年6月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会