『スプライス』:2009、カナダ&アメリカ&フランス
科学者のクライヴとエルサは、研究所の所員たちと共に新種の生命体を誕生させる。2人は生命体にフレッドと名付け、先に誕生させていた同種の雌であるジンジャーと対面させた。クライヴとエルサはニューステッド製薬の本社を訪れ、社長のジョアン・ショロと重役のウィリアム・バーロウに結合実験のプレゼンを行った。3年に及ぶDNA結合実験によってジンジャーが誕生し、家畜用医療タンパク質の生産能力は証明されていた。フレッドの誕生によって結合技術は進化し、知的生物への利用に成功した。
エルサは「人間のDNAを結合させれば多くの遺伝子疾患を治療できる」と訴えるが、ジョアンは「製造段階に移る。タンパク質を生み出す遺伝子を取り出す。結合施設は閉鎖し、効率化のために研究所を再編する」と述べた。エルサが「世紀の大発明なのに」と反発すると、バーロウは「倫理観を失ってる」と指摘し、ジョアンは「製造可能な薬が先決よ」と告げた。クライヴとエルサは納得できず、研究所に戻ると匿名女性のDNAを使った実験を行った。
結合に成功してDNAが完成すると、クライヴは凍結保存しようとする。しかしエルサはベティーと名付けた母体を保管している部屋に入り、そのDNAを卵子へ注入しようとする。クライヴは「違法行為だ」と反対するが、エルサの説得を受けて承諾した。クライヴは弟のギャヴィンと所員たちにジンジャー&フレッドの世話を任せ、エルサと共に極秘実験の方へ集中する。予定より数ヶ月も早く破水して装置が壊れたため、エルサは手を突っ込んで生命体を取り出そうとする。しかし手を噛まれてしまったため、クライヴが装置を破壊した。彼がメスで母体を切り裂くと、生命体が飛び出した。
クライヴは尻尾の這えた芋虫状の生命体を捕まえ、「失敗作だ」と告げて処分しようとする。しかし脱皮して中から出て来た二足歩行の生命体を見たエルサは、手を差し出して懐かせようとする。クライヴが「どういうつもりだ」と責めると、彼女は「正体を確かめなきゃ」と主張した。生命体を眠らせた2人は体を調べ、腫瘍のような物があることを知った。エルサは「成長が速く、命は長くない。誕生から死までを短期間で観察できる。二度と無いチャンスよ」と告げ、クライヴに生命体の処分を撤回させた。
1ヶ月が経過し、生命体は幼女ほどの大きさに成長していた。エルサは女の子の服を与え、様子を観察していた。認識テストにより、知能があることは分かっていた。エルサが文字盤で遊ばせていると、生命体は彼女のTシャツに書いてあった「NERD」という言葉を並べた。エルサは文字の順番を入れ替え、生命体に「ドレン」と名付けた。エルサが勝手に別の部屋へドレンを連れ出していたため、クライヴは注意した。しかしエルサは「発達上のプロフィール調査には外の刺激が必要なのよ」と、正当性を主張した。
クライヴが「バーロウから明日には全棟を改装すると言われた」と話すと、エルサは「じゃあドレンを保管室に。誰も来ないわ」と言う。「何の根拠で?」とクライヴは告げ、2人は言い争いになった。ギャヴィンが部屋に入って来てドレンと遭遇し、慌てて逃げ出した。クライヴはドレンを保管室に移し、エルサに「守るべきルールがあるだろ」と告げた。エルサは「この発見を見せたら誰もルールのことなんて言わなくなる」と話すが、クライヴは「誰にも見せない」と拒否する。しかしエルサは耳を貸さず、「ジンジャーとフレッドの次はドレンよ」と口にした。
クライヴから事情説明を受けたギャヴィンは協力を求められ、「捕まったらどうするつもりだ。仲間や俺のことを考えたのか。エルサの言いなりか」と述べた。ドレンが高熱を出したのでエルサは狼狽し、クライヴに助けを求めた。クライヴは水風呂にドレンを入れるが、そのまま全身を押さえ付けて沈めた。エルサは「殺さないで」と言うが、ドレンは水中でも呼吸が出来る体だった。クライヴはエルサとセックスし、ドレンが覗いているのに気付いても続行した。
ジョアンはジンジャーとフレッドを大々的に発表し、会場のステージへクライヴとエルサを呼び込んだ。しかしボックスの仕切りを下げてジンジャーとフレッドを対面させると、激しい殺し合いになった。会場に集まった人々は、血の惨劇を見てパニックになった。ジョアンから説明を求められたクライヴとエルサは、「遺体を調べるとジンジャーがホルモン変化で雄になっていた」と告げた。ジョアンは2人に、薬のためのDNAを一刻も早く作り出すよう要求した。
バーロウが研究所のあるビル全体に手を加えると決めたため、ギャヴィンはクライヴに「ドレンを別の場所へ移せ」と告げた。クライヴは移動場所を全く想定しておらず、ギャヴィンと言い争いになった。エルサは死んだ母の農場へドレンを移し、そこで育てることにした。ドレンが逃げ出したので、クライヴとエルサは後を追った。2人が森を捜索すると、ドレンはウサギを殺して食べていた。2人はドレンを納屋に入れ、研究所へ戻った。ドレンは猫を発見し、密かに飼い始めた。
1週間後、エルサはドレンに食事を与えようとするが、不機嫌そうな態度で拒否された。クライヴが「肉が食べたいんだよ」と告げると、エルサは「肉食じゃないわ」と口にした。クライヴが「ウサギは野菜か?」と皮肉っぽく言うと、エルサは「あれは事故よ」と反論した。ドレンは文字盤で「退屈」「外」という言葉を示し、激しく暴れた。エルサが叱責すると、ドレンは窓から屋根へ出た。クライヴとエルサが連れ戻しに行くと、ドレンは翼を広げた。
ドレンが飛び立とうとすると、クライヴは「行くな。君が必要だ。愛してる」と告げた。するとドレンは翼を折り畳み、クライヴに抱き付いた。エルサはドレンに化粧を施し、「大人になるのよ」と述べた。エルサはドレンがクライヴの絵を何枚も描いていると知り、「私の絵は?」と訊く。するとドレンは、クライヴの絵を奪い取った。エルサはドレンが猫を密かに飼っていると知り、「飼えないわ」と取り上げた。ドレンが抗議するような態度を取ると、エルサは「我慢しなさい。大人になるの」と述べた。
クライヴが研究所から戻ると、ドレンの世話に疲れたエルサは眠り込んでいた。クライヴは塞ぎ込んでいるドレンの様子を見て、「雰囲気を明るくしよう」とレコードで音楽を流した。クライヴはドレンにステップを教え、手を繋いで一緒に踊った。だが、あることを感じてハッとした彼は、「そろそろ終わりにしよう」と告げた。エルサが目を覚ますと、クライヴは「ドレンに君を感じた。自分のDNAを使ったんだな」と指摘した…。監督はヴィンチェンゾ・ナタリ、原案はヴィンチェンゾ・ナタリ&アントワネット・テリー・ブライアント、脚本はヴィンチェンゾ・ナタリ&アントワネット・テリー・ブライアント&ダグ・テイラー、製作はスティーヴン・ホーバン、製作総指揮はギレルモ・デル・トロ&スーザン・モントフォード&ドン・マーフィー&クリストフ・ランディー&イヴ・シェヴァリエ&ジョエル・シルヴァー&シドニー・デュマ、撮影はテツオ・ナガタ、美術はトッド・チェルニアフスキー、編集はミシェル・コンロイ、衣装はアレックス・カヴァナー、特殊メイクアップ&クリーチャー・効果はハワード・バーガー&グレッグ・ニコテロ、視覚効果監修はロバート・ムンロー、音楽はシリル・オフォール。
出演はエイドリアン・ブロディー、サラ・ポーリー、デルフィーヌ・シャネアック、ブランドン・マクギボン、シモーナ・メカネスキュ、デヴィッド・ヒューレット、アビゲイル・チュー他。
『CUBE』『カンパニー・マン』のヴィンチェンゾ・ナタリが監督を務めた作品。
脚本はヴィンチェンゾ・ナタリと『甦る悪夢』『デス・リベンジ』のダグ・テイラー、これがデビューとなるアントワネット・テリー・ブライアントの共同。
クライヴをエイドリアン・ブロディー、エルサをサラ・ポーリー、成長してからのドレンをデルフィーヌ・シャネアック、ギャヴィンをブランドン・マクギボン、ジョアンをシモーナ・メカネスキュ、バーロウをデヴィッド・ヒューレットが演じている。最初にジンジャー&フレッドという新種の生命体が誕生して、今度は人間のDNAを結合させた生命体も生み出される。
ジンジャー&フレッドは残虐な殺し合いをするので、ドレンも似たようなことを起こす可能性が考えられる。実際、ウサギを殺して貪り付く様子も描写されているし、凶暴性を秘めていることは間違いなさそうだ。
そんなこんなでモンスター・ホラー映画かと思っていたら、実は変態性欲を盛り込んだ疑似近親相姦モノだった。
「お前は何をワケの分からんことを言っているんだ」と思うかもしれないが、紛れも無い事実を書いているだけだ。「お前がバカなだけだろ」と言われたら返す言葉が無いのだが、パーキンソン病や癌など全ての遺伝子疾患を治療する薬を作るために、なぜ新種の生命体を作る必要があるのかがサッパリ分からない。
それと、ジンジャー&フレッドって「犬の新種」とか「猫の新種」ということじゃなくて、何にも似ていない生命体なのよね。
「足の無い大きな芋虫」という感じの形状で、何を結合させたらそうなるのかと。
まあ、そこは「グロテスクな見た目」ってのを最優先で、あまり科学的なことは気にしていないのかもしれんけど。バーロウの「倫理観を失ってる」という指摘は、その通りである。
つまりクライヴとエルサは「研究を進める中で少しずつ狂気が高まっていく」ということではなくて、最初から完全にタガが外れているのだ。
クライヴはエルサを止めようとする慎重な部分もあるが、そもそも人間のDNAを使った新種の生命体を生み出そうとしている時点で充分すぎるほどマッド・サイエンティストになっているからね。
そんなマッドな2人が主役なので、こっちとしては感情移入して物語を観賞することは難しい。最初から最後まで、ずっと「あっちの世界の人々」という意識で鑑賞することになる。とは言え、主人公への感情移入を拒むような映画なんて幾らでもあるわけで、だからダメだというわけではない。
ただし、感情移入できない面々になっていることで、「何が起きても自業自得でしょ」と思ってしまうという問題は起きている。
つまりトラブルやピンチが訪れても、それによってスリルを感じることは無いってことだ。
最初の段階で既に、「仮にドレンが暴れて殺されたとしても、自業自得だしなあ」という気持ちになっているのでね。クライヴが子供を持ちたい願望を口にした時、エルサは「今の生活が好き。子供のために生活を変えたくない」と言っている。それなのにドレンが誕生すると、すぐに手懐けようとしている。
そこを「ペットを可愛がるような感情」として捉えるにしても、服を着せて文字を教えたりする様子は、明らかに「母親が娘を可愛がる」という態度だ。
「女性は子供が産まれた時点から母親になり、なかなか父親の自覚が芽生えない男とは生物的に大きな差がある」ってことは知っている。
でも、それで全面的に納得するのは難しい。たぶんエルサは、ドレンが産まれた瞬間にスイッチが切り替わったということなんだろう。だけど、それが伝わりやすいのかというと、答えはノーなわけで。こっちが都合良く解釈してあげないと、なかなか厳しいモノがあるわけで。
映画を見ているだけだと、エルサの心情変化が表現されているとは言い難い。
ベタかもしれないが、映画的には「子供を産めない体」とか「不妊治療を続けている」という設定にしておいた方が、ドレンを娘のように可愛がる心情が伝わりやすいのは確かなわけで。
エルサが子供を欲しがっていないことを伏線っぽく示しておくのであれば、そこからの心情変化は丁寧に表現すべきだろう。それに付随して、彼女の言動不一致にクライヴが困惑するとか、矛盾を指摘するとか、そういうのもあった方がいいだろう。ドレンが飛び立とうとした時にクライヴが「行くな。君が必要だ。愛してる」と告げて2人が抱き合う辺りで恋愛の要素が入って来るが、あまりにも唐突で違和感が強い。
そこまでのクライヴはドレンを可愛がる様子も無く、むしろ冷淡な視線を向けていた。あくまでも実験で産まれた生命体という捉え方しかしておらず、エルサのように娘の如く愛を注ぎ込むようなことは無かった。
一方のドレンも、クライヴに興味を示すようなことは一切無かった。
ドレンがクライヴに惚れて、クライヴも誘惑に負けてしまう展開を用意するのであれば、もうちょっと前から匂いを漂わせておいた方がいい。例えばエルサの厳しすぎる指導にドレンが辛そうな様子を見せて、それをクライヴが慰めるとか。クライヴとエルサが仲良くしている様子を見て、ドレンが嫉妬するような素振りを見せるとか。
「愛してる」と言われてクライヴに抱き付くトコで初めて恋心を示すと、「その言葉1つで急に惚れました」という見え方になってしまうし、それは上手くないでしょ。終盤の展開に合わせて、帳尻を合わせるための作業を慌ててやったような感じになっているんだよな。
あと、恋愛劇の要素が入って来ると、ドレンが新種の生命体である意味が薄いモノになるんじゃないかと。
むしろ「新種の生命体」というドレンのギミックが無駄に大きすぎて、三角関係&疑似近親相姦モノの要素と、互いに打ち消し合っているように思える。エルサは農場へ向かう時、クライヴに「母のことは考えたくもない。母の狂気を理解できるわけがない」と言う。彼女はドレンに化粧を施しながら、「母は女性の品位を落とすと言って、化粧も禁止した」と告げる。
クライヴはエルサが自分のDNAをドレンに使ったと知り、激しく非難して「自分の家系を見直すんだな」と語る。
喧嘩になった時には、「なぜドレンを作ろうと考えた?普通の子供だと自由にならないからだろ」と指摘する。
エルサの行動を紐解くカギは、その辺りにあるようだ。どうやら、エルサが最初はドレンを異常なほど溺愛し、思い通りにならないと虐待するという行動の原因は、母親との関係が影響しているようだ。
ただ、エルサと母親の関係性はボンヤリしているし、幼少期のエルサに何があったのかは全く描写されていないので、かなり分かりにくい。
もっと根本的なことを言っちゃうと、「どうでもよくねえか」と思ってしまう。
そういうのを入れると、エルサの異常な行動は全て血筋のせいってことになってしまい、「呪われたDNAからは逃げられない」というメッセージが発信されてしまうし。
まさか、そういうのが描きたかったわけじゃないでしょ。だとしたら、ますます「新種の生命体」というギミックは邪魔になるし。終盤に入るまでの内容は、良くも悪くも引っ掛かりに乏しい。ホラーとしての恐怖や不安は全く煽られないし、倫理観を巡るドラマとしての充実度も低い。
「ドレンの成長を見守る」という観点から捉えるにしても、見た目ほど中身の特異性が際立っているわけではない。ドレンの知力が上昇する様子に面白味があるわけでもない。
しかし終盤に入ると、ドレンに誘われたクライヴが性的関係を持ち、雄に変貌したドレンがエルサをレイプして子供を孕ませるという、「なんじゃ、そりゃ」と言いたくなる展開が待ち受けている。
そして皮肉なことに、そういう展開で陳腐の森へ足を踏み入れたことで、そこだけは印象に残るようになっている。
ただの変態悪趣味映画としての印象ではあるが、まあ何も残らないよりはマシかな。(観賞日:2015年8月5日)