『スパイラル:ソウ オールリセット』:2021、アメリカ

祭りの夜、ボズウィック刑事は女性から鞄を奪い去った男を追い掛けた。男は姿を消し、ボズウィックはマンホールの蓋が開いているのに気付いた。ボズウィックは地下道を進み、突き当たりでマネキンを発見した。その直後、豚の仮面を被った人物がボズウィックを背後から襲って昏倒させた。ボズウィックが目を覚ますと舌が装置で挟まれ、鎖で地下鉄の線路の上に吊るされていた。目の前にはモニターがあり、仮面の男が「ゲームをしよう。2分後に地下鉄が来る」と述べた。男はボズウィックが裁判で偽証して多くの無実の人を刑務所に送って来たことを指摘し、「嘘をつくために使われた舌を引き抜け。上手く行けば生きられる」と告げた。ボズウィックは必死で舌を引き抜こうとするが間に合わず、地下鉄にひかれて死んだ。
ジーク・バンクスは3人の仲間と『フォレスト・ガンプ』について話してから覆面を被り、ホテルの廊下に出た。彼らは売人が恋人と一緒にいる部屋へ乗り込んで銃で脅し、コカインと金を奪った。彼らが車で逃亡しようとすると、警官隊が待ち受けていた。警官隊の隊長は、サウスメトロ署の刑事であるジークがいることに気付いた。ジークは殺人課なのに勝手な潜入捜査でヤクの売人を襲撃したため、署長のアンジー・ガーサから叱責された。しかしジークは全く反省せず、「署には信用できる奴が1人もいない」と告げた。
アンジーはジークにチームプレーを学ぶよう説き、新人と組むよう命じた。ジークは嫌がるが、アンジーは「アンタが元署長の息子でも、大目に見ない」と鋭く告げた。ジークは12年前に悪徳警官を突き出して表彰されたが、そのせいで同僚から嫌われていた。アンジーは警察学校を首席で卒業した新人のウィリアム・シェンクを呼び、彼と組むようジークに命じた。シェンクは志望の動機について、ジークの父であるマーカスだと語る。ジークは煙たそうに、「俺と親父と違う。失望する準備をしておけ」と告げた。
ジークはアンジーからホームレスが地下鉄にひかれた現場へ行くよう指示され、シェンクを伴って署を出た。シェンクはジークの車に乗り込むと、すぐに妻子の写真を取り出した。妻のエマと息子のチャーリーだと彼が説明すると、ジークは自身が離婚協議中だと語った。2人は現場に到着し、バラバラに散らばった無残な遺体を目にした。遺体の腕にスマートウォッチを見つけたジークは、ただのホームレスではなく既婚者だと確信した。彼が署に戻ると、小さな箱が届いていた。ジークが箱を開けると「PLAY ME」と書かれたUSBメモリが入っており、その中身はビデオメッセージだった。ビデオには裁判所の壁に描かれた渦巻き模様が映っており、男の声で「君の同僚は改心を拒んだ。私のゲームは彼が最後ではない」とジークに語り掛けた。
ジークがシェンクを連れて裁判所へ向かう時、同僚のフィッチとクラウスが勝手に同行した。ジークは渦巻模様の近くに箱を発見し、中を確認すると切断された舌とボズウィックの警察バッジが入っていた。地下鉄の遺体がボズウィックだと断定され、アンジーはオブライエンに担当させようとする。ボズウィックと親しかったジークは「俺が担当だ」と反発し、疎んじるフィッチに怒りをぶつけた。アンジーはジークを呼び出して諫め、仲間と協力するよう説いた。ジークは協力すると約束し、自分に担当させてほしいと訴えた。アンジーは承諾し、ジークに捜査の指揮を任せた。
ジークはシェンクを伴い、ボズウィックの妻であるカーラの元へ弔問に訪れた。するとジークの妻のリサも来ており、息子のブライアンについて「姉に預けた」と言う。ジークが「俺は息子にも会えないと」恨み言を口にすると、彼女は「ここで言い争いを始めるつもり?」と苦言を呈した。ジークはカーラと話し、先週の夜に黒いSUVが停まっていたことを聞いた。彼はボズウィックのパソコンや所持品を調べる許可を貰い、必ず犯人を捕まえるとカーラに約束した。
ジークが帰宅すると、父のマーカスが勝手に上がり込んでいた。ジークはマーカスが大家を務めるアパートで暮らしており、家賃を滞納していた。マーカスは彼に、「いつも勝手に行動し、面倒ばかり起こす」と言う。12年前にジークが悪徳警官を突き出した時も、マーカスはアンジーの前で息子への苛立ちを吐露していた。フィッチとクラウスは質屋の監視カメラを調べ、ボズウィックがベニー・ライツというヤク中のチンピラを追っている姿を確認した。フィッチはジークに報告せず、ベニーが暮らすパン工場の焼け跡に向かった。そこにベニーの姿は無く、フィッチは背後から襲われて捕まった。彼は拷問器具に拘束され、水槽に入れられた。目の前のモニターには仮面の男が現れ、「ゲームをしよう」と呼び掛けた。
ジークはシェンクからの電話で、「命令通りに古い記録を調べた。ボズウィックは何度も法廷で嘘をついてる」と聞かされた。裁判所の壁に渦巻き模様が描かれていた事情を、ジークは理解した。ジークの元に小箱が届き、中にはUSBメモリが入っていた。中身は前回と同じくビデオメッセージで、橋の下に停めた車に渦巻き模様が描かれていた。男の声が、「救済を提案したが、拒否された。全てを吐き出すまで、大勢が死ぬ」と語った。
ジークたちがビデオに写っていた橋の下へ行くと、車には豚の死骸が乗せられていた。近くには小箱が置いてあり、中には切断された5本の指とフィッチのバッジが入っていた。ジークはクラウスから話を聞いてパン工場へ行き、フィッチの遺体を発見した。犯人はフィッチが侮辱したジミーという男を射殺したことを指摘し、「その指が撃った」と告げた。それから犯人は、「口の中の装置を噛めばモーターが回り、指を引き抜いて生きて出られる」と説明した。フィッチは必死で脱出を図るが、指が切断された上に感電死した。ジークはクラウスに質問し、橋の下はフィッチがジミーを撃った場所だと知った。
ジークはシェンクを伴い、スピースの部屋に乗り込む。彼はスピースを脅してベニーの居場所を吐くよう迫るが、2日前から見ていないという返答だった。ジークはベニーが犯人ではないとシェンクに断言し、「ジグソウの弟子の仕業だと?」という問い掛けに「ジグソウは警察官を狙わなかった。今回の犯人の動機は個人的な何かだ」と答えた。彼はシェンクを伴って教会へ赴き、元警察官のピートに会った。ピートは12年前に警察官の不正を暴く証人となったチャーリーを射殺し、「奴が銃を向けた」と相棒だったジークに嘘をついた。ジークの告発を受け、ピートは9年間の刑務所生活を送ることになった。
ジークはピートに、今回の事件のアリバイを訪ねた。ピートは「呆れたぜ」と吐き捨て、「断酒会の参加者が暴れて、そいつを殴り倒して警察沙汰になった」と語る。彼は昔のよしみでオブライエン刑事が揉み消してくれたことを語り、ジークは教会を後にした。ジークが父の部屋に行くと、まだ帰っていなかった。昨晩からマーカスは帰宅しておらず、ジークが電話を掛けても繋がらなかった。ジークはマーカス留守電に、「連絡してくれ」とメッセージを残した。
翌朝、シェンクは出勤せず、ジークの元には今までより大きい箱が届いた。ジークが箱を開けると、豚のマスクと剥ぎ取られた人間の皮膚が入っていた。箱には手紙も添えられており、「お前がモタ付いている間に頭を始末する」と記されていた。皮膚には「チャーリー」の刺青があり、ジークはシェンクの腕だと悟った。皮膚の中には、「コンスタンティン」と書かれたインク瓶が隠されていた。それはジークが若い頃、父に連れられて通っていたホビーショップで売られていたインク瓶だった。
コンスタンティンは既に潰れ、現在は精肉工場になっていた。ジークが精肉工場に行くと、皮膚を剥がされた遺体が吊るされていた。近くにはテープレコーダーが残されており、再生すると犯人がシェンクにゲームを要求する音声が録音されていた。ジークはアンジーに電話を入れ、未解決ファイルの調査を依頼した。警官が襲われたという連絡でジークは現場に急行するが、被害者は軽傷を負っただけだった。ジークは「頭を始末する」という言葉を思い出し、アンジーが狙われると確信した。
ジークはアンジーに電話を掛けるが、繋がらなかった。証拠保管室に赴いたアンジーは犯人に襲われ、拷問装置に拘束された。犯人は彼女が署内の悪を隠蔽したと指摘し、ゲームを要求した。ジークが急いで駆け付けると、既にアンジーは殺されていた。ジークが監視映像を確認すると、自分が到着するまでの13分間が欠落していた。ログインした署員を調べると、ピートの名前に行き当たった。ジークは教会へ乗り込むが、ピートの姿は無かった。教会を出たジークは、犯人に襲われて意識を失った。
マーカスはパン工場に乗り込み、拳銃を構えて警戒しながら奥へ進むが、犯人に襲われ昏倒した。ジークが目を覚ますと、見知らぬ場所でパイプ管に手錠で腕を繋がれていた。しかし近くにはヘアピンが落ちており、ジークは簡単に手錠を外すことが出来た。部屋には頭から袋を被せられた人間が吊るされ、意識を失った状態にあった。ジークが袋を外すと、それはピートだった。ピートの体には鎖でレコーダーが巻き付けており、ジークが再生するとゲームを要求する犯人の声が聞こえて来た…。

監督はダーレン・リン・バウズマン、脚本はジョシュ・ストルバーグ&ピーター・ゴールドフィンガー、製作はオーレン・クールズ&マーク・バーグ、製作総指揮はダニエル・ジェイソン・ヘフナー&クリス・ロック&ジェイソン・コンスタンティン&グレッグ・ホフマン&ケヴィン・グルタート&ピーター・ブロック&ジェームズ・ワン&リー・ワネル&ステイシー・テストロ、共同製作はケトゥラ・ケスティン、撮影はジョーダン・オーラム、美術はアンソニー・カウリー、編集はデヴ・シン、衣装はローラ・モントゴメリー、音楽はチャーリー・クロウザー。
出演はクリス・ロック、マックス・ミンゲラ、マリソル・ニコルズ、サミュエル・L・ジャクソン、ダニエル・ペトロニエヴィッチ、リチャード・ゼッピエリ、パトリック・マクマナス、エディー・インクセッター、トーマス・ミッチェル、ナズニーン・コントラクター、トレヴァー・グレツキー、クリストファー・ラムゼイ、ジェネル・ウィリアムズ、ディラン・ロバーツ、アリ・ジョンソン、ゾーイー・パーマー、カーヴィン・ウィナンス、レイラ・チャールズ・リー、チャド・カミッリ、ジェリー・ゲティー、コナー・スミス、ピーター・ホイ、モーガン・デヴィッド・ジョーンズ、ナディーン・ローデン、マイルス・クーレス他。


『ソウ』シリーズの第9作。
監督はシリーズ第2〜4作を手掛けたダーレン・リン・バウズマン。
脚本は『ジグソウ:ソウ・レガシー』のジョシュ・ストルバーグ&ピーター・ゴールドフィンガー。
ジークをクリス・ロック、シェンクをマックス・ミンゲラ、アンジーをマリソル・ニコルズ、マーカスをサミュエル・L・ジャクソン、ボズウィックをダニエル・ペトロニエヴィッチ、フィッチをリチャード・ゼッピエリ、ダンレヴィーをパトリック・マクマナス、クラウスをエディー・インクセッター、オブライエンをトーマス・ミッチェル、スピースをクリストファー・ラムゼイ、リサをジェネル・ウィリアムズ、カーラをゾーイー・パーマーが演じている。

粗筋でも触れたように、ジークはヤクの売人を襲う前に仲間たちと『フォレスト・ガンプ』について話している。
これがパロディーでもオマージュでもなく、クエンティン・タランティーノの下手な模倣にしか見えない。
安っぽい模倣だし、何の意味も感じないし、この時点でダメな映画の匂いがプンプンと漂って来るぞ。
せめて、それ以降も「タランティーノもどき」を貫いてくれれば、「珍奇な映画」として価値を見出すことぐらいは出来たかもしれないけど、そういうヘンテコな徹底ぶりがあるわけでもないし。

このシリーズの場合、ジグソウが死んでも話を続けようとするから、手の打ちようが無くなっている。
そもそも無理して続ける価値なんて皆無だと思っているけど、どうしても続けたいのならジグソウを復活させる以外に方法は無いのよ。どんな卑怯な手を使ってでもジグソウを復活させることが、シリーズを続行するために必要不可欠な条件だ。
あるいはリブートとして仕切り直し、トビン・ベル以外の人間にジグソウを演じてもらうとか。本人じゃないにしても、せめて「息子」とか「弟」みたいなキャラにジグソウを引き継がせて登場させるべきなのよ。
「あのジグソウに身内がいるのか」という問題はあるが、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ。
マトモな理屈なんて言い出したら、シリーズ続行なんて不可能だからね。

今回の作品は、所詮はジグソウの模倣犯による犯行に過ぎない。ようするに『ハロウィン』シリーズならブギーマンの模倣犯、『13日の金曜日』シリーズならジェイソンの模倣犯が犯人でした、という設定みたいなモンだからね。
いや、まだ模倣犯ならマシだけど、今回の犯人はジグソウと何も関係が無いのよ。犯罪理念を受け継いでいるわけでもなくて、見事なぐらいバッタモンと化している。
今回の犯人は何があろうと標的を殺すので、それだけでもジグソウとは全くの別物だ。
ダーレン・リン・バウズマンやジェームズ・ワン&リー・ワネルが関わっているから「正当な続編」として成立しているけど、ただ『ソウ』の名前を借りただけの無関係な映画と言われても納得できるような作品なのだ。

「それを言っちゃあ、おしめえよ」と車寅次郎に言われるかもしれないが、クリス・ロックが主演を務めている段階で、既にホラー映画としては厳しいでしょ。
クリス・ロックがライオンズゲートに自身のアイデアを売り込んだことで企画が始まっているので、彼が主演なのは当然っちゃあ当然なのだろう。
彼がコメディー芝居をしているわけではなく、もちろんシリアスにジークを演じている。ただ、少なくともホラーの匂いを漂わせるには、マイナスが大きい。
「恐怖と笑いは紙一重」という言葉があるが、クリス・ロックが部屋に上がり込んでいたサミュエル・L・ジャクソンと話すシーンなんて、紙一重じゃないレベルで笑いが勝っているし。

粗筋ではほとんど触れなかったが、何度も回想シーンが挿入される。粗筋で言及した内容だと、マーカスがジークへの苛立ちをアンジーにこぼすシーンや、フィッチが犯人のゲームで殺されるシーンが回想だ。
この時点で、「犯人のゲームに関わる回想」と「ジークの過去に関わる回想」に分類されており、既に統一感は取れていない。
他にもジークの過去に関連して、「フイッチがジークの危機を知りながらも現場に行かず見殺しにしようとする」とか、「マーカスはジークの怪我を知り、駆け付けなかったフィッチに激怒する」というシーンが回想で描かれる。
でもジークの過去に関連するパートだけでも、既に散らかっている印象が強い。

もっと問題なのは、回想を多用する構成に、必要性や意味が感じられないってことだ。
過去のシリーズでも、回想を多用したことはあった。ただし、それは観客を欺くための仕掛けとして用意されていた。
その狙いが充分に効果を発揮していたとは言い難いが、少なくとも作品を面白くするためにギミックを凝らそうとしていた。
でも本作品の場合、ザックリ言うと「説明のための回想」でしかないのだ。おまけに、説明の方法としても下手だし。

誰が犯人なのかは、早い段階からバレバレになっている。何しろ、容疑者が1人しか見当たらないのだ。
面倒だから完全ネタバレを書くが、犯人はシェンクだ。
他の刑事は犯人に襲われてゲームを要求されるシーンが描かれるのに、シェンクだけは捕まるシーンが無い。そして犯人が仕掛けるゲームにしても、ジークの想像という形で描かれるだけだ。
シェンクだけ明らかに違うので、そりゃあ簡単に分かるでしょ。
一応はベニーやマーカスに疑いを持たせようとしているのかもしれないが、だとしたらミスリードが下手すぎるし。

終盤、シェンクはピートを吊るし、ジークに彼を助けるかどうかのゲームを要求する。ピートを救おうとしたジークは、怪我を負う。
でも、シェンクってジークと手を組んで悪徳警官を一掃したいと思っているんだよね。でも下手をすると、ピートを救おうとしてジークも命を落とすリスクもあるわけで。
そんなことをさせる必要があるのかと。
一応は「ジークが仲間としてふさわしいか見極めるためのテスト」という設定があるけど、シェンクの目的と行動の整合性が取れているように思えないんだよね。
そこを「イカれた奴だから」という言い訳で強引に突破できると思ったのなら、そんなに甘くないぞ。

(観賞日:2023年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会