『スフィア』:1998、アメリカ

太平洋の深海約300メートルの地点で、300年ほど前に墜落したと見られる宇宙船が発見された。調査のため、計画責任者バーンズは心理学者ノーマン、生物学者ベス、数学者ハリー、宇宙物理学者テッドを招集して特別チームを編成する。
ノーマン達は海底基地ハビタットへ到着し、通信係のフレッチャーとエドマンズに会った。ノーマン達は早速、宇宙船へと向かった。彼らが予想していた以上に、宇宙船は大きかった。扉のロックは自動的に解除され、彼らは中へと入った。
調査チームはノーマン&ハリー&テッド、バーンズ&ベスの2班に別れて行動することにした。バーンズとベスは、人間の白骨化死体を発見した。持っていたアーモンドの包み紙から、彼らは死体がアメリカ人だと知る。これは、アメリカの宇宙船だったのだ。
フライト・レコーダーを調べたバーンズ達は、宇宙船が未来の宇宙で「未知の衝突」に遭遇していることを知った。宇宙船はブラックホールに入ったのだが、それを「未知の衝突」として記録していたのだ。一方、ノーマン達は謎の巨大な球体を発見していた。ノーマン達はビデオカメラを設置し、その完璧な球体“スフィア”を監視することにした。
ハビタットに戻ったノーマン達はハリケーン接近の連絡を受け、バーンズは海上に戻ることを決定した。その時、警報ランプが鳴り響き、ノーマン達はハリーとベスの不在に気付く。スフィアに向かったノーマンは、その前で倒れているハリーを発見した。
ハビタットは海上ケーブルの切断によって、自家発電に切り替えられた。フレッチャーは記録テープを脱出艇へと運ぶが、大量のクラゲに襲われて死亡する。深海300メートルの場所にクラゲが出現するというのは、生物学的には考え難い現象だった。
やがてハビットのモニターにエラーが発生するが、ハリーは暗号が表示されていると見抜いた。ハリーとテッドの解読により、暗号の内容が分かった。誰かが「こんにちは。私はジェリーです」と話し掛けているのだ。ノーマン達はスフィアにいた宇宙人からのメッセージだと確信するが、詳しいことを尋ねようとすると交信は途絶えた。
ハビタットの外に出たノーマンとベスは、ズタズタに切り裂かれたエドマンズの死体を発見する。さらに彼らは、謎の巨大生物に襲われそうになる。やがてノーマン達は、自分達の会話を全てジェリーが聞いていたと知る。バーンズは交信を切ろうとするが、ノーマンは「交信を止めるとジェリーを怒らせることになる」と恐れる。
ハビタットに激しい衝撃が走り、浸水が始まる。ノーマン達は浸水を食い止めようとするが、続いて火災も発生してしまう。トラブルの連続の中で、バーンズとテッドが死亡した。ノーマンは、ずっと何も気付かずに眠っていたというハリーに疑惑を持つ。
暗号を自分で解読したノーマンは、交信相手の名前がジェリーではなくハリーだと気付いた。ノーマンはベスだけを頼ろうとするが、彼女も不審な動きを見せた。やがてノーマン達は、心の中に芽生えた恐怖が現実化していることに気付く…。

監督はバリー・レヴィンソン、原作はマイケル・クライトン、アダプテーションはカート・ウィマー、脚本はスティーヴン・ハウザー&ポール・アタナシオ、製作はマイケル・クライトン&アンドリュー・ウォルド&バリー・レヴィンソン、製作協力はパトリシア・チャーチル、製作総指揮はピーター・ジュリアーノ、撮影はアダム・グリーンバーグ、編集はスチュ・リンダー、美術はノーマン・レイノルズ、衣装はグロリア・グレシャム、視覚効果監修はジェフリー・A・オクン、音楽はエリオット・ゴールデンサール。
出演はダスティン・ホフマン、シャロン・ストーン、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・コヨーテ、クイーン・ラティファ、リーヴ・シュレイバー、マルガ・ゴメス、ヒューイ・ルイス、バーナード・ホック、ジェームズ・ピッケンズJr.、マイケル・キーズ・ホール、ラルフ・タバキン。


マイケル・クライトンの小説『スフィア 球体』を基にした作品。
ノーマンをダスティン・ホフマン、ベスをシャロン・ストーン、ハリーをサミュエル・L・ジャクソン、バーンズをピーター・コヨーテ、フレッチャーをクイーン・ラティファ、テッドをリーヴ・シュレイバー、エドマンズをマルガ・ゴメスが演じている。他に、ヘリのパイロット役でヒューイ・ルイスが出演している。

まず序盤、調査チームが編成される。宇宙船を調査するチームなのだが、リーダーは科学者や技術者ではなく心理学者だ。メンバーは計画責任者バーンズを入れても5名。300年前の宇宙船が発見されたにしては調査チームの人数が少ないような気がするが、少数精鋭ってことだろう。
あるいは、政府の予算が少なかったのかもしれない。
ノーマン達は海底基地に到着するが、なぜか脱出艇は少し離れた場所にある。一旦、ハビタットの外に出て少し海を移動しないと、脱出艇には行けないようになっている。しかも、たった1つしか用意されていない。
やはり、予算が少ないようだ。

さて、深海300メートルで命綱も無しに海底を歩く冒険野郎のノーマン達は、宇宙船へと向かう。「宇宙船は浸水していないと考えている」と、データや調査に基づく答えではなく、何の根拠も無い推理で行動する命知らずだ。しかも、それを言い出すのは科学者ではなく、心理学者だ。気圧の問題も起きそうだが、彼らには屁でもない。
やがてアメリカ人の死体を発見した彼らは、「これはブラックホールに入って300年前の海に沈んだアメリカの宇宙船だ」という答えを導き出す。かなり突拍子も無い推理ではあるが、「それしか考えられない」ということで全員が納得する。物分かりのいい面々だ。ブラックホールとタイムトラベルの関係なんて、深く考えなくても納得できるらしい。

何を考えているのか良く分からないハリーは、なぜか良く分からないがスフィアの中に入りたがる。結果的にはスフィアに入ったのはハリーだけではないのだが、どうやら全員、恐怖心よりも好奇心の方が圧倒的に強いようだ。それにしては、スフィアに入った後で、想像した恐怖が現実化することが多く起きるのだから、やはり恐怖心は強いようだが。
やがて、最初の死者が出る。さっさと行動すればいいのに、なぜか「わあ、クラゲがいっぱい」などとノンビリしていたフレッチャーが死亡する。その後、エドマンズが死体になり、ノーマンやベスも襲われる。全ては、宇宙船やスフィアとは無関係に発生する。

これが例えば、「深海を巡る冒険旅行」という物語なら、次々に襲い掛かるトラブルに関連性が無く、それぞれが独立した別個の存在であろうとも、それで構わない。しかし、この作品は「スフィアとは何ぞや」という謎が軸にあるので、そこから外れたところで災害パニックや動物パニックを起こすのは、よろしくない状態なのである。
例えば最初が炎、次が動物、次が機械と、一見すると何の関連性も無いようなトラブルであっても、観客が「何か関連性がある」と感じ取れるような配慮があれば、問題も無いだろう。
そこで、この作品が用意したのが、「みんなスフィアのせい」という答えだ。

何しろタイトルからして『スフィア』なので、そこに結び付けないとマズいのである。そこで、「全てスフィアのせい」ということにしてしまう。クラゲや巨大イカという「動物の恐怖」、浸水や火災といった「災害の恐怖」、仲間が敵かもしれないという「心理的恐怖」と、それぞれが独立したモノに見えるが、「全てスフィアのせい」で1つにまとめる。
最初に宇宙船の調査から始まり、スフィアの謎があり、宇宙人との交信があり、次々に人が死んでパニックになり、さらには生き残った3人の心理サスペンスへと移行していく。まるでハリウッドがボリウッドになったかのように、いろいろな要素を詰め込むサービス精神を発揮している。
ただし、そんなサービスは誰も要求していないのだが。


第21回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優、あるいは演技の真似事をする英国の歌手グループ】部門[シャロン・ストーン]
ノミネート:【最悪のヘアスタイル】部門[シャロン・ストーン]

 

*ポンコツ映画愛護協会