『スペースボール』:1987、アメリカ

昔々、ワープした昔。地球を遠く離れた銀河系の彼方にスペースボール星人と呼ばれる恐ろしい宇宙人が住んでいた。スペースボール星の邪悪な指導者たちは、星を取り巻く大気を使い果たしてしまった。そこで彼らは平和を愛するドルイデア星から大気を奪い取ろうと、陰謀を巡らせていた。ドルイデア星のヴェスパ姫が結婚式を挙げる日、宇宙戦艦スペースボール1号はドルイデア星へ向かっていた。指揮官を務めるのは、スペースボール星のスクルーブ大統領の右腕であるダーク・ヘルメットだ。
ダーク・ヘルメットや部下のサンダルツ大佐たちは、ヴェスパ姫を誘拐してローランド王を脅迫し、大気を奪うコード番号を聞き出そうと目論んでいた。ヴェスパ姫は花婿のヴァリウム王子を愛しておらず、結婚を望んでいなかった。ローランドは「彼が銀河系で最後の王子なのだ」と言い、結婚するよう諭す。しかしヴェスパ姫は我慢できず、式場を飛び出した。彼女は侍女ロボットのドット・メイトリックスを連れて、小型飛行艇でドルイデア星を脱出した。
イーグル5号のローン・スター船長は、半人半犬の乗員バーフと共に宇宙を移動していた。そこへピザ・ザ・ハットから通信が入り、明日までに借金を返済するよう迫られた。スクルーブはジルコン副指令から、ダーク・ヘルメットがヴェスパを追っているという報告を受けた。スクループがモニターを見ると、射程距離に入っていた。攻撃を受けたヴェスパは、ローランドに電話を掛けて助けを求めた。
ローランドはローン・スターに連絡し、ヴェスパの救出を要請した。ローン・スターは断るが、「何でも欲しい物をやる」と言われ、報酬で借金を返済しようと考えた。イーグル5号は飛行艇がスペースボール1号に回収されそうになっている現場へ到着し、ヴェスパとドットを救い出した。しかしヴェスパが大きな荷物を持ち込んだので、ローン・スターは呆れ果てる。一方、ヴェスパはローン・スターの無礼な態度に腹を立て、姫として丁重に扱うよう要求した。
イーグル5号はスペースボール1号の追跡を逃れるが、ガス欠になったため、近くのベガ星に不時着した。一行は船を降り、砂漠で野宿する。ヴェスパから故郷について問われたローン・スターは、修道院の門に捨てられていたこと、謎の文字が刻まれたペンダントしか手掛かりが無いことを話した。いがみ合っていたローン・スターとヴェスパだが、その夜の会話をきっかけにして愛が芽生えた。
翌朝、ローン・スターたちは果しなく続いている砂漠を歩くが、力尽きて倒れてしまった。そこにベガ星の種族であるディンクの6名が通り掛かり、ローン・スターたちを助けた。彼らは一行を地下寺院へ案内し、聖者ヨーグルトと会わせた。シュワルツと呼ばれる神秘の力を持つヨーグルトは、ローン・スターに修業を命じた。ローン・スターはすぐにシュワルツを発揮するが、そのせいでダーク・ヘルメットに秘密の通路の入り口を突き止められてしまった。
ダーク・ヘルメットはローランドのホログラムを使ってヴェスパを誘い出し、スペースボール1号で連れ去った。イーグル5号で救出に向かうローン・スターに、ヨーグルトはシュワルツの指輪を授けた。スペースボール星に戻ったダーク・ヘルメットはローランドと通信し、「コード番号を教えなければ外科医のシュトロキンに娘の鼻を元の形に戻す」と脅した。ローランドはコード番号を白状した。
スクルーブやダーク・ヘルメットたちは、スペースボール1号でドルイデア星へ向かった。ローン・スターとバーフはスペールボール刑務所へ行き、看守の服を奪って変装した。2人はヴェスパとドットを発見し、刑務所から脱出しようとする。しかし看守たちに見つかり、銃撃戦になった。敵を倒した一行は、イーグル5号に乗り込んだ。イーグル5号がドルイデア星に行くと、ちょうどスペースボール1号がドルイデア星の大気を奪おうとしているところだった…。

監督はメル・ブルックス、脚本はメル・ブルックス&トーマス・ミーハン&ロニー・グレアム、製作はメル・ブルックス、共同製作はエズラ・スウェードロウ、撮影はニック・マクリーン、編集はコンラッド・バフ三世、美術はテレンス・マーシュ、衣装はドンフェルド、音楽はジョン・モリス。
出演はメル・ブルックス、ジョン・キャンディー、リック・モラニス、ビル・プルマン、ダフネ・ズニーガ、ディック・ヴァン・パタン、ジョージ・ワイナー、マイケル・ウィンスロー、ローレン・ヤーネル、ジョン・ハート、サル・ヴィスクーゾ、ロニー・グレアム、JM・J・ブロック、レスリー・ベヴィス、ジム・ジャックマン、マイケル・ニュースキー、サンディー・ヘルバーグ、スティーヴン・トボロウスキー他。
声の出演はジョーン・リヴァース。


『ヤング・フランケンシュタイン』『サイレント・ムービー』のメル・ブルックスが監督&脚本&製作&出演を兼ねたパロディー映画。
スクルーブ&ヨーグルトをメル・ブルックス、バーフをジョン・キャンディー、ダーク・ヘルメットをリック・モラニス、ローン・スターをビル・プルマン、ヴェスパをダフネ・ズニーガ、ローランドをディック・ヴァン・パタン、サンダルツをジョージ・ワイナーが演じている。
ドットの声をジョーン・リヴァース、ピザ・ザ・ハットの声をドム・デルイーズが担当している。

『スター・ウォーズ』シリーズをパロディーのベースにしているが、勝手にネタとして使っているわけではない。本家の監督であるジョージ・ルーカスが、この映画の製作を喜んで承認しているのだ。
それだけでなく、『スター・ウォーズ』に携わったILMとジョン・ダイクストラのアポジー社が視覚効果を担当しており、まさに本家お墨付きのなのだ。
本家の公認を得た上で作られたパロディー映画というのは、珍しいケースだろう。
なお、『スター・ウォーズ』だけでなく、『スタートレック』や『2001年宇宙の旅』、『猿の惑星』、『エイリアン』などの映画もネタとして使われている。

まず冒頭、本家と同様に、画面下から上昇して来るテロップによって、基本設定の説明が行われる。
いきなり「チャプター11」としてスペースボール星の指導者たちがドルイデア星から大気を奪い取ろうと目論んでいることが説明され、テロップの最後には「この文字が読める人は近眼ではありません」と出る。
それが面白いのかと問われたら、まあ面白くはないけど、この映画に盛り込まれている全てのネタが笑えるわけではない。
ただし、そんなに何でもかんでも全て笑えるようなコメディー映画は、世の中に存在しない。

そのテロップが終わると、宇宙空間に画面右から宇宙戦艦が現れる。
最初はボーッと見ていて、「カットが切り替わると内部の様子が描写されるんだろう」などと思っていたら、その戦艦の全長が異様に長い。そんなに速いスピードで移動しているわけではないので、なかなか最後尾が見えない。
1分20秒ほど経過し、ようやく最後尾が見える。
ここは『2001年宇宙の旅』のパロディーだが、「なげえよ」とでもツッコミを入れるのが適切な箇所だろう。

戦艦の内部が写し出され、ダーク・ヘルメットが登場する(もちろん元ネタはダース・ベイダー)。
そもそも乗組員のヘルメットも少し大きめだが、ダーク・ヘルメットも明らかに全体のバランスがおかしくて、ヘルメットがやたらと大きい。ダース・ベイダーと同じような呼吸音を発するダーク・ヘルメットだが、慌ててヘルメットを外して「息が苦しい」と漏らす。
ちなみに、そのダース・ベイダー的な呼吸の音は機械的に加工したものではなく、リック・モラニス本人が口で作り出している。器用な人だね。
音ネタ繋がりでついでに書いておくと、スペースボール1号のレーダー担当官は『ポリス・アカデミー』シリーズで御馴染みのマイケル・ウィンスローで、この映画でも同じように「口で色んな物の音を模倣する」という得意のネタを披露している。
モニターに入るノイズとか、通信機のボタンの音とか、通信機を通した声とか、そういうネタね。

ダーク・ヘルメットが操舵室に来ると、部下たちは酷く怯えている。
彼の機嫌を損ねたリコ軍曹は罰を受けることになり、「あれだけは勘弁して下さい」と懇願して、両手で自分の首を絞めるようなポーズを取る。
ダーク・ヘルメットは冷徹な態度で指輪を装着し、左手を彼に向ける。すると指輪から光線が発射されるが、標的は軍曹の股間。
軍曹は股間を押さえて悶え苦しみ、操舵室から連れ出される。

ヴェスパ姫はレイア姫、ローン・スターはハン・ソロ、バーフはチューバッカが元ネタ。
ただし本作品にはルーク・スカイウォーカーのポジションがいないので、そこをローン・スターが兼ねている。また、その服装はハン・ソロ役のハリソン・フォードが別の映画で演じたインディアナ・ジョーンズを意識した物になっている。
バーフは「ゲロ」を意味するスラングだが、もっとゲロっぽいのがピザ・ザ・ハット。もちろんピザのチェーン店『ピザハット』が元ネタで、体がピザで出来ている。
そう聞くと美味しそうに思えるかもしれないが、ドロッとしたチーズが顔面を垂れ落ちる様子は、かなりグロい。

結婚式から逃げ出したヴェスパ姫は飛行艇で音楽を聴いており、ドットが説教しても無視する。
ドットが「それ(ヘッドホン)を外して」と言うと、ヴェスパは「何?」とヘッドホンを外すが、そのヘッドホンは、それまで髪の毛のように見えていた部分。
レイア姫チックな髪型の団子の部分が、実はヘッドホンだったというネタ。
これ、ちょっと言葉で説明するのは難しいんだけど、見れば理解できる。

スペースボール・シティーが写し出されると、スクルーブ大統領が登場する。『スター・トレック』のように指令室へビーム転送されると、体の前後が逆になっている。改めて転送を促された彼は「もういい、歩いて行く」と告げ、ドアが開くと隣の部屋が指令室。
ただ、スクルーブ関連のネタは、そんなに多くない。
チョビヒゲがあって何となくヒトラーっぽいトコも感じるし、メル・ブルックスと言えばユダヤ人ネタが好きな人だが、さすがに今回は、その関係のネタは持ち込んでいない。
だからって、それ以外で色々とネタをやっているかというと、そういうわけでもない。

ローン・スターたちが地下寺院に入ると巨大な像があって、そこから声が聞こえて来る。そして像の足元にある扉から、聖者ヨーグルトが出て来る。
ここは『オズの魔法使い』のパロディーだ。
聖者ヨーグルトは、もちろんヨーダが元ネタ。「誰よりも賢くて神秘的な力を持つ聖者ヨーグルト」とドットたちから持ち上げられると、彼は「よしてくれ、私はただのヨーグルトだ」と言う。
「ただのヨーグルト」が、英語だと「プレーン・ヨーグルト」になるわけだ。

言葉を使ったネタもあるが、そこは英語に堪能な人を除くと、ちょっと日本人向きではないかなとも思う。
例えばイーグル5号がヴェスパの救出に向かった時、ローン・スターは「レーダーの邪魔をしよう」と言い、スペースボール1号のレーダーにジャムの瓶をぶつける。
これは「Jam」という単語に「電波を妨害する」という意味とトーストなどに塗るジャムの両方の意味があることを使ったネタだ。
ダーク・ヘルメットがベガの砂漠でヴェスパを見失ったという連絡を受けたスクルーブは、「徹底的に捜せ」と命じる。するとダーク・ヘルメットの指示を受けた部下たちが、巨大な櫛を使って砂漠を梳く。
スクルーブは「Comb the desert」と命じていて、これが「砂漠を徹底的に捜せ」という意味なのだが、「Comb」には「櫛で梳く」という意味もあるので、バカな部下たちがおかしな行動を取ってしまうというネタになっているわけだ。

ダーク・ヘルメットはヴェスパを捕まえてローランドを脅し、コード番号を聞き出す。その番号は「12345」というバカ丸出しの数字。「バカがトランクの鍵に使う数字だな」と言うが、そこへ来たスクルーブはコード番号を聞き、「ワシのトランクの番号と同じだな」と言う。
ローン・スターとバーフは刑務所に行き、ヴェスパの歌声で彼女を発見するが、かなりの低音。
敵に見つかった彼らは閉じて行く扉に飛び込むが、すぐに看守たちが包囲する。看守長が「見事なスタントだったが、それまでだ」と言うが、一行が振り向くと、似ても似つかぬ別人。
で、看守長が「これはスタントマンだ」と怒鳴るというオチ。

コード番号を聞き出したスクルーブたちは、スペースボール1号でドルイデア星の大気を奪おうとする。その方法は、スペースボール1号をロボットに変身させ、それが持っている掃除機で待機を吸い取るというものだ。
そこは変形ロボット玩具の『トランスフォーマー』が元ネタだが、変身した形は巨大なメイド(「メガ・メイド」と呼ばれる)。
ローン・スターが戦艦に潜入すると、ダーク・ヘルメットが来て「君に教えておきたいことがある。私は君の父親の兄の甥の従兄弟のルームメイトだ」と言う。
「つまり我々は?」とローン・スターが確認すると、彼は「赤の他人だ」と答える。

ローン・スターとダーク・ヘルメットはシュワルツの指輪を使ってライトセーバー的な物を出現させるが、それを構える場所が低くて、勃起したチンコを表現しているかのようになっている。
「シュワルツ」はドイツ語のスラングでチンコを意味する言葉だ。
2人は戦うが、ダーク・ヘルメットは誤って撮影クルーを攻撃してしまう。
頭部を攻撃されてもダメージの無いダーク・ヘルメットは仮面を上げて笑い飛ばすが、顔面にパンチを食らう。
ムキになった彼は剣を振り回すが、頭を押さえ付けられていて全く届かないという池野めだか師匠チックなギャグをやる。

ローン・スターとバーフは依頼を遂行した後、ダイナーに入る。カウンターではトラック運転手が数名に喋っているが、聞いている客の中にジョン・ハートの姿がある。
食事をしていた彼は急に苦しそうな様子を見せ、その腹からはエイリアンが飛び出す。彼は「またか」と言って絶命するのだが、これは映画『エイリアン』で最初にエイリアンの犠牲になる男を演じたのがジョン・ハートであることをネタにしている。
ちなみに本作品での彼は役名は「John Hurt」。
つまり本人役ってことだ。

登場人物の中で最も目立つのは、やはりダーク・ヘルメットだ。
カメラが寄ったらそのまま激突するとか、悔しがって飛行艇を叩いたらドアが降りて頭に激突するとか、超高速の戦艦を急停止させたら壁に激突してヨレヨレになるとか、自動ドアに挟まれるとか、そういう分かりやすい動き系のネタも色々とやってくれる。
デカいヘルメットを利用したネタは、もっと多くてもいいし、何か1つぐらい天丼でやるネタがあっても良かったんじゃないかとは思うけど。

ダーク・ヘルメットは砂漠でヴェスパを捜索する時に砂漠仕様のコスチュームへと着替えるが、もはやダース・ベイダーの雰囲気は微塵も無い探検家の服装&デカい探検帽子。
ヴェスパを捕まえた後には、自分やヴェスパたちの人形を使った一人遊びをするシーンがある。
そのシーンに代表されるように、ニック・モラニスというコメディアンの力に頼っている部分は、かなり大きい。
彼のおかげで、本作品の評価は相当に上がっていると言ってもいいんじゃないか。

この映画、第10回スティンカーズ最悪映画賞で作品賞を受賞し、駄作100選の候補にも入っている。つまり完全にポンコツ扱いされているわけだ。
確かに、くだらないっちゃあ、くだらない。笑いの作り方は、基本的にベタで単純だ。
ただ、「くっだらねえ」と言いながら笑って観賞できる類の映画じゃないかとは思う。この映画の持つくだらなさ、個人的には、そんなに嫌いじゃない。
そりゃあ、ものすごく笑えるか、ものすごく面白いのかと問われたら、そこまで絶賛できるほどの映画ではないけど。
あと、旧3部作の公開が1977年、1980年、1983年で、この作品は1987年なので、ちょっとタイミングが遅いんじゃないかとは思う。

(観賞日:2013年12月6日)


第10回スティンカーズ最悪映画賞(1987年)

受賞:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会