『スノーホワイト』:1997、アメリカ
1493年、ドイツ。フレデリック・ホフマン男爵と妊娠中の妻リリアナは、馬車の事故に遭ってしまう。重傷を負って自らの死を悟ったリリアナに頼まれ、フレデリックは彼女の腹を割いて赤ん坊を取り出した。こうして生まれた娘は、母と同じリリアナと名付けられた。
リリアナはリリーと呼ばれ、フレデリックと乳母ナナウに育てられた。フレデリックはクラウディアという女性と再婚するが、リリーは反抗的な態度を取り続けた。クラウディアの母親の形見だという鏡を覗き見たナナウは、その場で不審な死を遂げた。
9年後、16歳になったリリーは美しく成長したが、相変わらずクラウディアには冷たい態度を取っていた。クラウディアは妊娠したことを喜ぶが、リリアナのドレスを着たリリーにフレデリックが見とれていることにショックを受け、流産してしまう。
2度と子供が産めなくない体となったクラウディアは、リリーに強い憎悪を抱いた。クラウディアは弟グスタフに、リリーを殺して内蔵を持ち帰るよう命じた。グスタフから逃れたリリーは、森の中でウィルを始めとする7人の放浪者に出会い、共に暮らすようになった。だが、リリーが生きていると知ったクラウディアは、魔法で彼女を殺そうとする…。監督はマイケル・コーン、原作はヤコブ・L・C・グリム&ウィルヘルム・C・グリム、脚本はトム・スゾロッシ&デボラ・セラ、製作はトム・エンゲルマン、共同製作はティム・ヴァン・レリム、製作総指揮はテッド・フィールド&ロバート・W・コート&スコット・クルーフ、撮影はマイク・サウソン、編集はイアン・クラッフォード、美術はジェマ・ジャクソン、美術はジュマ・ジャクソン、衣装はマリット・アレン、ミセス・ウィーヴァー衣装デザインはチャールズ・ノード、特殊効果監修はデヴィッド・ビーヴィス、視覚効果監修はジーン・ウォーレンJr.&アーネスト・ファリーノ、オープニング・シークエンス監督&撮影はアーサー・ウースター、音楽はジョン・オットマン。
出演はシガーニー・ウィーヴァー、サム・ニール、モニカ・キーナ、ギル・ベロウズ、タリン・デイヴィス、デヴィッド・コンラッド、ブライアン・グローヴァー、アンソニー・ブロフィー、フランシス・キューカ、クリストファー・バウアー、ジョン・エドワード・アレン、ミロスラフ・タボースキー、アンドリュー・ティアナン、ブライアン・プリングル、デイル・ワイアット、ジョアンナ・ロス他。
グリム兄弟の『白雪姫』を基にした作品。『グリム・ブラザーズ/スノーホワイト』という別タイトルもある。クラウディアをシガーニー・ウィーヴァー、フレデリックをサム・ニール、リリーをモニカ・キーナ、ウィルをギル・ベロウズが演じている。
「グリム兄弟の原典に忠実に映画化」と宣伝されていたが、たぶん真っ赤な嘘だろう。“7人の小人”に限ってみても、1人だけが小人で残りは普通のオッサンという良く分からない連中になっている。原典では、そういう妙な設定になっているのかね?なるほど、これはサイコ殺人鬼シガーニー・ウィーヴァーの怖さを観賞するB級ホラー映画なのだろう。最初にシガーニー・ウィーヴァーの名前がクレジットされるのは、役者としてのランクが最も上だというだけでなく、実際に彼女の主演映画だということだ。
ただし、最初からクラウディアが怖い女というわけではない。登場した時には、彼女はフレデリックを愛する優しい女性である。リリーがいなかったら、あるいはリリーがクラウディアに懐いていたら、ずっと幸せな生活が続いたのかもしれない。最初にイヤな態度、冷たい態度を取るのはクラウディアではなく、リリーだ。嫌悪感や嫉妬心を剥き出しにするのは、リリーなのだ。前半のクラウディアには、冷酷さのかけらも無い。クラウディアが優しく接しようとしても冷たくされ、おまけにリリーのせいで流産して2度と子供が産めなくなるのだから、そりゃあ恨んでも仕方が無い。
前半部分だけを取ってみると、クラウディアに同情したくなってしまう。少なくとも、リリーをヒロインとして受け入れることは無理だ。不憫なのはリリーではなく、クラウディアなのだから。しかし、この映画は後半、クラウディアを悲劇によって心が歪んでしまった同情すべき女性として描こうとはしない。恐ろしい悪女として描くのだ。リリーには涙ながらの謝罪シーンを用意して、同情すべきヒロインに強引に仕立て上げる。一方でクラウディアは、急激に恐ろしい狂女に変身する。それまでの描写は何だったのかと思ってしまうほど、一気に安物のホラー映画になる。そして同時に、それまで全く無かったファンタジーの要素を、安っぽく中途半端に取り入れる。
ホラーにするならするで、最初からグロテスクで残忍なホラー映画を徹底してやれば良かったのよ。クラウディアを優しい女として登場させず、最初から怖い女にすればいいのよ。そうすれば、B級ホラー映画としては面白くなったかもしれない。中途半端にB級ホラーらしからぬことも入れようとするから、余計にダメになってしまう。この映画、ファンタジーの要素は必要無いと思う。その方が、クラウディアの恐ろしさ、凄みが際立つ。クラウディアが魔法を使っている場面よりも、娘の内臓をフレデリックに食べさせようとする場面など、魔法が関係無い場面の方が怖いもんね。
大体、魔法の使い方が安っぽいし中途半端。鉱脈が魔法で崩れるシーンなんて、派手なスペクタクルのために取って付けた感がありあり。で、その次にクラウディアが使うのが、森の木を次々に倒してリリーを押し潰そうとする魔法。まあ、それはいいとしよう。
前述した2つの魔法は、遠くにいながら、大きなモノを動かしてリリーを殺そうとするものだ。ところが、次にクラウディアは、老婆に変身してリリーに近付き、毒リンゴを食わせる。おいおい、しょぼくなってるじゃん。凄い魔法が色々と使えるのに、なぜ毒リンゴなのさ。まあ、特殊メイクを見せたかったのだということは明白だけど。