『スノー・ドッグ』:2002、アメリカ&カナダ

テッド・ブルックスは幼い頃、歯科医をしている父の見習いとして診療に同席した。しかし女性の口を覗き込むと、気分が悪くなって嘔吐してしまった。25年後、テッドは亡き父と同じ歯科医になり、マイアミでホット・スマイル歯科医院の院長を務めていた。歯科医院ではテッドの従弟であるルパートも歯科医として働いており、大勢の患者が押し寄せている。そんなある日、彼の元へ召喚状が届けられた。アラスカのルーシー・ワトキンスという女性の遺書だったため、テッドは人違いだろうと考える。しかし同席していた母のアメリアは、激しく動揺する。テッドは彼女から「お前は養子なの」と打ち明けられ、ショックを受けた。
テッドはアラスカへ飛び、ルーシーが暮らしていたトルケトナという田舎町へ向かおうとする。最終便に乗り遅れたテッドは、召喚状を出した弁護士のジョージに声を掛けられた。ジョージは自分のプロペラ機にテッドを乗せ、トルケトナへ向かった。彼は大勢の客が集まる酒場へテッドを案内し、ルーシーの遺言状を読み始めた。サンダー・ジャックという男が後から来る中、ルーシーの雪上ゴルフ仲間だったピーターにはパター、酒場の店主であるバーブには革のコートが贈与された。
ルーシーは遺産の残りをテッドに、サンダーには屋外トイレと中身を贈ると遺言状に記していた。サンダーは不機嫌な態度で、酒場を後にした。テッドは遺産の分類をするため、ルーシーの家へ行く。屋内で写真を撮っていた彼は、ルーシーが愛犬のナナと写っている写真を発見した。そこへナナが現れ、エサの皿を持って来た。テッドがエサを探していると、8匹の犬が現れた。リーダー犬のデーモンが仲間を率いて噛み付いて来たので、テッドは慌てて家の外へ逃げた。
テッドは納屋で一夜を過ごし、翌朝になって訪ねて来たサンダーに起こされた。サンダーはテッドに、犬で200ドルで売るよう迫る。その凄むような態度に押されたテッドが承諾しようとすると、バーブが来て「ダメよ。1匹で500ドルの価値はある」と止めた。サンダーが不愉快そうに立ち去った後、バーブは犬たちのエサを用意した。バーブはテッドに、3週間後に北極チャレンジがあるからサンダーは犬を欲しがっているのだと教えた。
北極チャレンジとして犬ゾリの有名なレースで、ペッドのナナを除く8匹はチャンピオン犬だ。北極チャレンジは5日間で640キロ以上を走るレースであり、ルーシーは優勝者だった。テッドから「父親について何か聞いてない?」と問われたバーブは、「いいえ。貴方のことも知らなかった」と答える。町にいる黒人についてテッドが質問すると、バーブはアーサーだけだと教える。テッドはトレーラーハウスで暮らすアーサーを訪ねるが、自分の父親ではなかった。
財産の分類を終えたテッドは後の処理をジョージに任せ、犬たちをサンダーに譲ってマイアミへ戻ろうと考える。しかし酒場へ別れの挨拶に行くと、バーブが「貴方の父親を知ってる。ジャック・ジョンソンよ」と告げた。面会に出向いたテッドは、ジャック・ジョンソンがサンダーの本名だと知って驚いた。「最初から知っていて何も言わなかったのか」とテッドが抗議すると、サンダーは「ほじくり返しても、何も良いことは無い。昔のことだ」と冷たく告げた。
サンダーが「犬を300ドルで買い取ってやる」と言うと、テッドは「犬のことしか頭に無いのか」と憤慨した。「お前はよそ者だ。都会へ帰れ」とサンダーが言い放つと、テッドは「断る。アンタの傍にいる」と反発した。サンダーは馬鹿にして笑い、テッドが挑発的な態度を取ると顔面にパンチを浴びせてノックアウトした。テッドはサンダーを見返すため、犬ゾリの達人になってやろうと意欲を燃やす。心配したアメリアが電話で「そっちへ行く」と言うと、彼は「1人で大丈夫だから」と告げた。
テッドは犬たちを躾けようとするが、全く指示に従わない。デーモンに追い掛けられたテッドは、木の上に退避した。北極チャレンジで3年連続最下位のアーニーは、「デーモンは自分がリーダーだと思っている。誰がボスか教えるため、耳を噛め」とアドバイスした。耳を噛むのは犬ゾリの世界では常識だが、テッドは拒絶反応を示した。町へ出たテッドは、チーズを買いに来たサンダーを目撃した。テッドは「犬の走らせ方を教えてよ」と持ち掛け、店にいた人々に「親子なんだ」と告げた。
テッドは教則本を呼んでレースの練習を積もうとするが、バーブは「一夜漬けで覚えられるようなことじゃないわ」と忠告する。テッドは彼女から、犬たちの適切な配置について教えてもらった。いざ練習を始めると犬たちは全く指示に従わず、テッドは雪道を引きずられる。それを目撃したサンダーは嘲笑するが、犬に指示する時の正しい言葉をテッドに教えた。テッドはバーブに、「1時間でいいから実の父と話したい。真実を知りたい。愛情なんて無くていいから」と語った。
テッドはルーシーのコートを着用し、デーモンたちにソリを弾かせて雪道を疾走する。しかしキツネを見つけたデーモンたちが指示を無視して暴走したため、テッドはソリから振り落とされてしまった。そこへ熊が出現したので、テッドは慌てて逃走した。彼は崖を滑落して氷の海に落ちてしまうが、何とか抜け出した。しかし吹雪の中で力尽き、意識を失って倒れてしまう。彼が意識を取り戻すと洞窟の中にいて、サンダーに介抱されていた…。

監督はブライアン・レヴァント、脚本はジム・カウフ&トミー・スワードロー&マイケル・ゴールドバーグ&マーク・ギブソン&フィリップ・ハルプリン、製作はジョーダン・カーナー、製作総指揮はクリスティン・ウィテカー&ケイシー・グラント、製作協力はアリソン・ミリカン、撮影はトーマス・E・アッカーマン、美術はスティーヴン・ラインウィーヴァー、編集はロジャー・ボンデッリ、衣装はモニク・プリュドム、音楽はジョン・デブニー。
出演はキューバ・グッディングJr.、ジェームズ・コバーン、シスコ、M・エメット・ウォルシュ、ニシェル・ニコルス、グレアム・グリーン、ブライアン・ドイル=マーレイ、ジョアンナ・バカルソ、ジャン=ミシェル・パレ、マイケル・ボルトン、ジェイソン・プーリオッテ、デヴィッド・ボイス、フランク・C・ターナー、ロン・スモール、アリソン・マシューズ、ヤッシャ・ワシントン、クリストファー・ジャッジ、リサ・ダーリング、ダネル・フォルタ・ケヒーリー、ピーター・“マス”・マソーリ、ロッセン・チェンバース、アンドレア・バターフィールド他。


児童文学作家のゲイリー・ポールセンによるノンフィクション『Winterdance: The Fine Madness of Running the Iditarod』から着想を得たディズニーの実写映画。
監督は『フリントストーン/モダン石器時代』『ジングル・オール・ザ・ウェイ』のブライアン・レヴァント。
脚本は『ラッシュアワー』のジム・カウフ、『クール・ランニング』のトミー・スワードロー&マイケル・ゴールドバーグ、『ダークサマー』のマーク・ギブソン&フィリップ・ハルプリンによる共同。
テッドをキューバ・グッディングJr.、サンダーをジェームズ・コバーン、ルパートをシスコ、ジョージをM・エメット・ウォルシュ、アメリアをニシェル・ニコルス、ピーターをグレアム・グリーン、アーニーをブライアン・ドイル=マーレイ、バーブをジョアンナ・バカルソが演じている。
テッドはシンガーソングライターのマイケル・ボルトンの大ファンという設定であり、そのマイケル・ボルトンが本人役で1シーンだけ出演している。

オープニングシーンでは、幼少時代のテッドが父親の見習いとして歯科医院の診療に同席する様子が描かれる。
このシーンが、後の展開に全く繋がっていない。父親は二度と登場しないし、テッドと父親の関係もストーリーの中で全く使われていない。テッドが父の跡を継いで歯科医になったとか、幼い頃から歯科医に憧れていたとか、そういう要素も全くの無意味。
現在のシーンからスタートし、「テッドが歯科医として成功している。父も歯科医だったが既に死去している」という設定でも、全く支障は無い。っていうか、そっちの方が遥かにスッキリする。
この映画において、冒頭の1シーンだけテッドの養父を登場させておくのは余計な引っ掛かりでしかない。

むしろ養父を冒頭シーンで登場させるよりも、「召喚状が届くシーンより前にアメリアを登場させる」ってことを考えた方がいい。
ただ、アメリアは存命であり、現在のストーリーにも一応は関わって来るのだが、「テッドのアメリアに対する思い」ってのも、ほとんど使っていないんだよね。
養子という告白にショックを受けても、それまでテッドを愛して育ててくれたのはアメリアなわけで。なのに、そこの親子関係は、ほぼ無価値と化しているんだよね。
終盤に入ってから、トルケトナへ駆け付けたアメリアとテッドの親子愛を描いているけど、その要素と「テッドが本物の親を見つけようとする」という要素は上手く絡み合っていない。

ジョージが酒場で遺言状を読み上げるシーンでは、いかにルーシーが町の人々から愛されていたかってことが示されている。みんなが乾杯する中、テッドも穏やかな笑みで「ルーシーに」と酒を飲んでいる。
だけど、こっちはまだルーシーの顔さえ知らないわけで。名前と遺言しか情報を与えてもらっていないので、そこで「ハートウォーミングでホッコリ」みたいなノリを見せられてもピンと来ない。
そういうシーンを描きたいのなら、その前に少しぐらいテッドがルーシーに関する情報を得る手順を踏んだ方がいい。
「何も知らない実母が人々に愛されていたと知ってテッドが嬉しくなる」という描写は、かなり無理があると思うぞ。

ところが、その後もテッドは、「ルーシーについて色んなことを町の人々から聞こう」という意識を全く見せない。
父親について知ろうという意識で行動するものの、ルーシーについては遺産を分類しただけで満足したのか、まるで詮索しようとしない。
わざわざ遥か遠くのアラスカまで来ておいて、なぜ実母について深く知りたいという気持ちを見せないのか理解に苦しむ。
「ホントは知りたい気持ちもあるが、意地を張っている」ってことなら、そのくせ父親について知ろうとしたり、サンダーが父親と知ったら町に残ると決めたりするのは辻褄が合わないでしょ。

ただし、テッドが町に残ると決める展開にしても、これまた無理があり過ぎるでしょ。
「父親を見つけ出す」とか、「父親と思わしき人物がいたので真相を確かめる」といった動機があるならともかく、「サンダーが父親」ってことは分かっている上、彼に対してテッドは憤慨しているんだから。馬鹿にされて怒ったのに、なぜ「帰らない。アンタの傍にいる」と宣言するのか、ワケが分からない。
サンダーが嫌な奴だと分かったんだから、さっさとマイアミへ帰る方が、よっぽど腑に落ちる。ただ町に留まるだけでなく、「見返してやる。犬ゾリの達人になってやる」と言い出すのは、ますます無理がある。見返してやりたいと思うほど、サンダーとの関係性は深くないでしょ。
で、そんなテッドは町でサンダーを見つけると「第2ラウンド開始だ」と言うので何を始めるのかと思いきや、「この前は誤解があった」と穏やかに話し掛け、「犬の走らせ方を教えてよ。お互いに協力しよう」と言う。何か策略でもあるのかと思ったら、特に何も無い。
どういう心境での言動なのか、まるでワケが分からない。

犬たちに引っ張られていたテッドは、嘲笑するサンダーのトラックに乗せてもらう。ここではサンダーに文句を言いつつも、嬉しそうな笑顔を浮かべたりもする。
どういう風に描きたいのか、ものすごくフワフワしているという印象を受ける。
バーブに「1時間でいいから実の父と話したい。真実を知りたい。愛情なんて無くていいから」と語るシーンが訪れ、テッドの気持ちが明示される。
だったら、それを早めに言っちゃった方がいい。
どうせ、その台詞が無かったらテッドのサンダーに対する思いなんて全く伝わらないんだから。

ものすごく無理があるとは言え、「テッドが犬ゾリの達人になるため練習する」という設定を用意した以上は、彼が北極チャレンジに参加する展開へ移るべきだろう。
ところが、彼はサンダーから「犬を渡せば事情を話す」と持ち掛けられて承諾し、デーモンたちを譲渡してマイアミへ帰ってしまうのだ。
そのせいで、「テッドから電話を受けたアメリアが心配し、そっちへ行くと告げる」というシーンも伏線として機能しないまま捨てられてしまう。

テッドはサンダーから取り引きを持ち掛けられて承諾し、「2度目のレースの時に洞窟でルーシーと会い、そこで関係を持った。レースが終わると彼女は去り、それっきりだった」と聞かされる。しかしマイアミへ戻ってから彼の話が嘘だったと知り、北極チャレンジが開催されているトルケトナへ戻る。サンダーが悪天候の中で行方不明になっていると聞いたテッドは、捜索に向かう。
その時に犬ゾリは使うけど、もうレースは終わってんのよね。
そんでデーモンはサンダーと一緒にいるので、テッドはリーダー犬としてナナを使うけど、それは無理があるだろ。
そこまでの流れで、ナナに犬ゾリを引く資質があることを感じさせる描写なんてゼロだったでしょうに。

怪我を負って洞窟にいたサンダーは、テッドが来ると真実を告白する。
「テッドが産まれた時は産院にいたけど、ルーシーも自分も結婚や親になるには不向きだった。ルーシーは産むと決めたので、養子に出した。お互いに縛られるのが嫌だった」と彼は語る。
その後で彼は「ルーシーへの愛は本物だった」と言うけど、テッドへの愛は無かったと言っているようなモンだぞ。
今になって愛があるようなことを口にするけど、ホントに愛があるなら不愉快な態度を取ったり嘘をついたりしないって。それを肯定的に受け入れさせるための理由は、何も用意されていないぞ。

(観賞日:2018年1月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会