『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』:2021、アメリカ
20年前、ワシントン州。森の中にある小屋で就寝ていた少年は、父親に起こされた。父は少年を隠れさせ、絶対に動くなと指示した。彼は銃を構え、小屋の外へ出た。しかし小屋を包囲した一味にレーザーポインターで狙われており、父は投降を余儀なくされた。ボスは全ての銃を捨てさせ、父を小屋の中に戻した。ボスは彼の処分を決めるため、2つのサイコロを振った。1のゾロ目が出て「スネークアイズだ」とボスは告げ、父を始末しようとする。少年が飛び出してボスに襲い掛かるが、もちろん全く相手にならなかった。父は一味を攻撃し、逃げるよう少年に告げた。少年が窓から脱出した後、一味は父を射殺して小屋を燃やした。
現在、成長した少年は「スネークアイズ」と名乗り、旅をしながら地下闘技場で戦う賞金稼ぎになっていた。鷹村ケンタという男が彼に声を掛け、自分の下で働くよう誘った。スネークアイズは断るが、ケンタは彼のことを調べ上げており、父親殺しの犯人を見つけ出してやると約束した。スネークアイズが取引を承諾すると、ケンタは役目が決まるまで波止場で働くよう指示した。4週間後、スネークアイズは魚を利用した拳銃密輸の仕事に関わっていた。彼が馬鹿にする男と喧嘩を始めようとすると、仲間のトミーが制止した。
波止場に来たケンタは手下にトミーを捕まえさせ、スネークアイズたちの前で彼が自分の従弟だと教えた。トミーが「お前は一族の恥だ」と睨むと、ケンタは「こいつは一族への忠誠心から、スパイとして潜入した」と述べた。彼はスネークアイズに拳銃を渡し、トミーを射殺するよう指示した。しかしスネークアイズは撃つことが出来ず、隙を見て抵抗を始めたトミーと共闘した。スネークアイズは逃亡を図るが、トミーが戻ってケンタに襲い掛かったので他の連中と戦った。
現場にパトカーが到着すると、怪我を負っていたスネークアイズは意識を失った。彼が目を覚ますと、飛行機の中にいた。トミーが助けた理由を訊くと、スネークアイズは「お前の目の中に誇りが見えたんだ」と答えた。トミーはケンタとの関係について、「2人とも一族の後継者候補だった。だからケンタは俺を殺そうとした。企みがバレて処分を決めるよう言われた俺は、ケンタを追放した」と語った。それから彼は、「俺を助けたお前も狙われる。もう戻れない」と口にした。
飛行機は東京に着き、トミーは実家である城へスネークアイズを案内した。彼はスネークアイズに妹で警備チーフのアキコを紹介し、祖母で当主のセンに会わせた。トミーの一族は忍者の嵐影一族で、城の周りには広い城下町があった。トミーはスネークアイズに、嵐影一族に加わるよう持ち掛けた。アキコが反対すると、彼は「友を疑うなら3つの試練で答えが出る」と言う。トミーはスネークアイズに、「試練を受けるかどうかは君次第だ。しくじったら死ぬ」と述べた。
スネークアイズは部屋を用意され、城で過ごすことになった。センは彼に、試練の監督官であるハードマスターとブラインドマスターを紹介した。第一の試練は、ハードマスターと共に水の入った茶碗を持って奪い合う内容だ。一滴でもこぼすとダメで、4回こぼすと試練は終了となる。まるで歯が立たずに3回の失敗を繰り返したスネークアイズは、落ち着いて考えを巡らせた。彼はハードマスターに茶碗の交換を頼み、無事に試練を突破した。
夜、スネークアイズはトミーのバイクを借りて城を出ると、町の銭湯に出向いてケンタと密会した。彼はケンタの指示で城に潜入しており、「お前の目の中に誇りが見えたんだ」という言葉も教えられた通りに話しただけだった。「俺は降りる」とスネークアイズが告げると、ケンタは犯人が使っていたサイコロを渡した。犯人の居場所を教えるようスネークアイズが要求すると、彼は「次はお前の番だ」と言う。ケンタは「城の中に太陽石がある。嵐影の力のシンボルだ」と話し、盗み出す仕事を命じた。バイクで城へ戻って来るスネークアイズの姿を、アキコが密かに観察していた。
翌日、スネークアイズはトミーから、太陽石のことを聞く。トミーは「我々は太陽石を守り、決して使わないと誓った。その力を使えば、どんな敵でも倒せるが、非常に危険だ」と語り、第一の試練に合格した祝いとして曙光剣をプレゼントした。スネークアイズから太陽石のある場所について問われた彼は、「近付けるのは祖母とマスターたちと俺だけだ。DNA認証で守られてる」と答えた。アキコは城を探るスネークアイズを怪しみ、「貴方には心が欠けている」と指摘した。
トミーはケンタが大量の拳銃を持ち込む情報を入手し、新宿へ行くことにした。スネークアイズはアキコと共に同行し、銃を見つける仕事を任された。スネークアイズは仕方なく建物に潜入し、立ちはだかる一味を倒して銃の入った木箱を発見した。トミーとアキコは外で戦い、ケンタを発見した。トミーはケンタに襲い掛かるが、歯が立たず窮地に追い込まれた。その様子を見たスネークアイズは、ケンタから身を隠しながら妨害した。ケンタは逃走し、スネークアイズはトミーとアキコに木箱を見せた。
木箱にコブラのマークを見つけたトミーとアキコは、ケンタが自分たち戦争を始める気だと確信した。アキコは「応援が必要ね」と言い、スカーレットに電話を掛けた。アキコが「ケンタが東京に戻った。コブラと組んでる」と話すと、スカーレットは少し待つよう頼み、武装した一味を倒す。スネークアイズはトミーとアキコから、スカーレットが対テロの国際的精鋭部隊であるジョーの一員であること、コブラが極秘犯罪ネットワークであること、暴力と略奪と恐怖によって世界征服を目論んでいることを聞かされた。
スカーレットはコブラの幹部でテロリストのバロネスが日本に着いたことをトミーたちに伝え、「ケンタが彼女と組んだなら危険よ。すぐ東京に向かう」と告げた。スネークアイズがバイクで街へ向かうと、アキコが尾行した。スネークアイズがケンタの元へ行くと、バロネスが一緒にいた。スネークアイズが「テロの手伝いはしない」と言うと、バロネスは彼の父を殺したオーガスティンを監禁していることを教えた。彼女はスネークアイズに、「抜けるなら彼には会えない。3日待つ」と通告した。
城に戻ったスネークアイズは、ブラインドマスターから第2の試練を与えられた。光を追うよう言われた彼が指示に従うと、父が殺された時の幻影が眼前に広がった。スネークアイズが現実に戻ると、ブラインドマスターは「弱点を鏡に映した。苦しみが大きくなるとしても、弱さを認識するのだ」と説いた。スネークアイズは宝物庫に忍び込むが、アキコが来たので脱出した。アキコはスネークアイズを疑って鋭く問い詰め、「私は嵐影一族に大きな恩義を受けた。家族の無い私を迎えてくれた」と語った。
スネークアイズはアキコに、「殺された父は、正体を隠して生きていた。身分証や過去の記憶も全て嘘だった。俺の名前もだ」と語った。彼が「人には言えない酷いこともやってきた。だが、嵐影一族を守る者になれたら、それを償える」と話すと、アキコは「心を空にして。次の試練では心を見透かされる」と助言した。翌日、スネークアイズは第3の試練で、地下の大きな穴に入るよう指示された。彼が穴に入ると、太古から生きている3匹の大蛇が出現した。「心が清い者は襲われない」とハードマスターに言われたスネークアイズは、心を空にしようとする。しかし大蛇に襲われ、アキコが穴に飛び込んで彼を助け出した。
センから真実を話すよう要求されたスネークアイズは、「父を殺され、復讐を望んでる。人生の目的は犯人を見つけて殺すことだ」と話す。センは正直に話したことを認めるが、「一族には置いておけない」と追放処分を下す。スネークアイズはトミーに「兄弟になれたのに」と言われ、「お前だけが兄弟だ。命を懸けて、いつか恩に報いる」と告げた。彼は刀で指を切って血を出し、握手を求めた。トミーも同じように血を出すが、それはスネークアイズの罠だった。
スネークアイズはトミーの血を刀でぬぐい取り、ハンカチに付着させた。彼は宝物庫に侵入し、トミーの血を使ってDNA認証を突破した。彼は太陽石を盗み、城から逃亡した。石が無くなっていることを知ったセンは、トミーとアキコに奪還を命じた。スネークアイズはケンタに元へ行き、石を渡した。ケンタは石に念じて部下の1人を爆死させ、その力を確かめた。彼は「復讐を楽しめ」とスネークアイズに言い、一味やバロネスと共に去った。スネークアイズが指示された倉庫に入ると、オーガスティンが監禁されていた。「なぜ父を殺した?」とスネークアイズが詰問すると、オーガスティンは「コブラの命令は絶対だ」と答えた…。監督はロベルト・シュヴェンケ、原案はエヴァン・スピリオトポウロス、脚本はエヴァン・スピリオトポウロス&ジョー・シュラプネル&アンナ・ウォーターハウス、製作はブライアン・ゴールドナー&エリク・ハウサム&ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、製作総指揮はデヴィッド・エリソン&デイナ・ゴールドバーグ&ドン・グレンジャー&ジェフ・G・ワックスマン&グレッグ・ムーラディアン、製作協力はジェニファー・マデロフ、撮影はボジャン・バゼリ、美術はアレック・ハモンド、編集はスチュアート・レヴィー、衣装はルイーズ・ミンゲンバック、視覚効果監修はシャンタル・フェガリ、音楽はマーティン・トシャロウ。
出演はヘンリー・ゴールディング、アンドリュー・小路、ウルスラ・コルベロ、サマラ・ウィーヴィング、イコ・ウワイス、安部春香、平岳大、ピーター・メンサー、ジェームズ・ヒロユキ・リャオ、石田えり、サミュエル・フィンツィー、スティーヴン・アレリック、マックス・アーチボルド、サイモン・チン、デリック・デヴィリアーズ、松波健斗、谷垣健治、モジョ・ローリー、ショーン・オーウェン・ロバーツ、ジェイソン・デイ、箆津弘順、ニール・ホンダ、ライアン・クラーレンバック、オーウェン・サボ、ブランドン・メレンディー、ガイ・ダシルヴァ、ソロモン・ブレンド、サミュウル・ルブラッスール、ヒュー・アオドー・オブライエン、マイケル・ゲインズ他。
映画『G.I.ジョー』シリーズのリブート作品。
監督は『ダイバージェントNEO』『ダイバージェントFINAL』のロベルト・シュヴェンケ。
脚本は『美女と野獣』『チャーリーズ・エンジェル』のエヴァン・スピリオトポウロスと『栄光のランナー 1936ベルリン』『レベッカ』のジョー・シュラプネル&アンナ・ウォーターハウスによる共同。
スネークアイズをヘンリー・ゴールディング、トミーをアンドリュー・小路、バロネスをウルスラ・コルベロ、スカーレットをサマラ・ウィーヴィング、ハードマスターをイコ・ウワイス、暁子を安部春香、ケンタを平岳大が演じている。谷垣健治がファイト・コーディネーターを担当し、眼帯のヤクザ役で出演している。
本家『G.I.ジョー』シリーズではスネークアイズをレイ・パーク、スカーレットをレイチェル・ニコルズ、ストームシャドーをイ・ビョンホン、ハードマスターをジェラルド・オクムラが演じていた。今回の映画では、それらのキャストをゴッソリと入れ替えている。どんな作品だろうと、例えヒット作の続編やスピンオフであろうと、ハリウッド映画が日本を舞台にすると失敗するってのが私の持論だ。
これまで1万本を超える映画を鑑賞してきたが、この定説を覆す作品に出合ったことは無い。
しかし、必ず失敗する明確な理由に関しては、実は良く分からない。
日本人からするとヘンテコな日本描写が目立つケースも多いが、それだけが要因とも思えない。アメリカ人から見れば、そんなに気にならない可能性も高いしね。ひょっとすると、製作サイドのオリエンタルに対する幻想が強すぎて、それを積極的に盛り込もうとした結果としてバランス感覚を失ってしまうというケースはあるかもしれない。
ただ、この映画に関しては幸いなことに、「なぜ日本を舞台にしたら失敗作になるのか」などと考える必要が全く無い。
そういう問題とは関係なく、シンプルに脚本の出来栄えがシオシオのパーなのだ。「実はスネークアイズがケンタのスパイとして嵐影一族に潜入した」とか、そんな展開、どうでもいいとしか思えない。
何のヒントも無い状態で種明かしに至るから、きっと大半の観客はサプライズを感じるだろう。でも、それで映画として面白くなっているかというと、それは全く感じない。
その効果は、一瞬のサプライズを与えるだけに留まっている。
一応は「スネークアイズの苦悩や葛藤」というドラマに繋げようとしているが、これが上手く行っているとは到底言い難いし。そんなことより、シンプルに「スネークアイズが仇討ちに燃えて敵の組織に挑む」という話にしちゃった方が、よっぽど面白くなる可能性があったんじゃないかと感じる。
たぶん製作サイドはスネークアイズを主人公とする映画のシリーズ化を狙っていて、これを「誕生編」として位置付けていたんだろうと推測される内容になっている。
ただ、そのせいで「コブラと戦う忍者のスネークアイズ」としての始動が、あまりにも遅すぎる。「まだ忍者ではないスネークアイズが嵐影一族の修行に入る」という展開なので、なかなか本格的な戦いに突入しない。
コブラとの対決の図式も、終盤に入るまでは見えて来ない。せめて修行の中でアクションを見せていくのかと思ったら、そういうことでもないし。
3つの試練は全て戦闘能力を確かめる内容ではないので、そこにアクションらしいアクションが付随していない。
密輸された銃がある場所へのガサ入れシーンでも、スネークアイズはそんなに戦っていない。っていうか、そもそも「成人しているスネークアイズが嵐影一族の試練を受ける」という展開自体が、いかがなものかと思うのよ。
幼少期から忍者の修行を積んで強くなるわけじゃなくて、既に賞金稼ぎとして一定の戦闘能力は得ている奴が忍者の試練を受ける形なのよね。だから「忍者のスネークアイズ」として行動している時間が、ものすごく短いのだ。
そんな短期間で「嵐影一族としての矜持」とか「嵐影一族との絆」とか言われてもなあ。時間が全てじゃないけど、どう考えたって幼少期から忍者修行を積む設定の方が何かと得策じゃないか。
スピンオフだから「G.I.ジョーのスネークアイズ」として戦わないのはいいとして、まだ忍者ですらないってのは、どうなのよ。
そんなスネークアイズのアクションを見せられても、ただの喧嘩屋の戦いでしかないわけで。スネークアイズはケンタがコブラと組んでいると知ると、「テロの手伝いはしない」と言う。しかしバロネスからオーガスティンのことを聞いて城に戻ると、すぐに宝物庫へ潜入する。
そこには苦悩も葛藤も全く感じられない。「復讐のためならテロに手を貸しても構わない」という意識に見える。
「父を殺した犯人への復讐」と「自分を受け入れてくれた嵐影一族への誠実さ」を天秤に掛けているのだが、そのバランスがあまりにも悪すぎる。そのせいで、スネークアイズに全く感情移入できない。
幾ら復讐心に燃えていようと、もうケンタがコブラと組んで嵐影一族との戦争を目論んでいると知った段階で、完全に「どっちを選ぶか」という決着は付いただろうと言いたくなる。それでもスネークアイズはケンタと手を切らないだけでなく、逡巡も無く平気で嵐影一族を裏切るのだ。
ただのクズじゃねえか。スネークアイズはアキコに「人には言えない酷いこともやってきた。だが、嵐影一族を守る者になれたら、それを償える」と話すが、もうケンタと手を切る決心を固めたのかと思ったら、そうではない。
なので、その言葉も真摯に見えたけどアキコを騙すための嘘だったように聞こえる。
トミーに対する「お前だけが兄弟だ。命を懸けて、いつか恩に報いる」という言葉も同様だ。
その言葉は本音なのかと思いきや、トミーの血を手に入れるための卑劣な嘘なんだよね。そんな感じでスネークアイズが太陽石を盗み出すので、性根が腐り切った奴にしか見えない。
その後でスネークアイズがケンタを止めるために城へ向かっても、酷いマッチポンプでしかない。彼が太陽石を盗んで渡さなければ、ケンタが嵐影一族を滅ぼすために城へ乗り込むことは無かったんだから。
なので、そこはクライマックスであり、ようやくスネークアイズも派手に暴れるんだけど、ちっとも爽快感や高揚感を抱けないんだよね。
「全てはテメエのせいじゃねえか」と言いたくなるので。そんな乗れない戦いが終結した後、トミーは石の力を行使したことでセンから「頭領にはなれない」と告げられる。
トミーは激しく反発し、城を去る。
途中でアキコに「まるで嵐(ストーム)が来る前の影(シャドー)のような顔付きよ」と言わせたりして匂わせてはいたが、トミーはバロネスと手を組んで「ストームシャドー」と名乗るようになる。
でも、この映画の流れでトミーをヴィランに転向させるのは、ものすごく強引だと感じるぞ。(観賞日:2023年11月10日)