『スマート・チェイス』:2017、中国

中国で警備会社「スマート・セキュリティー」を経営するダニー・ストラットンは、ゴッホの名画「ひまわり」をロンドンまで運搬する仕事を請け負った。彼は部下たちと共に車で空港へ向かう途中、恋人のリンから電話を受けた。彼女と話している最中に爆発が起きて車は吹き飛ばされ、ダニーは倒れ込む。覆面の男が乗り込んで来たのでダニーは立ち上がるが、蹴りを食らって昏倒した。覆面の男はケースを開け、「ひまわり」を奪って逃走した。
12ヶ月後、ダニーはバーの用心棒として働いており、客に絡む男女を撃退した。しかし男女はダニーの仲間のマックとJ・ジェイで、結託して金を稼いでいた。マックの姪であるリンは、3人が稼いだ金を山分けしてい現場を見ると幻滅して立ち去った。ダニーが慌てて追い掛けると、彼女は叔父に片棒を担がせたことを責めた。「本人の意志だ。話があって来たんだろ」とダニーが口にすると、リンは溜め息をついて彼に貰った腕時計を返す。「ただの仲違いだろ」とダニーが関係修復を求めると、リンは別れを告げて去った。
翌朝、ダニーの部屋にマックが現れ、博物館から3600万ドルの壺をロンドンまで運ぶ仕事の打診があったことを話した。マックはダニーに、「もう情けない稼ぎ方は嫌だ。俺のためだと思って引き受けてくれ」と頼む。壺は今まで門外不出で、上海でも最大規模の美術品搬送となる。依頼主はソンという富豪の美術品収集家で、側近は1年前の強奪事件と同じ問題が起きることへの不安を口にする。ダニーは側近から失策が起きない保証について問われたダニーは、「二度と失策は犯さない」と強く口調で告げる。ソンはダニーに仕事を依頼し、運搬責任者を紹介するよう側近に指示した。
安アパートで暮らす青年のディンはエンジニアで、片想いのナナがダブルダッチの練習をする様子をパソコンを通して観察していた。男がナナをナンパしようとする様子を目撃した彼は、ドローンを飛ばして妨害した。ディンはボクシングジムへ行き、仲間のJ・ジェイに恋愛の助言を求めた。ナナと一度も話したことが無いというディンに、J・ジェイはニックネームを付けるよう勧めた。ダニーはジムに現れ、ディン、マック、J・ジェイに仕事が入ったことを話した。
4人は身なりを整え、ソンに招待されたパーティー会場へ赴いた。ソンは集まった客たちに、ロンドンへ運搬される壺を披露した。ダニーが壺を見ていると、タラという女が話し掛けた。彼女は父が考古学者であること、美術品を見る目を養ってくれたことを話した。会場にはリンが来ており、ダニーは「ロンドンから戻ったら君を食事に誘いたい」と言う。しかしリンは新しい恋人のシエムを同伴しており、ヨリを戻す気は無いことを口にする。そこへソンが来ると、リンは挨拶して立ち去った。
ソンはダニーに、リンと知り合いであること、彼女の推薦で仕事を斡旋したことを語った。タラが再びダニーの前に現れ、「愛よりも他のことにエネルギーを注ぐべきよ」と告げた。ダニーが会場を出ようとすると旧知のダイ刑事が現れ、「ゴッホの車を盗み、同業者の車を爆破しただろ。仕事復帰するつもりか」と言う。ダニーは返答せず、その場を後にした。運搬の当日、ダニーはマックに3台の車を手配するよう指示し、J・ジェイには高速道路の使用を、ディンには空からの監視を命じた。
ダニーは壺を収納したケースを車に積み、空港へ向かう。ダニー、マック、J・ジェイが3台の車を走らせていると、すぐに3台のバイクが近付いた。ダニーはディンにルートの指示を頼むが、車を横転させてしまう。さらに複数のバイク部隊が現れ、ダニーたちに襲い掛かる。ダニーはケースをを奪われ、敵のバイクを使って後を追う。マックはトラックで追跡し、ディンが彼らに指示を出す。ケースを奪還したダニーは、盗んだ男のロンがゴッホ事件の時と同一人物だと気付いた。
追っ手が迫ったので、ダニーはロンを蹴り付けて逃亡した。駆け付けたJ・ジェイがバイクでダニーを拾い、空港に到着した。ダニーはJ・ジェイに「搭乗しない。二手に分かれる。1時間後に例の場所へ」と告げ、バスに乗り込んだ。ソンはダイに電話を入れ、壺を見つけるよう要求した。ダイは「ご心配なく。彼の携帯を追跡しています」と告げ、電話を切った。ダニーはディンに連絡して作戦変更を告げ、すぐに事務所を出るよう指示した。
ダニーはマックにも電話を入れ、「敵は前にゴッホの絵を奪った連中だ。奴らを追って絵を取り戻す」と告げた。彼はマック&J・ジェイと合流し、新たなドローンを調達したディンと連絡を取った。ダニーの作戦に、他の3人は賛成しなかった。しかしダニーの強い気持ちを知り、マックは敵から奪った携帯電話を差し出した。彼は敵の指も切断して持参しており、ダニーは指紋認証で携帯が使えるようにした。ダニーがマック&J・ジェイと別れで電話を掛けると、相手はタラだった。ダニーは別グループの強奪に見せ掛ける話を持ち掛け、600万ドルを請求した。
2人の警官が来たので、ダニーはディンの指示を受けて逃走した。彼はドローンに携帯電話を置いて持ち去らせ、警官隊の追跡を撒いた。ダニーはリンの部屋に侵入し、包丁と追跡装置を手に入れる。そこへリンが戻ると、彼は「絵を取り戻す。過ちを正し、君にふさわしいに戻る」と告げて立ち去った。ダニーはマック&J・ジェイと合流し、「壺を運んで警察を呼び、連中は逮捕されて絵の場所が分かる」と計画を説明した。
ダニーはディンに連絡し、張り込んでいるダイたちの前に姿を見せて誘導するよう指示した。ナナに協力してもらおうと考えるディンだが、ダニーは巻き込まないよう命じる。しかしディンはナナの方から声を掛けられたので、「ダニーが困ってる。手を貸して。スクーターを貸して」と頼んだ。ナナは自分しか運転できないと言い、ディンを後ろに乗せた。ダイの車が追跡するのを確認したディンに、ダニーは「警察が連中を逮捕したら、現場を離脱しろ」と告げた。
ダニーたちが待ち合わせ場所へ行くと、ロンと手下たちが待ち受けていた。そこは幾つもの壺が棚に置いてある部屋で、ダニーは先に金を見せるよう要求した。彼が複数の壺を壊して脅しを掛けると、ロンはケースに入れた金を見せる。ダニーは壺の場所を教え、鑑定人が本物だと確認した。一味が去ろうとすると、ダニーたちは相手を挑発して襲い掛かった。しかし警官隊がサイレンを鳴らしながら駆け付けると、一味は逃走した。
ダニーたちは逃げ出して車に乗り込み、ディンに敵の行き先を調べるよう指示した。ディンが「ホンコン道路を東に向かってる」と告げると、ダニーはマック&J・ジェイに金の入ったケースを置いて車を降りるよう言う。その直後、車は大爆発を起こし、ダニーはディンに敵の追跡を命じた。ディンはフーチョウ道路で敵を見失うが、警備の厳重な大邸宅の存在をダニーたちに知らせる。ダニーはナナと電話で話、協力を要請した。
ダニーはナナとダブルダッチ仲間に協力してもらい、警備員の目を引き付けてもらった。その隙にダニーたちは敷地内へ潜入し、ディンがドローンで付近を調べる。ダニーはディンに見張りの位置を教えてもらい、邸宅へ忍び込む。ダニーはタラの姿を確認し、彼女の外出を待ってマック&J・ジェイに煙幕作戦を実行させる。壺をケースに入れて持ち去ろうとしたダニーは、壁に飾られている「ひまわり」の絵に気付いた。彼は絵も持ち去ってマック&J・ジェイと合流し、邸宅から逃亡した。しかしタラは手下だったシエムを使ってリンを誘拐し、ダニーに美術品との交換を要求した…。

監督はチャールズ・マーティン、原案はテレンス・M・オキーフ&ロビー・ヘンソン、脚本はケヴィン・バーンハート、製作はウェイ・ハン&チアン・ピン&チャオ・ハイチェン&ベン・ピュー、製作総指揮はウェイ・ハン&ラ・ペイカン&リン・キー&チェン・ガン&チャン・イーイェオ&ファン・シュエチェン、共同製作はティム・コール、撮影はフィリップ・ブローバック、美術はゾラーナ・ゼン、編集はジェームズ・ヒューズ、衣装はクレメント・バイー・チェン、武術指導はトマー・オズ、音楽はマーク・キリアン、音楽監修はスーザン・ジェイコブス。
出演はオーランド・ブルーム、ウー・レイ、サイモン・ヤム、ハンナ・クィンリヴァン、リン・ホン、リャン・ジン、イン・ター、シー・ヤンネン、チャン・ロン、トム・プライス、ワン・ルオシー、チャン・ウェンジュン、イー・チェンフー、チャン・シーユアン、ハン・ガンソン、シュー・ソンチェ他。


中国のBliss Mediaが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのオーランド・ブルームを主演に迎えて製作した映画。
脚本は『タービュランス2』『パーフェクト・スナイパー』のケヴィン・バーンハート。
監督はTVドラマ『ケース・センシティブ 静かなる殺人』のチャールズ・マーティンで、これが映画デビュー作。
ダニーをオーランド・ブルーム、タンをウー・レイ、マッチをサイモン・ヤム、ジェイをハンナ・クィンリヴァン、リンをリン・ホンが演じている。

ハッキリと分かるのは、Bliss Mediaの創立者であるウェイ・ハンが、1980年代の角川春樹にも負けないぐらい自己主張の強い人物だということだ。
何しろ、オープニング・クレジットで「Wei Han」の名まえは4度も表記されるのだ。
彼は出品人(executive producers)も監制(produced by)も担当しているので、そこで1度ずつ表記されるのは当たり前のことだ。
でも4度は多いでしょ。しかも、その内の2度は、「produced by」としての表記なのだ。
それって、もはや自己主張の強さというより、単なる誤植じゃないのか。

冒頭、ダニーは名画の運搬中に襲撃される。 このシーン、最初から最後まで、運搬を担当している人間はダニーしか登場しない。名画を積んでいる荷台にも、彼しか乗っていない。
だから乗り込んで来たのは1人だけなのに、あっさりと蹴り倒されて絵を奪われる。
その車の前後には別の車も走っているので、決してダニーだけで運んでいるわけではない。だからダニーの車が吹き飛ばされても他の車に乗っている連中は元気なはずなのだが、そいつらが何をやっていたのかは全く描かれない。
他の警備担当者は何をしていたのか。

その1年後、バーのカウンターでダニーが酒を注文していると、マックとJ・ジェイが男性グループに「酒をおごって」と絡む。そこへダニーが来て2人を撃退すると、男性グループがギャラを渡す。
なので、たぶん「彼らの用心棒として働いている」ってことなんだろうと思うが、それが「バーの用心棒」ってことなのかどうかは良く分からない。
また、その男性グループの用心棒だったとして、そんな仕事をやっている理由が何なのかは全く分からない。警備会社の経営者と用心棒ってのは、まるで別の仕事だからね。
これが「ボディーガードだったけど酒場の用心棒に落ちぶれて」みたいなことなら、流れとしては分かるのよ。だけど警備会社の経営者って、格闘能力の高さを求められる部分は、そんなに高くないんじゃないかと。武器も使えるだろうし。

しかも、それならそれで「酒場で用心棒をするほど落ちぶれている」ってことを素直に描けばいいのに、「マックとJ・ジェイに芝居をさせて、男性グループを騙す」というシーンにしてあるのよね。
それは無意味に欲張り過ぎだわ。そんな仕事にマックとJ・ジェイが協力するのも変だし。
で、そいつらはどういう仲間なのかと思ったら、同じ警備会社の人間なのね。そして警備会社は潰れたわけじゃなくて、まだ健在なのだ。
ただ、ディンはゴッホ事件の後で加入した設定なので、たった3人で数々の美術品を運搬してきたのね。どう考えても、人員が少なすぎるだろ。4人でも少ないし。

タンがJ・ジェイに助言を求める場所はリングが置いてあるので格闘技のジムなのかと思ったら、そこにダニーが現れてデスクに座る。
つまり、そこがオフィスという設定らしい。
これが「失策によって落ちぶれたから安アパートみたいな場所にオフィスを移している」ってことなら、まだ分からんでもない。でも、どうやら最初からそこが事務所という設定のようだ。
ちっとも「数々の名画を運搬する超一流の警備会社」には見えないぞ。

ダニーが仕事で失敗したことは確かだが、だからって1年後に「リンと別れてケチなイカサマ仕事に手を出している」ってのは、どうにも理解し難い。
そりゃあデカい失敗ではあるけど、覆面集団に爆破攻撃を受けたとしたら、彼らのミスとも言い切れないはずで。
まあ高額の名画を運搬するのに、自分たちの会社名が入った車を使っている時点でリスクがデカすぎるけどね。運搬ルートがダダ漏れになっちゃうわけだから。
でも、そういうことだけじゃなくて、「ダニーは自作自演で名画を盗んだ」と警察から疑われている設定なのね。だったら、それがダイの台詞で初めて明らかになる形じゃなくて、事件が起きた直後にでも観客に知らせた方が得策だろう。
っていうか、そんな疑いがあったのなら、むしろ「なぜダニーは無罪放免になっているのか」ってのが気になるぞ。

ダニーたちが壺の運搬中に襲撃されると、すぐに「ソンがダイに電話を掛けて壺の捜索を要求する」というシーンがある。それはダニーが襲撃を受けたってことじゃなくて、「ダニーが壺を盗んで逃げた」と思っている設定だ。
だけど、なぜ彼はそんな風に誤解したのかワケが分からない。
そもそも、まだ事件が発生したことさえ、どこにも情報が届いていないはずだからだ。なので、間違った情報がソンの元まで届くってのも、おかしな話なのだ。
ダイが既にダニーの携帯を追跡して壺を捜索しているってのも同じことで、なぜ「ダニーが壺を盗んで逃げた」という情報が彼の元に届いているのか全く分からん。

ダニーが敵を追って絵を取り戻す作戦を話すと、仲間は賛成しない。
理由は何なのかと思ったが、マックとJ・ジェイは「忘れるべきよ」と言うだけ。
後から入ったディンにしてみりゃ関係の無い話だろうけど、お前らにとっちゃ「絵を奪われた上に濡れ衣まで着せられた」という出来事だろうに。なぜ簡単に「忘れるべき」とか言えるのか。
J・ジェイに至ってはダニーに掴み掛かって「貴方を外せば良かった」とまで言うけど、チームとしての連帯感はゼロなのかと。

ダニーは敵から奪った携帯を使う際、マック&J・ジェイと別れて離れた場所へ行く。だが、わざわざ2人と別行動を取る理由はサッパリ分からない。その場で電話を掛けても、何の問題も無いはずだ。
そこで彼を別の場所に移動させるのは、「警官に追われてパルクール的なアクションを見せる」というシーンに繋げたいからだ。
そこに仲間がいたら、警官を撃退することも出来るだろうし、逃げるにしても3人なので色々と面倒になってしまう。そこは「ダニーの逃走アクションを見せたい」という目的があって、そのために彼の行動を不自然な形にしているわけだ。
そこに限らず、ダニー、マック、J・ジェイが無意味に合流したり別れたりを繰り返す理由は、全て「あらかじめ用意した段取りを消化するため」と言ってもいい。

ダニーはロンたちが取り引きを終えて去ろうとすると、マックに「呼び止めろ」と小声で指示する。そして小指を投げて挑発させ、ロンに殴り掛かる。そんな行動を取る理由は、まだディンがダイたちを連れて現場に到着していないからだ。
だけど、そんなのは指定した場所に入った時点で分かっているはずでしょ。ディンが近くまで来ていることを確認してから、その場所に足を踏み入れればいいだけのことじゃないのか。簡単に取引を済ませておいて、「まだディンが来ていないから慌てて時間稼ぎ」って、計算能力が低すぎるだろ。
しかも、その時間稼ぎの方法が「相手に襲い掛かる」って、どんだけボンクラなんだよ。そんで一味に逃げられちゃうんだから、準備も足りないし計画そのものが杜撰極まりないわ。
あとさ、こいつらってディンがいなかったら、何も出来ねえじゃねえか。

タラが犯人であることは、ものすごく淡白に明かされる。黒幕の正体を引っ張ることも無いのなら、「なぜ彼女は2度もダニーたちに罪を被せて美術品を強奪しようとするのか」という部分の謎も説明してほしいところだ。
しかし、そこは何の説明も無い。ダニーにしても、「なぜ自分たちだけを標的にするのか」と疑問を投げかけるようなことは無い。
何の深みも無い薄味で面白味の無い悪党ではマズいとでも思ったのか、やたらと「愛ははかない、手に入らない」みたいなことを語りたがるが、それがタラのキャラ造形に貢献することは無い。
ちなみにシエムが彼女の手下だったという設定は、取って付けたような印象しか無い。たまたま「シエムがリンの恋人」という要素を利用できるチャンスが生まれたけど、そうじゃなかったら彼がリンに近付いている意味は皆無なわけで。

ソンがタラとグルなのはバレバレなので、それにダニーが全く気付かないのはボンクラにしか見えない。
でも不幸中の幸いで、この映画に登場する奴らは揃いも揃ってボンクラだから、彼だけが悪目立ちすることは無い。
そんなボンクラたちが結集するクライマックスは、何の盛り上がりも無いまま終了する。そこまでは色んなタイプのアクションシーンを用意していたのに、そこは「ダニーたちが壺を高く投げてキャッチする」というバカバカしい動きだけで終わり、見せ場となるようなアクションは無い。
タイトルとは違ってスマートさのカケラも無い映画は、低調なままで終幕を迎えるのであった。

(観賞日:2019年4月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会