『スリザー』:2006、アメリカ&カナダ

ウィーズリーの町に隕石が落下したが、誰も気付かなかった。翌朝、コミュニティー・スクールの教師スターラ・グラントが授業を終えると、夫でスクール経営者のグラントが迎えに来た。スターラが同僚と話している様子を見て、彼は嫉妬心を示した。スターラがグラントの車に乗る様子を、警察署長のビル・パーディーが眺めていた。スターラは子供の頃から貧しい生活を過ごし、母は家出して父は酒浸りという家庭環境だった。リッチな奥様になりたかった彼女は、17歳でグラントと結婚した。
その夜、グラントは久々にステーラとセックスしようとするが、「スイッチが入らないの」と拒まれてしまう。腹を立てたグラントは、憂さ晴らしをするためにカラオケバーへ繰り出した。酒を飲んでいたグラントは、過去に交際した女性の妹ブレンダに声を掛けられた。盛り上がった2人は、店を出て森へ向かう。ブレンダにキスされたグラントは、「帰らないとスターラが心配する」と言い、それ以上の関係になることを拒んだ。
グラントは謎の物体に気付き、そこから何かが移動したらしき形跡を目にした。グラントとブレンダが跡を辿ると、奇妙な白い塊があった。グラントが近付いてみると、そこから針のような生命体が飛び出して彼の胸に突き刺さった。その生命体は体内に潜り込み、グラントは苦悶して倒れ込んだ。生物が脳に達した直後、グラントは無表情で起き上がった。彼は心配するブレンダを無視し、家に戻った。
翌朝、グラントが目を覚ますと、スターラは思い出の曲を流していた。彼女は昨夜のことを謝罪し、上着を脱いでグラントをセックスに誘った。グラントが出掛けた後、彼女はメイドのジャニーンに「彼は初めての時のように触れて来た。まるで別人だった」と嬉しそうに話す。グラントは大量の肉を買い込み、スターラに内緒で家に持ち帰った。夜、スターラは鹿狩り解禁の前夜祭に出掛ける前にシャワーを浴びる。グラントの腹部からは、触手が出て来た。スターラに見つかりそうになり、彼は慌てて隠した。
グラントは「やり残した仕事があるから、会社へ行く」と言い、スターラを一人で前夜祭へ行かせる。外出したグラントは、その足でブレンダの家を訪れた。ブレンダは夫が実家へ戻っており、赤ん坊と2人で自宅にいた。スターラがバーにいると、かつて彼女に好意を寄せていたビルが声を掛けた。町長のジャックがステージに立ち、鹿狩り解禁を宣言した。ブレンダはグラントに誘われてセックスしようとするが、腹部から触手が出て来たので怖がった。グラントはブレンダを押さえ付け、触手が彼女の腹部を突き刺した。
スターラが帰宅すると、顔の腫れ上がったグラントの姿があった。スターラが「どうしたの?」と怯えると、グラントは「蜂に刺された。でもカール先生に診察してもらって薬も貰ったから、大丈夫だ」と述べた。しかし翌日、スターラはカールに電話を掛け、グラントの言葉が嘘だと知った。夜、グラントは大きな袋を持って、森の小屋へ向かった。そこにはブレンダがいて、彼に「お腹が空いた」と訴えた。グラントは袋に詰めた大量の肉片を床に撒き、「おやつだ。全て上手く行く」と告げる。ブレンダは肉片に貪り付いた。
帰宅したスターラの元に、ビルと警察官のウォーリーがやって来た。ブレンダが失踪しており、それはグラントが家に入っていくのを目撃されてからの出来事だという。ビルは「彼が戻ったら電話するよう伝えてくれ」と言い、ウォーリーと共に去った。スターラはグラントが南京錠で封鎖した地下室が気になった。彼女は錠前を壊し、地下室に入る。異様な匂いの中で階段を下りて行くと、地下室には何匹ものペットの惨殺死体が散らばっていた。
スターラは地下室から抜け出してビルに電話を掛けるが、留守電になっていた。そこへ顔の腫れ上がったグラントが戻り、腹から触手を伸ばしてスターラに襲い掛かる。スターラが抵抗すると、グラントは彼女の首を絞める。そこへビルが部下のウォーリー、マーガレット、トレヴァーを引き連れて駆け付け、グラントに拳銃を向けた。グラントは右腕を触手のように曲げ、屋外へ逃走して姿を消した。
3日後、グラントが農場に出現したという知らせを受けたビルたちが出動すると、惨殺された犬の死体が転がっていた。これまでにグラントは3つの農場で目撃されていた。最初の農場では猫を殺し、次の農場では馬を連れ去っていた。ビルはグラントの出没ルートから次はストラトマイヤー家の農場に表れると確信した。ビルは部下のウォーリー、マーガレット、トレヴァー、ターナー、それにジャックと臨時助手のチャーリー、ドワイトにも協力してもらい、農場でグラントを待ち伏せることにした。
ビルが農場へ向かおうとすると、スターラが来て同行を志願した。ビルは「君は残れ」と告げるが、スターラに「グラントを無事に保護しないとブレンダの居場所が分からない。それが出来るのは私だけ」と言われ、車に同乗させる。ストラトマイヤー家は、両親と高校生の長女カイリー、妹のエミリー&ジェナの5人家族だ。ビルたちは農場に到着し、そのまま物陰に潜んで待機することにした。
夜になり、イカの怪物のような姿に変貌したグラントが農場へやって来た。グラントが馬を殺して連れ去ろうとするので、スターラが歩み寄って「貴方は病気なの。助けに来たわ」と穏やかに告げる。ビルたちは距離を取りながら、グラントを取り囲む。チャーリーは銃を構え、ぐらんとの前に立ちはだかった。するとグラントは右腕の触手でチャーリーを真っ二つに引き裂き、森に向かって逃走した。
ビルたちはグラントを追って森に入り、小屋に突入した。すると、そこには食べ過ぎで体が異様に膨れ上がったブレンダの姿があった。ブレンダの体は破裂し、そこから無数のワームが飛び出した。ワームはウォーリーたちの口から体内に入り込み、次々に殺害していく。口を塞いだビル、スターラ、ジャック、マーガレットの4人だけが助かった。ワームの群れは小屋から移動し、ストラトマイヤー家の農場へ向かう。入浴していたカイリーは、一匹のワームに襲われる。ワームが口に入り込むと、カイリーの脳内に宇宙から来た生命体の持つ記憶が飛び込んできた。
何とか口からワームを引っ張り出したカイリーは、慌てて浴室から飛び出した。すると母がワームに襲われて死を迎えるところだった。エミリーとジェナの悲鳴を耳にしたカイリーは、ドアの鍵を壊して突入する。だが、既に妹たちはワームに襲われ、死を迎えようとしていた。室内はワームで一杯になっており、カイリーは外へ出て庭に飛び降りた。玄関のドアが開き、ワームに襲われた父が倒れ込んで死亡した。カイリーが車に逃げ込むと、ワームの群れが周囲を覆い尽くした。
ビルは警察署の通信係シェルビーに連絡を入れて緊急事態を知らせようとするが、応答が無かった。彼は救急車を呼ぶため、パトカーに戻ることにした。その間に、残った3人は小屋から死体を運び出した。するとウォーリーが起き上がり、スターラに「首を絞めて悪かった。ついカッとなったんだ」とグラントのように話す。さらに他の死体も全て起き上がり、全員がグラントとして彼女に話し掛けた。一方、カイリーの逃げ込んだ車からは、ワームの群れが去った。そこへゾンビ化した家族が現れて窓を激しく叩き、カイリーに車から出て来るよう要求した。
森ではウォーリーたちがマーガレットを捕まえていた。トレヴァーは緑の唾液を噴射し、顔面を浴びたマーガレットは死んだ。スターラが猟銃でウォーリーの頭を吹き飛ばすと、中からワームが出て来て逃亡した。ストラトマイヤー家の面々は車の窓を破壊し、カイリーを引きずり出そうとする。騒ぎを聞き付けてビルが農場に行くと、それに気付いたカイリーは慌てて駆け寄った。そこへゾンビの群れが襲い掛かって来たので、ビルとカイリーはパトカーに乗り込む。2人は逃げていたスターラとジャックを乗せ、その場から逃走した…。

脚本&監督はジェームズ・ガン、製作はポール・ブルックス&エリック・ニューマン、共同製作はジェフ・レヴィン、製作協力はジョナサン・ショア、製作総指揮はマーク・エイブラハム&トーマス・A・ブリス&ノーム・ウェイト&スコット・ニーマイヤー、撮影はグレゴリー・ミドルトン、編集はジョン・アクセルラッド、美術はアンドリュー・ネスコロムニー、衣装はパトリシア・ルイーズ・ハーグリーヴス、音楽はタイラー・ベイツ。
出演はネイサン・フィリオン、エリザベス・バンクス、タニア・ソルニア、マイケル・ルーカー、グレッグ・ヘンリー、ブレンダ・ジェームズ、ドン・トンプソン、ジェニファー・コッピング、ジェナ・フィッシャー、ヘイグ・サザーランド、ディー・ジェイ・ジャクソン、ベン・コットン、トム・ヒートン、アイリス・クイン、ウィリアム・マクドナルド、マトレヤ・フェドール、アンバー・リー・バートレット、ロイド・カウフマン、キャスリン・カークパトリック、ロレーナ・ゲイル、ダスティン・ミリガン、バート・アンダーソン他。


『スクービー・ドゥー』や『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本を担当したジェームズ・ガンが、正式に監督を務めた初めての作品。
なぜ「正式に」と書いたかというと、トロマ時代に『トロメオ&ジュリエット』で部分的に監督を務めているからだ(ただし表記は無し)。
ビルをネイサン・フィリオン、スターラをエリザベス・バンクス、カイリーをタニア・ソルニア、グラントをマイケル・ルーカー、ジャックをグレッグ・ヘンリーが演じている。
他に、ブレンダをブレンダ・ジェームズ、ウォーリーをドン・トンプソン、マーガレットをジェニファー・コッピング、シェルビーをジェナ・フィッシャー、トレヴァーをヘイグ・サザーランドが演じており、カールの声をロブ・ゾンビが担当している。
アンクレジットだが、スターラの同僚教師のハンクを演じているのはジェームズ・ガン。また、ジャックが警察署で「早くグラントを捕まえろ」とビルに要求しているシーンで、その場に居合わせる酔っ払いの男は、トロマの総帥であるロイド・カウフマンだ。

冒頭、宇宙から飛来する隕石はチープだし、「車内で喋っているビル&ウォーリーは、後ろに隕石が落下するけど全く気付かない」という描写や「隕石がパカッと割れる」という描写は、何となくバカバカしい。
ただし、それは普通のホラーとしては決してプラスの材料ではないが、コメディーやパロディーのテイストを含んだ作品だとすれば、面白い映画になる可能性を感じさせてくれるモノになる。
ところが、その後が良くない。
まず、ウィーズリーの町が写し出され、ジャックが前方で車を停めている男に怒鳴る様子、町民から声を掛けられて慌てて笑顔を見せる様子が描かれる。コミュニティー・スクールに場面が移動し、授業をしているスターラ、彼女の裸をノートに落書きしている男子生徒、それを見て呆れる隣の席のカイリーが写る。放課後、スターラが同僚と話し、グラントが迎えに来て、それを見ているビルがいて、彼がマーガレット&トレヴァーと会話を交わす。
そこは、無駄にゴチャゴチャしている。

色んな連中が登場して、誰が主役なのか良く分からない。
それについては、次のシーンからの流れで「どうやらグラントとスターラ夫婦がメインっぽい」ということは見えて来るが、だとしたら、前述したシーンでも、その2人にスポットを当てた方が分かりやすい。
「序盤で主要人物の紹介を済ませておく」という目的があるのだと解釈すれば、理解できないわけではない。
ただし、まるでキャラ紹介になっていない。

ビルたちはグラント夫妻について話すだけだし、そこでは彼がスターラに惚れていたことも分からない。
授業のシーンにしても、後でストラトナット家の農場が写った際に、一家の長女が落書きにを注意していた女子生徒と同一人物であることは、注意深く見ていないと気付かないし。
っていうか、序盤でカイリーを登場させている意味なんて全く無いし。農場シーンが初登場でも、何の支障も無い。
ビルにしたって、前夜祭のシーンが初登場でも大差が無い。マーガレットとトレヴァーも、出動シーンが初登場でも全く問題は無い。

スターラはグラントとセックスした後、ジャニーンに「彼はまるで別人だった」と言っている。
だが、濡れ場はスターラが誘ってグラントが上に乗ったところで終わっているので、どんな風に別人だったのか、具体的には全く分からない。
濡れ場を全て見せろとは言わないよ。
でも、もう少し「まるでウブな若者のようにグラントが性行為に及ぶ」ということを示すための描写はあっていいんじゃないかと。

展開はオーソドックスだし、描写はおとなしい。もっとキテレツな行動をグラントに取らせてもいいのに。
例えば、グラントは謎の生命体に襲われた後、帰宅して冷蔵庫の肉を集める。次の日には、大量の肉を買い込む。
だが、いずれも「その肉をどうするのか」という部分まで描かずに、そのシーンを終わらせている。その肉を使って何か異様な行動を取ることを期待したのに、何も起きない。
後でブレンダが肉に食らい付く様子がチラッと描かれるが、「ただ食らうだけなのね」というのは置いておくとして、グラントの時に、「肉を貪る異様な姿」ってのを見せておいた方がいいんじゃないかと。

グラントが飼い犬のロスコーを睨むシーンも、そこで終わっている。
そこは惨殺するところまで描いてもいいんじゃないかと(直接的な描写は避けてもいい)。
どうせ、グラントが生命体に襲われて変異しちゃってることはバレバレなんだから、彼の行動を隠していることは無意味でしょ。
ロスコーにしても、睨んだ時点で「ああ、殺すんだな」ってのは分かるし。そこを隠しているメリットが見えない。

ジェームズ・ガンは1970年代から1980年代に作られたB級ホラー映画を意識し、脚本を執筆したらしい。
『SF/ボディ・スナッチャー』とか、『デッドリー・スポーン』とか、『遊星からの物体X』とか、『クリープス』とか、『デビッド・クローネンバーグのシーバース』とか、そういった作品だろう。
そういった作品群にオマージュを捧げるのは一向に構わないし、ネタを拝借するのも別にいい。
ただ、それだけで留まっているのはマズい。
もっと遊び心があってもいいのに、もっと尖がった描写を盛り込んでもいいのに、変に真面目で、普通のホラー映画として撮ってしまっている。登場人物にはクドいほどのアクの強さや際立った個性があるわけじゃないし、映像表現で凝ったことをやりまくっているわけでもない。
そうなると、これはもはや、ただ昔のホラー映画の要素を組み合わせただけの映画、アナクロなだけの映画ってことになる。

普通と違うのは、人間に襲い掛かる敵が、どんどん別の存在になっていくということだろう。
それは「同じ相手の姿がどんどん変化していく」ということではない。対象そのものが移り変わって行くのだ。
最初は針のような生物で、次は憑依されたグラント、次はワームの群れ、次はゾンビ化した人間たちという風に、どんどん変わっていく。
でも、面白味や新鮮味といったプラスの印象は受けない。欲張り過ぎて、まとまりを欠いているとしか感じられない。

(観賞日:2013年8月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会