『スカイスクレイパー』:2018、アメリカ&香港

10年前、ミネソタ州アッシュ・レイク。レイという男が別れた妻の家に押し掛け、彼女と幼い子供2人を人質に取って立て籠もる。交渉人が電話で対応すると、レイは5分で全員が現場から離れるよう要求した。FBIは交渉の続行が難しいと判断し、ウィル・ソーヤーの率いる特殊部隊に突入を命じた。部隊は壁を爆破して家に突入し、息子を抱いているレイに銃を向けた。隊員のベンが発砲の許可を要請すると、ウィルは「駄目だ、丸腰だ」と止めた。ウィルが説得するとレイは子供を解放するが、彼は腹部に爆弾を巻き付けていた。レイはスイッチを押して自爆し、巻き込まれたウィルは重傷を負った。ウィルは病院に担ぎ込まれ、女医のサラが手術を担当した。
現在、香港。「ハイテク界の寵児」の異名を持つ実業家のジャオ・ロン・ジーは莫大な資金を投じ、空中都市「ザ・パール」を完成させた。ザ・パールは世界一の高さを誇るハイテクビルで、中央部には公園まで設けられている。最上部にある二重螺旋のタービンで全ての電力が賄われ、地上側半分の商業施設は半年前にオープンしている。上層部の居住エリアに関しては安全面の疑問も出ているが、ジャオは予定通りのオープンを宣言した。
ウィルは10年前の事故で左足を失い、義足を使っている。彼はサラと結婚し、ヘンリーとジョージアという双子にも恵まれた。彼はFBIを退職した後、警備の専門家として個人会社を立ち上げていた。彼はFBIを辞めたベンからザ・パールの警備管理者を務める仕事を紹介され、半年前から面接に向けて準備してきた。既に一家はザ・パールを訪れ、居住セクションの98階で暮らし始めている。ウィルは遊びに行く家族と別れ、ベンの案内で上層部のペントハウスに向かった。
ジャオはウィルに、ボディーガードのアジャニと保険会社のピアースを紹介した。彼は防火防災システムにアクセスできるタブレットを取り出し、ウィルだけが操作できるように生体認証を済ませた。ベンはウィルたちから離れた後、スマホで仲間に連絡を入れた。ウィルがタブレットを持っていることを知らせると、船に連れ出すよう指示された。ジャオはウィルを「スフィア」と呼ばれるビルの球体部分に連れて行き、317枚のモーションセンサースクリーンを始めとするハイテク設備を披露した。
ウィルはベンに連れられて連絡船に乗り、あの事件から銃は握っていないと話す。「奴は丸腰だった。自爆ベストを使っているなんて予測できない」とベンが言うと、ウィルは「そうだな。そのおかげでサラに会えたし、家族も出来た」と語った。連絡船を下りた直後、ウィルは背後から近付いた男に襲われる。男はウィルの左手をナイフで切り付け、鞄を奪った。ベンは男が逃亡するのを確認した後、ウィルに駆け寄って「大丈夫か」と告げた。
ザ・パールの地下15階ではコーレス・ボータの率いるテロリスト一味が壁を破壊し、設備を確認していた担当者を始末した。一味はザ・パールに乗り込み、制圧するための準備に取り掛かった。ベンはウィルがタブレットを鞄ではなくジャケットに入れていたと知り、慌ててボータに連絡した。ウィルはサラに電話を掛け、動物園には行かず居住セクションへ戻って来たことを知った。サラたちと遭遇したボータは、メンテナンスの担当者だと嘘をついて立ち去った。部下に「片付けますか」と訊かれた彼は、「いや、放っておく。どうせ死ぬんだ」と口にした。
ベンはウィルに拳銃を向け、タブレットを渡すよう要求した。ウィルはベンに襲い掛かり、格闘になった。ベンは誤って自分の胸を撃ち、「サラたちが戻るなんて思わなかった」と漏らす。一味は96階で火事を起こし、スプリンクラーを作動させて移動した。ジャオはピアースから避難するよう言われるが、「消火システムが食い止める。ここなら安全だ」と意に介さなかった。ウィルは何が起きているのか聞き出そうとするが、ベンは「奴らが殺しに来るぞ」と言い残して息絶えた。
テロリスト一味が来てウィルを銃撃し、シアという女がスタンガンで気絶させた。一味はタブレットを奪い、生体認証で操作できるようにした。そこに警官隊が駆け付けて銃撃戦となり、一味は車で逃亡した。ウィルは警官の白バイを盗み、一味を追ってザ・パールへ向かう。クーロン・プラザの緊急時対応エリアに到着した刑事のウーは、警官から現場の状況について聞く。サラたちが戻っている情報は外部に届いておらず、ハンは「96階より上にはオーナーたちしかいない」と説明した。
サラは火災の発生を知り、水で濡らしたタオルをドアの下に置く。シアは仲間を率いて制御室へ乗り込み、所員を皆殺しにした。ウィルはサラに電話を入れ、「警察が周辺を封鎖していて助けに行けない。部屋を出るんだ。案内パネルを見れば安全な場所が分かる」と告げた。ジャオはウィルの部屋に家族がいると気付き、2人の部下を向かわせた。一味はタブレットを使って全システムに侵入し、95階から下の防火扉を閉じて96階より上の防火システムを無効にした。さらにエレベーターシャフトと換気装置を開き、炎が最上部まで到達するよう仕向けた。サラたちを迎えに出向いた男たちは、エレベーターシャフトの爆発に巻き込まれて死亡した。
大型スクリーンでニュースを見たウィルは、自分が事件の容疑者として警察に追われていることを知った。警官たちに拳銃を向けられた彼は、隙を見て逃亡した。ジャオは脱出用のヘリコプターを準備させ、金庫を開けた。ウィルが鉄塔を登ってザ・パールへ乗り込もうとする姿を、テレビ局のカメラが捉えた。ジャオはアジャニから犯人の心当たりを問われ、「コーレス・ボータだ」と答える。「ボータが貴方の命を狙うなら、もっと楽な方法があるはずです」と言われた彼は、「目的は私じゃなく、これだ。ビルに火を付けないと奪えない物だ」と金庫から出したデータドライブを見せた。
ウーの差し向けた警官隊が追って来る中、ウィルはクレーンを操作してザ・パールまでの道を作った。しかしクレーンが外れたため、彼はジャンプしてザ・パールに飛び移った。ジャオはヘリコプターに向かうが、アジャニはパイロットが会社の人間ではないと気付く。ボータと結託していたピアースは銃を発砲し、そこにボータの一味が乗り込んで来た。一味は警備の人間を始末し、ボータはジャオに「お前をドライブと一緒にヘリコプターで連れて行く」と言う。しかし瀕死だったアジャニが最後の力を振り絞って操縦士を撃ち、ヘリコプターは爆発して使えなくなった。
ジャオは隙を見て逃げ出し、ペントハウスに滑り込んでドアを封鎖した。ジャオからドアを開けるよう命じられたシアは、「ペントハウスには独自のサブルーチンがある。タブレットでは開けられない」と伝える。さらに彼女は、ウィルがザ・パールに侵入したこと、家族が生きていることを報告した。「無理にドアを開ける必要はない。ここを開けられるウィルを捜せ」とボータが命じると、ピアースは「捜す必要はない。来てもらえばいい」と口にした。
ピアースはサラたちを見つけ、連行しようとする。サラはピアースと戦い、子供たちを逃がす。彼女はピアースに怪我を負わせて子供たちの後を追い掛けるが、炎で橋が壊れてしまった。ジョージアとヘンリーは、燃える倒木によって分断されてしまう。ヘンリーは「逃げる道を捜すから、その先まで登るんだ。そこで落ち合おう」と言い、子供たちは別れた。サラはピアースに追い詰められるが、ウィルが駆け付けて助けた。ヘンリーは両親が見える場所まで戻り、ジョージアが公園の先にいることを教えた。
サラとヘンリーが合流すると、ウィルはエレベーターを使って下の階へ避難させた。ジョージアがボータたちに捕まりそうになったので、ウィルは急いで救出に向かう。しかしボータは銃を構えて脅しを掛け、ウィルにペントハウスのドアを開けてジャオを連れて来るよう要求した。「ここからドアを開けるのは不可能だ」とウィルが言うと、ボータはジョージアを人質に取った。ビルを脱出したサラはウーやハン巡査たちの元へ行き、中の状況を伝えた。
サラはは一味の荷物に翼の付いた「シリン」というロゴが付いていたことをウーたちに話し、調べるよう求めた。ハンがネットで検索し、それはパラシュートだと判明した。ウーとハンは周囲の環境を分析し、一味が無人の建設現場に着陸するのではないかと推理した。ウィルはビルの窓ガラスを破壊し、ロープを腰に巻き付けて外壁を移動する。彼は風力タービンの配線を切断し、ペントハウスの扉を開けることに成功した。しかしシステムエラーでタービンが爆発し、ウィルは宙吊り状態になってしまう…。

脚本&監督はローソン・マーシャル・サーバー、製作はボー・フリン&ドウェイン・ジョンソン&ローソン・マーシャル・サーバー&ハイラム・ガルシア、製作総指揮はダニー・ガルシア&ウェンディー・ジェイコブソン&エリック・ヘダヤット&エリック・マクレオド、共同製作はペトラ・ホルトーフ=ストラットン、撮影はロバート・エルスウィット、美術はジム・ビッセル、編集はマイク・セイル&ジュリアン・クラーク、衣装はアン・フォーリー、視覚効果監修はクレイグ・ハミック、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はドウェイン・ジョンソン、ネーヴ・キャンベル、チン・ハン、ノア・テイラー、ローランド・ムーラー、バイロン・マン、パブロ・シュレイバー、ハンナ・クィンリヴァン、ツィ・マー、マッケンナ・ロバーツ、ノア・コットレル、ケヴィン・ランキン、エルフィナ・ラック、エイドリアン・ホームズ、グレタル・モンゴメリー、ジェット・クライン、ケイデン・マグヌソン、バイロン・ローソン、ジェイソン・デイ、ライアン・ハンドリー、ショーン・コーンケ、ショーン・スチュワート、ブライアン・ホー、ネルソン・ウォン、マイク・リー、コリン・コリガン、オマリ・ニュートン、ヴィーナス・ターゾ、ポール・マクギリオン、マット・オレアリー他。


『ドッジボール』『セントラル・インテリジェンス』のローソン・マーシャル・サーバーが脚本&監督を務めた作品。
ウィルをドウェイン・ジョンソン、サラをネーヴ・キャンベル、ジャオをチン・ハン、ボータをノア・テイラー、ピアースをローランド・ムーラー、ウーをバイロン・マン、ベンをパブロ・シュレイバー、シアをハンナ・クィンリヴァン、シェンをツィ・マー、ジョージアをマッケンナ・ロバーツ、ヘンリーをノア・コットレルが演じている。

レジェンダリー・ピクチャーズが製作しており、香港資本も入っている。作品の舞台が香港になっているのは、そういう事情があるからだ。中国資本が入ると、中国系俳優が起用されるのは当然の流れだ。
アメリカが舞台だと、そこに中国人がいることに不自然さを抱くこともある。しかし本作品の場合は舞台が香港なので、中国人がいるのはごく普通の光景だ。
舞台を香港にしたことで、中国系俳優を自然な形で起用できるわけだ。
ただ、「そもそも香港を舞台にしていることが引っ掛かる」と言われたら、何も返す言葉は無いけどね。

多くの人が似たようなことを言っているようだが、『ダイ・ハード』に『タワーリング・インフェルノ』の要素を加え、他に幾つかの飾を付けた物を2じゃなくて4から6ぐらいで割った映画である。
個人的に、ハリウッドのアクション映画は「『ダイ・ハード』以前」と「『ダイ・ハード』以降」という分け方が出来ると思っている。それぐらい、革新的な作品だったのだ。そのため、その後に模倣した映画が多く作られた。
ただ、2018年にもなって、今さら模倣する映画が出て来るとは思わなかったよ。「何度目の青空か?」ならぬ「何匹目のドジョウか?」だわ。
しかも、それがC級アクション俳優の主演作じゃなくて、ザ・ロック様の主演作でね。

「ザ・ロック様の映画なのに亜流どまりでいいのか」という問題を置いておくとすれば、『ダイ・ハード』の亜流であっても、面白ければOKだろう。
でも残念ながら、出来栄えは芳しくない。亜流映画としても、満足できるレベルに達しているとは言えない。
製作費は潤沢に使われているので、見た目だけなら充分に「ハリウッドのトップスターの主演作」としての質を保っている。かつて雨後の筍の如く登場した『ダイ・ハード』の亜流映画のように、低予算を感じさせるようなことは無い。
でも、中身が伴っていない。

冒頭のシーンでは、10年前に起きた出来事が描かれる。ウィルは人質事件で特殊部隊を率いて現場に突入し、爆発に巻き込まれて左足の膝から下を失う。
そこから話を始めるんだから、その出来事が後の展開に繋がって来ると考えるのは当然だろう。しかし驚くことに、これが全く関係ないのである。
「病院でサラと出会って結婚した」という経緯があるが、こんなのは冒頭で触れておく必要など無い。既に結婚している状態から話を始めても、何の関係も無い。
その出来事に今回の事件と重なる部分があり、「10年前に負った心の傷をウィルが今回の事件で克服する」といった展開があるわけではない。

その事件がきっかけでベンはテロリスト一味の仲間になるのだが、これも「ここで触れておくのが必須条件」というわけではない。
現在のシーンでベンを初めて登場させた上で「実はテロリスト一味」と展開させても、そんなに大差は無い。こいつが一味になったのは「冒頭の事件でウィルを恨んでいた。他の道は無かった」ってことなんだけど、「他の道なんて幾らでもあるだろ」と言いたくなるし。
そもそもベンというキャラの使い方に問題があるので、こいつを排除して話を作った方がいい。「仲間のはずだった奴が裏切って云々」という筋は、まるでうまく使えていない。
ここのポジションは、ウィルが香港で初めて会う奴でも一向に問題は無い。例えば、ジャオの側近が密かに裏切っていたという設定でもいいだろうし。

「事件で義足になっているんだから、そこを使うための設定なんじゃないか」と、きっと多くの観客が思うことだろう。冒頭の爆発事件で、後の展開に繋がりそうな要素と言えば、やはり「義足になった」という部分だよね。
ところが、これが全く活用されていないのだ。
普通に考えれば、「ウィルは義足なので思うように動けず苦労する」という形で使われるはず。でも、ウィルにとって義足は何のハンデにもなっていない。たった1シーン、「ペントハウスの扉が閉まらないよう義足を差し込む」というトコで使われるだけ。
なので、義足の設定は無意味と断言できる。

「あの事件から武器を持つ気にならない」ってことで、ウィルは10年も銃を握っていない。
なので、「銃を使うことに躊躇する」という要素が大きく物語を動かすのかというと、そんな展開も用意されていない。
「10年も銃を使わなかったブランクがハンデになる」ってこともない。そもそも彼は銃を所持していないので、素手で戦うしかないんだし。
終盤の展開で「ずっと銃を握っていなかった」という設定がドラマに深く関わって来るのかというと、そんなことは全く無いし。

現在の香港でウィルが登場すると、サラが「携帯が動かなくなったので直して」と頼むシーンがある。この時、ウィルは「携帯がおかしい時は、電源を入れ直せ。それで大抵は解決する」と言っている。
そんな会話は全く必要が無いようにも思えるが、これは終盤に向けた伏線である。
ラスト直前、タブレットを手に入れたサラはウィルとジョージアを救うため、電源を入れ直す。するとビルのシステムが復旧し、消火活動が開始されるのだ。
いやいや、あれだけ巨大なハイテクビルの全システムが、「電源の再起動」という簡単な作業だけで復旧してしまうのかよ。そもそも、あれだけの大火災でシステムは無事だったのかよ。メチャクチャだな。

ウィルは白バイを奪ってザ・パールに向かったことで、警察からテロリスト一味だと誤解される。この要素が物語に大きな影響を与えるかというと、そんなことはない。どう考えたって大きく扱わなきゃいけないはずの要素だが、まるで上手く機能させられていない。
ウィルが警察に疑われようと疑われまいと、どっちにしろザ・パールに突入してからは「孤独な戦い」を余儀なくされる。そしてザ・パールに突入してしまえば、警察は全く手が出せない。
なので、ウィルがザ・パールに入るまでが勝負になる。一応、警察がウィルを捕まえようとする動きはあるものの、「無くてもよくね?」という印象が強い。それが無くても、ウィルがザ・パールに突入するのは困難な仕事なんだし。
「ウィルが警察に容疑者だと誤解される」という要素は、それが明らかにされた時点で半ば死んでいると言ってもいい。

タブレットは生体認証システムなので、ウィルしか使えない設定だ。でもテロリスト一味はタブレットを奪う時に生体認証を済ませるので、彼らでも使えるようになる。
そんなに簡単にテロリスト一味が使えるようになるのなら、「生体認証でウィルしか使えない」という設定にしている意味は無いよね。
「生体認証が必要なので、その権限を持つ奴の身柄を一味が確保しようとする」とか、「自分しか使えないことをウィルが利用する」ってな感じで話を転がさないのなら、そんな設定は早々と死ぬでしょ。
後半に入って「ペントハウスのドアを開けるにはウィルが必要」ってことになるけど、どっちにしろ「生体認証が云々」という要素は要らないよね。

ジャオはアジャニから犯人について問われた時、「ボータの狙いは私の命じゃない」と言う。でも一味はジャオの前に現れた時、容赦なく発砲している。
どう考えても、それは「ジャオを生かしたまま捕まえる」という狙いを持った行動ではない。なぜかジャオだけが生き残るが、それは御都合主義に過ぎない。
そこに限らず、テロリスト一味の行動はデタラメで適当だ。
一味に限らず、この映画に出てくる連中は揃いも揃ってデタラメで適当だ。

何より問題だと思うのは、「ウィルの行動目的が映画のストーリー展開と上手く合致していない」ってことだ。
主人公の行動目的が映画に合わないなんて、そんなことがあるのかと思うかもしれないが、あるんだよね、これが。
どういうことなのかというと、ウィルは家族を救うことだけを考えて行動しているのだ。だから犯人が何をやろうと、彼は全く関心が無い。家族さえ救えれば、それで満足なのだ。でも映画としては、犯人を退治してテロを阻止してくれないと困るのだ。
もちろん、結果だけ見れば、ウィルは敵と戦うし、テロも阻止されている。だけど、あくまでも結果論であって、ウィルの意識が犯人退治やテロの阻止に向くことは一度も無いのだ。
例えば「行き掛かりで仕方なく、敵と戦ったりテロの阻止に奔走したりすることになる」ってのをコメディー的に処理しているのなら、それはそれで面白いかもしれない。でも、そういうことではないからね。

「ウィルがザ・パールに突入して敵を次々に倒し、家族を救い出す」ってのは、たぶん大半の人が予想する大まかな内容だろう。
どうせ『ダイ・ハード』の亜流なんだし、そこを大きく裏切る必要など何も無い。基本的な部分に関しては、ベタに模倣しても構わない。
しかし実際には、そこで余計な裏切りを用意する。
まず、ウィルがザ・パールに突入するまでに、時間を浪費してしまう。彼がザ・パールに突入するのは、47分辺りだ。
では突入した彼が敵と遭遇して戦いになるのかというと、なかなかそういう展開が訪れない。

家族を救うのが目的であっても、「そのために邪魔をする敵を倒す」ってのが手段としてあるべきじゃないかと思うのよね。でもウィルが敵と戦うシーンは、1時間ほど経過した辺りまで訪れない。
そこも少し戦うだけに留まり、一味に捕まってしまう。そしてジョージアが人々に取られ、しばらくは「一味の指示に従って行動する」という時間が続くので、敵との戦いはお預けになる。
その後、ほとんど時間が無くなってから、ようやく「ウィルが敵と戦う」というシーンがある。
だけど、そこではジャオが手助けしているんだよね。手助けっていうか、「ウィルの窮地をジャオが救う」という展開まであるんだよね。

基本的にはウィルの活躍を描くが、サラも子供たちを守るために戦っている。彼女はピアースに立ち向かって怪我を負わせたり、ヘンリーを背負って危険な橋を渡ったりする。
だけど、そういう中途半端な目配せみたいなシーンなんて要らないわ。
全ての活躍はウィルに担当させちゃえばいいのよ。ザ・ロック様の主演作なんだから、彼のスター映画として徹底すればいいのよ。
「女性も活躍させないと」という余計なバランス感覚なんか、邪魔なだけだぞ。

ところが困ったことに、サラにも活躍の場を与えるだけでは終わらない。「中国系の俳優にも活躍の場を与えなきゃ」という配慮なのか、終盤には「逃亡を図る一味をウーたちが逮捕する」という展開も用意されている。
つまり、ウィルが一味を退治するのではなく、香港警察が逮捕するのだ。
いや、もちろん最終的に警察が一味を逮捕するのはいいんだけどさ、その前に「ウィルの活躍によって事件は解決した」という流れがあるべきでしょ。
この作品だと、警察とサラの貢献度が無駄にデカすぎるのよ。

(観賞日:2020年3月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会