『スキップ・トレース』:2016、中国&香港&アメリカ

香港刑事のベニー・チャンは、相棒のヤンを追って港の鉄塔に登る。マタドールと呼ばれる男を捜索していたヤンは、体に時限爆弾を巻き付けられていた。ベニーはヤンの右手と手すりを繋いでいる手錠を撃って切断し、急いで時限爆弾を取り外そうとする。しかし、ヤンは「無理だ。時間が無い。マタドールの罠だ」と告げ、腕時計を形見として渡した。彼は「娘を頼む」と言い残して鉄塔から海に飛び込み、爆発音と共に大きな水しぶきが上がった。
9年後、ベニーは部下のレスリーやエズモンドと共に、台湾でハンサム・ウィリーという男を張り込んでいた。ベニーは名高い実業家であるヴィクター・ウォンの正体が香港裏社会を牛耳るマタドールだと確信し、その証拠を見つけるために動いていた。ベニーは部下たちに援護を頼み、ウィリーのいる川沿いの麻薬倉庫へ侵入した。しかしウィリーの一味に気付かれてしまい、格闘になる。ウィリーがモーターボートで逃亡を図ると、ベニーはレスリーとエズモンドに追跡を命じた。
倉庫は柱が折れて倒壊し、連鎖して周辺の家屋も次々に崩れてしまった。さらにガスボンベに引火して大爆発を起こすが、ベニーは川に飛び込んで難を逃れた。ベニーは上司のタンから厳しく叱責され、「ウォンがマタドールということは有り得ない」と告げられる。タンはベニーに1ヶ月の停職を通達し、退職も考えるよう促した。同じ頃、ロシアではアメリカ人のコナー・ワッツがボウリング場で拘束され、マフィアのディーマに脅しを受けていた。
前日、コナーは飛行機で同情を誘う作り話を語り、女性客と女性乗務員を感涙させていた。小説から拝借した陳腐な作り話だったが、女性たちはイチコロだった。空港を出たコナーはマカオのカジノに繰り出して大儲けし、お得意様担当のサマンサに目を奪われた。コナーはサマンサがウィリーを盗撮していると気付き、彼女に話し掛けて助けた。ウィリーに緊張していた理由をコナーが尋ねると、サマンサはボスだからだと答えた。
部屋に入ったコナーの元に、ディーマの手下であるセルゲイたちが現れた。「金なら払う」とコナーは慌てて釈明するが、セルゲイたちは「ディーマが話したがっている」と連行しようとする。隙を見て逃げ出したコナーは、サマンサから盗んだカードキーを使ってvipフロアに向かうエレベーターへ飛び込んだ。すると扉が開いき、エスターという女性が助けを求めて走って来た。しかしエスターは男たちの発砲を受け、エレベーターに倒れ込んで死亡した。
コナーはホテルから脱出し、セルゲイたちを見つけると「ロシアへ行こう」と言う。サマンサはウィリーから、「コナーのようなペテン師をvipフロアに上げるとは。奴はカジノで荒稼ぎした。見つけて損を取り戻せ。生死は問わない」と告げられる。ベニーはサマンサの訪問を受け、「なぜ奴の下で働いてる?お父さんを殺した相手だぞ」と叱責される。「情報を集めるためよ」とサマンサは主張し、ウィリーにコナーのイカサマを助けたと思われていることを話す。ベニーはレスリーに連絡し、コナーの指名手配を要請した。
ベニーはエズモンドにコナーの居場所を突き止めてもらい、シベリアに飛んだ。彼はボウリング場に侵入し、コナーが逆さ吊りにされている姿を確認する。ディーマの娘であるナタリアは、コナーに「貴方の赤ちゃんが出来たの」と嬉しそうに言う。コナーはナタリアから父は肉屋だと聞き、軽い調子で口説いたのだ。ディーマに「娘と結婚すれば許してやる」と言われたコナーは、「誤解だ。間違ってる」と告げる。ディーマは手下のダーシャに、コナーの始末を命じた。
ベニーは飛び出してコナーを助け、ボウリング場から逃走する。ベニーは香港警察の刑事だと告げ、コナーをマカオへ連行しようとする。そこへディーマの手下たちが追って来ると、ベニーは次々に蹴散らした。コナーはベニーがダーシャと戦っている内に、逃亡を図る。だが、女性との戦いを避けたいベニーは、ダーシャを縛り上げてコナーを追った。コナーは車に乗せられるが、ベニーのパスポートを燃やしてマカオ行きを阻止しようとする。ベニーはコナーを眠らせ、汽車に乗せた。
ウォンはウィリーに、ベニーとコナーがマカオへ戻る前に始末し、スマホを入手するよう命じた。車掌が切符とパスポートの確認に来ると、ベニーはコナーを連れて汽車から飛び降りた。コナーはベニーに、「奴らが俺を追ってるのは殺人現場を目撃したからだ」と言う。彼はホテルでエレベーターに乗った時、ウォンからスマホを渡すよう要求されたエスターが拒否し、ウィリーに射殺される様子を目撃していた。「マカオに戻ったら俺は殺される」と彼が訴えると、ベニーは冷淡に「知ったことか」と告げた。
ウィリーは手下のティン・ティンたちを引き連れ、サマンサのアパートへ侵入した。気付いたサマンサは彼らを感電させ、アパートから逃走した。モンゴルに入ったベニーはエズモンドに電話を掛け、カジノで殺人があったという報告は入っていないと告げられた。コナーはエスターからスマホを受け取って託されていたが、それをベニーには隠していた。ベニーは車を借りようとするがカードが使えず、業者に腕時計を渡した。
オンボロ車を借りたベニーが運転すると、コナーはスマホを見せてエスターから託されたことを話した。コナーは「充電すれば何か分かるはずだ」と言うが、ベニーは全く信用しなかった。コナーは隙を見てベニーを突き落とし、車を奪って逃走する。だが馬力の無い車は坂道で逆走してしまい、すぐにベニーは追い付いた。ゴビ砂漠に入った2人は車を捨て、徒歩で先へ進む。ベニーは落馬して怪我を負った少年を見つけ、声を掛けて助けようとする。その隙にコナーは馬を奪って逃亡を図るが少年の部族に捕まって巨漢と対決させられた。
ベニーが助けに入ると、巨漢は彼にも襲い掛かった。しかし少年がベニーに親切にしてもらったことを族長に伝えたため、ベニーとコナーは歓迎を受けることになった。宴に参加したベニーは酒を飲んで気持ち良くなり、アデルを歌って部族と盛り上がった。ベニーはコナーに、9年前に相棒をウォンに殺され、復讐だけを求めて生きて来たことを語った。翌朝、彼が目を覚ますと、コナーは手紙とスマホを残して姿を消していた。しかしコナーが隠しておいた現金で買った馬は全く言うことを聞かず、すぐにベニーは追い付いた。
ベニーとコナーが中国国境に到着すると、設置された大型スクリーンにウォンが出席した式典の様子が写し出されていた。コナーはベニーに、「カジノで女を撃ったのはあいつだ」と教えた。そこでベニーは行き先を香港に変更すると決め、コナーに「ウォンが麻薬王だと証明するため半生を懸けてきた」と言う。裁判での証言を求めら垂れコナーは嫌がり、警備兵たちに「助けて、この男に誘拐された」と訴える。ベニーとコナーは拘束され、2人とも殺人で逮捕状が出ていることを知らされた。
ベニーとコナーは荷物を没収され、刑務所へ護送される。しかしダーシャが手下のウラジミールたちを引き連れて現れ、護送担当者を叩きのめした。一味はコナーを連れ去ろうとするが、ベニーが蹴散らした。ベニーとコナーは車を奪い、スマホを取り返した。関わりたくないコナーは拳銃でベニーを脅すが、すぐに奪われた。2人はイカダを用意し、川を進む。ベニーが命懸けで救おうとしているのがサマンサと知ったコナーは、「よりによって彼女か」と漏らす。コナーは裁判での証言を承諾し、「アンタとサマンサのためだ」と告げた。
ベニーとコナーは辿り着いた村でスマホを充電するが、指紋認証が必要だった。コナーは「それはマタドールのスマホだ。ロックを解除できるのは彼の指紋だけだ」と言い、ウォンの指紋で解除できれば証拠になることをベニーは理解した。一方、サマンサはタンの元へ行き、助けを求めた。しかしタンはウィリーと結託しており、「ベニーたちの居場所を見つけた。戻るまでサマンサから目を離さないでくれ」と電話で指示されて承諾した。翌朝、ベニーとコナーはウィリーたちに見つかり、村から脱出する。険しい崖に追い込まれた2人は、滑車を使って一味から逃亡した…。

監督はレニー・ハーリン、原案はジェイ・ロンジーノ、脚本はジェイ・ロンジーノ&ベンデヴィッド・グラヴィンスキー、製作はジャッキー・チェン&チャールズ・コーカー&ダミアン・サッカーニ&ウー・ホンリャン&エスモンド・レン&デヴィッド・ガーソン、製作総指揮はフランク・ボットマン&クリス・リットン&サイモン・オークス&マーク・シッパー&ミン・リー&リウ・シャオリン&チー・ジャンホン&ヤン・チェンファ&チョウ・ウェンリー&リウ・イーウェイ&ユー・チャンリャン&サン・クンフェン&チェン・ハン、共同製作総指揮はジョー・タム&ガオ・クン&エリザベス・リーダー&ワン・リーフェン&イヴォンヌ・リウ、撮影はチャン・チーイン、美術はオリンピック・ラウ、編集はデレク・ホイ、衣装はクリスタル・パー、武術指導はウー・ガン、音楽はコンフォート・チャン、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル、ファン・ビンビン、エリック・ツァン、イヴ・トーレス(イヴ・グレイシー)、ウィンストン・チャオ、ヨン・ジョンフン、シー・シー、マイケル・ウォン、ディラン・クォ、チャン・ランシン、ナー・ウェイ、チャーリー・ローズ、ミハイル・ゴレヴォイ、サラ・フォルスベリ、ジェイ・デイ、ティムール・マミサシヴィリ、ジョエル・アドリアン、ポール・フィリップ・クラーク、トマー・オズ、サブリナ・キウ、ブライアン・アダム・ウォン、グレゴリー・ジョセフ・アレン他。


『5デイズ』『ザ・ヘラクレス』のレニー・ハーリンが監督を務めた作品。
脚本は『バチェラー・パーティ2 最後の貞操ウォーズ』のジェイ・ロンジーノと、これが初長編となるベンデヴィッド・グラヴィンスキーによる共同。
ベニーをジャッキー・チェン、コナーをジョニー・ノックスヴィル、サマンサをファン・ビンビン、ヤンをエリック・ツァン、ダーシャをイヴ・トーレス(イヴ・グレイシー)、ヴィクターをウィンストン・チャオ、ウィリーをヨン・ジョンフン、レスリーをシー・シー、タンをマイケル・ウォン、エズモンドをディラン・クォが演じている。
ちなみにイヴ・トーレスはプロレスラーで、旦那は柔術家のヘナー・グレイシーだ。

冒頭、ベニーが鉄塔に登ると、ヤンが体に時限爆弾を巻き付けて立っている。
右腕が手すりに手錠で繋いであるので、逃げられない状況ということは分かる。それでも携帯電話で救援を要請することは出来るはずだが、たぶん犯人に奪われて連絡できないという設定なんだろう。
ただ、そんな風に解釈しても、「都合良くギリギリのタイミングでベニーが到着したのは、どういうことなのか」という疑問は湧いてしまう。
っていうかね、もうハッキリ言っちゃうと、ヤンが海に飛び込んだ時点で、彼が死んでいないのも、こいつの正体がマタドールなのも、全てバレバレになってんのよね。
あえて好意的に解釈するなら、「とても分かりやすい」ってことだ。

そのように、終盤に用意している肝心なドンデン返しは序盤で簡単にバレているのに、他のトコで無駄に話が分かりにくくなっている。
言うまでも無いだろうが、それはミステリアスにする狙いで意図的にやっているわけじゃない。ただ作業が雑で説明が下手なだけだ。
いや、厳密に言うと、意図的に情報を隠したまま引っ張っているポイントも一部には存在する。
ただ、それも効果を発揮するようなことは無く、「さっさと明かした方がいいのに」と思うだけだ。

問題のある箇所を、具体的に幾つか挙げよう。
ベニーとヤンの冒頭の会話で、彼らがマタドールという人物を追っていたことが明らかにされている。しかし9年後に飛ぶと、ベニーはウォンという人物を逮捕するために動いている。
では9年前の出来事と全く関係ないのかと思いきや、タンの台詞で「ベニーはウォンの正体がマタドールと睨んでいる」ってことが分かる。
そういうことなら、先に説明しておいた方がいい。
タンが話すまで、ベニーがウォンとマタドールを同一人物だと思っていることも、マタドールが香港裏社会を牛耳る人物であることも、ウォンが名高い実業家であることも分からないのは、説明の手順がマズいとしか思えない。

ベニーはウィリーを張り込んでいるが、そのウィリーがウォンの手下なのか、取引相手なのか、その辺りもハッキリしない。
ウィリーの下で働くサマンサがヤンの娘ってことは彼女がベニーの元を訪れるシーンまで隠されているが、これは余計な引っ張りにしか思えず、さっさと明かしてしまった方がいい。
この映画において、情報を隠したまま話を進める行為の大半はマイナスだと言っていい。
どんな映画でもダメってことじゃなくて、この作品では処理が下手なので失敗しているってことだ。

ベニーはオープニングで相棒のヤンを殺され、仇討ちに燃えてウォンを逮捕しようと躍起になっているはずだ。
しかし麻薬倉庫を張り込むシーンのアクションは、コミカルな味付けが感じられるモノになっている。
ジャッキー主演作で、シリアスな事件が起きてもコミカルな味付けが含まれるケースってのは色々とある。
ただ、この映画では、そのバランスや融合が上手くいっておらず、「どっちにも振り切っていないだけ」と感じてしまう。

ジャッキー・チェンの相棒としてジョニー・ノックスヴィルを配置しているのは、『ラッシュアワー』や『シャンハイ・ムーン』と同じアイデアだ。
英語は達者じゃないけど格闘能力に長けたジャッキーに、アクションは得意じゃないけどお喋りが得意な役者を組み合わせるというやり方だ。その相棒が軽薄なお調子者というキャラ造形も、まるで同じだ。
ジャッキーも主演作ではコミカルな役を演じることが多いが、そういうケースでは真面目な性格のキャラを担当する。そこも全く同じだ。
つまり、そこに新たなアイデアは皆無で、ジャッキーがハリウッド映画でやってきた仕事の焼き直しに過ぎないってことだ。

「今までに無かったアイデア」を求めたら、そんな物は絶対に出て来ないと言ってもいいだろう。
何も無いゼロの状態から新たなアイデアを生み出せる人間など、世の中には存在しないと断言できる。誰もが今までの経験や知識からアイデアを生み出すのだ。
ただし、他の作品で扱われていたアイデアを拝借することは出来る。つまり、「他の映画ではあったけど、まだジャッキー主演作では無かったアイデア」を持ち込めば、それが新鮮味に繋がるはずなのだ。
しかし、そんな意識を全く持たず、この映画は何匹目かのドジョウを狙ったような内容に終始してしまっている。

さらに厄介なことに、っていうか当然の結果と言えるのかもしれないが、ジャッキー・チェンとジョニー・ノックスヴィルの初コンビは、クリス・タッカーやオーウェン・ウィルソンとのコンビに比べて明らかに落ちるのである。
つまり、『ラッシュアワー』や『シャンハイ・ムーン』の劣化版、いや超劣化版と表現するのが適切ではないかと感じるような状態になっているのだ。
「コナーが逃げようとするが失敗し、すぐにベニーが追い付く」という天丼も、喜劇としての力は乏しい。
ジョニー・ノックスヴィルが『ジャッカス』のメンバーってのを考慮したのか、彼に肉体労働の幾つかを担当させているが、これも作品の魅力には繋がっていない。

「ベニーとコナーがロシアからマカオへ向かう珍道中」というロードムービーの趣向を持ち込んでいるが、これも面白味に欠ける。
それどころか、ロードムービーとしての方向性を中途半端に持ち込んだせいで、「慌ただしくて中身が薄い」という印象が強くなってしまう。
そのくせモンゴル部族の宴で盛り上がるシーンに時間を割いたりしているが、そこは明らかに無駄な寄り道だし。
「ジャッキー・チェンがアデルの『Rolling in the Deep』を歌い、モンゴル部族がコーラスを入れて踊る」というシーンの面白さが無いとは言わないけど、それを「道草が過ぎる」という印象が遥かに凌駕する。

ジャッキー・チェンも随分と年を取ったため、かつてのような動きのキレや俊敏さは見られなくなっている。だから『プロジェクトA』や 『スパルタンX』の頃と同じような危険なスタントや格闘アクションを期待するのは、酷というものだ。
ただ、それならそれで、他の部分で「年を取っても変わらない魅力」であったり「年を重ねたからこそ出せる魅力」であったりをアピールする方法もあるだろう。
あるいは、「主演俳優の能力」とは別の部分で見所を用意し、リカバリーに繋げるという方法もあるだろう。
そういった意識が、この映画からは何も見えて来ないのである。

最初に「レニー・ハーリンが監督」と知って感じたのは、「彼は派手な爆破が大好きな人だから、そういう方面でジャッキーの肉体的な衰えをカバーするつもりなのかな」と思ったりもした。
つまり、スケール感のある破壊シーンや派手な爆発シーンを用意することによって「アクションシーン」としての見せ場を設け、ジャッキーのスタントや格闘にあまり頼らなくても済むようにする狙いがあるのかと思っていたのだ。
しかし実際のところ、そんなことは全く無かった。

っていうか、特にアクションシーンで感じるのは、「ジャッキー・チェンが監督も兼任する主演作と全く変わらんな」ってことだ。
そこにレニー・ハーリン監督の色は、全くと言っていいほど見えないのである。
かつて発揮していた爆破大魔王としての感覚は、年を取って完全に枯れてしまったのか。
ひょっとすると、「雇われ監督に徹している」ってことなのかもしれない。
ただ、「それならジャッキー・チェンが監督も担当すればいいんじゃないか」と言いたくなってしまう。

(観賞日:2019年4月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会