『SING/シング:ネクストステージ』:2021、アメリカ

バスター・ムーンが経営するニュー・ムーン・シアターでは『不思議の国のアリス』が上演され、ロジータやアッシュ、ジョニーやミーナ、グンターたちが舞台で歌と踊りを披露していた。劇場は満員で、観客はロジータたちに喝采を送った。レッド・ショア・シティーの大手興行会社「クリスタル・エンターテインメント」の社長秘書でスカウト担当のスーキー・レーンが会場に来たので、ロジータたちは気合いが入った。バスターは手応えを感じるが、スーキーは第一幕が終わると劇場を出て行ってしまった。
バスターはスーキーの後を追って話し掛けるが、「いいショーだったけど、メジャーでは通用しない」と言われてしまう。バスターは食い下がり、「オーディションで社長のジミー・クリスタルに見せるチャンスが欲しい」と訴えるが相手にされなかった。落ち込むバスターに、ナナ・ヌードルマンは「何を望んでいたの?夢を追い掛ける人に挫折は付き物よ」と語った。バスターが「チャンスぐらいは貰えると思ってた」と言うと、彼女は自信を持って戦うよう説いた。
バスターはロジータに電話を掛け、皆に連絡して集合させるよう頼んだ。彼はライブハウスで歌っているアッシュの元へ行き、戻って来るよう誘う。オーナーのリックが半分のギャラしかくれなかったので、アッシュは「辞める」と店を去った。バスターはオーディションに参加するため、集合場所のバスターミナルへ赴いた。ジョニーとミーナはバスターに「考え直した方が」と言うが、ロジータは「レッド・ショア・シティーの舞台に立つのは子供の頃からの夢だった。夫を説得した」と語った。
バスターたちは長距離バスに乗り、レッド・ショア・シティーに到着した。一行はクリスタル社の本社ビルに行くが、アポが無いので受付で立ち入りを断られた。バスターたちは制服を拝借して清掃員に化け、エレベーターでオーディション会場へ移動した。ジミーは次々に搭乗してパフォーマンスを披露する参加者たちに対し、厳しい態度で不合格を出していた。苛立つジミーに焦った助手のジェリーは舞台袖から覗いているバスターに気付き、早くパフォーマンスするよう促した。
バスターはロジータたちを引き連れてジミーの前に姿を見せ、ショーを始めようとする。しかし彼が「平凡な女子高生の物語」と前口上を語った時点で、ジミーは「俺のステージには不要だ」と不合格にした。彼が「ビッグなことをしたいんだ」と言うと、グンターが「それなら任せて」と自身が考えるSFミュージカルのアイデアを得意げに語り始めた。彼が「クレイ・キャロウェイの歌もある」と口にすると、ジミーは「私も大ファンだ」と興味を示した。
バスターはアッシュにギターを弾いてもらい、皆でクレイの歌を披露した。彼はジミーの質問を受け、「クレイと個人的な繋がりがあって、歌う許可を取った」と嘘をつく。ジミーが「クレイに出てもらえればビッグなショーになる」と語ると、バスターは出演させると告げる。ジミーは3週間で開幕すると言い、ジェリーに必要な物とホテルの最高級スイートをバスターたちのために用意するよう指示した。彼はバスターに、「俺に恥をかかせたら屋上から突き落とす」と通告した。
アッシュはバスターに、クレイは妻を亡くした15年前から人前に姿を見せていないことを教えた。バスターはミス・クローリーに、クレイの捜索を指示した。バスターはスタッフとキャストに『アウト・オブ・ディス・ワールド』と題したショーのアイデアを説明し、主演俳優にロジータを指名した。ジョニーはエイリアンの戦士役を任され、バスターはダンスバトルのシーンのためにインスタラクターのクラウス・キッケンクローバーからレッスンを受けるよう告げた。
ミーナはキスシーンがあることに不安を覚え、バスターに「ボーイフレンドがいたことも無い」と漏らす。バスターは「心配ない」と呑気に語り、いい相手役を選んだと言う。ノーマンはロジータに会うため、子供たちを連れてホテルにやって来た。バスターはクローリーからクレイの住所を突き止めたと知らされ、手土産を持って訪問するよう頼んだ。ジョニーはクラウスからレッスンを受けるが、まるで付いて行けないので注意されてばかりだった。
バスターはミーナに、相手役であるダリウスを紹介した。ダリウスは自信家で、出演したショーを自慢した。クローリーはクレイの屋敷に到着するが、ペイント弾で攻撃されたので慌てて逃げ出した。バスターがクローリーからの連絡を待っていると、ジミーが娘のポーシャを連れて見学に来た。バスターはリハーサルを始めるが、ロジータは高所からのフライングが怖くなって飛び込み台で座り込んだ。ポーシャは面白がって飛び込み台からダイブし、フライングしながら歌った。
ポーシャが「高い所が苦手なら、この役は出来ないわね。私がやるわ」と言い出したので、バスターは「これはロジータのために書いた役だから、君にやらせるわけには行かない」と困惑する。しかしジミーから「私の娘がショーに出演するのは不満か。これはチャンスだぞ」と言われ、彼の機嫌を取るためにポーシャへの交代を承諾した。彼はロジータに、別の役を書くと約束した。ロジータは気丈に振る舞うが、1人になってから泣いた。
ジョニーは個人練習も積むが、全体練習ではミスを繰り返してクラウスから何度も注意された。ストリートダンスで大勢の人々から喝采を浴びるダンサーのヌーシーを目撃した彼は、50ドルで個人レッスンをしてほしいと頼んだ。ジョニーがヌーシーをスタジオへ連れて行くと、クラウスは批判的な言葉を口にした。ヌーシーは余裕の態度を見せ、2日で充分だと自信を見せた。ロジータはバスターが新たに用意した役を演じることになったが、それはポーシャに退治されるエイリアン・モンスターだった。
バスターはジミーに呼び出され、「クレイ・キャロウェイの弁護士は、お前なんか知らないと言っている」と告げられた。来週末までにクレイの出演を決めて来いと要求されたバスターは、絶対に失望させないと約束する。彼はクレイの屋敷へ向かう準備を整え、アッシュが同行を希望したので承知した。バスターはグンターにエンディングの内容を考えるよう指示し、クローリーには自分の代役を任せた。彼はクローリーに、「厳しく指導しろ。絶対にスケジュールを遅らせるな」と命じた。
ミーナはダリウスに恋をする演技が上手く出来ず、変な笑顔になった。彼女はアイスクリーム売りのアルフォンゾと出会い、一目惚れした。バスターとアッシュはクレイの屋敷に到着するが、柵の外から呼び掛けると帰るよう要求された。2人は柵を越えようとするが、電気が流れていたので失神した。バスターが意識を取り戻すと、屋敷の中で介抱されていた。アッシュは彼に、クレイへの出演交渉は断られたと話す。バスターが改めて出演を依頼すると、クレイは冷たい態度で拒否した。
ジョニーはヌーシーのレッスンを受け、全体練習で見事なダンスを披露してクラウスを悔しがらせた。ミーナは緊張のせいでアルフォンゾと上手く話せず、何度もアイスクリームを買って食べた。バスターは執拗にクレイへの出演要請を繰り返すが、反応は何も変わらなかった。クレイが「どっちにしろ、もう俺は歌えない」と言うと、アッシュは妻を亡くしてから歌えなくなったことを指摘する。「奥さんは今の貴方を見ても喜ばない。もう一度、演奏して」と彼女が語ると、クレイは「15年間、自分の曲は聴いてもいない。ルビーが俺の全てだったからだ」と感情的になった。
アッシュはバスターに帰るよう指示し、「私はもう少し彼と一緒にいる。放っておけない」と述べた。バスターはロジータたちの元へ戻り、芝居の準備を進める。彼はポーシャの演技力に我慢できなくなり、ロジータと主演を交代するよう持ち掛けた。ポーシャは腹を立てて「パパに言い付けてやる。私のことが嫌いだったのね」と声を荒らげ、バスターが慌てて釈明しても耳を貸さなかった。一方、アッシュがポーチでギターを弾きながら歌っていると、クレイが隣に来て腰を下ろした。
ポーシャがクビになった出来事はテレビでも大きく取り上げられ、ジミーは娘から話を聞いて激怒した。バスターはジミーの呼び出しを受けて部屋へ向かう途中、アッシュからの電話で「クレイを説得した。今からそっちへ行く」と聞かされた。ジミーはバスターを睨み付け、バルコニーから落とそうとする。しかしテレビの生放送があるので、とりあえず監禁して部屋を去った。バスターが助けを求めて叫んでいると、スーキーが現れた。彼女はバスターを解放し、「早く街を出て戻って来ないで。逃げたと分かったら手下が捜し回る」と警告した。バスターがホテルの部屋に戻って荷物をまとめていると、アッシュがクレイを伴ってやって来た…。

脚本&監督はガース・ジェニングス、共同監督はクリストフ・ルーデレット、製作はクリス・メレダンドリ&ジャネット・ヒーリー、製作総指揮はダナ・クルピンスキー、共同製作はナタリー・ヴァンコーヴェンベルジェ、製作協力はロバート・テイラー、編集はグレゴリー・パーラー、アート・ディレクターはオリヴァー・アダム、CGスーパーバイザーははローレン・デ・ラ・シャペル&ボリス・ジャック、キャラクター・デザインはリック・ギヨン、伴奏音楽はジョビー・タルボット、音楽製作総指揮はハーヴェイ・メイソンJr.。
声の出演はマシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソン、タロン・エガートン、ボビー・カナヴェイル、トリー・ケリー、ニック・クロール、ファレル・ウィリアムス、ホールジー、ボノ、チェルシー・ペレッティー、レティーシャ・ライト、エリック・アンドレ、アダム・バクストン、ガース・ジェニングス、ピーター・セラフィノヴィッツ、ジェニファー・ソーンダース、ニック・オファーマン他。


2016年の長編アニメーション映画『SING/シング』の続編。
脚本&監督は前作に引き続き、ガース・ジェニングスが務めている。
バスターの声を担当するマシュー・マコノヒー、ロジータ役のリース・ウィザースプーン、アッシュ役のスカーレット・ヨハンソン、ジョニー役のタロン・エガートン、ミーナ役のトリー・ケリー、グンター役のニック・クロールらは、前作からの続投。
ジミーの声をボビー・カナヴェイル、アルフォンゾをファレル・ウィリアムス、ポーシャをホールジー、クレイをボノ、スーキーをチェルシー・ペレッティー、ヌーシーをレティーシャ・ライト、ダリウスをエリック・アンドレ、クラウスをアダム・バクストンが担当している。

前作でショーに出演していたメンバーの内、ネズミのマイクだけが再登場しない。それどころか、その存在について台詞で言及することも無い。
完全に「無かったこと」にされているのだが、それはどうなのかと。
ホントは全員が再集結した方がいいけど、例えば声を担当していたセス・マクファーレンのスケジュールが合わなかったとか、何か事情があったのなら仕方が無い。
ただ、せめてマイクが今どこで何をやっているのか、それに触れる台詞ぐらいは用意してもいいんじゃないか。

ロジータが主役を降ろされるのは、ポーシャの身勝手とジミーのゴリ押しによる酷い行為のように描かれている。だけどポーシャの「高い所が苦手なら、この役は出来ないわね」という指摘は、その通りなんだよね。
仮にポーシャのワガママやジミーの圧力が無かったとしても、高所から飛べないロジータを主演に据えたままだと幕を開けることは出来ないわけで。
あと、そういう流れでの降板なので、ロジータが泣くのはポーシャに主役を奪われたからなのか、高所から飛べない自分が悔しいからなのか、その辺りがボンヤリしてしまう。
諸々の問題を考えると、「ロジータは高所から飛べないわけじゃないが、ジミーの圧力にバスターが負けて交代させられる」という形にしておいた方が良かったんじゃないかと。

ジョニーはヌーシーのダンスを見ると、すぐに個人レッスンを依頼する。だけどショーのために練習しているダンスとヌーシーのダンスは、まるでジャンルが違うんだよね。
なので、そこでヌーシーに個人レッスンを要請するのは、ちょっと違うんじゃないかと。
あと、せめて別の場所でコーチしてもらうべきで、クラウスから教わっているショーのためのスタジオへヌーシーを連れて行くのはダメだろ。
それでクラウスが不快感を見せるのは、当たり前の反応だぞ。それはジョニーの失礼な振る舞いにしか思えないぞ。
あと、ヌーシーのレッスンでジョニーは一瞬にして上手くなるので、ここのドラマは皆無なんだよね。

私は前作を決して高く評価していない。何より気になったのは、バスターに全く好感が持てなかったことだ。
そんなバスターの好感度は、前作よりもさらに下がっている。
バスターはオーディションに合格するため、「クレイ・キャロウェイと知り合いで、出演させられる」と平気で嘘をつく。そこに罪悪感は全く無い。
「クレイは妻を亡くした15年前から姿を見せていない」という情報をアッシュから聞いた時点で、出演交渉は難航が予想される。それなのにバスターは何の危機感も抱いていないし、しかも本人との交渉はクローリーに全て任せる。 ジミーに嘘がバレると自ら交渉に出向くけど、そういうトコ、なんか嫌な感じだ。

ジョニーはダンスが上達せず、クラウスから何度も厳しく叱責される。ミーナは初めてのキスシーンに不安を覚え、上手く演じることが出来ない。ロジータは主演を降板させられ、すっかり落ち込んでしまう。
だが、そんな風に演者たちが困ったり悩んでりしても、バスターは全く気付いていないし、気に掛けることも無い。
バスターがスタッフやキャストの助けになろうとして行動することは無く、自分のことしか考えていない。何しろ自分の夢を叶えるためなら、ロジータを主演から降板させて悲しませても平気なんだし。
彼は前作の体験から何も学習せず、何も成長していないのだ。

クレイへの執拗な出演交渉も、「彼の大ファンで、また歌を聞きたいから」ってことではない。ジミーを説得して自分のショーを上演するために、クレイを利用したいだけだ。
ジミーが納得してくれるなら、別にクレイじゃなくてもいいのだ。そこにクレイへの愛やリスペクトは全く無いのだ。
「最初は利己的な目的しか無かったけど、クレイの妻に対する深い愛を知り、彼のために動こうとする」という変化でもあれば、それはそれで1つのドラマとして評価できたかもしれない。
だけど、そんなのは何も無いからね。

そもそもバスターは舞台の演出家や演劇プロデューサーではなく、ニュー・ムーン・シアターという劇場の支配人だ。つまり彼には、守るべき自身の小屋があるのだ。
そこにはショーを楽しみに来てくれる、大勢のお客様がいる。それなのに彼は、そこに出演している面々を引き連れてレッド・ショア・シティーへ移るのだ。
それはニュー・ムーン・シアターを愛する常連の人々、そこでのショーを楽しみにしている人々を見捨てて裏切る行為じゃないのか。
自分の夢を叶えるためなら、前作で大勢の人々の尽力によって再建したニュー・ムーン・シアターは放棄しても構わないってことなのか。

バスターはジミーからポーシャをクビにしたことで激怒されると、「正しいことをしたかっただけ」と弁明する。
だけど、それまでの彼は、さんざん「正しくないこと」を繰り返していたわけで。
まずポーシャが「私が主演を務める」と言い出し、ジミーが娘の起用を要求した時、それを受け入れたのは「正しくないこと」だった。それ以外でも、バスターは色々と「正しくないこと」を繰り返している。
なのに、「正しいことをしたかっただけ」という言い草は、どういうつもりなのかと。

ポーシャを主役から降板させる判断を「正しいこと」と主張するのなら、その前に自分が重ねて来た「正しくないこと」を反省し、謝罪すべきじゃないかと。
それについては全く自覚が無いのに、ポーシャをクビにしたことだけを正当化するのは、身勝手が過ぎるんじゃないかと。
そもそも、ポーシャを降板させたことが本当に「正しいこと」と言えるのかどうかも疑問なんだよね。
もう開幕が迫っている中で急に主演をロジータに戻しても、ちゃんと飛び込み台からダイブしてフライングを成功させられるかどうかは分からないし。それに、主演としての稽古も充分に積んでいないし。

クレイが急に出演する気になった理由は、サッパリ分からない。アッシュの歌を聴いただけで気持ちが変わった形になっているが、なんて簡単な奴なのかと。
ここの描写が薄いから、最終的にステージで歌っても感動は皆無。
あと、ここでもバスターは何もやっていなんだよね。アッシュに全て任せっきりなんだよね。
彼は最初から最後まで、ずっと周囲の面々に負担と迷惑を掛けてばかりなのに、それに対する反省も謝罪も感謝も全く感じられないんだよね。

(観賞日:2024年12月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会