『サイレントヒル』:2006、アメリカ&フランス&日本&カナダ

ローズとクリストファーの夫妻は、夢遊病で家を抜け出した娘のシャロンを捜し回る。ローズは崖から身を投げようとしているシャロンを発見し、慌てて捕まえる。シャロンは「家に帰る。サイレントヒルに」と口にする。クリストファーは駆け付け、「連れて帰ろう。治す方法があるはずだ」とローズに言う。シャロンは毎晩のように家を抜け出し、「サイレントヒルに帰る」と口にしていた。だが、翌朝になって目を覚ましたシャロンは、そのことを全く覚えておらず、サイレントヒルという場所のことも知らなかった。
ローズはシャロンを連れて、サイレントヒルへ向かうことにした。そこへ行けば何か分かるはずだと考えたのだ。クリストファーからの電話が掛かって来ても、ローズは無視した。クリストファーはネットで検索し、サイレントヒルがウエスト・ヴァージニアにあるゴースト・タウンだと知った。夜になり、ローズはガソリンスタンドに立ち寄った。ローズはシャロンが描いた不気味な絵を取り出し、「どうしてこんな絵を描いたの?」と問い掛ける。するとシャロンは、「こんな絵、描いてない」と怯えた様子を見せた。
ローズはシャロンを車に残し、ガソリンスタンドのダイナーに入った。店員に「サイレントヒルへの行き方を知ってる?地図には載っていなくて」と尋ねる。店員は「道は封鎖されてる」と言い、ローズが使おうとしたカードが止められていることを指摘する。その間に、不審を抱いた女性警官のシビルが車へ近付き、シャロンに話し掛けた。ローズはクリスに電話を掛け、「カードを止めても無駄よ」と抗議する。クリスは「ちゃんと入院して治療を受けさせるべきだ」と説得するが、ローズは「薬は効かない。あの子の出生地、ウエスト・ヴァージニアでしょ。確かめたいのよ」と述べた。
電話を切って車に戻ったローズは、シビルから「何か問題でも?」と問われ、「いえ、別に」と答えた。ローズが車を発進させると、シビルがサイレンを鳴らして白バイで追い掛けて来た。ローズは車を停止させるが、看板にサイレントヒルの文字を見た途端、急発進した。彼女は猛スピードで車を走らせ、柵を突破した。シビルが追跡して来る中、カーラジオがノイズを発した。ラジオを切ろうとしたローズは、道路を歩いて横切ろうとする少女に気付く。慌ててハンドルを切ったローズは、車をスピンさせて意識を失った。
ローズが目を覚ますと、空から何かが降っていた。シャロンがいないのに気付いた彼女は、慌てて車を降りた。周囲を捜索するが、娘の姿は見当たらない。ローズは、空から降っているのが灰だと気付いた。路肩の大きな看板に駆け寄ると、「ようこそサイレントヒルへ」と書かれていた。ゴースト・タウンに足を踏み入れた彼女は、少女が走って行くのを目撃する。「シャロン」と呼び掛けながら後を追ったローズだが、地下へ通じる階段まで来たところで見失ってしまった。
ローズが階段を下りようとした時、どこからかサイレンが鳴り響いた。ローズはライターの火を頼りに、暗い階段を下りた。地下通路を歩き回りながら、ローズはシャロンの名前を呼ぶ。また少女を目撃したローズは、逃走する彼女を追った。だが、フェンスに吊るされた不気味な人間と遭遇し、ローズは悲鳴を上げる。彼女の周囲に、不気味な怪人たちが出現した。怪人たちは次から次へと沸き出すように出現し、ローズは必死で逃げ出し、ある部屋に飛び込む。そこへ怪人たちが追って来て、転倒したローズの足を掴む。怪人たちは体が燃えて消滅するが、ローズは恐怖から気を失った。
ローズが目を覚ますと、そこは廃墟となったボーリング場で、既に夜が明けていた。外に出たローズは、全速力で走った。すると、街の端が断崖絶壁となっており、その向こうへは行けなくなっていた。そこへ浮浪者のような女が現れ、「闇に住む者だけが町に通じる扉を開けられる」と口にした。「ここで何が起きてるのか教えて。娘がいなくなったの」とローズが言うと、女は「私も子供を亡くした。邪悪な者たちに騙されて。私の娘に恐ろしい仕打ちを。アレッサ」と告げる。
ローズがペンダントトップに入っているシャロンの写真を見せると、女は「私の娘」と近付いてきた。「やめて」とローズは女を突き飛ばし、その場から逃げ出した。女は「憎しみの炎に焼かれた娘」と呟いた。一方、クリスはローズたちを捜すため、車でサイレントヒルの近くまでやって来た。自動車修理工にサイレントヒルのことを尋ねると、男は「炭鉱の火事がまだ燻ってるから閉鎖されてる。あの灰を吸い込んだら死んでしまう」と語る。
ローズが車に辿り着くと、シャロンの描いた学校の絵が置かれていた。ローズは携帯でクリスに連絡しようとするが、留守電になっていた。彼女はサイレントヒルにいること、シャロンがいなくなったことを話し、「学校にいると思うから、捜しに行く。一人じゃ無理。助けに来て」とメッセージを残した。ローズが車を発進させようとすると、シビルが現れて拳銃を突き付けた。シビルはローズが「娘がいなくなった」と説明しても聞く耳を貸さず、手錠を掛けて逮捕した。シビルは「娘さんは私が捜す」と言って本部に連絡を入れようとするが、無線は通じなかった。シビルは「署まで連行します」とローズを連れて歩き出す。
クリスは留守電のメッセージを聞くが、雑音が多くて何を言っているのか分からなかった。サイレントヒルに通じる橋に到着すると、警官によって封鎖されていた。シープに乗った妻を捜していることを伝えると、警官は警部のトーマス・グッチに連絡する。グッチは「貴方が言っているジープは向こうで見つかりました。中は空っぽで、怪我をしたような痕跡も残っていない」と述べた。それから彼は、部下のシビルが消えたこと、彼女がローズとシャロンを追っていたであろうことを話す。クリスがローズとシャロンを捜しに行こうとするので、グッチは同行しながら事情説明を求めた。
シビルはローズに、2年前に男が子供を拉致し、炭鉱の穴に落とすという事件が起きたことを語る。「自分の娘を傷付けるわけがないでしょ」とローズは言うが、シビルは「自分の娘だという証拠は?」と口にする。断崖まで来たシビルは呆然とするが、それでもローズの話に耳を傾けず、「湖の向こうの火の見櫓に無線があるはず」と逆方向へ歩き出す。シビルが人影に気付いて呼び掛けた直後、無線に雑音が入った。人影が近付いて来ると、それは不気味な怪人だった。シビルは拳銃を構え、止まるよう命じる。しかし怪人は歩みを止めず、液体を噴射した。シビルは拳銃を発砲し、怪人を始末する。その間にローズは逃走した。
ローズは停留所の路線図を確認しながら移動し、ミッドウィッチ小学校に辿り着いた。ローズはメイン・オフィスに入り、鍵の束と懐中電灯を発見する。一方、クリスと共に街へ入ったグッチは拡声器でローズに呼び掛けるが、応答は無い。2人が足を踏み入れたサイレントヒルは、灰が降っていないし、積もってもいない。グッチはクリスに、街で理髪店を営んでいた父が1974年に起きた火事で死んでいること、大勢の住民も犠牲になったことを語る。「当然の報いと言う奴もいたが」と彼は口にした。
学校の中を移動していたローズは、鳥籠を持った一団が廊下の向こうから歩いて来るのを目撃する。中庭を突っ切って再び校舎に入ったローズは、ある教室で「WITCH」の文字が彫られている机に気付いた。机を開けると、ノートの表紙にはアレッサ・ギレスビーという名前が記されていた。少女の姿を目撃したローズは、逃げる彼女を追い掛けてトイレに入った。ドアが開かない個室が1つだけあり、その中から泣き声が聞こえてきた。
ローズが「大丈夫、怖がらないで」と呼び掛けると、ドアが開いた。個室の中には磔にされた腐乱死体があった。ローズは怯えながらも、死体の口からホテルのタイルを取り出した。廊下に出ると、不気味な連中の姿があった。ローズはトイレに戻り、ドアを施錠した。その一団はドアを激しく叩くが、駕籠に入れた鳥が鳴き出すと、慌てて逃亡した。その直後、サイレンが鳴り響いた。すると辺りが暗くなり、屋内の様子が変化した。異形の怪物が出現し、ローズに迫って来た。慌てて逃げ出したローズは、別の怪人たちが無数の虫に襲われて苦悶する姿を目撃する。一心不乱に絵を描くシャロンを見つけた直後、ローズは金網に開いた穴から落下した。
ローズの前に三角の兜を被って大鉈を持った怪人が現れ、彼女は慌てて逃げ出す。小学校に辿り着いたクリスは、ローズが使っている香水の匂いを感じた。しかしローズの姿は見つからず、グッチに促されて立ち去った。ローズが大量の虫に迫られて悲鳴を上げると、シビルが現れて部屋に引っ張り込み、扉を閉めた。2人はパイプを使って扉を塞いだ。シビルはローズの手錠を外す。直後、大鉈がドアを突き破り、彼女たちに襲い掛かった。だが、急に怪人は去り、部屋に入り込んだ虫の群れは宙に浮き上がって消えた。鉈で壊された扉も、元の状態に戻った。辺りは明るくなり、同じ場所なのに、まるで違う場所のように変化していた。
「どうなってんのよ」と困惑するシビルに、ローズは「また同じことが起きる前に、娘を見つけなきゃ」と協力を要請する。彼女はタイルをシビルに見せ、「場所は分からないけど、娘はここにいる」と言う。一方、橋まで戻ったクリスに、グッチは「後は警察に任せてくれ」と告げる。「何か隠してるだろ。ここで何があったんだ?」とクリスが問い掛けると、グッチは「全て過去の話だ」と言うだけで、詳しいことを明かそうとはしなかった。
クリスは車を走らせながら、公文書館に電話を掛ける。彼はサイレントヒルに関する警察の資料を見せてほしいと頼むが、機密扱いということで断られてしまった。ローズとシビルがホテルにやって来ると、中から「あっちへ行って」と叫ぶ女性の声がした。2人が中に入ると、1人の女性が石を投げていた。その標的となっているのは、ローズが断崖で会った女だった。女は「石を投げる視覚があるというの?罪深き迷える羊たち」と告げ、その場から去った。
石を投げていた女は、シビルから名を問われて「アンナよ」と言う。「今の人は?」という質問に、彼女は憎々しげな表情で「追放されたダリアよ。闇の者にも嫌われてる」と答える。ローズがシビルに「娘を亡くしたと言っていた」と教えると、アンナは「罪人なんだから、当然の報いよ」と告げる。ローズが「ここで何をしているの?」と訊くと、アンナは「お母さんに食べ物を持って行く」と言う。シビルが「他にも誰かいるの?」と尋ねると、彼女は「ええ。クリスタベラが守ってくれてる。みんなで教会に避難してる」と述べた。ローズが娘のことを訊くと、アンナは居場所を知らず、「信仰心があれば助かるかも」と告げた。アンナが缶詰をバッグに詰めていると、ローズは床に落ちたナイフを手に取り、「これを貰うわ」と告げる。
ホテルの床には、小学校にもあった印が描かれていた。アンナは「古い建物には全て、この印が描かれている。結束の印よ。そして信仰の証でもある」と話す。シビルはローズの持っているタイルと同じ物が床にたくさん落ちているのを発見する。フロントの棚を調べた彼女は、子供が火に包まれれる姿を描いた絵を発見する。どうやら子供が描いたらしきその絵は、111号室の棚に入っていた。そこでローズは、111号室へ行くことにした。
クリスは職員が帰った後で公文書館に潜入し、サイレントヒルの資料を調べる。すると、シャロンに瓜二つのアレッサ・ギレスピーという少女の写真が見つかった。アレッサは1974年に誘拐され、ホテルの111号室で死体となって発見されていた。クリスは番号案内に電話を掛け、トルーカ郡の児童養護施設の住所を教えてほしいと依頼した。ローズとシビルは、111号室を探す。「一緒だと心強い」ということで、ローズはアンナも連れて行く。だが、どれだけ探しても、111号室は見つからなかった。
ローズが壁の絵を見つめていると、アンナは「最初の火あぶりよ。街が出来る前に、長老たちが罪を清めてくれた」と語る。「魔女狩りをする人たちだったの?」とローズが言うと、アンナは「魔女を焼けば、この世の終わりを防ぐことが出来る」と述べる。ローズは棚の絵を思い出し、「ここだわ」と呟いた。ローズがナイフで絵を引き裂くと、その向こうに111号室の扉が見つかった。部屋に入ると、壁には大きな穴が開いていた。ローズたちは、その穴から隣の建物に飛び移った。その際、ローズはナイフを落としてしまった。
ローズたちが工場跡らしき建物を調べていると、うずくまって泣いている少女の姿があった。ローズの呼び掛けに応じて振り向いた少女は、シャロンと瓜二つだった。「貴方、アレッサね」とローズは話し掛ける。「シャロンはどこなの」とローズが言うと、アレッサは両手を広げる。すると、その腕から炎が燃え上がった。激しく動揺するローズの眼前で、アレッサは姿を消した。シビルとアンナが来ると、ローズは「ダリアの娘を見たわ。あの子がここに導いた。車に飛び出したのも、あの子」と言う。
ローズがアレッサの名を口にすると、アンナは「その名前を言ってはダメ」と警告した。シビルは壁の印に気付き、「あの信仰の証で封印してるのね」と言う。穴から鳥の群れが現れると、アンナが「早く逃げなきゃ、闇の者に捕まる」と告げる。3人は外へ駆け出し、アンナの言う教会へ向かう。その時、サイレンが鳴り響いた。教会の建物を見たローズは、シャロンの描いた絵のことを思い出した。
どこにいたのか、大勢の人々が現れ、教会へ逃げ込んだ。そこへダリアが現れ、「お前たちは内なる恐怖から逃げている。呪われた者たちに加わってはならない。行くな。羊の皮を被った狼たちと共に、地獄へ落ちる」と言ってシビルの腕を引っ張った。アンナが空き瓶を投げ付け、「嘘つき」とダリアを罵った。ローズは「娘さんに会ったわ。アレッサは死んだのね。彼女が導いたのね。なぜ?」とダリアに尋ねる。ダリアは「復讐は悪を呼ぶ。選択を誤るな」と忠告した。
周囲の景色が変化する中、ローズとシビルは急いで教会へ駆け込もうとする。ダリアに敵意を示して逃げ遅れたアンナは三角兜の怪人に捕まり、ローズたちの眼前で惨殺された。ローズとシビルは教会へ逃げ込み、扉を閉めた。人々が「魔女だ、悪魔の手先だ」と騒ぎ出し、ローズに襲い掛かろうとする。シビルが威嚇射撃で住民たちを制した直後、指導者のクリスタベラがやって来た。アンナの母エレノアが「こいつらのせいでアンナが餌食に」と訴えると、クリスタベラは「アンナは掟に背いたのよ。一人でうろつくという罪を犯した。この人たちのせいじゃないわ」と優しい口調で諭した。「今は祈りましょう」という彼女の呼び掛けに、住民たちは従った。
夜遅くになって、クリスは孤児だったシャロンを引き取った児童養護施設を訪れた。クリスは施設の修道女にシャロンのことを尋ねるが、「何も教えられません」と拒否される。クリスはアレッサの写真を見せ、「生きていれば40歳ぐらいだ。どこにいる?」と問い掛ける。しかし修道女は酷く怯えた様子で、「彼女の秘密を暴いたら、みんなに破門が」と言う。そこへグッチが現れたので、クリスは写真を見せ、「この子を知ってるか。娘の生みの親だろ」と言う。するとグッチは、公文書館への不法侵入罪でクリスに手錠を掛けた。
グッチは「サイレントヒルで火事があった夜、狂った連中がその子に恐ろしいことをした。しかし30年前に終わったことだ」と話すが、クリスは「まだ終わってない」と反発する。グッチが「刑務所に入るか、家に帰るか、どっちにするんだ」と尋ねると、クリスは「それがアンタの正義か」と批判する。グッチは掌に刻まれた傷跡を見せ、「正義には様々な種類がある。人の正義、神の正義。悪魔の正義も。そして手に負えない正義もある。過去を嗅ぎ回るのはやめろ」と告げた…。

監督はクリストフ・ガンズ、脚本はロジャー・エイヴァリー、製作はサミュエル・ハディダ&ドン・カーモディー、製作総指揮はアンドリュー・メイソン&ヴィクター・ハディダ&山岡晃、撮影はダン・ローストセン、編集はセバスティアン・プランジェール、美術はキャロル・スピア、衣装はウェンディ・パートリッジ、クリーチャーデザイナー&スーパーバイザーはパトリック・タトポロス、音楽はジェフ・ダナ。
出演はラダ・ミッチェル、ショーン・ビーン、ジョデル・フェルランド、アリス・クリーグ、ローリー・ホールデン、デボラ・カーラ・アンガー、キム・コーツ、ターニャ・アレン、コリーン・ウィリアムズ、ロン・ガブリエル、イヴ・クロフォード、デレク・リッチェル、アマンダ・ヒーバート、ニッキー・グアダグニ、マキシン・デュモント、クリス・ブリットン、スティーヴン・R・ハート、サイモン・リチャーズ、イアン・ホワイト他。


コナミから発売された同名のホラーゲームをベースにした作品。
監督は『クライング・フリーマン』『ジェヴォーダンの獣』のクリストフ・ガンズ。
『キリング・ゾーイ』『ルールズ・オブ・アトラクション』の監督&脚本家であるロジャー・エイヴァリーが、シナリオを担当している。
ローズをラダ・ミッチェル、クリストファーをショーン・ビーン、シャロンをジョデル・フェルランド、クリスタベラをアリス・クリーグ、シビルをローリー・ホールデン、ダリアをデボラ・カーラ・アンガー、グッチをキム・コーツ、アンナをターニャ・アレンが演じている。

クリストフ・ガンズはゲームの大ファンで、自分を監督として売り込む映像をコナミに送っている。
私はゲームをプレーしたことが無いのだが、そんな熱狂的ファンが監督を務めていることもあって、どうやらゲームの再現度という意味では、かなりレベルが高いらしい。
登場人物のイメージやクリーチャーのデザイン、街の外観などはゲームに忠実で、BGMもゲームの音楽を使っているらしい。

「どれぐらいゲームの中身を再現できているか」というのは、ゲームの映画化作品を評価する際に、重視するポイントの1つではある。
ただし、それだけで映画の評価が決まるわけではない。どれだけゲームを忠実に再現できていても、映画として面白いかどうかは、また別の話なのだ。
ゲームと切り離しても楽しめる作品になっていなければ、映画としては不充分だ。
そして本作品は、「ゲームの再現度」という部分に全ての意識を費やしたのか、それ以外の部分が杜撰だ。

まず、なぜローズが病院での治療やカウンセリングという手順を全てスッ飛ばし、いきなり「娘を連れてサイレントヒルへ行く」という行動に出るのかが良く分からない。
行くにしても、まずはサイレントヒルについて詳しく調べるべきだろう。そして、娘を連れて行くのではなく、娘は入院させて、その間に自分と旦那だけで訪れてみるとか、そういう行動の方が自然な流れではないかと思うぞ。
しかも、ローズはシビルがサイレンを鳴らして追跡しても、ひとまず停止するものの、サイレントヒルの看板を見た途端に車を急発進させている。
なぜ警官の指示を無視してまで、サイレントヒルへ急いで行かなきゃならんのか。
そういった彼女の行動を納得させられるようなモノは、この映画には用意されていない。
どうにか頑張れば「ローズは娘のことで神経が参っていて、思考回路が壊れていた」と解釈できないことはないが、かなり厳しいわな。

車に学校の絵があっただけで、ローズは「シャロンは学校にいる」と確信する。
小学校に辿り着いた彼女は、何の迷いも無く、まずメイン・オフィスの引き出しを開けようとする。
施錠されているが、棚の上を調べると、すぐに鍵の束が見つかる。
たくさんの鍵があるが、彼女が差し込んだ鍵で、すぐに引き出しが開く。
そこには懐中電灯が入っていて、ローズは暗闇を照らすことが出来るようになる。

トイレの死体と対面したローズは、なぜか口の中に何かが入っていることを知っている(最初から知っていなかったら、わざわざ死体に近付き、口に手を突っ込むなんて有り得ない)。
入っていたのはホテルのタイルで、ローズは「そこに娘がいる」とすぐに見抜いている。
アンナが缶詰をバッグに詰めていると、なぜか都合良くナイフが床に落ちており、ローズはそれを手に取って「これを貰うわ」と告げる。
つまり、その時点で彼女は「今後の展開においてナイフが必要になる」と感じているってことだ。

ローズとシビルは、ホテルのフロントで一枚の絵を発見する。
それが111号室の棚に入っていたことから、「111号室に何かある」とローズは考える。
111号室は存在しないが、たまたま近くに飾られていた絵にローズは注目する。
アンナの説明で魔女狩りの絵だと知った彼女は、すぐに棚の絵を思い出し、なぜか「その絵の裏に111号室がある」と確信する。
持って来たナイフで絵を破り、その向こうに111号室の扉を発見する。

シャロンと瓜二つの少女を見つけたローズは、なぜか彼女がアレッサだと即座に理解する。
さらに、それがダリアの娘であることもローズ見抜いている。
そして、既にアレッサが死んでいることも、アレッサがシャロンをサイレントヒルへ導いたことも、全てお見通しだ。
とにかく、ローズの行動は全て「決まった段取りがあって、そのためにキャラクターを動かしている」としか見えない。
いや、もちろん映画なんて全てそうなんだけど、それをナチュラルな行動として見せなきゃダメでしょ。

ローズの行動って、ようするに「ヒントを見つける」→「そのヒントに従って行動する」→「必要なアイテムを発見する」→「先へ進むことが可能になる」といった具合で、いかにもゲーム的なモノになっているんだよね。
でも、それじゃあ困るのよ。
それだと、まるで自分がコントローラーを操作できないゲーム、あるいはゲームのデモ映像だ。
これがゲームをプロモーションするためのフィルムであれば、それでも別に構わないだろう。
だが、ゲームをベースにした商業映画なのだから、それでは困るのだ。

部屋から隣の建物に飛び移る際にローズがナイフを落としてしまうとか、サイレンが鳴っている間に教会へ逃げ込まなかったローズが怪人に捕まって惨殺されるとか、そういった辺りも、御都合主義がモロに見えてしまうのだから、描写が上手くないってことだ。
あれほど闇の者を恐れていたアンナが、サイレンが鳴っている間に教会へ逃げ込まないだけでなく、周囲の景色が変わり始めた後も振り返ってダリアを睨み付けるなんて、あまりにも不自然でしょ。
あと、事件が起きたのは30年前なんだから、シャロンは30歳じゃないと辻褄が合わないと思うんだが。
それはホラーで許される理不尽とは全く種類が違うぞ。

かなりミステリアスな要素の多い作品だが、それほど大きな障害にはなっていない。
ローズのいる街とクリスのいる街が別次元ってのも、サイレンによってローズのいる街が裏と表のように入れ替わるのも、しばらく見ていれば理解できる。
ただ、肝心な部分(アレッサの正体やサイレントヒルで過去に起きた事件)に関しては何のヒントも与えず、ミステリアスなまま引っ張っておきながら、終盤に入ったところでアレッサが「おめでとう、ここがゴールよ。ご褒美に真実を教えてあげる」と言い、そこから「実はこういう真相が隠されていた」というのを一気に説明するのは、やり方があまりにも陳腐だわ。
土曜ワイド劇場じゃあるまいし。

あと、そこの解明を全てアレッサがやってしまうのなら、クリスの役割って何なのよ。
てっきり、クリスが謎を解き明かすのかと思っていたんだが。謎は解明しないし、ローズを助けに来るわけでもないのなら、まるで必要性が無いでしょ。
あと、シビルは終盤で火あぶりの残酷描写をやりたいがために投入されているようなモンだな。
それと、必要性ということで言えば、実はクリーチャーの必要性も薄いよな。
ローズ(そして観客)をビビらせるためだけに登場しているようなモノで、物語としては、まるで意味が無い存在だ。

(観賞日:2013年6月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会