『シュレック フォーエバー』:2010、アメリカ

美しいフィオナ姫は恐ろしい呪いのせいで、夜が訪れると醜い怪物に変貌するようになった。その呪いは、運命の人のキスでしか解くことが出来ない。そのため、フィオナはドラゴンに見張られた塔で、運命の人が現れるのを待っていた。しかし何年が経過しても運命の人が現れないため、国王と王妃は裏技に頼ることにした。あこぎで怪しい魔法使い、ランプルスティルスキンの元を訪れたのだ。ランプルは依頼を引き受ける代わりに、王国を引き渡すよう要求した。国王は難色を示すが、王妃が説得した。しかし国王が署名しようとした時、フィオナが助け出されたという知らせが届いた。シュレックがフィオナを助け出し、2人は結婚した。そして現在、2人は幸せに暮らしている。そのため、ランプルはシュレックに強い恨みを抱いていた。
一方、シュレックは3人の子供たちに恵まれ、家族で仲良く暮らしている。ロバのドンキーや長ぐつをはいたネコなど、大勢の仲間も近くにいて、平穏な日々が続いている。しかし、同じことが繰り返される毎日が続く中で、シュレックは次第に虚しさを感じるようになっていく。かつて怪物として人々に恐れられて、賞金首になっていた頃を、彼は懐かしく思う。しかし今では子供たちの誕生パーティーに大勢の人間が参加し、シュレックに平気で話し掛ける。
シュレックはパーティーの参加者たちの行動に苛立ち、会場を出て行く。フィオナから責められたシュレックは、「あの頃みたいな暮らしがしたい。村の子に怖がられて、何でもやりたいことが、やりたい時に出来ていた頃」と愚痴る。「私を塔から救い出す前ってこと?」というフィオナの問い掛けに、シュレックは「その通り」と答える。「3人の可愛い子供と、貴方を愛してる妻と、貴方を慕う友達がいる。全てを手にしてるのに、何故それが分からないの?」とフィオナが悲しそうに告げても、シュレックの心には響かなかった。
シュレックとフィオナの会話を盗み聞きしたランプルは、ある企みを思い付いた。彼は馬車の下敷きになっている芝居をして、シュレックに助けてもらう。お礼として酒を御馳走したランプルは、シュレックの「たった一日でもいいから元の怪物に戻りたいと思う」という言葉を聞き、「魔法の取り引きは得意分野だ」と告げる。契約書を提示したランプルを怪しんだ、シュレックは、「何が欲しい?」と尋ねる。ランプルが「取り引きだから、一日を得るのに一日を手放す。それだけ」と言う。
ランプルは「過去の一日なら、いつでもいい」と告げ、「記憶にない一日はどう?赤ん坊の頃の一日」と提案した。シュレックは「どの日でもいい」と軽く言い、契約書に署名した。ニヤリとしたランプルが「良い一日を」と告げると、彼は姿を消す。シュレックは時空の彼方に飛ばされ、地面に落下した。観光ツアーのバスが通り掛かると、乗客たちはシュレックを見て「怪物だ」と怖がり、慌てて逃げ出した。その様子を見たシュレックは喜び、手元にある契約書にキスをした。
街へ繰り出したシュレックは、大勢の人々を怖がらせて楽しんだ。森へ行った彼は、自分が賞金首になっている張り紙を見て喜ぶ。だが、怪物姿のフィオナがお尋ね者となっていることを知り、シュレックは動揺する。急いで沼の家へ戻ると、そこは何も無い空っぽの場所になっていた。そこに魔女の軍団が現れ、シュレックを眠らせて拉致した。目を覚ましたシュレックは魔女たちの馬車に閉じ込められており、それをドンキーが引っ張っていた。
シュレックはドンキーに呼び掛け、フィオナのことを聞こうとする。だが、ドンキーはシュレックのことなど全く知らない様子だった。馬車は城下町を通り、国王となっているランプルの城に入った。城の中では、シュレックと同族の怪物たちが扱き使われていた。また、シュレックの仲間であるはずのピノキオやオオカミたちも、ランブルの下僕として仕えていた。盛大なパーティーを開いていたランプルは、シュレックが連行されて来ると「みんな、こいつのおかげで今の世界が実現したんだ」と告げた。
ランプルは「君のおかげで国王と王妃は国を私に譲った。そして体ごと無くなった」と言うが、シュレックは理解できない。説明を求めるシュレックに、ランプルは彼が産まれた日を貰ったのだと告げる。そして彼は、「産まれなかったわけだから、この一日が終わりを迎える時、お前の人生も終わる」と語る。「お前は産まれて来なかったんだから、フィオナとは出会わず、子供も存在していない」と彼は言い、シュレックを嘲笑した。
激怒したシュレックが暴れようとするので、ランプルは魔女軍団に攻撃指令を下す。しかしシュレックは拘束を外し、魔女のホウキを奪う。シュレックは何も知らないドンキーを捕まえ、城から脱出した。すぐに逃げ出そうとしたドンキーだが、シュレックが子供の人形を見て泣いている様子を見て、戻って来た。ランプルと契約を交わしたことを明かしたシュレックに、ドンキーは取り消し条件があることを話す。契約書を折り畳んで文字を繋げると、「運命の人とのキス」という契約破棄の条件が示された。
シュレックは塔へ向かうが、そこにフィオナの姿は無かった。いい匂いに釣られたドンキーは、森の真ん中に置かれたワッフルを発見する。シュレックは不審に思い、離れるよう指示する。しかしドンキーがワッフルを舐めてしまい、仕掛けられていた罠が発動した。地下の穴に落ちて引っ張られたドンキーを追い掛け、シュレックは怪物たちが暮らす場所に足を踏み入れた。彼らは自由のために戦うレジスタンスで、そのリーダーがフィオナだった。
シュレックはフィオナに駆け寄ろうとするが、冷たく拒絶される。なぜなら、フィオナはシュレックの存在を知らないからだ。フィオナは仲間のブローガンやグレッチに指示を出し、「見覚えが無いだろうけど、俺たちは夫婦だ」と話すシュレックを軽く笑う。魔女たちが巡回に来たので、レジスタンスは身を隠した。魔女たちが去った後、フィオナはブローガンに「隠れるのも今夜が最後よ」と告げた。ランプルはシュレックを捕まえるため、プロの賞金稼ぎを使うことにした。
フィオナは幹部のブローガンやクッキーたちを集め、「ランプルが今夜の怪物狩りを指揮するそうよ」と言う。彼女は仲間たちに、敵の見回りルートを待ち伏せて急襲を仕掛ける作戦を説明した。その様子を盗み見ていたシュレックは、「どうやって日の出までにフィオナとキスをするんだよ」とドンキーに愚痴をこぼす。シュレックがフィオナのテントに行くと彼女はおらず、ネコが現れる。しかし、ネコはすっかり太ってしまい、まともに動けなくなっていた。しかも、いつもの帽子や靴も身に付けていなかった。
フィオナがテントに戻って来たので、シュレックは贈り物で機嫌を取ろうとする。フィオナは邪魔をしないよう頼み、出て行くよう告げた。シュレックは握手とハグからの流れでキスしようとするが、腕を捩じられて追い出された。ランプルは人や怪物を自由に操る能力を持つ笛吹き男を呼び寄せ、報酬を与えて仕事を依頼した。一方、シュレックは戦いの稽古をしているフィオナの元へ行き、心を掴もうとする。フィオナはシュレックと稽古をしている内に、彼に対する好意が芽生えた。
その様子を見ていたネコは、1人になったシュレックに「さっきのを見たけど、ときめきがフィオナの心に宿っていた。長らく消えたままだったのに。ほんの一瞬だったけど、運命の人に出会えたみたいだった」と興奮した様子で語る。呪いの詩まで知っているシュレックに、ネコは「アンタは本物だ。運命の人だって証明しなくちゃ。彼女が一人の時、運命の人しか知らないことを話すんだ」と促した。
レジスタンスはアジトを出発し、待ち伏せ作戦の配置に就いた。シュレックは見回りの行列を監視しているフィオナの元へ行き、運命の人しか知らないことを話す。行列が来てもフィオナからの合図が無いので、仲間たちは勝手に行動を開始した。だが、それは罠で、ランプルは荷車に乗っていなかった。隠れていた笛吹き男が現れ、笛を吹いて怪物たちを操った。シュレックとフィオナも体の自由を奪われ、他の仲間たちと共に踊らされる。そこへドンキーとネコが馬車で突っ込み、シュレックとフィオナを連れて脱出した…。

監督はマイク・ミッチェル、原作はウィリアム・スタイグ、脚本はジョシュ・クラウスナー&ダーレン・レムケ、製作はジーナ・シェイ&テレサ・チェン、製作協力はパティー・カク=ビューブ、製作総指揮はアーロン・ワーナー&アンドリュー・アダムソン&ジョン・H・ウィリアムズ、編集はニック・フレッチャー、プロダクション・デザイナーはピーター・ザスラフ、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
声の出演はマイク・マイヤーズ、エディー・マーフィー、キャメロン・ディアス、アントニオ・バンデラス、ジュリー・アンドリュース、ジョン・クリーズ、ウォルト・ドーン、ジョン・ハム、ジェーン・リンチ、クレイグ・ロビンソン、レイク・ベル、キャシー・グリフィンメアリー・ケイ・プレイス、クリステン・シャール、メレディス・ヴィエイラ、ライアン・シークリスト、コーディー・キャメロン、ラリー・キング、レジス・フィルビン、クリストファー・ナイツ、コンラッド・ヴァーノン、アーロン・ワーナー他。


シリーズ第4作にして最終作。
監督は『恋のクリスマス大作戦』『スカイ・ハイ』のマイク・ミッチェル。
シュレックのマイク・マイヤーズ、ドンキーのエディー・マーフィー、フィオナのキャメロン・ディアス、長ぐつをはいたネコのアントニオ・バンデラス、王妃のジュリー・アンドリュース、国王のジョン・クリーズといった前作から続投している声優陣に加えて、ランプルの声をウォルト・ドーン、ブローガンをジョン・ハム、グレッチをジェーン・リンチ、クッキーをクレイグ・ロビンソンが担当している。

このシリーズの1作目は、ディズニーを追い出されたジェフリー・カッツェンバーグが報復目的で手掛けた映画だ。だからディズニーのアニメーション映画を徹底的に嘲笑し、コケにする内容だった。
それが大ヒットを記録したことで満足してしまったのか、2作目と3作目は出涸らしにチョコッと飾りを付けて体裁を整えただけの仕上がりになっていた。
そんなわけだから、この4作目の出来栄えがイマイチであっても、それは当然のことと言えよう。
もはや本来の目的を失っているのに、「稼げるシリーズだから」というだけで続行した作品が、面白くなる方が不思議だ。

今回はシュレックがランプルと契約を交わすことで、彼を「人々から怪物として恐れられ、御尋ね者になっていた頃」の状態に戻している。
でも、そこを元の状態に戻すことでマンネリズムを打破したり変化を付けたりしようとしても、所詮は無駄なあがきにしか思えない。
このシリーズの賞味期限は、とっくに過ぎ去っている。
どう頑張って調理したところで、賞味期限が切れた物を美味しく食べさせるってことは至難の業なのだ。

今回も前回に引き続き、フィオナは最初から最後まで怪物の姿のままだ。
前作を見たときにも感じたことだが、シュレックとフィオナは1作目のような「美女と野獣」のカップルであるべきだ。そこに「美女と野獣がベタだから、怪物と怪物に」という捻りを加えるのは、余計な作業でしかない。
怪物同士のカップルというのは、ある意味では普通のカップルだ。そして、絵として引き付けるモノも無い。
せっかく「シュレックがフィオナと出会わなかった世界」を用意しているのだから、「フィオナが昼間は美しい姫の姿で暮らしている」という状態に戻せばいいのに。

「失って、初めて分かる今の幸せ」というベタな話をやっているのだが、そこには1作目にあった毒や皮肉など全く盛り込まれていない。
「昔からある御伽噺のステレオタイプを徹底的にブチ壊す」という方向性は、もはや本作品には無い。
それどころか、ものすごくベタでオーソドックスな御伽噺を、そのまんま描いている。
1作目ではディズニーのアニメをコケにしていたが、4作目に至って、とうとう本家にも増して教科書的で行儀の良い内容に仕立て上げている。

シュレックが「やりたい時にやりたいことが出来る自由な日々」を欲しがるのは理解できるんだけど、「怪物として恐れられていた日々」に戻りたいと望むのは、ちょっと腑に落ちない。
そもそも1作目の彼は、シュレックも、「みんなに怖がられるのなら、1人の方がいい」という考えに基づいて孤独な生活を送っていただけであり、優しい心の持ち主だった。
「みんなに怖がられること」ってのは、フィオナと会う前のシュレックが自ら望んでいた状況ではない。だから、それを懐かしむのは不可解だ。
まさか、「平穏な日々が続く中で、かつての自分が怪物として怖がられることなど望んでいなかった事実を忘れてしまった」という設定だったりするのか。

ベタな話であっても、その描き方次第では「期待していた内容とは違うし新鮮味は無いけど、これはこれで悪くない」という感想になっていた可能性はゼロじゃない。しかし、「ベタな話」としての質も低い。
まず、契約の真実にいてシュレックがランプルから明かされた時、単純に激怒し、すぐに逃げ出してしまうってのがダメ。
そこはテメエの愚かしい行動について、まずは動揺すべき。出来ることなら、その場で反省してほしい。そして、即座に脱出するのではなく、ひとまず牢屋に閉じ込められるなり、連行されるなりして、何か考えてから脱出するという手順を踏んだ方がいい。
逃げ出してから人形を見て泣いているが、そこを「牢屋で泣いてから脱出」という風に順番を逆にした方がいい。
微妙なことだけど、そこを入れ替えることで、シュレックの中で「子供を失ったことへの悲しみ」という感情がランプルへの怒りよりも圧倒的に強いことを表現できる。

「運命の人とのキス」で契約が破棄できるってのも、これまたベタベタな展開。
そして、もちろんベタなので、「シュレックがフィオナの心を掴んでキスを交わし、契約を破棄する」という真っ当な展開になることは容易に予想できる。
使い古された話を、何の捻りも無く、飾り付けに工夫するでもなく、凡庸な状態で観客の前に出している。
しかも、シュレックがフィオナの心を掴むまでに、そんなに時間は掛からない。対して苦労もせず、あっさりとフィオナの心を掴んでしまう。
いやいや、そこが今回の肝だろうに。

どれぐらい簡単に処理されるかというと、シュレックの名前さえ知らず、冷たい態度を取っていたフィオナ戦いの稽古をしているところへシュレックが現れる。
情けない姿をさらす彼にフィオナが「今夜の作戦に出たら死ぬわよ」と言い、シュレックが「大丈夫」と告げるので「見せてもらう」と戦闘訓練を開始する。
武器や素手で殴り合っていると、両方が笑顔になって、一気に心の距離が縮まるという具合だ。
その時点ではキスまでは至らないが、いい雰囲気は芽生えている。
なんと、フィオナがシュレックの名前も知らずに冷たく拒絶していた段階から、戦闘の訓練で心の距離が一気に縮まるまでに、1分も経っていないのだ。

例えば、シュレックの行動や言葉によって、フィオナの中で忘れていた記憶がフラッシュバックするとか、そういうことがあるのなら、短い時間で心の距離が縮まるのも分からんではないのよ。つまり、ホントにゼロの関係だったわけじゃなくて、「夫婦だったことを忘れている」というだけで、心の奥底に愛が残っているという設定ならね。
でも、そうじゃなくて、契約によって世界が変わっているので、彼女の中にはシュレックの愛など全く無いのだ。
ゼロからの出発にしては、心変わりが早すぎるだろ。
シュレックとフィオナが簡単に心の距離を縮め、あっさりとキスしてからも、「それでも世界が元に戻らない。まだフィオナはシュレックを運命の人とは認めていない」という手順は用意されているが、不格好な悪あがきに思えてしまう。

(観賞日:2014年6月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会