『ショック・トリートメント』:1981、アメリカ

デントンの町にある地方テレビ局のデントンTVでは、『DENTON The Home of Happiness!』という公開番組が大人気だ。スタジオ観覧には毎回、大勢の町民が押し寄せる。その日、ブラッドとジャネットのメジャース夫婦も、観覧に訪れた。最初の番組はベティーが司会を務める『デントンよいとこDENTON DOSSIER』で、ゲストであるライト判事が紹介された。ファーリー・フレイヴァーが社長を務めるファーリー食品が『DENTON The Home of Happiness!』のスポンサーで、彼はデントンで一番の成功者である。
ベティーの番組が終わり、CMの後は人気者のバート・シュニックがホストを務める『結婚迷路(MARRIAGE・MAZE)』のコーナーになった。最初に彼は明日から始まる新番組『精神工場(FAITH FACTORY)』を紹介し、客席にいる司会者のラルフとアシスタントのメイシーに呼び掛けた。ラルフはベティーの夫だが、メイシーと深い関係になっていた。そのことはベティーも知っている。モニターを見ていたライトはブラッドとジャネットに気付き、ベティーに「あの2人はデントンの模範的な夫婦だよ」と言う。
ブラッドとジャネットはバートに指名され、番組出演を促される。ブラッドは嫌がるが、ジャネットは大喜びした。バートは「ブラッドには神経障害があるんだろ。休養室(Rest Home)行きだ」と言って観客の笑いを誘い、『デントンヴェイル(DENTONVALE)』を知っているかどうかジャネットに確認する。それはコズモとネーションのマッキンリー兄妹が出演する病院番組だ。兄妹の専門は神経科であり、バートは「ブラッドの治療を頼もう」と言い出した。
ジャネットは「彼は退屈な人だけど、神経に障害は無いわ」と困惑するが、バートから「迷ってる余裕は無いよ」と迫られ、賛同の意を示す。CMに入ると、ブラッドは「行きたくないよ」と言うが、ジャネットは「どうして?ショーを台無しにするつもり?」と口にする。ブラッドはジャネットから「私に恥をかかせる気?」と怒鳴られ、仕方なく承諾した。休養室の職員であるリッキーが来て、ブラッドとジャネットを連れて行った。
『デントンヴェイル』が始まり、コズモとネーションがブラッドとジャネットを面接する。「僕は病気じゃない」とブラッドが口を開いた途端、リッキーが注射で眠らせた。看護婦のアンサロングがブラッドを車椅子に乗せ、重症者病棟へ連れて行く。再び番組は『結婚迷路』に戻り、バートがジャネットの両親であるハリーとエミリーにブラッドに関するクイズを出題する。エミリーがブラッドの症状について「幼児退行」と答えると、それがクイズの正解だった。台所セット「ハッピー・ホームズ」が当たり、夫婦は大喜びする。
ジャネットはハッピー・ホームズを舞台にした番組に出演し、両親と会話を交わす。バートはマッキンリー兄妹と会食し、ジャネットを『精神工場』のスターにするプランを明かす。一方、ベティーは『デントンよいとこ』の打ち切りを知らされ、激しい苛立ちを示した。ジャネットがデントンヴェイルを訪れると、バートはテレビを付ける。ファーリーが画面に登場して語り掛けると、バートたちの思惑通り、ジャネットは彼に好感を持った。
コズモとネーションは「ブラッドは君に会いたがっていない。憎悪を抱いている」と、ジャネットに嘘を吹き込む。「彼は君の人気上昇を望んでいる。協力してほしい」と言われ、ジャネットは番組出演を承諾した。彼女はバートたちに促され、デントンヴェイルで宿泊する。その頃、ブラッドは檻の中で拘束具を装着されていた。翌朝、目を覚ましたジャネットはコズモから、「ブラッドに君が素晴らしい女だと感じさせるんだ。今日のブレックファースト・ショーは絶好のチャンスだ」と告げられた。
コズモが用意したゴージャスな衣装に着替えたジャネットは、すっかりノリノリになった。ジャネットがスタジオに到着すると、観客が拍手で迎えた。メイシーがジャネットを紹介し、番組が始まった。ジャネットのパフォーマンスに観客が熱狂し、バートたちは出番を終えた彼女を笑顔で迎える。ジャネットはデントンヴェイルに戻り、ブラッドの病室へ赴いた。そこには両親の姿もあった。ジャネットはブラッドに、「私はスターよ」と得意げな表情で告げる。バートが来ると、ジャネットは彼に体を密着させて隣に座った。
エミリーとハリーはマッキンリー兄妹に対し、ブラッドの不当な扱いを非難した。すると2人は、「必要なのはショック療法です」と説明する。夜の番組に備えて楽屋に入ったジャネットは、マッキンリー兄妹から「ブラッドのためだということを忘れないで」と言われると、冷たい態度で「あんな精神異常者のことなんて知らないわ。今の私には、やることが山ほどある」と口にした。すっかりスター気取りのジャネットは、観客の前に出て愛嬌を振り撒いた。
ジャネットはバンド出演を売り込むオスカーと仲間たちに声を掛けられ、笑顔で歌う。しかし急に具合が悪くなったので、付き添っていたネーションが楽屋で休ませた。一方、変装してデントンヴェイルのコンピューター室に潜り込んだベティーは、マッンキリー兄妹が本物の医者ではなく、複数の偽名を使って世界中でタレント活動を行っていたことを知る。さらにデータを調べた彼女は、ファーリーとブラッドが双子の孤児だったことも突き止めた。ベティーはライトと共に、ブラッドを檻から救い出す…。

監督はジム・シャーマン、戯曲&作詞はリチャード・オブライエン、脚本はリチャード・オブライエン&ジム・シャーマン、製作はジョン・ゴールドストーン、製作総指揮はルー・アドラー&マイケル・ホワイト、撮影はマイク・モロイ、編集はリチャード・ベドフォード、美術はブライアン・トムソン、衣装はスー・ブラン、振付はジリアン・グレゴリー、音楽はリチャード・ハートレイ&リチャード・オブライエン、音楽監督はリチャード・ハートレイ。
出演はクリフ・デ・ヤング、ジェシカ・ハーパー、パトリシア・クイン、リチャード・オブライエン、チャールズ・グレイ、ネル・キャンベル、ルビー・ワックス、バリー・ハンフリーズ、リック・メイオール、ダーレン・ジョンソン、マニング・レッドウッド、ウェンディー・レイベック、ジェレミー・ニューソン、ベッツィー・ブラントリー、ペリー・ベッデン、ルーファス・コリンズ、クリス・マルコム、レイ・チャールソン、ユージーン・リピンスキー、バリー・デネン、イモージェン・クレア、ゲイリー・シェイル他。


『ロッキー・ホラー・ショー』のスタッフが再結集した作品。
前作のジャネット&ブラッドというキャラクターが再登場しており、後日談、もしくはパラレル・ワールド的な作品として解釈すべきだろう。
監督&脚本のジム・シャーマン、脚本&作詞&音楽のリチャード・オブライエン、プロデューサーのルー・アドラーとマイケル・ホワイト、美術のブライアン・トムソン、衣装のスー・ブラン、音楽のリチャード・ハートレイが、前作からのスタッフだ。

ブラッド役は、前作のバリー・ボストウィックがスケジュールの都合で続投できなかったため、クリフ・デ・ヤングに交代。クリフは『ロッキー・ホラー・ショー』でブラッド役をオファーされ、スケジュールの都合で出演できなかったという経緯がある。
ジャネット役は、前作のスーザン・サランドンに断られたため、ジェシカ・ハーパーに交代。
ネーションをパトリシア・クイン、コズモをリチャード・オブライエン、ライトをチャールズ・グレイ、アンサロングをネル・キャンベル、ベティーをルビー・ワックス、シュニックをバリー・ハンフリーズが演じている。
パトリシア・クイン、リチャード・オブライエン、チャールズ・グレイ、ネル・キャンベル、ジェレミー・ニューソン、イモージェン・クレアの6名が前作に続いて出演してるが、担当する役柄は異なる。
ジャネット&ブラッドの他、ラルフ&ベティーのカップルも再登場組だが、演じる役者が『ロッキー・ホラー・ショー』と同じなのはラルフだけ。それを演じているのがジェレミー・ニューソンだ。
ちなみに、前作でトップ・ビリングだったティム・カリーも、本作品への出演は断っている。

『ロッキー・ホラー・ショー』は、公開当初は客の入りがサッパリだったが、ミッドナイト・ショーでの上映によって「観客参加型映画」へと変貌したことで人気に火が付き、プロデューサーのルー・アドラーや原作者のリチャード・オブライエンがウハウハ状態になるほどの稼ぎを生み出した。
で、「夢よもう一度」とばかりに本作品を作ったわけだが、二匹目のドジョウはおらず、今回は惨敗に終わった。
『ロッキー・ホラー・ショー』は世界中に熱狂的なファンがいるが、この映画は鬼子のような扱いになっている。

『ロッキー・ホラー・ショー』はカルト映画として今も一部のファンから熱烈に支持されているが、正直に言って、そのクオリティーは著しく低い。
マトモな感覚で鑑賞したら、単なる低予算のクズ映画だ。
筋書きは支離滅裂だし、キャラの態度や行動もデタラメだ。
そんなクズ映画が一部のマニアから熱狂的に指示されたのは、まぐれ当たりのようなものだ。
だから、それと同じような人気を狙って獲得しようとしても、それは無理な話なのだ。

皮肉なことに、『ロッキー・ホラー・ショー』よりも本作品の方が、物語の仕上がりは遥かにマトモだ。
『ロッキー・ホラー・ショー』のシナリオはドラッグをキメた状態で執筆したのかと思うぐらいグチャグチャで、筋の通っている箇所など皆無に等しかった。
それと比較して、今回はちゃんと筋が通ったストーリー展開になっている。
「テレビ局が舞台だが、ジャネットやブラッドの生活の一部が番組として中継されている」という構造の表現が少し上手く行っていないが、そこさえクリアすれば、かなり分かりやすい。

『ロッキー・ホラー・ショー』では、キャラクターの言動もデタラメで、その場その場でコロコロと態度が変わっていた。
しかし今回は、例えばジャネットなら「最初はブラッドのことを心配していたが、スターとして持ち上げられて有頂天になる」とか、「ファーリーの指示を受けたバートたちがジャネットをスターとして持ち上げる」とか、「クビになったベティーとライトがブラッドを助け出そうとする」とか、その心情や行動原理が分かりやすい。
「何故そうなるのか」「それはどういう意味なのか」などと、無駄に引っ掛かったり、進行がメチャクチャでギクシャクしたりというストレスも少ない。

『ロッキー・ホラー・ショー』と同様にミュージカル映画となっているが、その楽曲やミュージカルシーンの質も、そんなに前作より悪いとは思わない。
ジャネット役はスーザン・サランドンから『ファントム・オブ・パラダイス』のジェシカ・ハーパーに交代しているから、歌唱力は上がっているはずだし。
ミュージカルシーンだけを取り出してみれば、それなりに楽しめる。
ただし、じゃあ映画として面白いのかと言われたら、それは別の話なんだよな。
でも、私は『ロッキー・ホラー・ショー』より、こっちの方が好きだけどね。

(観賞日:2013年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会