『新宿インシデント』:2009、香港
1990年代の若狭湾。海岸沿いを自転車で移動していた警官は、座礁した貨物船から大勢の密入国者が上陸している様子を目撃した。1人の男が短刀を構えたので、警官は慌てて拳銃を抜こうとした。すると背後から仲間の男が警官を取り押さえ、短刀の男が襲い掛かった。他の面々は一斉に走り出し、男たちは警官の拳銃を奪って逃亡した。鉄頭という男は近くの家で服や靴を盗んで着替え、駅へ赴いた。日本人の動きを見た彼は切符の買い方を学び、電車に乗り込んだ。
新宿歌舞伎町を訪れた鉄頭は、野宿できる場所を見つけて寝転んだ。彼が中国にいた頃、村の人々は残留孤児の子孫と嘘をついて日本へ行く計画を立てていた。恋人の秀秀は東京にいる叔母から誘われ、日本へ行くことを決めた。鉄頭は相談を受け、「夢を追うべきだ」と彼女を応援した。秀秀は「たくさん金を稼いで帰国する」と約束し、鉄頭は日本で暮らす弟分の阿傑に彼女と会うよう頼んだ。しかし秀秀は引っ越していて消息が分からず、叔母は1ヶ月前に死んだと聞かされた。
鉄頭は阿傑が暮らす大久保の家を見つけ出し、久々の再会を果たした。阿傑は家事全般を務める中年女性のハオと娘のメイ、寄合仲間の老鬼や小戴、フー、ファンたちと一緒に暮らしていた。鉄頭は用意してもらった飯を貪り、銭湯へ行く。先に入っていた暴力団の連中に凄まれた阿傑は、低姿勢で謝罪した。鉄頭は阿傑から、秀秀のことは諦めた方がいいと諭された。早朝、鉄頭は阿傑に連れられて高田馬場へ行き、仲介人から工事現場の仕事を貰った。
クレーンの事故で香港仔という作業員が下敷きになり、鉄頭は阿傑と共に急いで救助した。警官が来たので、不法就労者である鉄頭たちは慌てて逃亡した。香港仔は助けてくれた鉄頭と阿傑に礼を述べ、配管の仕事を紹介すると約束した。さらに彼は偽造テレホンカードを渡し、それを売って金にするよう促した。広域指定暴力団「三和会」の岩井田次郎会長の葬儀が執り行われることになり、警視庁は寺院を厳重に警戒する。三和会では後継者選びを巡る内部対立が起きており、投票が行われた。その結果、村西弘一が渡川太郎を破って次期会長に決定した。副会長には村西の側近である江口利成が就任し、葬儀が執り行われた。秀秀は江口の妻の結子として、葬儀に参列した。
その夜、警視庁の刑事である北野は管轄の倉田に呼び出され、確かな情報が入ったと告げられる。この2ヶ月で不法入国者が激増していることを話した倉田は、通訳担当者を北野に紹介する。北野は大学で中国を学んでおり、少し話すことが出来た。北野たちは下水溝へ入り、作業をしていた不法入国者の鉄頭たちを一斉検挙した。しかし全員が方言を話すため、通訳は全く役に立たなかった。北野は鉄頭に中国語で話し掛け、1日8千円の仕事だと知る。鉄頭たちが隙を見て逃げ出したので、北野は急いで後を追う。濁流に落ちた北野が溺れそうになると、鉄頭は舞い戻って彼を救った。鉄頭は北野を残し、その場から走り去った。
翌日、鉄頭は阿傑に案内され、東南アジアのバイヤーが来る故売屋を訪れる。阿傑は鉄頭をアジア各国から来ている面々が集まる飲み屋へ連れて行き、「ここにいる奴らは何でもやるが、ギャング同士で組むことは無い」と聞かされた。ある夜、中華料理店で食器洗いの仕事をしていた鉄頭は、ホステスのリリーに声を掛けられる。ミトという老齢の日本人男性と店に来ていた彼女は、「これで何か食べて」と鉄頭に金を渡した。
金目当てのチンピラたちがリリーとミトを襲う現場を目撃した鉄頭は、鉄パイプを振り回して助けに入る。彼が「助けて、助けて」と大声で叫ぶと、チンピラたちは走り去った。リリーはミトを自分が営むスナックへ連れて行き、ボーイのワンに頼んで手当てしてもらった。リリーは働いている全員が留学生であること、静かな場所に店を出したことを鉄頭に話した。鉄頭が恋人を捜して日本に来たことを明かすと、彼女は「羨ましい」と口にした。
暴対法が成立する中、江口は手下に対して暴力は振るわないよう指示を出す。江口は三和会の改革を村西に訴えるが、「武闘派の渡川が聞き入れるはずがない」と告げられる。江口は渡川組が派手に動き回っていることを懸念するが、村西は渡川を怒らせて三和会の調和が乱れることは絶対に避けねばならないと考えていた。江口は台湾ギャングのボスであるガウに案内され、側近の中島らと共にナイトクラブへ出向いた。店でウェイターとして働く鉄頭は、江口と共に秀秀がいるのを見て驚いた。鉄頭は彼女に声を掛けず、江口の車で去るのを黙って見送った。
帰宅した江口は、中国人を差別する意識が無いことを結子に告げる。中島は歌舞伎町へ来た中国人が厄介な存在であることに言及するが、江口は「あいつらも俺たちと変わらん。全ては食うていくためや。戦争で焼けた歌舞伎町の復興には、華僑が関わってた」と話す。彼は結子に、「中国人の友達に会いたくなったら、いつでも会いに行ったらええ」と述べた。鉄頭は阿傑の前でショックを吐露し、金髪の娼婦を買ってセックスした。
翌朝、鉄頭は阿傑に「帰国は出来ない。戻り道は無い。これから俺は自分のために生きて行く。金を稼いで、合法的な身分を得る。全ての夢には金が必要だ」と語った。鉄頭は香港仔に偽造テレホンカードの元締めである太保を紹介してもらい、大量のカードを売り捌くと持ち掛けた。鉄頭は寄合の仲間と共にテレホンカードを売り捌き、続いて偽造クレジットカードにも手を出した。さらにパチンコの裏ロムを使った仕事も開始し、稼ぎを増やしていく。
鉄頭と仲間たちは気の弱い阿傑に裏稼業は無理だと考え、彼の夢だった甘栗の屋台を購入した。鉄頭は故売屋でリリーと再会し、バッグをプレゼントした。彼は寄合の家にリリーを連れ帰り、仲間に紹介する。そこへ大家が怒鳴り込み、騒いでいたことやゴミを分別しなかったことを非難する。大家は出て行くよう要求するが、鉄頭が腕時計をプレゼントすると引き下がってくれた。阿傑は甘栗屋台の仕事を始め、親しくなった華僑の静子と話す。すると静子の父である徳叔は憤慨し、ヤクザの連中に彼を暴行させて屋台を奪った。
事情を知った鉄頭は激怒し、屋台を取り戻しに行く。彼は徳叔の店へ乗り込み、屋台を返して阿傑に謝罪しろと怒鳴る。鉄頭はヤクザたちに追い払われそうになるが、仲間が駆け付けた。仲間が暴れて鉄パイブで店を壊し、鉄頭は徳叔を脅して屋台の隠し場所を聞き出した。警官が来たので、鉄頭は店を抜け出して屋台を見つける。そこへ北野が通り掛かり、助けてもらった礼を言う。彼は「助けが必要なら俺を呼べ」と名刺を渡し、鉄頭を逃がした。
阿傑はパチンコ屋の客に頼まれ、裏ロムを使った台の見張りに赴いた。そこへ台湾ギャングの連中が現れ、裏ロムを仕込んだ男だと誤解される。阿傑は倉庫へ連行され、「リーダーは誰だ」と尋問される。阿傑が黙秘すると、台湾ギャングはナイフで顔を切り付け、右手首を切断した。知らせを受けた鉄頭と仲間たちが駆け付けるが、脅しを受けて何も出来ずに引き下がった。鉄頭が台湾ギャングの仕切るクラブに潜入すると、ガオが渡川の息子と密会していた。ガオは歌舞伎町を全て任せると確約され、江口を始末することを承諾した。
渡川の息子が去った後、ガオは手下たちに江口の殺害を命じた。江口が店へ来ると、ガオは隙を見て襲い掛かる。その様子を隠れて見ていた鉄頭は、持っていた鉈でガオの右手を切り落とした。鉄頭は江口と共に逃走し、身を隠した。江口が礼を述べて金を渡すと、鉄頭は受け取りを拒否して去ろうとする。しかし思い直した彼は結子の幼馴染だと明かし、江口の車で自宅へ案内される。結子は鉄頭を見て動揺しながらも、娘の彩子を紹介した。鉄頭は江口に、店へ渡川の息子が来ていたことを教えた。江口は「自分のために働いてくれたら充分な報酬を払う」と持ち掛けるが、鉄頭は断って立ち去った。
三和会では幹部会議が開かれるが、村西は渡川の破門を拒否した。渡川は「やったのは大阪の奴らだろう」とシラを切り、江口に謝罪を要求した。江口は鉄頭の元へ行き、渡川と村西を始末してほしいと依頼した。鉄頭は承諾し、その見返りに合法的な身分と台湾ギャングの縄張りを要求した。鉄頭は村西を殺害し、三和会内部での抗争が激化する。鉄頭は渡川を射殺し、警察では暴力団対策本部が設置された。政界の大物である大田原は、抗争を集結させるために三和会の幹部たちを呼び出した。北野が隠れて観察する中、大田原は江口を三和会の会長に指名した。北野は江口の側近として鉄頭が同行しているのを知り、疑問を抱いた。
江口が鉄頭と仲間たちに歌舞伎町の店を全て任せるが、中島は強烈な不満を抱いた。鉄頭は組織が同胞から徴収していた元締め料を廃止しようとするが、徳叔たちから「トラブルが起きたら、どうすればいい?」と困惑される。「警察を呼べばいい」と鉄頭は言うが、「警察はヤクザの仲間だ。頼りにならない」と告げられる。そこで鉄頭が「基金として受け取ろう。利益を生んだら返そう」と述べると、徳叔は「バックは要らない。安全な街作りのために貢献してほしい」と頼まれる。鉄頭が徳叔と手を組んだことに、阿傑は激しい怒りを示した。
鉄頭は株式会社を設立し、寄合の仲間に「今の地位は非合法な仕事で築いたが、長く続けられない。合法的に仕事をするため、株式会社を設立した。台湾ギャングを抑えて、自分自身を守る」と語った。彼は後から来る同胞のために金を回すことを決定し、その仕事を阿傑に任せる。そして、将来的には自分のやりたいことを始め、会社は老鬼と香港仔に譲渡する考えを明かした。彼が団結の必要性を説くと、阿傑は黙って立ち去った。阿傑はパンク・ファッションに身を包み、麻薬の売人として活動するようになる…。監督はイー・トンシン、脚本はイー・トンシン&チュン・ティンナム、製作総指揮はジャッキー・チェン&アルバート・ヤン、製作はウィリー・チャン&ソロン・ソー、製作協力はヘンリー・フォン&シャーリー・カオ&原田典久、撮影は北信康、美術はオリヴァー・ウォン、編集はコン・チーリョン&チャン・カーファイ&タン・マントー、衣装はカスティーヨ・アンジェロ・ベルナルド&荒木里江、アクション監督はチン・ガーロウ、音楽はピーター・カム。
主演はジャッキー・チェン、共演は竹中直人、ダニエル・ウー、シュー・ジンレイ、加藤雅也、峰岸徹、ジャック・カオ、拳也(澤田拳也)、長門裕之、倉田保昭、ファン・ビンビン、チョン・プイ、ラム・シュー、チン・ガーロウ、ロー・ワイコン、テディー・リン、ウォン・ワイファイ、リンゴ・チャン、葉山豪、キャシー・ユエン、グラディス・フォン他。
ジャッキー・チェンがアクション封印を宣言して主演した作品。
監督は『フル・スロットル/烈火戦車』『夢翔(かけ)る人/色情男女』のイー・トンシン。
脚本はイー・トンシンと『新ポリス・ストーリー』『ウォーロード/男たちの誓い』のチュン・ティンナムによる共同。
鉄頭をジャッキー・チェン、北野を竹中直人、阿傑をダニエル・ウー、秀秀をシュー・ジンレイ、江口を加藤雅也、村西を峰岸徹、ガウをジャック・カオ、中島を澤田拳也、大田原を長門裕之、渡川を倉田保昭、リリーをファン・ビンビンが演じている。
アンクレジットだが、吹越満が倉田役、宮本大誠が江口の手下役、斎藤工が静子の恋人役で出演している。「ジャッキー・チェンの主演作」ってことなら、観客は何よりも格闘アクションやスタント・アクションを期待するだろう。
しかし前述したように、この映画でのジャッキーは完全にアクションを封印している。
本人としては、「そろそろ違ったイメージも見せたい」とか、「年齢的にアクションが厳しくなってきた」という思いがあったのかもしれない。
もちろんアクションが無いのは残念だが、たまには違う一面を見せるのもいいだろう。ただし、「それにしても、この映画は無いよね」と言いたくなる内容なのである。鉄頭がリリーとミトを助けようとするシーンなんかは、いつものジャッキー主演作なら「得意のカンフーでチンピラたちを軽く退治する」という内容になるだろう。しかし鉄頭は鉄パイプを不器用に振り回すだけだし、すぐに「助けて、助けて」と大声で叫ぶ。
屋台を取り戻すために徳叔の店へ乗り込むシーンでも、いつものジャッキー主演作なら簡単にヤクザたちを叩きのめすだろう。しかし彼は何も出来ないで追い払われそうになり、鉄パイプを持った仲間が駆け付けて暴れてくれる。
阿傑が台湾ギャングに右手首を切断されても、駆け付けた鉄頭は何も出来ずに引き下がるだけだ。
気持ちが燃えることは何度もあるが、戦う力が伴わないのだ。いつもの「ジャッキー主演のアクション映画」であれば、誰かが誰かを攻撃するシーンであっても、陰惨なイメージは出来る限り抑えようとする。
しかし本作品では、「ナイフで顔に深い傷を付ける」とか、「右手首を切断する」といった残虐な描写が幾つも出て来る。人が内臓ゲロンチョで死んじゃうという、かなりグロテスクなシーンまである。
つまり、この映画で「戦い」が起きる時、そこで描かれるのは「アクション」ではなく「暴力」だ。
そして、その暴力の先には、「敵を倒した」という高揚感や「復讐を果たした」というカタルシスなど全く無い。色々と雑な部分、適当な部分は多くて、それは冒頭シーンから顕著に表れている。
貨物船が座礁している場所は、砂浜からすぐ近くだ。だからこそ、大勢の密入国者が上陸できている。
だけどね、そんなに砂浜の近くで座礁するなんて、どう考えても変でしょ。そんな場所まで貨物船が接近したら、水位が浅いから動けなくなるでしょ。
あと、そんな場所で座礁したのなら、とっくに海上保安庁なり警察なりが動いているはずでしょ。巡回の警官が初めて気付くなんて、すんげえ不自然だよ。三和会の連中が登場してからの展開は、ほぼ「ヤクザ物のVシネマ」の世界である。
しかも、Vシネマとして捉えても、派手さやケレン味は完全に排除されており、なかなか厳しい状態になっている。重苦しくて陰気臭いムードが、最初から最後まで漂い続ける。
もちろん、そういうテイストでも、充分に面白さを感じさせてくれる作品は存在するだろう(すぐには「例えば」ってのが全く思い浮かばないけど)。
しかし、この映画は、そういう「ただ重苦しいだけ」ってのが、映画の面白味には全く貢献していない。三和会の内部抗争に言及した後も、しばらくの間は鉄頭とヤクザ社会が関わらないまま進行する。結子が江口の妻になっていると知っても、「鉄頭が彼女を取り戻すためにヤクザと接近する」ということは無い。しかし鉄頭が裏稼業に精を出すようになることで、ヤクザ社会との距離が近付いていく雰囲気が漂い始める。
そして江口の依頼を受けて村西たちを殺すことにより、鉄頭は完全に「ヤクザ社会の住人」に染まる。
そういう展開に至ることにより、「ジャッキー・チェンがヤクザ物のVシネマに足を踏み入れた」という状態になる。イー・トンシンが監督を務めた香港映画なのに、「ジャッキーの主演作でヤクザ社会が描かれている」という状態ではなく、前述した状態に見えてしまう。
決して意図したわけじゃなくて、結果的にそうなっただけなんだろう。
で、それが映画の質や面白味を高めることに繋がっているのかというと、答えはノーだ。時間が経つにつれて「中国人同士の内輪揉め」や「台湾ギャングとの戦い」といった要素が強まり、香港ノワールの色に染まって行くけど、だからって話が面白くなるわけではない。鉄頭が徳叔の怒りを買ってヤクザに暴行されるシーンは、まるで必要性が無い。それが後の展開に繋がるわけではないからだ。
一応、屋台を取り戻す際に鉄頭が北野と再会する手順はあるけど、それは他の箇所でも普通に成立させられる。その後には「裏ロムを巡って阿傑が台湾マフィアの暴行を受ける」という展開が用意されているんだから、その前にも彼がボコられるシーンを配置するのが得策とは思えない。
そこはバッサリとカットして、いきなり阿傑が台湾マフィアに暴行を受ける展開へ移行した方がスッキリする。
ぶっちゃけ、この映画は無駄に長いので、もうちょっとシェイプアップした方がいいのよ。
後で「鉄頭が徳叔と手を組んだことに阿傑が憤慨する」と展開は用意されているけど、それは無くても大して困らないし。鉄頭は阿傑の報復を果たすため、ガオのクラブに忍び込む。
でも、なかなか襲い掛かろうとしないまま、江口が来てしまう。そして江口が襲われた時に、そのタイミングで飛び出してガオを襲う。
ものすごく強引な展開だ。「鉄頭が江口を救う」という手順を消化するための逆算が下手すぎるわ。
しかも、そこで「ガオへの復讐」は終了してしまうのだ。
相手の右手首を落としたから、それでチャラという考え方なのか。でも、そのまま放置したら台湾ギャングが襲って来ることは明らかだろうに。鉄頭は江口から自分のために働いてほしいと依頼されると、それを断って立ち去る。ところが、改めて訪ねて来た彼が2人の男を殺してほしいと頼まれると、それは迷わず引き受けている。
いやいや、どういうことだよ。
だったら最初に「俺のために働いてくれ」と言われた時点で、その代わりに合法的な身分と台湾ギャングの縄張りを要求すれば良かっただろ。
あと、江口は2人の抹殺を依頼するけど、鉄頭は凄腕のヒットマンってわけでもないぞ。たまたま江口を助けることは出来たけど、基本的にはそんなに強くない奴だぞ。鉄頭が「部屋で1人になっている村西を刺し殺す」という状況は、かなり不自然だ。江口のサポートがあったんだろうけど、それだと彼が絡んでいることはバレバレになってしまうので、だったら本人が殺せばいいんじゃないかと思ってしまう。
っていうかバレバレだからこそ抗争が起きているわけで、だから外部の人間である鉄頭を使っている意味が無いのよね。
あと、車に乗り込もうとした渡川を鉄頭が射殺するけど、そこは順番が逆じゃねえかと。村西より先に、渡川を始末するべきじゃないかと。
どっちの方が警戒が強くなるかと考えた時に、そういう順番の方がいいでしょ。
ただ、どっちにしても、渡川を射殺する時に鉄頭は素顔を見せているし、バレバレだろ。それなのに、何食わぬ顔で江口の側近として渡川組の連中の前に姿を見せるのは不用意だろ。この映画で何よりも厳しいと感じるのは、「やたらと陰惨で救いが無い内容」ってことだ。ジャッキーがアクションをやらないにしても、なぜ明るい映画、ハッピーな映画にしなかったのかと。
そりゃあ、アクションを披露しないどころか、残忍な暴力や卑劣な策謀がが渦巻く裏社会で生きる男の苦悩を演じるジャッキーは、意外性があるとは言えるだろう。
でも、そんな意外性をジャッキーに望む観客は、決して多くないはずだ。
観客に歓迎される要素じゃないのなら、そんな意外性は要らないでしょ。それと、ジャッキーがアクションを封印しているのに、澤田謙也や倉田保昭、ロー・ワイコンといった「格闘アクションの出来る俳優」が出演しているんだよね。そういう顔触れを見ると、「だったらジャッキーにアクションをやらせた方がいいだろ」と言いたくなるのよ。
変にアクションへの期待を持たせるような面々を起用しておきながら、格闘シーンが無いので、そこが不満に繋がってしまう。
せっかくジャッキーと澤田謙也や倉田保昭が共演しているんだから、そこは戦うシーンが欲しくなるでしょ。
見終わってから真っ先に感じるのは、「こんな映画ならジャッキー・チェンが主演である意味が無いなあ。アンディー・ラウとかラウ・チンワンでも良かったんじゃないのか」ってことだわ。(観賞日:2017年6月28日)
第6回(2009年度)蛇いちご賞
・助演男優賞:竹中直人
<*『新宿インシデント』『僕らのワンダフルデイズ』の2作での受賞>