『シーズ・オール・ザット』:1999、アメリカ

ハリソン高校の春休みが終わり、夏休みまで残り2ヶ月となった。3年生にとっては、卒業まで残り2ヶ月ということになる。生徒会長の ザックは登校し、友人のディーンやプレストンと再会した。ザックはスポーツ万能で成績優秀、女子にモテモテの男だ。学校のマドンナ的 存在であるテイラーと交際しており、2人はプロム・キングとクイーン間違い無しと言われている。
しかし登校早々、ザックにはショックな出来事が待っていた。1週間ぶりに会ったテイラーから、別れを告げられたのだ。彼女は休暇中に 取り巻きのアレックス、ケイティー、チャンドラーと共にデイトナへ遊びに行き、そこで出会ったテレビ俳優のブロックと交際を始めて いたのだ。テイラーは「プロム・パーティーには付き合うわよ」と、タカビーなことを言い放った。
ザックが捨てられたというニュースは全校に広まり、キャンパスDJのネタにもなった。しかしザックはディーンの前で強がり、「どんな モテない女でも、自分と付き合えば6週間後にはプロム・クイーンだ」と口にした。ディーンが「俺の選んだ女をプロム・クイーンに 出来るか賭けをしよう」と持ち掛けると、ザックは自信満々で応じた。ディーンが選んだのは、美術部の根暗な生徒レイニーだった。 レイニーは自分の殻に閉じ篭もっており、美術部のミスティーからネチネチと嫌がらせを受けている少女だった。
ザックはアートに興味があると嘘をつき、レイニーに再びアプローチした。レイニーは関わりを敬遠しようとするが、友人ジェシーは彼女 が出演する演劇のチケットをザックに渡した。そのため、レイニーは仕方なくザックと劇場で会うことにした。レイニーが出演する舞台の 主催者ミッチのアドリブで、ザックはステージに上げられ、即興で何かをやるハメになった。サッカー部員の彼は、お手玉リフティングで 観客の喝采を浴びた。
レイニーはザックと共に劇場から帰る途中、見直したことを認めた。しかし眼鏡を取った姿をザックが「目がキレイだ」と誉めると、途端 に怒って立ち去ってしまった。翌日、ザックはレイニーの家を訪れた。レイニーは追い払おうとするが、父ウェインと弟サイモンはザック を歓迎した。レイニーは渋々ながら、ザックの誘いに応じて海へ出掛けた。そこへディーンとプレストンが、ケイティーとチャンドラーを 連れて現れた。レイニーはケイティーとチャンドラーの挑発を受け、ビーチバレーに参加した。
その夜はプレストンの家でパーティーが催されることになっており、ザックはレイニーを誘った。しかしレイニーは「家の掃除がある」と 嘘をつき、断って帰宅した。しばらくすると、ザックがレイニーの家に現れた。彼は後輩部員を掃除の助っ人として呼んでおり、改めて レイニーをパーティーに誘う。彼は妹マックも呼び寄せており、レイニーのメイクと着替えを頼んだ。マックの手によって、レイニーは 美しく変身した。
ザックはレイニーを伴い、パーティーに参加した。トイレに行ったレイニーは、ドラッグと酒に溺れるミスティーから嫌味を言われ、彼女 の顔に落書きをして去った。会場にはテイラーがブロックと共に現れ、得意げに振舞った。テイラーはレイニーの元へ行き、わざとドレス に水をこぼした。会場から立ち去るレイニーをザックが追い掛け、家まで送り届けた。
翌日、登校したレイニーは、自分がプロム・クイーン選挙にノミネートされたことを知って驚いた。一方、テイラーはアレックスたちを呼び 、ブロックに捨てられたことを明かした。彼女はレイニーがクイーン候補になったことを知り、積極的な選挙活動を開始した。ザックは レイニーのアトリエへ行き、父に決められた進路への重圧に苦しんでいることを打ち明けた。ザックはレイニーにキスしようとするが、 彼女の冗談めかした「プロム・キングの予行演習?」という言葉に動きが止まり、その場を取り繕って立ち去った。
ザックに本気で惹かれるようになったレイニーは、自分に魅力が無いのかと不安になった。ザックは食堂でイジメを受けているサイモンを 助けるが、レイニーとは距離を置く。一方、ディーンはレイニーを口説き落としてザックを打ち負かそうと考え、彼女へのアプローチを 開始した。そしてディーンは、ザックが賭けの対象として口説いた事実をレイニーに暴露した…。

監督はロバート・イスコヴ、脚本はR・リー・フレミングJr.、製作はピーター・エイブラムス&ロバート・L・レヴィー&リチャード ・N・グラッドスタイン、共同製作はジェニファー・ギブゴット&リチャード・ハル、製作協力はカイル・ハム&ライラ・ヤコーブ、 製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン、共同総指揮はジェレミー・クレイマー&ジル・ソーベル・メシック、 撮影はフランシス・ケニー、編集はケイシー・O・ロアーズ、美術はチャールズ・ブリーン、衣装はデニース・ウィンゲイト、振付は アダム・シャンクマン、音楽はスチュワート・コープランド、音楽監修はアマンダ・シアー=デミ。
出演はフレディー・プリンゼJr.、レイチェル・リー・クック、マシュー・リラード、ポール・ウォーカー、ジョディー・リン・ オキーフ、アンナ・パキン、ケヴィン・ポラック、キーラン・カルキン、エルデン・ヘンソン、アッシャー・レイモンド、キンバリー・ “リル・キム”・ジョーンズ、デビ・モーガン、ティム・マシソン、ガブリエル・ユニオン、デュール・ヒル、タマラ・メロ、 クレア・デュヴァル、アレクシス・アークエット、デイヴ・バゾッタ、クリス・オーウェン、チャーリー・デル、マイケル・ミルホーン他。


『ラストサマー』のフレディー・プリンゼJr.を始めとして、若手のスター候補生が多く出演した青春恋愛映画。
ザックをフレディー、レイニーを『ドタキャン・パパ』『マンハッタンで抱きしめて』のレイチェル・リー・クック、ブロックを 『スクリーム』『デッドマンズ・カーブ 』のマシュー・リラード、ディーンを『カラー・オブ・ハート』のポール・ウォーカー、 テイラーを『ハロウィンH20』のジョディー・リン・オキーフ、マックを『ピアノ・レッスン』『グース』のアンナ・パキンが演じて いる。
他に、ウェインをケヴィン・ポラック、サイモンを『花嫁のパパ2』『ミュージック・オブ・ハート』のキーラン・カルキン、ジェシーを 『マイ・フレンド・メモリー』のエルデン・ヘンソン、キャンパスDJを歌手のアッシャー、アレックスをラッパーのリル・キム、美術部 顧問をデビ・モーガン、ザックの父をティム・マシソン、ケイティーを『恋のからさわぎ』のガブリエル・ユニオン、プレストンをデュレ ・ヒル、チャンドラーをタマラ・メロが演じている。
さらに、ミスティー役で『パラサイト』『17歳のカルテ』のクレア・デュヴァル、ミッチ役で『あなたに言えなかったこと』 『スリーサム』のアレクシス・アークエット、サイモンを苛める2人組の1人デレク役で『遠い空の向こうに』のクリス・オーウェンが 出演。
また、アンクレジットだが、『ラストサマー』でフレディー・プリンゼJr.と共演していたサラ・ミシェル・ゲラーが、カフェの女性役 で出演している。

「ハンサムで何でも完璧なモテモテ男が、ゲーム感覚で短期間で根暗なメガネ少女を美しく変身させるが、本気で惹かれるようになる」と いう、どこかで見たことのあるようなベタベタな筋書きである。
しかし、この映画がダメなのは、ベタベタで使い古されたネタだからではない。
それを丁寧にキメ細かく作らず、超テキトーな感覚で雑に仕上げたからダメな映画になってしまったのだ。
そもそもレイチェル・リー・クリックにメガネを掛けさせただけで「根暗で全くモテない、外見も冴えない少女」の設定を成立させて しまおうという時点で、大胆不敵というか、アンポンタンというか。
実際、メガネ姿で登場しても、その段階で可愛く見えてしまう。

ザックは他の女を例に出して「デブなら何とかなる。でもレイニーを6週間でプロム・クイーンにするのは無理だ」と及び腰だが、デブの 方がキツいだろ。レイニーは根暗でも美人なんだから、楽勝だろ。
「見た目の問題じゃなく中身の問題でプロム・クイーンには難しい」ということなら、ザックの意見も理解できる。
でも、この映画ってディズニーのファミリー向けアニメ作品と同じで、「人間は見た目」という考えに基づいて作られているからね。
だからレイニーは性格の変化ではなく、外見の変化によってプロム・クイーン候補になり、ザックも外見の変化した彼女に惚れるのだ。

ザックは「スポーツ万能で成績優秀で何でも完璧な生徒会長」という設定だが、ただの軽薄で軟派な野郎にしか見えない。
見た目の良さでモテモテという設定は納得できても、全く勉強などしておらず女のことしか考えていないような感じなのに「成績優秀で イェール大学やハーバード大学に合格」というのはどうなのかと。
っていうかさ、途中で「クラスで4番目の成績」ってザックが言うんだけど、クラスで4番目でもイェール大学やハーバード大学に入学 できるのね。高校自体が優秀なのかな。

最初はゲームとしてレイニーを口説き始めたザックが、どんなきっかけで、いつ頃から本気で惹かれるようになっていったのかは、全く 見えてこない。最初はザックを敬遠していたレイニーが、どの辺りから、彼のどんな所に惹かれるようになっていったのかは、全く見えて こない。双方の心情がどのように変化していったのかという部分が、サッパリ分からないのである。
ザックとレイニーの心境の変遷だけでなく、その場その場で何を考えているのかもサッパリ分からない。
ディーンのセリフなどから推測したに過ぎないが、パーティーの段階でザックは「自覚は無いが本気になっている」という設定ではないか と思われる。
しかし、そこまでに「ゲームとしてのアプローチが次第に本気に」という変遷が全く感じられない。遊び感覚と本気の差が描かれて いないのだ。
演出の足りなさを補うだけの芝居も、フレディーは発揮していないし。
例えば、そこまではゲーム感覚にして、ザックがディーンに得意げに進行状況を語る場面なども挿入して、しかしパーティーでのレイニー の態度や行動を見て心境に変化が生じる、ということにでもすればいいのに。
でも、この監督のことだから、そういう展開を仮に作ったとしても、ザックの心境の変化を描写できなかった可能性は高いかなとも思うが。

ザックがレイニーにアプローチを開始した後、「皆の憧れの生徒会長を根暗で冴えない女に奪われた」ということで周囲の女がやっかみで 嫌がらせをして来るような動きは見られない(ケイティー&チャンドラーの嫌がらせやミスティーの皮肉は、それとは異なる種類のモノ) 。
そもそも、ザックがモテモテだというアピールも不充分だと感じるしね。
冒頭で声を掛けられた女生徒が舞い上がる場面はあるが、それ以外では普通に女子生徒は通り過ぎているし。
テイラーにフラれたザックへのアタックを考えるような女子もいないし。

「レイニーの外見がみちがえたことで周囲の反応がガラリと変わる」という手順を踏まず、いきなりプロム・クイーンにノミネートされる 展開に移行するのは、大雑把な中抜きだと感じる。
また、そのことをレイニーが嫌がったり、やめてもらおうとしたりする素振りが無いのも不可解だ。
騒がれるのを嫌って、またメガネの野暮ったい姿に戻るという手も考えられるが、そんなことは全く無い。

ザックは「父が決めたエリート進路のプレッシャーがある」とレイニーに語るが、そのことによって2人の関係や心境に変化が生じること は無い。
その「父の重圧」という設定自体、ほぼ無価値なモノと言っていい。
それだけでなく、放り出されたままの要素やキャラは多い(例えばミスティーは顔に落書きされた後、レイニーとの関係や美術部での 立場はどうなったのか)。
ブロックやテイラーでさえ、印象としては放り出されたままだ。
マックにしても、ゲスト出演の扱いなのかもしれないが、もっと絡んでこいよ、と思うし。

終盤に入ると、プロム・パーティーの場面で生徒たちが踊る様子に、妙に長く時間が費やされる。
あのね監督、プロム・パーティーで全員の振り付けをキレイに合わせることに力を入れるよりも、ドラマや心境変化の描写に力を 入れようぜ。
パーティーは無駄に長いし(そこだけ切り取れば「魅力的なダンス・シーン」と言えるだろうが、全体のバランスからすると破綻している )、無駄に長いくせに、そこで決着を付けずに次のシーンまで引っ張るのも違うし、さらに卒業式まで行くのも蛇足だよ。

(観賞日:2008年3月31日)

 

*ポンコツ映画愛護協会