『シャンハイ・ナイト』：2003、アメリカ
1887年、中国の紫禁城。皇帝の玉璽を守っていたチョン老人の元に、娘リンがやって来た。リンはアメリカにいる兄チョン・ウェンからの 手紙を父に手渡した。玉璽を狙うイギリス人のラスボーン卿は、手下を率いて紫禁城に乗り込んだ。リンが戦いを挑むが、一味はチョン 老人を刺して玉璽を奪い去った。老人は死の間際、リンにパズルボックスを差し出して、チョンに渡すよう言い残した。
ネヴァダ州カーソン・シティー。この街の保安官となったチョンは、ペイ・ペイ姫の到着を待ちかねていた。馬車が現れたため期待する チョンだが、ペイ・ペイ姫は乗っていなかった。御者から渡された箱を見て、チョンは紫禁城で起きた出来事を知った。リンはラスボーン を追い掛け、ロンドンへ渡っている。妹の身を心配したチョンは、ロンドンへ旅立つことを決めた。
ロンドンへ行く資金を得るため、チョンはニューヨークにいるロイ・オバノンを訪ねた。だが、ロイはチョンが預けてあった財産を全て 使い果たしていた。ロイは事情を聞き、チョンと共にロンドンへ渡ることにした。一方、ヴィクトリア朝時代のロンドンでは、議員達が 中国との外交に関して話し合っていた。エリザベス女王の従弟であるラスボーン卿は、中国視察を終えての意見を求められた。彼は、 「中国では義和団が犯罪の限りを尽くしており、外交相手には不適格だ」と主張した。
ロンドンに到着したチョンとロイは、スリの少年チャーリー・チャップリンと遭遇した。チャーリーがロイの懐中時計を盗んだため、２人 は逃げる彼を追跡した。チャーリーはスリの２人組に捕まり、縄張り荒らしとして暴行されそうになる。そこへチョンとロイが駆け付け、 チャーリーの解放を要求した。大人たちが揉めている間に、チャーリーは懐中時計を持って逃げてしまった。チョンとロイはスリ２人組や 彼らの仲間たちに襲われるが、撃退した。そこへロンドン警視庁のアーティー・ドイル警部が駆け付け、２人を拘束した。
チョンとロイは、アーティーから、ならず者グループを退治した礼を言われた。チョンが事情を説明すると、アーティーは拘置されている リンの元へ案内した。リンはラスボーンを襲撃したものの失敗し、逮捕されていたのだ。リンと会ったロイは、一目惚れして口説きに 掛かった。チョンは妹の解放を願うが、アーティーは「それは無理だ」と告げた。
ラスボーンが馬車に乗ると、中国人のウー・チャウが現れた。ウー・チャウは中国皇帝の腹違いの兄だが追放処分となり、玉璽を入手する ことで皇帝の座を奪おうと企んでいた。一方、王位継承権第10位であるラスボーンは、ウー・チャウに玉璽を渡す交換条件として継承権 上位の邪魔者を全て始末してもらい、エリザベス女王の後釜に座ろうと企んでいた。
街に出たチョンとロイは、チャーリーと再会した。雨が降ってきたため、チョンとロイはチャーリーが案内した他人の屋敷で雨宿りをする。 その屋敷で彼らは、バッキンガム宮殿で催される記念舞踏会の招待状を発見した。そこに潜入すれば、ラスボーンと会うことも出来る。 チョンとロイはチャーリーを御者として従え、貴族に変装してパーティーに潜入した。
チョンとロイはラスボーンの部屋に忍び込み、玉璽を探す。チョンは隠し部屋を発見するが、刺客に襲われた。それに気付かなかったロイ も別の刺客に襲われるが、脱走したリンが駆け付けて助けた。隠し部屋には皇帝の箱があったが、玉璽は入っていなかった。地下道を移動 した３人は、ラスボーンとウー・チャウの密会現場を目撃した。ウー・チャウが去った後、リンがラスボーンを襲撃した。チョンたちが敵と 戦っている間に、侵入したチャーリーが玉璽を持ち去ってしまった。
地下道から脱出したチョン、ロイ、リンの３人は、宿に辿り着いた。ロイはチョンに、リンとの中を取り持つよう頼んだ。しかしチョンは リンに、「ロイは女やギャンブルなど悪癖が多すぎる」と悪口を並べ立てた。それを盗み聞きしたロイは不機嫌になり、チョンはお詫びと して売春婦を呼び集めた。チョンとロイが大勢の女と遊んでいるところへ、リンがやって来た。リンは腹を立てて宿を飛び出し、橋の上に 現れた切り裂きジャックは一撃で川へ突き落とした。
チョンとロイが橋にやって来るが、リンと共にウー・チャウの手下たちに拉致されてしまった。ラスボーンとウー・チャウは、チョンとロイ を倉庫に監禁してリンを連れ去った。殺されそうになったチョンとロイは、何とか脱出した。２人はアーティーの元を訪れ、協力を要請 した。アーティーは推理力を働かせ、チャーリーが蝋人形館に隠れていると考えた。チョンとロイ、それにアーティーの３人は蝋人形館へ 赴き、チャーリーを発見して玉璽を奪還した。だが、そこへ悪党一味が現れ、チャーリーを人質にしてしまう…。監督はデヴィッド・ドブキン、キャラクター創作＆脚本はアルフレッド・ガフ＆マイルズ・ミラー、製作はゲイリー・バーバー＆ロジャー ・バーンバウム＆ジョナサン・グリックマン、製作総指揮はジャッキー・チェン＆ウィリー・チャン＆ソロン・ソ＆ステファニー・ オースティン＆エドワード・マクドネル、撮影はエイドリアン・ビドル、編集はマルコム・キャンベル、美術はアラン・キャメロン、衣装 はアンナ・Ｂ・シェパード、音楽はランディー・エデルマン。
出演はジャッキー・チェン、オーウェン・ウィルソン、ファン・ウォン、アーロン・ジョンソン、アイダン・ギレン、トーマス・ フィッシャー、ドニー・イェン、オリヴァー・コットン、アリソン・キング、コンスタンティン・グレゴリー、ジョナサン・ハーヴェイ、 リチャード・ハース、アンナ・ルイーズ・プロウマン、ジョージナ・チャップマン、ジョン・オーウェンズ、リチャード・ブレマー、 キム・Ｓ・チャン、ジェマ・ジョーンズ、エリック・メイヤーズ他。
2000年の映画『シャンハイ・ヌーン』の続編。
チョン役のジャッキー・チェン、ロイ役のオーウェン・ウィルソンの２名だけが前作から引き続いての出演。
リンを演じるシンガポール出身のファン・ウォンは、これがハリウッド映画デビュー。
チャーリーをアーロン・ジョンソン、ラスボーンをアイダン・ギレン、アーティーをトーマス・フィッシャー、ウー・チャウをドニー・ イェンが演じている。
監督は前作のトム・デイからジャッキー・チェンが指名したデヴィッド・ドブキンにバトンタッチしている。シリーズ物ってのは、「前作の主要キャラがどれだけ再登場してくれるか」というのも一つの楽しみになる。
そういう意味においては、本作品は残念。
舞台がアメリカ西部からロンドンに移るという事情はあるにせよ、前作で主要キャラだったペイ・ペイ姫もスー族の娘フォーリング・ リーヴスも登場しない。
そりゃチョンとロイの２人がいれば、それでシリーズとしての体裁は充分に整うけどさ。実在した有名人をキャラクターとして登場させることで、観客の御機嫌を伺っている。
アーティー・ドイルは終盤に「今後は探偵小説を書く」と言っているが、もちろん彼は推理作家コナン・ドイルだ。
ロイがパーティー参加時に名乗る偽名がシャーロック・ホームズであり、それをアーティーは小説の主人公に使うと言っている。
切り裂きジャックも登場し、あっさりとリンに退治される。スリの少年は後の喜劇王チャーリー・チャップリンという設定なのだが、こいつに関しては、もっと上手く使うべきだろうと 感じた。
チョン＆ロイとの絡みが中途半端だし、あれじゃあ単なるクソガキじゃないか。
「後の喜劇王」を感じさせるシーンも、ラストシーンでチョビヒゲ姿になる時ぐらいじゃないか。
っていうか、個人的には、このガキはどうでもいいから、もっとリンの出番を増やしてほしいと思ったけどね。
敵に捕まっている間は、しばらく出番が無くなるので、勿体無いなあと。傘や壷といった小道具、梯子や回転扉といった舞台装置を存分に使ってのアクションは、ジャッキー・チェンが得意とするところだ。その 手のアクションはハリウッド映画では見られないものだし、まだアメリカの観客にとっては新鮮味が感じられるものかもしれない。
しかし、香港時代からのジャッキー映画を何本も見てきた人間からすると、もう見慣れた光景である。
セルフ・オマージュという意識なのかもしれないが、悪く言えば、それは今までジャッキーがやって来たことの焼き直しに過ぎない。壷を 落とさずに戦うというアクションなどは、香港時代だけでなく、『ラッシュアワー』でもやっていたことだ。一定水準の面白さはあるし、 楽しめないわけではないが、マンネリズムは否めない。
しかも『ラッシュアワー』では「ハリウッド俳優とのコンビ」という新要素があったが、それも今回は新たな要素とは成り得ない。別の 映画だから組む相手は違うが、シリーズとして２作目だし。そして、そういう「見慣れた光景」に代わるアクションの見せ場があるのかというと、何も無いのだ。
派手で危険なスタント・シーンは、ハリウッド映画なのでやっていない。『プロジェクトＡ』を意識したと思われる時計台からの転落 シーンは、実際にスタントをやっているわけではない。
そんなヌルい形でセルフ・オマージュを捧げるなら、やらない方がマシだ。
『ラッシュアワー』に関しては、ハリウッド進出１作目なので、ジャッキーのアメリカ向けプロモーション・フィルムとして捉えるならば、 香港時代からのアクションを焼き直しても、それはそれでＯＫだった。
しかし、この作品においては、もう「昔の名前で出ています」だけではキツい。
ジャッキー・チェン主演作を見る時に、『水戸黄門』のように「マンネリズムを味わう」という境地に達しないといけないという段階に 入ってきたのだろうか。ジャッキー映画を昔から見てきた人間としては、そうなると後の楽しみは、「新たな共演者」というところに、ほぼ絞られる。
今回のヒロインであるファン・ウォンは、配役が決まらず悩んでいたデヴィッド・ドブキンが彼女の映画を見て、オーディションのため ロンドンに呼び寄せたという経緯がある。彼女を気に入った監督は、予定されていた出番を大幅に増やしたらしい。
アクションシーンではスタント・ダブルも使っているが、映画のために武術の訓練も受けている。
ちょっと歌手のJYONGRIに似てるかも。
で、そんなファン・ウォンは、ヒロイン抜擢に充分に応える存在感を発揮している。
ただし今後、世界的に（特にハリウッドで）活躍できるかというと、難しいと思う。
それは彼女が女優として足りないってわけじゃなく、私の中では「ジャッキーが主演し、コントロールした映画で抜擢された女優は大成 しない」という勝手なジンクスがあるのよ。それ以前から既に活躍していた女優は別にしてね。
これに該当しない女優（つまり抜擢されてからビッグになった女優）って、マギー・チャンぐらいじゃないの。私が何より期待していたのは、香港時代には無かったジャッキーとドニー・イェンの初共演だ。
ところが、この２人の絡みが少なすぎる。終盤に戦うだけなのだ。
せめて中盤で１度ぐらい、軽く手合わせしておいてくれよ。
正直、この映画のアクションで期待できるのって、そこしか無いのに。
そもそもドニー個人としても、終盤にしか戦わないし。
おまけに終盤の格闘でも、ジャッキーがドニーを倒すわけではなく、リンがマシンガンで吹っ飛ばしているのよね。で、そのジャッキーとドニーの戦いはクライマックスではなく、その後にラスボーンとの戦いが待っている。
つまりラスボーンの方が強敵扱いなのだが、そこは逆にしておこうぜ。
そもそも、チョンの父を殺すのはラスボーンではなく、ドニーにやらせとけよ。
で、終盤はジャッキー対ドニー、ロイ対ラスボーンを同時進行という形で描けばいいのよ。アクション・コメディーだが、かなり全体的にコメディーへの比重が強くなっているように見受けられる。
ノリのいい音楽を流して、ストーリーを進行せずに道草し、ただユルく遊んでいるだけというシーンもチラホラとある。
やはり、そろそろジャッキー・チェンをバリバリのアクション・スターとしては諦めるべきなのかな。
年も年だし、その割には頑張ってるもんな。（観賞日：2008年7月27日）