『シャンハイ』:2010、アメリカ&中国

1941年、日本は上海を除く中国の主要都市を掌握していた。上海で活動していた米国諜報員のポール・ソームズは日本軍に捕まり、拷問を 受けた。情報部のタナカ大佐は彼を部屋に呼び、「あの時はうっかりしてた。君がランティン夫人に気があるとは知らなかった」と微笑 した。「あの夫婦とは友達だ」とソームズは言うが、タナカは「しかし彼女は昨夜、君のホテルに1人で行っている。彼女はどこだ」と 尋問する。ソームズは「僕は知らない。見当も付かない」と答える。
2ヶ月前、1941年10月。ソームズは船で上海に到着した。ドイツ領事館のエンジニアであるカール・ミュラーと妻のレニも一緒だった。 ソームズはイギリスとアメリカの共同租界にあるパレス・ホテルにチェック・インした。彼は同じ諜報員で親友でもあるコナーの応援と して、上海に呼ばれていた。そのコナーは、日本租界でスミコという女と情事にふけっていた。スミコと別れて外に出たコナーは、車に 乗り込もうとしたところで何者かに射殺された。
ソームズはコナーと会うため、待ち合わせ場所であるフランス租界のカジノへ行く。しかしコナーは現れず、ポーカーのテーブルには アンナという中国人女性がやって来た。ソームズは彼女と勝負するが、負けてしまう。アンナは1度の勝負だけでテーブルを去った。彼女 がハンカチを忘れて行ったので、ソームズはそれを持って後を追う。するとアンナは、シガレットケースを持った中国人の男と意味ありげ に会話を交わしてから店を出て行った。
ソームズは車に乗り込もうとするアンナを見つけ、声を掛ける。すると武装した男たちが彼を包囲した。ソームズはハンカチを見せると、 アンナは男たちに「もういいわ」と告げ、ハンカチを受け取って車で走り去る。そこへ海軍諜報部のコリンズ大尉がソームズを迎えに来た 。ソームズはアメリカ領事館へ赴き、上官であるリチャード・アスター大佐と会った。アスターは彼にコナーの死体を見せ、日本租界で 見つかったことを話した。
アスターはソームズに、コナーが地元ギャングの上海三合会のボスであるアンソニー・ランティンを調べていたこと、ランティンが日本人 と組んでいることを語る。コナーは1ヶ月前から報告を入れず、音沙汰が無い状態だったという。コナーが日本領事館のキタ外交官と接触 していたことを知らされたソームズは、「僕も会いたい、あとランティンも紹介してほしい」とアスターに言う。アスターは「ランティン は仲間以外では、日本人かドイツ人としか会わないそうだ」と告げる。
ソームズは、上海ヘラルドの親ナチ派記者として表向きの活動を開始した。彼はアスターからの電話で、キタとセッティングできたことを 告げられる。ソームズは日本租界の食堂へ行き、キタと会おうとする。だが、日本軍が別の男を捕まえるためにやって来たので、ソームズ はキタとの接触を諦めた。立ち去ろうとしたソームズは日本兵に逮捕されそうになり、射殺して逃走した。
ポールはレニから招待状を貰い、ドイツ領事館のパーティーに出席する。ランティンもドイツ領事の招待を受け、パーティーに来ている。 ソームズは彼と挨拶を交わした。ランティンはタナカを彼に紹介する。すぐにタナカは去った。ランティンの元へ、遅れて妻がやって来る 。それがアンナだったので、ソームズは驚く。ソームズはランティンに促されて彼女とダンスをする。「シガレットケースの男は誰?」と ソームズは尋ねるが、アンナにはぐらかされた。
ソームズは港の酒場でキタと密会し、「コナーは情報の見返りにアメリカのパスポートを約束していた。もう1年が過ぎた」と聞かされる 。ソームズは「我々が引き継ぐ」と言い、情報提供を求めた。キタは「コナーは殺される前、日本人女性の通行証を欲しがった。上海から 脱出させようとしていた。指示されたアパートに通行証を持って行ったが、誰もいなかった」と語る。キタは「女はスミコという名前だ」 と言い、通行証を見せた。他にコナーは、日本の東シナ艦隊の情報を欲しがったという。
ソームズはアスターと共に、そのアパートを調べた。コナーが死んだ夜、スミコも姿を消しているという。ソームズは、マッチと暗号の ようなメモを発見した。さらに彼は、コナーが他に暗室として部屋を借りていることを見抜く。屋上の小屋を開けると、そこは暗室として 使われており、コナーが撮った何枚もの写真が残されていた。撮影したもの。その中には、日本人将校がタナカに敬礼している写真も あった。アスターはソームズに、タナカが上海の日本軍情報部のトップだと教えた。さらにソームズが写真を調べると、アンナが写って いる物もあった。アスターによると、アンナは政治家だった父親を日本軍に殺されたという。アンナも殺されるはずだったが、ランティン と結婚して命拾いしていた。
日本軍が訪れるナイトクラブで、ランティン夫婦はショー見物していた。ソームズはナイトクラブを訪れ、アンナを観察した。すると アンナの目配せを受け、店員たちが何やら怪しげな動きを見せた。ランティンが日本人将校たちのいるテーブルに呼ばれて行こうとすると 、アンナは慌てて「待って」と止める。ランティンは「すぐに戻るよ」と将校たちのテーブルへ向かう。その時、ソームズは店員の一人が 、将校たちのテーブルの下に爆弾を仕掛ける様子を目撃した。
ソームズが「アンソニー、伏せろ」と叫んだ直後、激しい爆発が起きた。店員たちは反日レジスタンスが化けた姿だった。レジスタンスは 将校たちを射殺する。ランティンは銃撃を受けて怪我を負いながらも、レジスタンスの数名を射殺した。ランティンは邸宅に戻り、手当て を受ける。ソームズもディナーに招かれ、同行した。そこへタナカが来ると、ランティンはアンナに「ディナーまでソームズさんに家を 案内してはどうだ」と促した。
ソームズは別の部屋に移り、アンナに「殺された店員の中には、カジノで見た顔もあった」と告げる。「アンソニーに言えばいいのに」と 口にする彼女に、ソームズは「どこまで言っていいか。君がレジスタンスということも?」と問い掛ける。アンナは「夫に迷惑は掛けない つもりよ」と告げるので、ソームズは「でも仲間はそこまで考えているかな。一人が生け捕りにされたが、そいつが吐いたらどうする?僕 が協力しようか」と持ち掛けた。その時、「命令するのか」とタナカに激しく怒鳴るランティンの声が聞こえてきた。
ソームズはディナーの後、アンナに改めて協力を持ち掛ける。彼はアンナからメモの入ったシガレットケースを受け取り、カジノへ行く。 ソームズはシガレットケースをレジスタンスの男に渡し、密かに尾行した。レジスタンスの連中は、フードで顔を隠した女を車で隠れ家 から移動させた。その直後、タナカが部下を率いて隠れ家にやって来た。しかし中に誰もいなかったため、情報屋は射殺された。
翌日、ソームズがアンナと会うと、「日本軍は南京で事件を起こしたらしいわ。もうすぐ、ここでも同じことをする。だから戦ってるの」 と聞かされる。「タナカ大佐について書くべきってこと?」とソームズが尋ねると、彼女は「上海で起きる事件の全てに彼は絡んでいる」 と言う。「父上が殺された時も?」というソームズの言葉に、アンナの顔が強張った。ソームズは「僕も勉強したよ。立派なお父さん だったみたいだね。南京の事件を批判するなんて、普通じゃ出来ない」と述べた。
ソームズはアスターに電話を掛け、タナカに敬礼していた将校たちのことを尋ねる。アスターは「空母“加賀”の乗組員たちだ。休暇で 寄港していた。タナカは警護の任務に当たっていた。きっとバーのことでも教えていたんだろう」と言う。しかしソームズは、コナーが 何か理由があってタナカを調べていたと確信し、新聞社で資料を調べた。その時、彼は編集長のベンが女と密会する現場を目撃する。ベン はパスポートの手配を女に約束していた。ソームズに気付くと、ベンは慌てて取り繕った。
ソームズがホテルにいると、レニが訪ねてきた。夫は東京へ出張したという。ソームズは彼女とレストラン“カサノバ”へディナーを食べ に出掛ける。一方、アンナはレジスタンスの仲間たちに、日本の外交官たちを襲撃する指令を出していた。現場を確認した後、アンナは カサノバに現れてソームズに声を掛けた。彼女はソームズとレニに「来週、ウチの人がパーティーを開くので、良かったら来て頂戴」と 誘いを掛け、別のテーブルに座る。その頃、レジスタンスは日本の外交官たちを射殺していた。
ソームズはレニの屋敷へ行き、彼女と関係を持った。レニが就寝した後、ソームズはミュラーの書斎を探り、10月28日に上海で加賀に魚雷 を搭載したという極秘情報を入手した。資料を撮影していたソームズは、目を覚ましたレニに目撃される。ソームズが振り向くと、レニは 無言で寝室へ戻った。ソームズはアスターに報告を入れ、「加賀の将校たちは休暇で上海へ立ち寄ったわけじゃない。それをコナーは 見抜いてた。日本とドイツのエンジニアが魚雷の精度を高めるために調整中です」と語る。「それが事実として、私にどうしろと」という アスターの問い掛けに、ソームズは「加賀の現在地は?」と尋ねる。アスターは「東シナ艦隊に所属したまま、ずっと動いていない。 コナーを殺した奴は突き止めてやるが、日本に宣戦布告は出来ない」と述べた。
次の週、ソームズはランティンのパーティーに赴いた。アンナに「また会いたいな」と言っていると、そこへランティンが来て「まさか 妻を口説いてないだろうな」と冗談めかして言う。彼はアンナを去らせた後、「先週、カサノバで妻は君と会ったそうだな」とソームズに 告げる。「ええ、ドイツ人の友人と食事していた時に」とソームズが答えると、彼は「タナカ大佐に証言してくれるか。あの日、日本の 外交官が殺されてね。大佐は私の近くに情報漏漏洩者がいると思っている」と述べた。
ソームズがアンナを捜していると、タナカと遭遇した。彼はアンナについて「一人の女に大勢がたぶらかされている」と不愉快そうに言う 。「結婚はしてるのか」とタナカに訊かれたソームズは、「遠い昔に一度だけ」と答える。タナカは「ウチのは上海へ発つ2日前、他の男 と駆け落ちしたよ。最後に勝つのは、いつも女だ」と語る。タナカから「カサノバで夫人を見たそうだが、彼女はいつ頃まで店に?」と 問われたソームズは、「僕たちが店にいた時は、ずっと。たぶん12時頃までは」と答えた。
ソームズはタナカの持っていたマッチを密かに盗みだした。それはコナーのアパートにあった物と同じだった。そのマークのある阿片窟へ 赴いたソームズは、そこを仕切るマイキーとラルフにタナカの写真を見せて「ここに来ているか」と質問する。ラルフは「そいつは阿片を やらない。やるのは一緒に来るスミコっていう女だ」と言う。マイキーによると、最後にスミコを見たのは数週間前だという。
ソームズはキタと密会し、「コナーは生前、加賀について調べていた。詳しい情報を集めてほしい。東シナ艦隊の情報もだ」と要求する。 「無理だ。今月に入って3度も異動させられた。私は疑われてる」とキタが拒むので、ソームズは「異動なんて良くあることだ」と説得 する。キタが「恋人と結婚する。一緒に逃げたい」と言うので、ソームズは偽造パスポートを渡す条件で調査を承諾させた。
ソームズはキタの手配した漁船に乗り、東シナ艦隊の偵察に向かう。するとキタは、加賀と航空母艦の赤城を含む9隻が11月1日と比べて 減っていることを指摘する。ソームズは、アパートで見つけたメモが遠距離攻撃用のフォーメーションだと気付いた。しかし彼の報告を 受けたアスターは、「ワシントンの暗号解読班に問い合わせた。先月、出撃命令は出ていない。修理でドックに入ったんだろう。戦闘不能 なのを隠したのさ」と軽く語った。
アスターはコナーについて、「日本のスパイに恋をして裏切られた」と批評する。ソームズは「コナーはランティンを追っていて、スミコ がタナカの愛人だと気付いた。そこで彼女に近付き、タナカの情報を得た。スミコが生きているとしたら、きっと見つけますよ」と語る。 ソームズはベンに、日本への偽造パスポートを用意してくれと要求した。彼は偽造屋ビリーの写真館へ潜入し、スミコの偽造パスポートを 発見した。そこには、受け取り日と時刻が掛かれていた。
ソームズが写真館を張り込んでいると、偽造パスポートの受け取りに来たのはアンナだった。彼はアンナを尾行するが、背後から殴られて 失神した。ソームズが意識を取り戻すと、アンナに介抱されていた。尾行の理由を問われた彼は、「パスポートの届け先を知りたかった。 日本人女性のパスポートだ。スミコは僕の親友の恋人で、親友が殺された直後に姿を消している。なぜ女を誘拐した?」と尋ねる。アンナ は「タナカに仲間が何百人も逮捕されている。全員と女を交換させる」と答えた。
ソームズは「大事なことが分かってない。タナカは取り引きに応じない。むしろ死を望む。スミコは愛人でありながらスパイでもあった。 タナカは女を見つけ出し、その後で君たち全員の口を塞ぐだろう。スミコはどこにいる?力になると約束しよう」と説得する。アンナは 「貴方のホテルに後で電話するわ」と告げて去った。ソームズはキタに2人分の偽造パスポートを渡し、駅で彼の様子を観察した。キタは 恋人と落ち合い、無事にパスポート確認を済ませて列車に乗り込んだ。
駅を去ろうとしたソームズは、アンナと仲間たちがスミコを列車に乗せようとしている様子を目撃した。ソームズはアンナを追い掛ける。 アンナは仲間たちに「注意を引き付けて」と指示した。仲間の一人は、憲兵にパスポート提示を求められて刺殺した。駅はパニック状態と なり、アンナは仲間にスミコを連れて逃げるよう告げる。別ルートで駅から逃げようとしたアンナは、憲兵に止められた。それを目撃した ソームズは、憲兵を殺してアンナを助けた。
アンナをホテルに連れ戻ったソームズは、「なぜ電話しなかった」と問い詰める。「仲間が信じてくれなかった」と釈明するアンナに、彼 は「しくじった時はどこで落ち合う?父親の仇討ちをしたかったら、スミコの居場所を正直に言え」と声を荒げた。するとアンナは感情的 になり、「何も分かっちゃいない。毎日大勢が亡くなっていて、あんな女一人が何なの。阿片をねだる時だけ喋るような女」と吐き捨てた 。ソームズは「僕は親友を殺した犯人を見つけたいだけだ」と静かに告げる。
アンナはアンソニーに電話を掛け、「少し遅くなる。愛してるわ」と告げる。電話を切った後、彼女はソームズは熱いキスを交わす。そこ へタナカの部下たちが現れる。彼らは部屋に乗り込むが、アンナは既に逃げていた。ソームズは連行されて拷問を受けた。タナカは彼に、 キタが捕まったことを教える。キタの恋人は日本軍のスパイだったのだ。キタはソームズが見ている前で処刑された。ソームズはアスター の手配で釈放されるが、すぐに本国へ戻るよう命じられる。ソームズは「スミコを見た。すぐに見つけ出す」と反論するが、アスターから 「もう手遅れだ。これ以上、こじられるな。上海から出て行け」と指示される…。

監督はミカエル・ハフストローム、脚本はホセイン・アミニ、製作はマイク・メダヴォイ&バリー・メンデル&ドナ・ジグリオッティー& ジェイク・マイヤーズ、共同製作はケリー・デニス、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ケリー・ カーマイケル&デヴィッド・スウェイツ&アーノルド・メッサー&スティーヴン・スクイランテ&ワン・チョンジュン、共同製作総指揮は デヴィッド・リーDavid Lee、撮影はブノワ・ドゥローム、編集はピーター・ボイル&ケヴィン・テント、美術はジム・クレイ、衣装は ジュリー・ワイス、視覚効果監修はジェームズ・マディガン、音楽はクラウス・バデルト、ピアノソロはラン・ラン。
主演はジョン・キューザック、コン・リー、チョウ・ユンファ、渡辺謙、デヴィッド・モース、ジェフリー・ディーン・モーガン、 菊地凛子、フランカ・ポテンテ、ベネディクト・ウォン、ヒュー・ボネヴィル、アンディー・オン、ホン・ピン・タン、クリストファー・ ブホルツ、ダニエル・ラパイン、ロナン・ヴィベール、ニコラス・ロウ、マイケル・カルキン他。


2003年の『Evil』でアカデミー外国語映画賞にノミネートされ、2005年以降はハリウッドに活動拠点を移しているスウェーデン出身の ミカエル・ハフストロームが監督を務めた作品。
脚本は『鳩の翼』『サハラに舞う羽根』のホセイン・アミニ。
ソームズをジョン・キューザック、アンナをコン・リー、アンソニーをチョウ・ユンファ、タナカを渡辺謙、アスターをデヴィッド・モース、コナーを ジェフリー・ディーン・モーガン、スミコを菊地凛子、レニをフランカ・ポテンテが演じている。

物語の相関関係や状況設定は、かなり込み入っている。しかし序盤の説明が上手くないので、なかなか頭に入って来ない。
そして、もっと問題なのは、歴史的な状況や、日本&ドイツ&中国&アメリカといった国家間の複雑な軍事的関係などが、メインとなる 物語には、あまり関係が無いってことだ。
加賀に魚雷を搭載していたとか、ドイツ人のエンジニアと協力して調整していたとか、艦隊から離脱したとか、そういった日本軍の状況も 、どうでもいいのよね(その辺りの歴史考証のテキトーさは、とりあえず置いておくとして)。
だから、そういうことをソームズが調べ上げても、何の意味も無いのよ。
終盤には、日本が真珠湾を攻撃してアメリカに宣戦布告したことに触れているが、それも本筋には全く影響が無いし。

なぜポールがアンナに協力してメモの伝達役を引き受けるかというと、それは100パーセント間違いなく、彼女に惹かれたからだ。
使命感に燃えたとか、レジスタンスのイデオロギーに共鳴したとか、そういう意識は微塵も無い。
「女に惚れたから」という目的で動くのが悪いわけじゃないけど、ポールの行動は、軽いノリでやれることではない。バレたら殺される ような、命懸けの仕事だ。
しかも米国諜報員としての任務からは完全に外れているが、そこでの迷いも全く無い。

で、そうであるならば、そこには「すっかり女にイカれている。周囲が見えなくなっているぐらいゾッコンラブ」という状態であるべきだ 。
しかし、そんな風には全く見えないのだ。
ポールのアンナへの態度はプレイボーイ気取りで、かなり余裕のあるような素振りだし。
コン・リーにファム・ファタールの魅力が無いわけじゃないけど、彼女の力に頼り過ぎじゃないかと。
演出やドラマとして、ポールがアンナに出会った途端に、すっかり心を射抜かれたという風には見えない。

で、ソームズがアンナにゾッコン惚れ込んでいるにしては、一方でコナー殺しの犯人を突き止めるために彼女を利用しようという意識も 見られるんだよね。
ソームズはアンナに「スミコを上海から逃がす手助けをする」と持ち掛けているけど、それは彼女に惚れたから力を貸したがっているわけ じゃなくて、コナー殺しの犯人を見つけ出すのが目的なんだよね。
その辺りは半端じゃないかと感じる。

あと、話が進むにつれて、ソームズの目的がボンヤリしていくんだよな。
彼はアンナに協力するけど、そこから完全にアンナの仲間として行動するわけではない。たぶんコナー殺しの犯人を見つけるのが目的だと 思うんだけど、諜報活動の内容は、そこに繋がるような感じがしないんだよね。
加賀や東シナ艦隊について調査しても、コナー殺しの犯人捜しと関連するような印象を受けない。
普通に海軍情報部としての仕事をしているように見える。
ただし、じゃあ具体的な任務は何なのかと考えると、そこもボンヤリしているし。

回想シーンで何度もコナーを描くことで、「コナーの弔い合戦」というソームズの行動理由をアピールしているようだ。
ただ、それだけではソームズを突き動かすパワーが伝わって来ない。ものすごく淡々としていて、メリハリにも欠けるしね。
っていうか、アンナへの恋心と、コナーとの友情と、それぞれの動機によるソームズの行動があって、そこが上手く絡み合っておらず、 バラバラになっているんだよね。そこは、どっちかに絞り込んでおいた方が良かったんじゃないかと。
恋愛劇を盛り込むにしても、「そのために行動する」という筋をデカくしない方が良かったのではないかと。

アンナがソームズと激しいキスを交わすタイミングがおかしい。
ランティンに「愛してる」と電話を掛けた直後にキスしているんだけど、それは偽りのキスじゃなくて、どうやらホントに愛している みたいなんだよね。
だけど、いつの間に、ソームズのどこに惚れたのか、良く分からない。
ソームズの一方的な恋心じゃなくて、両想いでロマンスを作るのなら、もう少し何とかならなかったものかと。

終盤、「コナーを殺した犯人はタナカだが、スパイだと知っていたわけではなく、単なるスミコを巡る恋敵として殺した」という真相が 明らかになる。
まあ意外っちゃあ意外な展開かもしれないが、そのドンデン返しは脱力感が強いなあ。
ちゃぶ台返しにも程があるだろうと。
しかも、タナカのスミコに対する愛情なんて全く描かれていないから、そこで急に愛をアピールされることにも唐突感があるし。

その後、タナカが尋問のためにアンナを連行しようとして、ランティンがタナカを撃って、タナカ側が反撃するという銃撃戦が用意されて いるが、それって要るのかと。
無理にサスペンス・アクションとしての盛り上がりを作ろうとしている感じしか受けないぞ。
それにしても、ランティンって不憫だよなあ。
アンナを深く愛し、彼女のために命懸けで行動したのに、彼女は出会ったばかりのソームズに心を寄せてしまうんだからさ。

(観賞日:2012年6月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会