『シェイド』:2003、アメリカ

1971年、フィラデルフィア。若き賭博師ディーン・スティーヴンスは、ある店でポーカーをやっていた。そこへ強盗が現れ、銃を構えて 金を要求してきた。手を上げるように言われたディーンの右の掌には、一枚のカードがあった。イカサマに気付いた連中が怒って銃を向け、 激しい銃撃戦となった。最後に残ったディーンともう1人の男は、互いに銃を向け合った。
ガソリンスタンドに立ち寄ったティファニーは、指輪を落としてしまったと店員に伝えた。大事な指輪なので捜しておいてほしい、発見 できたら千ドルを支払うと言い残し、ティファニーは車で去った。直後、ホームレスが指輪を拾う姿を店員は目撃する。店員はホームレス に金を渡し、指輪を受け取った。ホームレスは店を去った後、ティファニーと合流してウィッグを外した。彼はチャーリー・ミラー。 ティファニーと組んでセコい稼ぎを繰り返す詐欺師だった。
現在、ハリウッド。ティファニーは羽振りのいい賭博師ジェニングスに接近し、クラブでミラーと引き合わせた。ミラーは彼に、「自分と 仲間たちで一晩に2万ドルは稼いでいるが、君が加われば儲けは増える」と持ち掛けた。ミラーは興味を抱いたジェニングスに、仲間を紹介 すると告げた。その仲間とは、カードの天才ヴァーノンだ。ヴァーノンはラスベガスのカジノでディーラーとして働き、イカサマを使って ミッキーという客を儲けさせた。自分の取り分を受け取った後、彼はロサンゼルスへ赴いてミラーと会った。
ヴァーノンはジェニングスに、自分がカードを配る時だけ勝負に出るよう指示した。ティファニーは自分に言い寄るマゾ男ジェフを誘惑し 、闇医者テディーに売り飛ばして元手となる金を作った。ミラーとヴァーノンが話をしているところへ、悪徳警部補スカーニがやって来た。 スカーニはヴァーノンに自分への借金を早く返せと要求し、暴行を加えた。
ミラーたちはディナという女主人の営む高級クラブへ行き、ポーカーを始めた。だが、大きな勝負を持ち掛けても誰一人として乗ってこない ため、ジェニングスは苛立ちを募らせた。休憩を終えた後、ジェニングスは自分がカードを配ったゲームで10の4カードを手に入れた。 これはチャンスだと思った彼が大きく金を賭けると、今回は1人が乗ってきた。
その男が金を上積みしてきたため、ジェニングスはキャッシュで8万2千5百ドルをプラスした。相手は持ち合わせが無かったため、普通 ならジェニングスの勝利となる。だが、ディナが貸し出すことを承諾し、絶対に勝てると確信したジェニングスも認めた。だが、相手はJ の4カードだったため、ジェニングスは大金を失った。ゲームの後、ミラーたちから「なぜ言うことを聞かなかった、ヴァーノンの配る時 だけ勝負をすれは良かったのに」と言われたジェニングスに、反論の言葉は無かった。
マフィアの親分マリーニの子分マーロの元に、ある密告電話が掛かってきた。ミラーたちと別れた後、ジェニングスはストリップ・クラブで 飲んでいた。そこへ手下のネイトを引き連れたマーロがやって来た。マーロはジェニングスがギャンブルで大金を失ったことを密告電話で 知っていた。その内の8万ドルは、ジェニングスがマリーニから盗んだものだった。マーロがジェニングスを高級クラブへ連れて行くと、 もぬけの殻だった。ようやくミラーたちに騙されたことを知ったジェニングスを、マーロは車の中で射殺した。
ミラーはディナたちと合流し、稼ぎを分配して喜び合った。ミラーが次の標的に選んだのは、無敗を誇る伝説の賭博師ディーンだ。久しぶり にロサンゼルスへ戻ってきたディーンは、昔馴染みの女イヴと再会した。ディーンが参加するルーズベルト・ホテルでの闇イベントに、 ミラーはヴァーノンを送り込むつもりだ。参加料は25万ドルと高額だが、賭けのレートも非常に高い。
あるバーでミラーがヴァーノンを待っているところへ、マーロとネイトが現れた。マーロから8万ドルがマリーニの金だと聞かされた ミラーは、2万ドルを足して返却すると告げる。だが、マーロは立ち去るふりをしてミラーの命を狙ってきた。ちょうど店に現れた ヴァーノンも発砲を受ける。そこへティファニーが来て応戦し、ミラーとヴァーノンは店から逃走した。
夜まで身を隠すため、ヴァーノンはミラーとティファニーをマジック・キャッスルへ連れて行く。ミラーと出会う前、そこにヴァーノンは 入り浸っていたのだ。ヴァーノンは師匠である教授と再会し、「ミラーと一緒にいると人生を棒に振る」と忠告を受けた。夜になり、 ミラーたちはルーズベルト・ホテルの一室へ出向いた。そこで彼らは、そのイベントのホストがマリーニだと知った…。

監督&脚本はダミアン・ニーマン、製作はテッド・ハートリー&マーヴ・グリフィン&デヴィッド・M・シュネップ& クリストファー・B・ハモンド、共同製作はカール・マッツォコーネ、製作協力はマーク・モラン&トム・ヴァン・ デル、製作総指揮はジョー・ニコロ&ボー・ホプキンス、撮影はトニー・B・リッチモンド、編集はジェフ・グーロ& スコット・コンラッド、美術はグレゴリー・ヴァン・ホーン、衣装はスザンナ・プイスト、音楽はクリストファー・ヤング、 音楽監修はランディー・ガーストン。
出演はスチュアート・タウンゼント、ガブリエル・バーン、シルヴェスター・スタローン、タンディー・ニュートン、ジェイミー・ フォックス、メラニー・グリフィス、ハル・ホルブルック、ロジャー・G・スミス、ボー・ホプキンス、ダイナ・メリル、B=リアル、 パトリック・ボーショー、チャールズ・ロケット、マイケル・ドーン、ロッド・ローランド、マーク・ブーン・ジュニア、ショウン・ジョーンズ、トニー・ アメンドラ、ジェイソン・サーボン、ジョー・ニコロ、ジョージ・トヴァー、フランク・メドラノ、トニー・バートン、グレン・プラマー、 マイケル・ハーネイ、テッド・ハートリー他。


ポーカーの世界を舞台にしたギャンブラー映画。
ヴァーノンをスチュアート・タウンゼント、ミラーをガブリエル・バーン、ディーンを シルヴェスター・スタローン、ティファニーをタンディー・ニュートン、ジェニングスをジェイミー・フォックス、イヴをメラニー・ グリフィス、教授をハル・ホルブルック、マーロをロジャー・G・スミス、スカーニをボー・ホプキンス、ディナををダイナ・メリル、 ネイトをラッパーのB=リアル、マリーニをパトリック・ボーショーが演じている。
脚本と監督を務めたダミアン・ニーマンは、これが映画デビュー作。マジック・キャッスルでカード・テクニックを磨き、ギャンブラーと してカジノで稼ぎまくっていたそうだ。
この映画もカジノの稼ぎで製作したらしいが、本当かどうかは良く分からない。何しろ、それは「ラスベガスが舞台、主演はスタローン」 というインチキを堂々と宣伝している配給会社SPOの説明によるものだから(本当は、主な舞台はロサンゼルスであり、スタローンは 助演である)。

シルヴェスター・スタローンは珍しく(というか初めてか)、老け役を演じている。
「若き主人公の前に立ちはだかる熟練の強敵」という役回りなのだが、明らかにミスキャスト。
これが「経験豊かな凄腕の殺し屋」とか「往年の名ボクサー」とかなら分かるけど、ディーンって「ギャンブル無敗のキレ者」という キャラなのよ。
スライがどんなに頑張っても、手先の繊細な作業が必要なトリックやカード捌き、相手の手を読む心理戦が得意な奴には見えないよ。 脳味噌まで筋肉みたいなイメージなのに。

冒頭の若きディーンの回想シーンは、何か重要な伏線になっているのかと思ったら、途中でミラーが「あの後、2人はカード勝負をして ディーンが勝利し、5万ドルを持ち去った」と説明するだけ。
そこには面白味もへったくれも無い。
それが終盤の展開でキーポイントを握るわけでもないし、コン・ゲームにおけるドンデン返しに関わってくるわけでもない。
ついでに言うと、ミラーとティファニーが指輪を使ってガソリンスタンド店員を騙す場面も要らないでしょ。

ミラーが「君が加われば稼ぎは増えるが、元手が必要だ」と言った時点で、彼とティファニーがジェニングスをカモにするつもりだという ことはバレバレだ。
その後、高級クラブでのポーカー・ゲームは、じっくりと時間を掛けて描いている。
しかし前述のように、その場面が始まる前から、既にミラーたちがジェニングスに儲けさせる気など無いことは分かっている。それが 分かっていれば、他の連中や女主人もミラーのグルだということにも、すぐに気付くだろう。
そうなると、その場面でギャンブルの緊張感を味わうことは出来ない。
ただ、「全てが罠だということがネタバレしている」という事情を差し引いても(それが分からなかったと仮定しても)、駆け引きの ドキドキハラハラ感は全く無いんだけどさ。

8万ドルを失う展開があった後、ジェニングスがマーロの案内で高級クラブへ行き、騙されたことを知る。
その後で、ミラーがディナたちと作戦成功を喜び合うシーンへ移る。
サプライズ効果を狙っていることは分かるが、その流れはクライマックスでやるような手順だ。どうせ先にネタバレしているんだし、 「全てミラーの作戦だったことをジェニングス視点で観客に明かす」というやり方は取らなくていい。
すぐジェニングスが殺されることを考えれば、先にミラーたちが喜ぶ様子を見せ、ジェニングスにはマーロがセリフで軽く説明するだけで 処理し、もぬけの殻のクラブへ行く場面はカットして射殺という流れでもいい。

高級クラブの場面はそれ自体が詐欺だと先にネタバレしているので、ちゃんとしたカード・ゲームはクライマックスのみだ(っていうか、 実はそれも全て詐欺なんだが)。
で、そこに駆け引きの妙や騙し騙されるスリル、腹の探り合いや緻密な心理戦があるのかというと、ほとんど無い。
結局、「所持金の多い奴が強い」みたいな感じになっているのは、どうなのかと。
オシャレで小粋な雰囲気を楽しむ映画として作られているのかというと、そういうわけでもないんだな。ただヌルいだけ。

で、ゲームの途中にマーロやスカーニたちが乱入し、皆が銃を向け合う展開になるんだが、それもカード勝負の面白さ(そんなの無いけど さ)を邪魔しているだけにしか思えない。
っていうか、8万ドルの一件でミラーたちが命を狙われる設定も、スカーニが付きまとっている設定も、全く要らないんじゃないのか。
それが有効に活用されているとは到底思えないぞ。
ティファニーの裏切りにしても、ちゃんとした活用が無いまま、ほぼ放り出されたような状態で終わっている。

そもそも、ミラーがディーンを標的に選ぶ理由が良く分からん。
相手は無敗の賭博師であり、カモにするには明らかに強すぎる。個人的な恨みがあるとか、誰かに脅されて仕方なくという事情があるとか 、そういうわけでもない。
そこまでリスクの大きい賭けに出る理由は何なのかと。
あと、完全ネタバレだが、ヴァーノンはディーンと組んでおり、負けたフリをしてミラーの金を奪い取る。
でも、なぜ彼がミラーを裏切るのかも分からない。アトランティック・シティーで過去に何か因縁があったらしきセリフはあるが、 ちゃんとした説明は無いまま映画は終わっているし。
別の意味で詐欺まがいの映画だな、これ。

(観賞日:2008年5月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会