『シー・ノー・イーヴル 肉鉤のいけにえ』:2006、アメリカ

通報を受けた警官のウィリアムズは、新人のブレインを引き連れて空き家へ赴いた。ノックしても返事は無かったが、中から女性の悲鳴が聞こえて来た。2人が拳銃を構えて乗り込むと、部屋には両目を抉られた女性の姿があった。隠れていた巨漢の男が斧でブレインを惨殺し、ウィリアムズも右腕を切り落とされた。ウィリアムズは男に銃弾を浴びせ、応援を要請した。応援の警官たちが捜索すると、空き家の庭からは両目を抉り取られた17人の遺体が発見された。
4年後、警官を辞職したウィリアムズは右腕に義手を付け、少年院の監察官として未成年犯罪者の更生に従事している。初めての男女共同プログラムが実施されることになり、ウィリアムズと女性監察官のハンナはクリスティーン、タイ、キーラ、マイケル、ゾーイ、メリッサ、リッチー、ラッセルという8人の若者を護送車に乗せて出発した。廃墟となっているブラックウェル・ホテルに到着すると、オーナーである老女のマーガレットが出迎えた。そこで奉仕活動に従事するのが、今回の更生プログラムだ。
マーガレットは若者たちに、前の所有者から建物を買い取ったこと、ホテルとして再開するのではなくホームレスのためのシェルターに改装することを話す。生意気で反抗的な態度を取る若者たちに、ハンナは3日間の労働で刑期が1ヶ月短縮されることを改めて説明する。ウィリアムズは厳格な態度で、マーガレットの指示に従うよう命じた。マーガレットは若者たちに、建物には秘密の通路やマジックミラーが取り付けられているという噂があること、ほぼ修復済みである2階の客室に寝泊まりしてもらうこと、8階と9階のペントハウスは火事で焼け落ちたままで危険なので立ち入り禁止にしてあることを語った。
リッチーは入手したホテルの見取り図をタイに見せ、オーナーの隠し財産を盗み出そうと持ち掛ける。乗り気ではなかったタイだが、結局は付き合うことにした。ウィリアムズはクリスティーンに話し掛け、妹を守るために養父を暴行して捕まったことに関して「判決は不当だった。君なら更生できると信じている」と告げる。クリスティーンは彼に、「なぜマイケルとキーラを同じプログラムに入れたの」と質問する。キーラはマイケルの下でヤクの売人をしており、暴力も振るわれていた。逃げるために警察へ密告したのに、またマイケルと会うことになってキーラは怯えているという。2人の関係を知らなかったウィリアムズは、「私に任せろ」と述べた。キーラがシャワーを浴びていると、マイケルが入って来た。キーラは「早く出て行って」と怒鳴るが、マイケルは彼女に近付く。そこにクリスティーンが駆け付け、マイケルを追い払った。
タイとリッチーは見取り図を見ながら建物を探索し、扉の鍵を開けて奥の通路を進む。2人は死体を発見するが、火事の犠牲者にしては新しかった。タイが「金を持ってるかもしれない」と言って調べようとすると、死体の男性は両目を抉り取られていた。リッチーは恐怖でパニックになり、タイを置き去りにして逃げ出した。しかし自分がどこにいるのか分からなくなり、ますます焦ってしまう。そこへ背後から巨漢の男が現れ、肉鉤をリッチーの足に巻き付けて捕まえた。リッチーは巨漢に引きずられ、「助けて」と叫ぶ。目撃したタイが呆然とする中で、男はリッチーをエレベーターに引きずり込んで姿を消した。
マーガレットはウィリアムズとハンナに、「誰かがエレベーターを使ってるみたいよ」と報告した。ハンナが様子を見に行くと、いきなりジェイコブが現れて彼女をエレベーターの天井に叩き付けた。ハンナが意識を失うと、ウィリアムズは彼女の両目を抉り取って瓶に入れた。クリスティーンはマイケルに怯えるキーラを見て、「キッチンの窓からロビーに出られる。壁に穴があったでしょ。そこから犬が入って来られたんだから、きっと出られる」と逃走を促した。
クリスティーンは見張りを引き受け、キーラを逃がしてやろうとする。キーラは大きな音を立ててしまい、それを耳にしたウィリアムズとマーガレットはキッチンに向かう。業務用リフトから現れた巨漢の男は、肉鉤でキーラに襲い掛かる。クリスティーンが駆け付けたウィリアムズたちと共にキッチンへ駆け込むと、キーラは男に引きずられてリフトに消えた。犯人を捕まえようとするウィリアムズに、クリスティーンは他の面々がペントハウスでパーティーを開いていると教えた。
ウィリアムズがマーガレットに警察への通報を指示し、エレベーターでペントハウスへ向かおうとする。クリスティーンは待機するよう命じられるが、勝手にエレベーターへ乗り込んだ。天井から血が滴り落ちて来たので、2人は驚愕した。8階に到着した2人は、タイと遭遇する。タイは2人に、「リッチーが連れて行かれた。デカい男で鎖を持ってて、頭に穴が開いている」と告げる。ウィリアムズは、すぐに4年前に自分が撃ったジェイコブだと確信した。
ウィリアムズはクリスティーンとタイに、「あの時、奴は一人だけ殺さずに残していた。選ばれた女性は、宗教的な意味を持つ刺青を入れていた」と述べた。クリスティーンは、キーラにも同様の刺青があることを口にした。ウィリアムズは「キーラは生きているはずだ」と言い、クリスティーンとタイにホテルから脱出するよう指示して通路の奥へと向かう。クリスティーンが追い掛けて「一人じゃ無理よ」と告げた直後、ウィリアムズは天井から伸びて来た肉鉤で吊り上げられて姿を消した。銃声が響いた直後、ウィリアムズの死体が通路に落下した。クリスティーンは彼の拳銃を拾い上げ、タイと共に逃走した。
ペントハウスでハッパを始めたマイケル、ゾーイ、メリッサ、ラッセルの様子を、ジェイコブはマジックミラーから観察していた。彼はキーラを殺さず、両手を拘束して猿ぐつわを噛ませ、壁に吊るしていた。メリッサとラッセルはセックスをするため、7階へ移動した。別の部屋に連行されたキーラは、檻に入れられた。意識を取り戻した彼女は、周囲に転がる幾つもの死体を目にした。壁にはリッチーが生きたまま磔にされており、部屋に入って来たジェイコブは彼の目を抉り取った。
部屋の仕掛けでメリッサとラッセルの動きに気付いたジェイコブは、キーラを放り出して7階へ向かう。メリッサは鏡に違和感を覚え、ラッセルが近付いて調べる。マジックミラーだと分かった直後、ジェイコブが飛び出して来た。2人は慌てて部屋から逃げ出し、ラッセルはメリッサの体に消防用ホースを巻き付けて窓からロビーに非難させようとする。しかしラッセルはジェイコブに襲われ、メリッサは逆さ吊りの状態でロビーに落とされる。メリッサは野犬の餌食となり、ラッセルはジェイコブに両目を抉り取られた。
マイケルとゾーイが部屋に戻るためにエレベーターを待っていると、ジェイコブが現れた。マイケルはゾーイを押し退け、手にしていた鉄パイプでジェイコブに殴り掛かった。ジェイコブが倒れている間に、マイケルは浴室の奥、ゾーイはクローゼットに身を隠した。しかしゾーイがハンナから盗み取っていた携帯電話が鳴ったため、彼女はジェイコブに居場所を知られてしまう。ジェイコブはゾーイの喉に携帯電話を押し込み、彼女を引きずって部屋を出て行った…。

監督はグレゴリー・ダーク、脚本はダン・マディガン、製作はジョエル・サイモン、共同製作はジェイソン・コンスタンティン&ジョン・サッキ、製作総指揮はピーター・ブロック&マット・キャロル&ヴィンス・マクマホン、共同製作総指揮はジェド・ブローグランド、製作協力はシャーロット・ブレイク、撮影はベン・ノット、編集はスコット・リクター、美術はマイケル・ランプフ、衣装はフィル・イーグルス、音楽はタイラー・ベイツ。
出演はケイン、クリスティーナ・ヴィダル、マイケル・J・ペイガン、サマンサ・ノーブル、スティーヴン・ヴィドラー、シシリー・ポルソン、ルーク・ペグラー、レイチェル・テイラー、ペニー・マクナミー、クレイグ・ホーナー、マイケル・ウィルダー、ティファニー・ラム、サム・コットン、コーリー・ロビンソン、ゾーイ・ヴェンチュラ、アナリース・ウッズ、ティム・マクドナルド、トレント・フエン、マシュー・オキン、ジェイソン・チョン、グレッグ・スキッパー他。


アメリカのプロレス団体「WWE」が映画制作のために設立した子会社「WWE Films」(現在はWWE Studios)の第1回プロデュース作品。
同団体の人気レスラーであるケインがジェイコブを演じている。
他に、クリスティーンをクリスティーナ・ヴィダル、タイをマイケル・J・ペイガン、キーラをサマンサ・ノーブル、ウィリアムズをスティーヴン・ヴィドラー、マーガレットをシシリー・ポルソン、マイケルをルーク・ペグラー、ゾーイをレイチェル・テイラー、メリッサをペニー・マクナミー、リッチーをクレイグ・ホーナー、ラッセルをマイケル・ウィルダー、ハンナをティファニー・ラムが演じている。

ダン・マディガンが初めてシナリオを担当し、『インディセント・アドヴァンセス/精神分析医の秘密-秘められた欲望』『アニマルインスティンクト/不倫願望ジョアンナ』のグレゴリー・ダークが監督を務めている。
グレゴリー・ダークは他にもグレゴリー・ブラウンやグレゴリー・ヒッポリトなど複数の名前で仕事をやってきた人。
そうやって次々に名前を変えながら仕事をしてきた人は、あまり能力が無いD級監督である場合が大半だ。
っていうか、そういうケースしか知らない(例えばジム・ウィノースキーとか、フレッド・オーレン・レイとか)。
この人の資質に関しても、前述した監督作品の邦題を見れば、何となく想像できるでしょ。

「どこかで見たような」という既視感に満ち溢れた作品である。
品行の良くない若者たちが次々と殺人鬼の餌食になるのは、『13日の金曜日』シリーズと同じ。
大柄で薄汚れた格好の殺人鬼が肉鉤を使うのは、『悪魔のいけにえ』シリーズと同じ。
閉鎖された建物に数名が集められて次々に惨殺されるのは、『ソウ』シリーズと同じ。
他にも、『ハロウィン』シリーズとか、『ホステル』とか、色々な映画を連想させる内容に仕上がっている。

過去にヒットした様々なホラー映画から美味しそうなエッセンスを頂戴し、それを組み合わせているのだが、ツギハギ感を消し去ることは出来ていない上、どの部分でも本家より遥かに落ちる質に仕上げることしか出来ていない。
結果としては、「寄せ集めの劣化版」と表現するのが適切だと思える映画になっている。
大きな破綻は無いが、特に秀でた箇所も無い。
単に新鮮味が無いというだけではなく、高いレベルでそつなくまとめることも出来ていない。

若者たちが登場した時点で名前と罪状が表示されるが、全員の名前と顔を一致させて記憶しておくのは、それほど簡単な行為ではない。
何しろ、それだけでキャラクター紹介の手順がほぼ終了しているからだ。
ホテルに到着した後には「クリスティーンが妹を守るために養父を暴行した」「キーラがマイケルに暴力を振るわれていた」という設定が紹介されるものの、それ以外に若者たちのキャラクターを掘り下げるための作業は用意されていない。
だから、「誰が誰なのか全てを把握できないまま物語が進んでいく」という状況に陥っても、それは仕方の無いことだろう。

しかし、極端なことを言ってしまうと、最初に「どうやら善玉キャラであり、最後まで生き残る可能性が高い」と強く感じさせる設定が明らかにされるクリスティーンを除けば、後は誰がどんな性格であろうと、どんな名前であろうと、誰とどんな関係性があろうと、あまり意味が無いと言っても過言ではない。
ザックリと言うならば、クリスティーン以外はジェイコブに殺されるために登場した「やられ役」に過ぎないのだ。
まあ実際にはクリスティーン以外にも生き残る奴がいるんだが、どうでもいい。
もはや誰が生き残ろうと、誰が死のうと、それれさえも「どうでもいい」と感じるような作品なのだ。

前述したように「ある建物に集められた若者たちが次々に殺される」というシンプルな筋書きであり、それを何の捻りも無く、観客の目を惹き付けるための飾りも用意せず、凡庸に進めていくだけだ。
ストーリー展開に意外性は無いし、キャラクターの魅力も無い。
映像的な遊びも無いし、会話に面白さがあるわけでもない。
雰囲気作りが冴えているわけでもないし、テンポが巧みなわけでもない。
何の新鮮味も無い物語を、何の新鮮味も無い演出で映画化しているのだから、そりゃあ面白くなろうはずもない。

「若者たちが犠牲になるスラッシャー映画」ということなら、エロの部分でサービスするってのは1つの方法だ。
しかしキーラがシャワーシーンでバックヌードを披露する以外に、その手のカットは全く用意されていない。
メリッサとラッセルがセックスを始めようとする展開はあるが、まだオッパイも見せない内に終わってしまう。
そこは「セックスしていたら、もしくはセックスが終わったところでジェイコブが現れて惨殺される」ってのがセオリーでしょ。そこだけ中途半端にセオリーを破ってどうすんのさ。

他に何も無いので、後は殺人シーンの描写にセールス・ポイントを置く以外に映画を救う方法は思い浮かばない。
いかに残酷殺人ショーとしてケレン味たっぷりに演出するかってのが、この映画のキーポイントになるはずだ。
ところが、そこも凡庸な内容だし、ゴア描写が特に強烈ってわけでもない。
最初に両目を抉られた女性の姿がアップになって、これはエグい残虐描写を売りにした映画なんだろうなあと思ったのだが、それ以降は完全に尻すぼみ。そこがゴア描写のピークだった。
ジェイコブが現れる前には必ず蝿が飛んで「これから彼が来ますよ」と合図してくれるので、ショッカー描写が売りってわけでもないし。

完全ネタバレになるが、終盤に入って「実はジェイコブの母親がマーガレットで、幼い頃から女は罪人だと教え込んで折檻し、女を処刑させていた。今回はウィリアムズに復讐するのが目的で、未成年受刑者はオマケだった」ってのが明らかになるが、それが明らかにされたからと言って、映画が面白くなるわけではない。
結局は無関係の連中を何人も殺しちゃってるので、「目的は復讐」という設定の意味が無くなってるし。
それに復讐が目的なら、さっさとウィリアムズを殺せばいいのに、行動の整合性が全く取れていないでしょ。
結局、「人気プロレスラーのケインが映画初出演」ということ以外に何のセールス・ポイントも見当たらない映画なのだ。
それ1つだけで勝負しようってのは、かなり無謀な試みだと思うぞ。ドン・キホーテになりたいわけでもなかろうに。

それと、この映画はキャスティングの段階で大きな欠陥を抱えていて、それはケインがジェイコブというキャラクターを演じているってことだ。
プロレスラーとしてのケインを知っている人間からすると、彼が何の役を演じていようと、ケイン以外の何者にも見えないのだ。
そもそも、役名を「ジェイコブ」にしているところからして、ケインの本名であるグレン・ジェイコブズを意識していることは明らかだ。
で、「ケイン」というプロレスラーであることを強くアピールしながらも別のキャラクターを演じさせているという、ややこしい状態になっているんだよな。

そもそもケインというのは、グレン・ジェイコブズという人物がケインというジ・アンダーテイカーの異父弟を演じているのだ。そして、そんなケインが、ケインというプロレスラーを演じた状態で、さらにジェイコブという役柄を演じなければならないという複雑なことになっている。
でも実際に映画を撮ってみたらどうなったかというと、「ケインがケインとして映画に出ている」としか見えない。
「ケインがケインにしか見えないって部分で文句を言うのなら、じゃあザ・ロック様なんかはどうなるのか」と思うかもしれないけど、そこは少し異なる部分があって、ケインはプロレスラーの中でも、特にギミックの強い人なのだ。元々はジ・アンダーテイカーの異父弟として登場した怪奇派レスラーだし。
正統派でヒーロー的な人気を誇っていたザ・ロック様とは、ちょっと事情が異なるんだよな。

ケインの特殊性は、覆面レスラーやペイントレスラーなんかに近いモノがある(元々はケインもマスクを被っていたわけだし)。
例えば獣神サンダーライガーがそのままのコスチュームで映画に出て「獣の意思を人間に伝える使者」の役を演じたり、ザ・グレート・ムタがそのままのペイントで映画に出て「人間を無差別に襲う妖怪」の役を演じたりしても、そのキャラクターには到底見えないと思うのだ。ライガーやムタにしか見えないと思うのだ。
ケインの場合も、それに似た部分がある。

(観賞日:2014年3月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会