『シークレット ウインドウ』:2004、アメリカ

人気の推理小説家モート・レイニーは、車の中でじっと考えていた。「車を引き返して、ここから今すぐに立ち去れ。いいか、戻るなよ」 と、心の声が彼に指示を出した。しかしモートは声に逆らい、車を走らせてモーテルに引き返した。彼は勝手にルームキーを持ち出し、 ある部屋に乗り込んだ。ベッドでは、彼の妻エイミーが不倫相手テッドと一緒にいた。
半年後。エイミーと別居したモートは、ニューヨーク郊外の森にある湖畔の別荘で暮らしていた。ある日、別荘にジョン・シューターと いう男がやって来た。いきなり、彼は「お前は俺の小説を盗作した」と言い放った。モートは頭のおかしな男だと相手にせず、戸を閉めて 追い払った。シューターが去った後、モートは玄関に原稿が置いてあるのを発見した。「種蒔きの季節」と題された小説で、著者名は シューターになっていた。モートは原稿を手に取り、ゴミ箱に捨てた。
ガーヴェイ婦人が掃除のため訪れるが、モートは彼女の私生活まで立ち入る会話に煩わしさを覚えた。ガーヴェイは、ゴミ箱に捨てた原稿 を取り出してテーブルに置いた。モートは彼女に、「僕が書いたものではない。シューターは僕の偽名ではない」と説明した。ガーヴェイ が去った後、ふとモートは原稿に目を通した。そして彼は、その導入部が自分の短編「シークレット・ウインドウ」と一字一句まで全て 同じだと気付いた。ただし、エンディングだけは異なっていた。
エイミーからモートに、電話が掛かってきた。2人は離婚調停中で、まだ電話連絡は取っていた。モートが離婚届へのサインを渋って いるのだ。モートは彼女に、シークレット・ウインドウを書いた頃の自分の状態がどうだったか、他の作品に影響を受けていなかったかと 質問した。エイミーはモートに、「また盗作したの?一度だけのはずだったじゃない」と告げる。
森へ出掛けたモートの前にシューターが現れ、また「盗作した」と非難する、モートは彼に、執筆した時期を尋ねた。2人が話をしている と、モートの知人トム・グリーンリーフのトラックが近くの道を走って行った。シューターは7年前の1997年に書いたと告げ、「なぜ、 わざわざミシシッピー州まで来て俺の小説を盗んだ?」と見下すような態度で尋ねた。
モートは「自分は1994年に執筆し、1995年6月のエラリー・クイーンズ・ミステリーマガジンに作品は掲載された。こっちが先だから盗作 ではない」と説明した。シューターはモートの説明に納得せず、「そんなのは嘘だ。本当なら、その雑誌を見せろ」と要求してきた。 「手元には無い」とモートが言うと、シューターは「女房に電話して雑誌を送らせろ。3日間やる」と告げた。
帰宅したモートはソファーで仮眠を取り、夜中に目を覚ました。モートが玄関に出ると、「3日間だ、警察には言うな」と書かれた貼り紙 があり、飼い犬チコが惨殺されていた。翌日、モートは保安官デイヴ・ニューサムの元を訪れて事情を説明し、シューターという男を 探してほしいと依頼した。しかしニューサムは「動物が殺されたぐらいでは」と、あまり乗り気ではない様子だった。
モートは友人の探偵ケン・コーシュを訪問し、協力を求めた。かつて盗作騒動があった時にも、モートはケンに助けてもらっていた。雑誌 を手に入れるため、モートは昔の自宅に赴いた。家の近くに到着すると、ちょうどエイミーが同棲中のテッドと外出するところだった。既 に家はエイミーとテッドの愛の巣になっていたが、名義の半分は今もモートが所有していた。
モートが別荘に戻ると、ケンが車で待機していた。彼は別荘をチェックし、異変が無いことを確認していた。モートが目撃者としてケンの ことを告げたため、ケンは会って話を聞いてみると告げた。ケンが帰って1時間ほど経過した頃、モートが別荘の外に出ると、シューター が現れた。モートはシューターの脅しに怒って殴り掛かろうとするが、あっけなく捻じ伏せられた。
翌朝、モートはエイミーからの電話で、家が放火されて全焼したと知らされた。急いで駆け付けると、消防署長ウィッカーシャムと ブラッドレー刑事が現場検証を行っていた。モートはエイミーと共に保険会社へ赴き、財産リストのチェックを求められた。エイミーに 付いてきたテッドが書類を読もうとするので、モートは苛立って追い払った。話し合いの後、モートはテッドの要求で2人だけで話をする。 テッドの出身地がテネシー州シューターズ・ベイだと聞き、モートは引っ掛かりを覚えた。
モートが別荘に戻ると、ケンから電話があった。ケンは、エージェントから雑誌を夜間便で送ってもらったので、翌日に取りに行くよう モートに告げた。さらにケンは、トムに話を聞いたが、誰も見ていないと証言したという。ケンは、トムの様子が誰かに脅されていると 感じたと説明した。そして、シューターが何者かに雇われているのではないかという推測を告げた。モートは、黒幕はテッドだろうと 言う。モートはケンから「一緒にトムに会いに行こう」と誘われ、コーヒーショップで翌日に会う約束をした。
翌日、モートはコーヒーショップへ行くが、ケンは姿を見せなかった。車で戻る途中、モートはガソリンスタンドでテッドを見掛けた。 車を停めて近付くと、モートの別荘に行くところだったとテッドは説明した。テッドは離婚届にサインするよう求めるが、モートは激怒 して立ち去った。帰宅したモートは、電話でシューターに呼び出された。指定の場所へ出向くと、車の中でケンとトムが殺されていた。 シューターはモートに「お前が殺した証拠を幾つも残した」と告げ、雑誌を見せろと要求する…。

監督&脚本はデヴィッド・コープ、原作はスティーヴン・キング、製作はギャヴィン・ポローン、製作総指揮はエズラ・スワードロウ、 撮影はフレッド・マーフィー、編集はジル・サヴィット、美術はハワード・カミングス、衣装はオデット・ガドーリー、音楽はフィリップ ・グラス。
主演はジョニー・デップ、共演はジョン・タートゥーロ、マリア・ベロ、ティモシー・ハットン、チャールズ・S・ダットン、レン・ キャリオー、ジョーン・ヘニー、ジョン・ダン・ヒル、ヴラスタ・ヴラナ、マット・ホランド、ジリアン・フェラビー、ブロンウェン・マンテル、 エリザベス・マーロー、カイル・オーラット、リチャード・ジュトラス他。


スティーヴン・キングの中編集『ランゴリアーズ』の中の1作『秘密の窓、秘密の庭』を基にした映画。
キングはデンマークでラース・フォン・トリアーが製作したTVドラマ“The Kingdom”をアメリカでリメイクする権利を得たいと考え、 この小説の映画化権を売却したらしい。キングが脚本と製作総指揮を務めた2004年のミニシリーズ『スティーヴン・キングのキングダム・ ホスピタル』は、本作品の映画化権を売った金を製作費に回したものだったわけだ。
監督&脚本は、『パニック・ルーム』や『スパイダーマン』などの人気脚本家デヴィッド・コープで、監督を務めるのは1999年の『エコーズ』以来、 5年ぶりとなる。
モートをジョニー・デップ、シューターをジョン・タートゥーロ、エイミーをマリア・ベロ、テッドをティモシー・ハットン、ケンを チャールズ・S・ダットン、ニューサムをレン・キャリオーが演じている。

モートがシューターの原稿を読んだ時、激しく動揺しているのが気に掛かる。
「まずは、相手が自分の小説を丸パクリしているのではないかと考えても良さそうなのに」と思うからだ。
後でモートがエイミーと電話で話している会話を聞き、彼が過去に盗作したらしいと分かる。
それによって、「経験があるから、また自分が盗作したのではないかと焦った」ということが理解できる。
しかし、それならばシューターの原稿を読むより前に、過去に盗作騒ぎがあったという事実は提示しておいた方がいい。

それはさておき、モートがシューターの原稿を読んだ段階では、「自分は知らない内に他人の作品を盗んでしまったのではないか」という 類のサスペンスになっている。
ところが次にシューターと会う時には、「自分の方が先に書いた」と断言し、証拠の存在も口にする。それでも相変わらずシューターが 脅してくることによって、全く違うモノに変わってしまう。
つまり、滑り出しは「自分が盗作したのではないか」というサスペンスだったはずが、すぐに「キチガイ男に理不尽な理由で脅される サスペンス」になってしまうのだ。
というか、その部分に関して盗作していないのが確定し、そこからは「パクったかも」という揺らぎはゼロなので、主人公が過去に1度 だけ盗作しているという設定は、何の意味も無いことになってしまう。

シューターの行動は、「サイコパスだから」ということで片付けるのが難しいぐらいのヘンテコぶりだ。
モートが「雑誌を見せる」と約束しているのに、その3日間を待たずに飼い犬を殺す。そんなことをする意味が全く無い。
モートにしても行動がヘンテコで、雑誌なんて出版元なりエージェントなりに連絡すれば見つかりそうなものだが、なぜかエイミーの元へ 取りに行こうとする。
また、ヒドくビビっているなら問題が解決するまでホテルに避難する方法もあるが、1人で別荘に留まっている。

そんな風に、あちらこちらでモートとシューターの行動には疑問符が付く。
それらは全て、オチが明かされると、それなりに説明が付くようになっている。
だが、それでは困るのだ。
オチによって初めて納得できるのではなく、オチが無い段階でも「主人公がサイコパスに脅されるサスペンス」としてスムーズに成立 してもらわなくては困るのだ。

そこのギクシャクがあり、並行してモートがテッドを嫌っていたり、「この家は俺のものじゃない」と呟く描写があったりするので、 勘のいい人なら(もしくは天邪鬼な人なら)、「シューターはモートの心の奥にある願望を叶えようとしているのではないか。2人は対立 しているように見えるが、実は同じ方向を見ているのではないか」という考えが浮かぶかもしれない。
そのネタバラしが待ち受けている終盤の描写も、ハッキリとヘタクソである。
エイミーが別荘に来る前に、オチの説明が始まる。そしてモートがエイミーを確認した段階で、そこから何が起きるのかはバレバレに なっている。
だったら、その「何か」の描写は削除し、それが終わった後のシーンに飛ぶべきだ。
なのに、御丁寧でバカ正直に、モートの行動をダラダラと描いてしまう。

しかし考えてみれば、原作はスティーヴン・キングなのだ。
感動系ともかく、彼のホラー小説の映画化はコテコテのB級に仕上がるのがお決まりのパターンなのだ。
それに『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』の直後に公開されたから勘違いしそうになるが、「ジョニー・デップ主演」 というのもA級映画の決め手にはならない。
そう考えると、デヴィッド・コープは「スティーヴン・キングの小説の映画化」にふさわしいスクリプトを書き、ふさわしい演出をしたのではないかとも思えるのだ。
いや、皮肉でも何でもなく、かなりマジで、そう思うのよ。

(観賞日:2008年3月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会