『シークレット・アイズ』:2015、アメリカ&イギリス&スペイン&韓国

パソコンで全米の犯罪者データを調べていたレイ・カステンは、目的の人物を発見した。彼はロサンゼルスの検察局へ行き、検事のクレア・スローンと久々に再会する。2002年、LA郡地区検察局テロ対策合同捜査班が設置され、FBIのロウアー・マンハッタン支局に所属していたレイも参加する。彼は捜査官のジェスやバンピー、シーファートたちと共に、テロリストのアル・ファウイドが出入りするモスクを監視した。レイは検事補のクレアと出会い、フィラデルフィアから来ていることを聞いた。
現在。レイはクレアのオフィスに、ジェスも呼び出してもらった。捜査主任に昇進しているジェスに、レイはFBIを辞めて警備会社に勤務していることを話す。レイはクレアとジェスに、「奴を見つけた」と告げた。13年前、ジェスはレイがクレアに惹かれたことを見抜き、デートに誘うよう促した。レイは「彼女は婚約してる」と言い、その気を見せなかった。モスクの隣にあるゴミ箱から女性の遺体が発見されたという情報が入り、捜査班は出動した。レイがゴミ箱を開けると、遺体はジェスの一人娘であるキャロリンだった。
現在。レイはクレアとジェスに、「奴は武器強盗で10年服役し、仮出所した。ベックウィズという偽名を使っている」と言う。彼は全米の白人受刑者のデータを調べ、犯人のマージンを突き止めたのだと説明した。ベックウィズの写真を見たクレアは「目や鼻が違う」と言うが、レイは「整形だろう。年齢も奴と同じ33歳だ」と自信を見せる。彼は再捜査させてほしいと頼み、「今の僕は保護観察者と会えない」と協力を要請する。クレアは難色を示すが、レイは「2週間で戻らないといけない。やらせてくれ」と訴えた。
13年前、捜査班のピクニックの写真を見たレイは、1人の青年がキャロリンを眺めていることに気付いた。彼は捜査班のメンバーに青年のことを尋ねるが、全員が「知らない」と答える。不審を抱いた彼はテロ対策用の分析ソフトを使い、その青年がモスクで見た男だと突き止めた。彼はモラレス検事に報告するが、「私に任せてテロ対策を優先しろ」と告げられて違和感を覚えた。シーフォートは彼に、「現場から走り去ったのは、近くに住むアバン・ガザラだ。自白して郡保安局にいる」と述べた。
レイはガザラと会い、シーフォートが自白を強要して犯人に仕立て上げたことを知る。レイに問い詰められたシーフォートは、「写真の男を追及されると困る。俺の情報屋だ。テロ組織を暴く寸前だ」と言い、担当刑事のゲレロも知っていることを明かす。レイはシーフォートを脅し、マージンという名前など青年の情報を吐かせた。レイはバンピーと共に、マージンの女友達の家を張り込んだ。バンピーが「内偵がバレる。担当刑事に会うのはよせ」と忠告すると、レイは「ゲレロがどんな奴かは分かってる。以前も隠蔽を」と述べた。
マージンの女友達が出掛けるのを確認したレイとバンピーは、家へ忍び込んだ。屋内を調べたレイは、マージンが描いたコミックを発見した。女が戻って来たので逃亡する際、バンピーはコミックを盗み出した。現在。バンピーはレイに、「保護観察官が同じ男だと。仮釈放から2週間後に来たが、姿を消した」と教える。レイがベックウィズの趣味について尋ねると、バンピーは「競走馬が好きで異常な執着があるらしい」と告げた。
13年前。ジェスはレイが持っているコミックに気付き、それを見せるよう求めた。現在。レイはジェスに、「あの日、キャロリンと会う約束をしていた。君の誕生日にサプライズ・パーティーをするため、一緒にケーキを買う予定だった。だが急用で行けず、2時間後に彼女を発見した。13年間、ずっと苦しんできた」と語った。13年前。レイはクレアがモラレスからガザラの担当を指示されたと聞き、「彼は犯人じゃない。マージンというモスクの情報屋が犯人だが、皆が揉み消そうとする」と語る。彼はクレアに、自分が調査するのでモラレスには内緒にしてほしいと頼んだ。
現在。レイはバンピーと厩舎を訪れ、ベックウィズを発見するが逃げられてしまった。13年前。レイはモラレスからマージンを追っていることを批判され、「殺しの証拠を見つけたら奴を起訴しろ」と要求した。彼はバンピーからバーに呼び出され、ジェスと共に張り込んでいることを聞かされた。ジェスはコミックを読み、マージンがドジャースのファンだと見抜いた。そのバーは元ドジャースの選手が集まる場所なので、彼女は張り込んでいたのだった。ジェスは犯人について、死刑ではなく終身刑で苦しむことを望んでいた。
レイはドジャーズのスタジアムへ行き、観客席にいるマージンを発見する。レイは逃げるマージンを取り押さえるが、クレアは「証拠が無いから釈放する」と言う。レイは「5分だけ話をさせてくれ。自白させる」と言い、承諾を得た。余裕で無実を主張したマージンだが、クレアの色仕掛けと馬鹿にした発言による挑発に乗せられて犯行を自白した。しかしモラレスは「テロ対策は何事にも優先する」と言い、マージンを起訴せずに釈放すると決定した…。

監督はビリー・レイ、オリジナル版脚本はフアン・ホセ・カンパネラ&エドゥアルド・サチェリ、脚本はビリー・レイ、製作はマーク・ジョンソン&マット・ジャクソン、製作総指揮はスチュアート・フォード&デボラ・ジプサー&ラッセル・レヴィン&イ・ジェウ&ロバート・シモンズ&マット・ベレンソン&ジェレマイア・サミュエルズ&フアン・ホセ・カンパネラ、共同製作はジョン・アフランド&フアン・アントニオ・ガルシア・ペレード&カリ=エスタ・アルベルト&クリス・リットン、共同製作総指揮はチェ・ピョンホ、製作協力はサム・ハー&gン・ミンヤン、撮影はダニー・モダー、美術はネルソン・コーツ、編集はジム・ペイジ、衣装はシェイ・カンリフ、音楽はエミリオ・カウデレル、音楽監修はデヴィッド・シュルホフ。
出演はキウェテル・イジョフォー、ニコール・キッドマン、ジュリア・ロバーツ、アルフレッド・モリーナ、ディーン・ノリス、マイケル・ケリー、ジョー・コール、ゾーイ・グレアム、パトリック・スミス、アイリーン・フォガーティー、リンドン・スミス、キム・ヤーブロー、マーク・ファミリエッティー、アミール・マラクロウ、ニコ・ニコテラ、デヴィッド・イスラエル、デニス・キーファー、ドン・ハーヴェイ、グレン・デイヴィス、ウォルター・タバヨヨング、マイケル・テナント、ジョン・ピルチェッロ、ノエル・グーリーエミー他。


アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した2009年のアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』をハリウッドでリメイクした作品。
監督&脚本は『ニュースの天才』『アメリカを売った男』のビリー・レイ。
レイをキウェテル・イジョフォー、クレアをニコール・キッドマン、ジェスをジュリア・ロバーツ、モラレスをアルフレッド・モリーナ、バンピーをディーン・ノリス、シーファートをマイケル・ケリー、マージンをジョー・コール、キャロリンをゾーイ・グレアムが演じている。

冒頭、レイがパソコンで犯罪者の写真をチェックする様子が写し出されると、キャロリンが犯人に襲われて始末される様子が挿入される。
だが、その犯行現場をレイは目撃していないので、それを彼が回想しているかのような演出は不可解だ。
「想像している」ってことかもしれないけど、だとしても要らなくないかと。
中途半端な形で、冒頭からキャロリンの殺害シーンをチラッと見せておく必要性なんて全く無いわけで。

検察局を訪れたレイは、ジェスを呼ぶよう頼んでからクレアの所へ行く。その後、彼がクレアと会うと13年前の回想シーンに入るのだが、この構成はマズい。そこはジェスも登場させてから回想に入るべきだ。
回想シーンでサラッとジュリア・ロバーツが登場すると、違和感を覚えてしまう。
すぐに現在へ戻って来るので、その後でジェスを出してもいいだろうと思ったのかもしれない。だけど、そもそも現在と過去を短いスパンで行き来する構成自体に難がある。
せめてレイが「マージンを見つけた」と明かすトコまでは、一気に現在のシーンを消化した方がいいんじゃないかと。

その後も短いスパンで現在と過去を行き来する構成が続くのだが、それは流れをブチブチと切っているようにしか思えない。
それと、「現在」と「13年前」でレイたちの見た目がほとんど変わらないので、今がどっちなのかが分かりにくいという問題もある。
これが例えば、序盤と終盤だけが現在のシーンで、回想に突入する時に「13年前」と入ったりするようにしてあれば、そんなに問題は無かっただろう。
だが、前述したように何度も現在と過去を行き来する構成であり、その度に「13年前」と表示してくれるわけではないので、どうしても分かりにくくなっているのである。

オリジナル版の『瞳の奥の秘密』では、過去の事件が発生するのは1974年で、主人公が再捜査に乗り出すのは1999年だ。
アルゼンチンでは1976年に軍事クーデターが勃発しているので、その時代背景を利用して「軍事政権が樹立され、犯人が恩赦で釈放される」という内容にしてある。
「政治的な動乱に翻弄される悲劇」という形なのだが、それと同じ手口をアメリカでは使えない。
そこで過去の時代を2002年に変更し、「同時多発テロ」という歴史的事件を利用している。「テロ対策のため、大切な情報屋である犯人を見逃す必要があった」という言い訳に使っているのだ。

劇中では序盤に「テロ対策が不十分で云々」など、複数のニュースキャスターの声を入れることによって、政府や捜査機関がテロに対して神経を尖らせていることがアピールされている。
しかし、そういう状況下であっても、残忍な凶悪犯だと分かっている男を、しかも被害者は捜査班の仲間の娘なのに見逃すってのは、さすがに無理があるだろうと言いたくなる。情報屋を使っているシーフォートが隠蔽を画策するのはともかく、検察局が一致団結して隠蔽しようとするってのは、どうにも腑に落ちない。
あと、同時多発テロを絡めたことが、「モスクの捜査が事件と全く関係ない」という難点にも繋がっている。
合同捜査班ってのは、レイとクレアを出会わせるための設定でしかないので、ものすごく不恰好だ。

キャロリンの遺体を発見したレイはショックを受け、ジェスは泣き崩れる。 だけど、そこまでにキャロリンって、マトモな形では1度も登場していないのよね。冒頭シーンで、レイの妄想としてチラッと写っただけだ。まだジェスの娘であることも、レイと親しいことも全く触れていない。
なので、彼女の死が与える衝撃が、まるで伝わらない。
そのシーンより前にキャロリンを登場させて、ジェスやレイとの関係を示しておくってのが必須じゃないかと。
しかも、それ以降のシーンでさえ、レイやジェスとキャロリンの繋がりを示すシーンは、ほとんど用意されていないのである。

見ている最中に、「最終的にレイが犯人を逮捕したり処罰したりしても、それだけでは全てが片付かないな」と感じさせられる。
レイが犯人を逮捕できずに13年間も苦しみ続ける羽目になった原因は、マージンが情報屋だからという理由で犯行を隠蔽して助けようとする連中がいたせいだ。
完全ネタバレだが、その内のシーフォートは現在のシーンで命を落とす。それでも溜飲が下がるわけではないが、一応はカタが付いている。
問題はモラレスで、こいつが起訴していれば13年前に解決していたのだ。
そんなクズ野郎が何の咎めも受けないまま終わるので、邪魔なモヤモヤが残ってしまうのだ。

オリジナル版では、被害者の親の性別は男であり、主人公とは特に何の関係も無い人物だった。そこをリメイク版ではシングルマザーの母親に変更し、主人公との関係も「親友」にしてある。
それなら、いっそのことレイとジェスを恋愛関係にすればいいんじゃないかと。
レイとクレアの恋愛劇が盛り込まれているんだけど、これが邪魔でしかないのよね。オリジナル版を踏襲した内容ではあるんだけど、ここが上手く本筋と絡んでいるようには思えない。
そのくせ、無駄に扱いは大きいのよね。
本筋から目を逸らすことを狙って盛り込まれているようなトコもあるけど、そうだとしても、やっぱり要らないわ。

(観賞日:2018年2月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会