『シーウルフ』:1980、イギリス&アメリカ&スイス

インド洋を潜航中のUボートは正確な情報を入手し、英国の貨物船を魚雷で撃沈した。カルカッタ軽騎兵隊のW・H・グライス部隊長と部下のジャック・カートライトは本部を訪れ、仲間たちと会った。ラジオのニュースで米軍のアルジェーとオランへの上陸が報じられると、仲間たちは盛り上がった。ルイス・ピューは数週間ぶりに本部へ顔を出しており、茶園業のジャックは軍服姿の彼を見て「戦争の役には立てない」と羨ましがった。
ルイスは自分が所属する特殊作戦工作部隊(SOE)の仕事についてジャックから質問され、奇策の立案と実行だと答えた。「化学工場の取締役では戦争の気分が出ない」とグライスが口にすると、ルイスは「住んでる場所で仕事は振り分けられた」と告げる。「君には復讐の機会がある」とグライスが言うと、彼は「怒りも悲しみも消えない」と返した。グライスは「あまりに奇策で誰も乗らない作戦の時は我々を使ってくれ」と訴え、ルイスが「無理だ」と言っても「みんな一人前にやれる」と食い下がった。
ルイスはデリーの総司令部にある経済産業省へ出向き、SOE司令官のコリン・マッケンジーや部下のギャヴィン・スチュワートと会って話し合いをする。先月にインド洋で46隻の貨物船が沈んだため、SOEは海軍から緊急要請を受けていた。Uボートは正確な位置と時間を握っており、ゴアのママゴア港で強力な送信機が確認された。ドイツ軍のスパイが関わっていることは明白だが、ゴアはポルトガル領の中立区域であり、暗号も解読できていなかった。
送信機は3隻の運搬船の内のどれかに積んであることが判明しており、ルイスとギャヴィンは情報の発信元を調べるためにゴアへ向かった。エレンフェルス号を含む3隻を港で確認した後、ルイスは旧知のマニュアルが営むレストランへ赴いた。ギャヴィンはカジノへ案内してもらい、クロムウェル夫人と出会って声を掛けた。彼はクロムウェル夫人を口説き、現地の未亡人だと知った。ルイスはマニュアルを脅し、店に良く来るインド人と、同じ時間に姿を見せるドイツ人の情報を聞き出した。
ルイスとギャヴィンが去った後、クロムウェル夫人はマニュエルに「あげる物がある」と告げた。マニュエルが「受け取れません」と遠慮すると、彼女はナイフを突き付けて「命令よ」と鋭く言い放った。マッケンジーはルイスとギャヴィンから報告を受け、すぐに送信機を破壊するよう命じた。ルイスは正確な位置か分からないと告げ、まずは手引きをする者を探すべきだと進言した。ゴアに戻ったルイスとギャヴィンは目当ての男がラム・ギュプタという欧州運搬船の事務員でインド独立運動の活動家だという情報を得た。
ルイスとギャヴィンはカフェでギュプタの身柄を確保し、ドイツ軍に情報を流している証拠を掴んだ。彼らはギュプタを脅して協力を要求し、いつも通りに行動するよう告げた。ギュプタがカフェで待っていると、ドイツ軍スパイのトロンペタが現れた。ギュプタが店を出てトロンペタが追うように立ち去ると、ルイスはギャヴィンに「ここで待ってろ」と尾行した。ルイスは路地裏に隠れていたギュプタを発見して腹を殴り付け、「次はこれじゃ済まないぞ」と威圧した。
ギャヴィンは犬を散歩させているクロムウェル夫人を目撃し、声を掛けた。ルイスはトロンペタを尾行し、港を通過して家へ入るのを確認した。カフェでクロムウェル夫人と話していたギャヴィンは彼女と別れ、ルイスと合流した。ルイスとギャヴィンの情報は、ギュプタからドイツ軍の2人組に伝わった。宿に戻ったルイスは、ギャヴィンに「明日の朝、トロンペタを拾おう」と告げた。ギャヴィンはルイスに、クロムウェル夫人と会うための時間をくれと頼んだ。
波止場へ出掛けたルイスはドイツ軍の2人組に襲われるが、返り討ちにした。ギャヴィンが宿でクロムウェル夫人と一緒にいると、ラムが乗り込んで拳銃を向けた。クロムウェル夫人は花瓶を投げ付けて発砲を妨害し、ギャヴィンはラムを始末した。そこへルイスが戻って来ると、クロムウェル夫人は立ち去った。翌朝、ルイスとギャヴィンは家から出て来たトロンペタを銃で脅し、車に乗せて誘拐した。その様子を見ていたクロムウェル夫人は、トロンペタの家に残されていた暗号文を解読した。
トロンペタは警官を見掛けると、「誘拐だ、助けてくれ」と叫んだ。トロンペタは銃を掴んでルイスと揉み合いになり、銃弾を浴びて死亡した。ゴアを脱出したルイスとギャヴィンはマッケンジーに報告し、任務の失敗を責められた。ルイスは民間の英国人をエレンフェルス号に乗せる作戦を提案し、「捕まっても酔っ払いの悪ふざけで済む」と告げる。彼がカルカッタ軽騎兵隊の起用を進言すると、マッケンジーは却下する。しかし他に方法が無いこともあり、結局は「試してみよう」と承諾した。
ルイスはグライスを訪ね、作戦と目的を明かさずに仲間を募るよう促した。「報酬も名誉も無い」とルイスは言うが、グライスは快諾した。エレンフェルス号の船長は敵が攻撃を仕掛けて来ると睨み、ドラム缶を甲板に置いて港側に補助灯とサーチライトを設置するよう部下に指示した。グライスが志願者を募ると、大勢が挙手した。彼は志願者たちに、7日後に2週間の予定で出発することを伝えた。ジャックはビルマで戦死した息子の仇討ちがしたいと言い、作戦への参加を希望した。心臓が悪いと知っているグライスは難色を示すが、ジャックが「薬がある」と熱意を示すので承諾した。
ルイスは136部隊だったヨギ・クロスレイの元を訪れ、「中立区域の港で数隻を吹っ飛ばしたい」と作戦への参加を要請した。ルイスたちは川船のフィービー号を奪い、爆薬を含む荷物を積んだ。グライスやウィルトン、ヨギなど5名とインド人の水夫3名が川船でコーチンへ向かい、他の面々は列車で移動した。ギャヴィンは陽動作戦のため、総督の執事を務めるモンテロと接触した。彼はモンテロの息子の学費を払うことを約束し、その代わりに歓迎会を開くよう総督を説得してくれと頼む。彼はママゴア港の全ての役人と停泊中の船の要人を全て招待し、盛大なパーティーを開くよう指示した。ジャックは金持ちの元船乗りを装って売春宿の経営者を訪ね、「港の船乗り全員に贈り物をする。3日間、タダで店の女を抱かせると宣伝してくれ」と頼んで金を渡した。
ギャヴィンはクロムウェル夫人を見つけて口説き、部屋に連れ込んでセックスした。クロムウェル夫人は密かに合鍵を作り、部屋を去った。ジャックが戻ると、ギャヴィンは教会へ出掛けた。クロムウェル夫人はギャヴィンの部屋に戻り、総督の屋敷で開かれる歓迎会の招待状を発見した。物音に気付いたジャックが部屋に行くと、彼女は殺害して立ち去った。フィービー号はコーチンに到着し、列車組の面々が乗り込んだ。グライスはカルカッタ軽騎兵隊の面々に、ママゴアでエレンフェルス号を強奪する計画を明かした…。

監督はアンドリュー・V・マクラグレン、原作はジェームズ・リーザー、脚本はレジナルド・ローズ、製作はユアン・ロイド、製作総指揮はクリス・クリサフィス、共同製作はホルヘ・L・アラネタ、製作協力はハロルド・バック、撮影はトニー・アイミ、美術はシド・ケイン、編集はジョン・グレン、衣装はエルサ・フェンネル、音楽はロイ・バッド。
出演はグレゴリー・ペック、ロジャー・ムーア、デヴィッド・ニーヴン、トレヴァー・ハワード、バーバラ・ケラーマン、パトリック・マクニー、ケネス・グリフィス、パトリック・アラン、ヴォルフ・カーラー、ロバート・ホフマン、ダン・ヴァン・ヒューゼン、ジョージ・マイケル、ユルゲン・アンダーセン、バーナード・アーチャード、マーティン・ベンソン、フェイス・ブルック、アラン・キャスバートソン、エドワード・デンティス、クリフォード・アール、ルシ・ガンディー、パーシー・ハーバート、パトリック・ホルト他。


ジェームズ・リーザーの小説『Boarding Party』を基にした作品。
監督は『大いなる決闘』『北海ハイジャック』のアンドリュー・V・マクラグレン。
脚本は『十二人の怒れる男』『西部の人』のレジナルド・ローズ。
ルイスをグレゴリー・ペック、ギャヴィンをロジャー・ムーア、グライスをデヴィッド・ニーヴン、ジャックをトレヴァー・ハワード、クロムウェル夫人をバーバラ・ケラーマン、ヨギをパトリック・マクニー、ウィルトンをケネス・グリフィス、マッケンジーをパトリック・アラン、トロンペタをヴォルフ・カーラー、Uボートの船長をロバート・ホフマンが演じている。

冒頭でカルカッタ軽騎兵隊が登場するが、どういう組織なのかという説明は何も無い。
これは明らかに手落ちであり、どう考えても最初に「高齢の退役軍人が集まった民間のボランティア部隊」ってことを説明しておくべきだろう。
ルイスが会話の中で「住んでる場所で仕事は振り分けられた」と話しているけど、これだとSOEと軽騎兵隊が同じ組織内のグループのようにも思えるでしょ。
でも完全に別物のはずなんだから、変に混同させるような説明はよろしくないでしょ。

ルイスはマニュエルの店へ行き、スパイの情報を教えるよう脅す。
だが、なぜマニュエルの店で、インド人とドイツ人のスパイが密会していると思ったのか。その根拠がサッパリ分からない。
また、尋問を受けたマニュエルが「こんなインド人がこんなドイツ人と会っていた」と話すのではなく、カジノから戻ったギャヴィンが不安を漏らすマニュエルに「名前も知らない頬に痣のあるインド人と、長身の白人と話をしていただけだ」と語る形で観客に情報を伝えている。
でも、無駄に分かりにくいよ。そこで変に捻る必要は全く無い。
なぜ素直な物語の進め方を嫌ったのか。

ゴアの調査から戻ったルイスはマッケンジーに報告した時、「密告者は殺されました」と話す。
ってことは、マニュエルはクロムウェル夫人に殺されたのか。だとしたら省略が過ぎるし、殺害シーンや遺体は見せないにしても「マニュエルが殺された」とルイスが知らされる手順は踏むべきだろう。
ただ、そんな風に思っていたら、ゴアに戻ったルイスがマニュエルの部下から情報を受け取るシーンがある。
ってことは、やっぱり殺されていないのか。だとしたら、殺された密告者ってのは誰のことなのか。

ラムがカフェから出て行く行動も、ちょっと分かりにくい。
その前に「いつも通りに行動しろ」と脅されているが、それは「いつも通り」の行動なのか。だとしたら、どこかでトロンペタに情報を渡す手筈になっているはずだ。
いつも通りじゃないとすれば、トロンペタはラムが店を出た時点で「何か問題が起きた」と察知したんだろう。
で、それがどっちなのかが分かりにくいのよ。
ラムが路地裏に隠れたのも、謎の行動だし。ルイスたちの要求を拒否するつもりなら、さっさと逃げちゃえばいいはずだし。

あと、ルイスがラムの腹にパンチを入れて「次はこれじゃ済まないぞ」と言うだけで済ませるのも、良く分からない行動なんだよな。
ラムが要求に応じなかった時点で、そのまま放置したらマズいことになるのは分かり切っている。実際、ドイツ軍に自分たちの情報が漏れているわけで。
ルイスは隠れ家に戻ってからギャヴィンに「ギュプタを逃がしたのがマズかった」と言うけど、そんなの簡単に分かるだろ。
もっと言っちゃうと、ギャヴィンを店で待たせたのも意味不明なのよ。相手はトロンペタとラムの2人なんだし、こっちも2人で尾行した方が良くないか。
ギャヴィンを店に残しても、そこで何か任務があるわけじゃないんだし。

トロンペタが「誘拐だ、助けてくれ」と叫ぶと、警官は慌てて本部に連絡する。でも、そこからルイスたちが警察に追われてカーチェイスが始まることも無ければ、警察にマークされて行動が難しくなるような展開も無い。
ルイスとギャヴィンは簡単にゴアから脱出できているし、その後の行動にも全く影響は及んでいない。
そうなると、トロンペタの要請で警官が動く手順は全く意味が無い。「トロンペタが銃を奪い合って死亡する」という手順だけで事足りる。
その後の検問に関しては、別に「トロンペタが叫んで警官が電話して」という手順があろうが無かろうが変わらずに消化できちゃうし。

ルイスがマッケンジーにカルカッタ軽騎兵隊の起用を進言する時、ギャヴィンの口から「臨時国防義勇軍です」という補足が入る。
それに対してマッケンジーが「40年もご無沙汰だぞ。酒好きで腹の出た中年たちだ」と渋い顔をすると、ルイスが「不合格でしたが、元々は兵士です」と主張する。
そういう説明のための台詞は、序盤で入れておいた方が絶対に得策でしょ。
そこまで意図的に引っ張っているわけでもなくて、単にタイミングが遅すぎるだけだし。

あと、これってカルカッタ軽騎兵隊が主役の物語にした方がいいはずでしょ。それなのに、そこにスポットを当てるまでに50分ぐらい経過しているのは、構成として上手くないよ。
っていうか、そこでスポットを当てた後も、相変わらず特殊作戦工作部隊のルイスとギャヴィンが主役なんだよね。
そりゃあ出演者の表記順からしても、それは正しいっちゃあ正しいんだけどさ。でも物語としては、どう考えたって「カルカッタ軽騎兵隊の活躍で作戦が成功した」という内容なんだし。
「引退したオッサンたちが、名誉も報酬も無いのに命懸けで任務に当たる」という熱い男気の物語を中心に据えて、特殊作戦工作部隊は脇に回した方がいいでしょ。

ルイスがギャヴィンを伴って訪問するシーンで、初めてヨギが登場する。だが、キャラ紹介のための手順は、何も用意されていない。ただ「登場して仕事を頼まれて引き受ける」というだけだ。
たぶんルイスの元部下だったんだろうってことぐらいは分かるけど、なぜルイスが協力を依頼したのか、どういう能力に長けているのかは説明してくれない。
そんな扱いをするぐらいなら、カルカッタ軽騎兵隊のメンバーとして序盤で登場させておいた方がいいんじゃないの。
そもそも、「カルカッタ軽騎兵隊の活躍」を描くべき作品なのに、そのメンバーはグライスとジャック以外を「ひとまとめ」の扱いにしておいて、また外部の主要キャラを出すとか、どういう計算だよ。

ギャヴィンがクロムウェル夫人の正体に気付かず口説き続けているのが、だんだんイライラしてくる。
こいつのせいで情報が漏れて、それどころかジャックは殺されているわけで。一歩間違えれば、ギャヴィンが女にうつつを抜かしたせいで、大事な作戦が失敗に終わったかもしれないわけで。
クロムウェル夫人がキレ者で、作戦としてギャヴィンに近付いたなら、まだ分からんでもないよ。
だけど、ギャヴィンがブレイボーイで「口説いた女がスパイでした」という形だし、どうしようもないわ。

そもそも、大事な任務を遂行中なのに下半身を頑張らせているだけでも、いかがなものかと思うのよ。それらに加えて、あまりにも行動が不用意だ。
ジャックが殺された後、ようやくギャヴィンはクロムウェル夫人の正体に気付いて自分でケツを拭いているけど、取り返しの付かない失敗はやらかしているからね。
しかも、このパートだけ明らかに浮いているし。
複数の任務を同時進行させるのは構成として悪くないけど、女性キャラが絡むエピソードをネジ込むために余計なことをやっている印象を受けるのよ。

カルカッタ軽騎兵隊が仕事を引き受けて行動を開始したら、そこからは「作戦を立て、準備を進め、そして決行する」という流れになる。
でも、フィービー号でコーチンへ向かう様子は、要らない道草みたいになっちゃってんのよね。
任務のためにインドへ向かっているので、実際には道草じゃないのよ。ただ、「こんなトコ、まるって省略できないものか」と思ってしまう。
そこを含めて、任務を決行するまでの展開が何となくダラッとしちゃうんだよね。
「ベアリングが焼けたのでフィービー号の修理に数時間掛かる」という手順も、「作戦開始に間に合わないかも」みたいな緊張感に繋がることは皆無で、ただマッタリするだけだし。

(観賞日:2024年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会