『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』:2010、アメリカ&イギリス&カナダ

カナダのトロント。22歳のスコット・ピルグリムは、女子高生と交際している。彼は借りている一軒家で友人のキム・パイン、ヤング・ニール、スティーヴン・スティルスから質問され、相手はナイヴス・チャウという中国系の子だと話した。まだ深い関係にまでは発展していないが、スコットは交際について得意げに語る。ナイヴスが遊びに来たので、スコットは友人たちを紹介した。スコットはニールを除く3人と「セックス・ボブオム」というバンドを組み、インディーズで活動している。スコットはベース、キムがドラムでスティーヴンがボーカルとギター担当だ。バンドの練習を見物したナイヴスは、その演奏を称賛した。
スコットはルームメイトのウォレス・ウェルズに、「聞かれる前に言うけど、17歳の女の子と付き合ってる」と明かした。すぐに「誰にも広めないで。妹に言わないで」と頼んだスコットだが、ウォレスは妹のステイシーに電話で教えた。ステイシーはスコットに連絡を入れ、責めるように交際のことを尋ねる。「なんで17歳の子と?例の女に捨てられて1年以上が経つけど、もう立ち直ったってこと?それともヤケになってる?」と訊かれたスコットは、オドオドしながら「お前はどう思う?」と問い返した。
スコットはウォレスを連れて、ナイヴスが通うカトリックスクールへ行く。授業の終わったナイヴスは、校舎から出て来る。スコットは喜んで駆け寄るナイヴスに、ウォレスを紹介した。彼はナイヴスとゲームセンターへ行き、一緒にゲームで遊んだ。スコットがナイヴスとCDショップへ行くと、店員のジュリー・パワーズは冷淡な対応をする。ナイヴスはデーモンヘッドというバンドのCDを買おうとするが、スコットは「こんなの買わなくていいよ」と反対する。デーモンヘッドのボーカルであるエンヴィー・アダムズは、メジャーデビューしてスコットを捨てた元カノだった。
ナイヴスに実家を見せたスコットは落胆の反応を見て孤独を感じるが、赤毛の女が「一人じゃないよ」と声を掛けた。それはスコットの見ていた夢だった。ナイヴスと一緒に図書館へ出掛けたスコットは、夢に出て来た赤毛の女と遭遇して目を奪われた。スコットはキムたちに誘われてジュリーのパーティーに参加するが、退屈を感じる。しかし彼は赤毛の女がラモーナ・フラワーズであること、パーティーに来ていることを知り、すぐに捜し回った。
一人で佇むラモーナを見つけたスコットは、声を掛けて好きなゲームについて語る。ラモーナは全く興味を示さず立ち去るが、スコットはパーティー客から彼女に関する情報を収集する。ジュリーは「アマゾンに勤めててウチの店に出入りしてる」と言い、彼女とヨリを戻したスティーヴンは「男と別れたばかりだと聞いてる。大喧嘩したらしい」と言う。スコットがラモーナに惚れたことを口にすると、ジュリーは「彼女には近付かないで。モテるつもりかもしれないけど、アンタは女の敵なんだから」と睨んだ。
ジュリーはスコットがリサやホリー、キムといった女性たちと交際し、悲しい思いをさせてきたことを指摘した。「誤解だ」とスコットは釈明するが、ジュリーは「ラモーナは元カレのギデオンが忘れられないらしい」と告げる。翌日、スコットはラモーナと親しくなるため、アマゾンで本を注文した。「いよいよ決闘の日が近付いた。俺はマシュー・パテル直接対決で7人の邪悪な元カレと対決して云々」というメールが届くが、スコットは最後まで読まずに削除した。
ナイヴスが来たのでスコットはデートに出掛けるが、まるで気乗りがしなかった。スティーヴンはバンドの練習中、バンドバトルに出場すること、優勝すれば敏腕プロデューサーと契約できることを語る。ナイヴスは興奮するが、スコットは興味を示さなかった。ラモーナが本を届けに来ると、スコットは彼女にデートを申し込んだ。ラモーナは承諾し、スコットは雪の積もる公園で話した。彼はラモーナを家に招いてキスを交わし、セックスを持ち掛ける。しかしラモーナが途中で「気が変わった」と言うので、一緒にベッドで眠った。
翌朝、スコットが「バンドバトルを見に来てほしい」と言うとラモーナはOKし、電話番号を渡した。その夜、スコットはライヴハウスにラモーナが来たので喜ぶが、ナイヴスにキスされて困惑した。ステイシーはラモーナにスコットとの関係を尋ね、友達だと聞いて「そう。覚えるのが大変で。友達が多いから」と言う。彼女はナイヴスに「兄貴とはどこで知り合ったの?」と問い掛け、その様子を見たスコットは「悪夢だ」と心で呟いた。
出番が来たのでスコットはステージに上がり、スティーヴン&キムとパフォーマンスを始める。すると店の壁を突き破って、マシュー・パテルという男が飛んで来た。ステージに着地したマシューは、いきなりスコットに戦いを仕掛けた。スコットが戦闘能力の高さを見せると、マシューは「一人目のラモーナの元カレだ」と自己紹介した。スコットはラモーナに質問し、マシューが中学の時に元カレだと聞く。空中に浮かんだマシューはダンサーと踊り、指から炎を発射した。スコットは全く動じず、マシューをノックアウトした。コインが落ちて来たのでスコットは喜んで拾うが、大した金額ではないのでガッカリした。
ラモーナはスコットをライヴハウスから連れ出し、バスに乗せる。「あれは何だったの?」と問われた彼女は、「たぶん、私と付き合うなら7人の元カレを倒せってこと」と説明する。「7人を倒せば付き合えるってこと?」と確認したスコットは、ラモーナとキスして喜ぶ。帰宅したスコットは、ウォレスに「今夜もラモーナとデートだ。食事に招いたから遠慮してくれ」と自慢げに言う。ウォレスが「最後通告だ。ナイヴスと別れろ」と告げると、スコットは「そんなの無理だよ」と渋った。
「別れないならラモーナに全て暴露するぞ」とウォレスは告げ、これからルーカス・リーの特集番組を見ると言う。ルーカスはスケボーの得意な演技派俳優で、トロントで新作の撮影中だと彼は語った。スコットは仕方なく外出し、ナイヴスと会う。「私の誕生日会があるから両親と会って」とナイヴスに言われたスコットは、困りつつも別れを告げて立ち去った。バンドの練習に参加したスコットはナイヴスと別れたことを話し、「近い内に新しい彼女を紹介するから」と嬉しそうに告げた。
髪の色を赤から青に変えたラモーナが来ると、すぐにスコットは練習を切り上げた。ウォレスは気を利かせて立ち去り、スコットは家でラモーナと2人になる。彼はラモーナと散歩に出掛け、ルーカスの映画が撮影されている場所へ赴く。主演がルーカスだと知ったラモーナは困惑し、「早く出よう。あれは私の元カレ」と言う。ルーカスはスコットを挑発し、スタントチームと共に攻撃を仕掛けた。スコットはスタントチームを全滅させ、ルーカスと対峙する。彼はルーカスを騙してスケボーの難しい技に挑戦させ、自爆に追い込んだ。
翌日、スコットはエンヴィーからの電話を受け、ラモーナという恋人がいることを話した。ナイヴスが訪ねて来ると、スコットは窓を突き破って逃亡した。ロキシー・リクターという女に襲われたスコットは、「今はそんな気分じゃないんだ」と戦いを嫌がる。するとロキシーは「また後で来るからね」と言い残し、姿を消した。コーヒーショップでラモーナと遭遇したスコットが話していると、エンヴィーが来た。エンヴィーはスコットに、デーモンヘッドのライヴを見に来るよう告げた。
ライヴへ行く気は無かったスコットだが、スティーヴンが前座の仕事を受けていた。スコットとラモーナの親密な様子を目にしたナイヴスは嫉妬心を募らせ、「絶対に取り返してやる」と誓った。彼女はラモーナと同じように髪を染め、翌日のライヴ会場へ乗り込む。ナイヴスはスコットへの当て付けに、彼の前でニールと親密な様子を見せた。デーモンヘッドのライヴが始まると、ラモーナはエンヴィーの恋人でベーシストのトッド・イングラムが自分の元カレだとスコットに教えた。
楽屋に呼ばれたスコットは、トッドの不遜な態度に腹を立てて殴り掛かる。するとトッドは菜食主義で会得したサイキックパワーを使い、彼を弾き飛ばした。スコットはベース対決に持ち込むが、ここでも苦戦を強いられる。トッドを騙して牛乳を飲ませ、サイキックパワーを失わせて戦いに勝利した。疲労感を抱くスコットだが、スティーヴンたちに誘われて打ち上げに赴いた。するとロキシーが現れ、スコットは彼女がラモーナの元カノだと知って驚いた。
ロキシーがスコットに襲い掛かると、ラモーナが阻止して戦い始めた。するとロキシーは、「アンタを手に入れたいなら、スコットが自分で戦わなきゃダメだろ」と告げる。スコットは「女の子は殴れないよ」と言うが、ラモーナから膝の裏が弱点だと教えられる。スコットはロキシーの膝の裏を指で突き刺し、彼女を退治した。苛立ったスコットはロキシーと口論になり、元カレのリストを出すよう要求した。ロキシーは腹を立て、リストを渡して立ち去った。元カレの5番目と6番目は次のバンドバトルで対決する双子のカタヤナギ兄弟で、最後がギデオン・グレイヴズだった…。

監督はエドガー・ライト、原作はブライアン・リー・オマリー、脚本はマイケル・バコール&エドガー・ライト、製作はマーク・プラット&エリック・ジッター&ニラ・パーク&エドガー・ライト、製作総指揮はロナルド・ヴァスコンセロス&J・マイルズ・デイル&ジャレッド・レボフ&アダム・シーゲル、共同製作はジョー・ノゼマック&リサ・ジッター&スティーヴン・V・スキャヴェリ、撮影はビル・ポープ、美術はマーカス・ローランド、編集はジョナサン・エイモス&ポール・マクリス、衣装はローラ・ジーン・シャノン、視覚効果監修はフレイザー・チャーチル、音楽はナイジェル・ゴッドリッチ、音楽監修はキャシー・ネルソン。
出演はマイケル・セラ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、キーラン・カルキン、クリス・エヴァンス、アナ・ケンドリック、ブリー・ラーソン、アリソン・ピル、オーブリー・プラザ、ブランドン・ラウス、ジェイソン・シュワルツマン、ジョニー・シモンズ、マーク・ウェバー、メイ・ウィットマン、エレン・ウォン、サティア・バーバー、斉藤慶太、斉藤祥太、エリック・クヌーセン、アビゲイル・チュウ、モーリー・W・カウフマン、シャンテル・チュン、ベン・ルイス、キャルタン・ヒューイット、ネルソン・フランクリン、クリスティーナ・ペシッチ、イングリッド・ハース、テネシー・トーマス他。


カナダで大人気となったブライアン・リー・オマリーのグラフィック・ノベルを基にした作品。
監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のエドガー・ライト。
スコットをマイケル・セラ、ラモーナをメアリー・エリザベス・ウィンステッド、ウォレスをキーラン・カルキン、ルーカスをクリス・エヴァンス、ステイシーをアナ・ケンドリック、エンヴィーをブリー・ラーソン、キムをアリソン・ピル、ジュリーをオーブリー・プラザ、トッドをブランドン・ラウス、ギデオンをジェイソン・シュワルツマンが演じている。
カタヤナギ兄弟役で斉藤慶太&斉藤祥太が出演しているが、台詞は無い。

バンドバトルの日、スコットはマシューから戦いを挑まれる。マシューは壁を突き破って飛来し、空中に浮かんで炎を発射する。そういう特殊能力を持つ設定になっているのだ。
この時点で、「いや無理」と拒絶反応が出てしまう。あまりにも突拍子が無くて、その世界観に没入することが出来ない。
そもそも、「ラモーナと付き合うには7人の元カレを倒す必要がある」という設定だけでも、充分にヘンテコな状態だからね。
それに加えて「元カレに特殊能力有り」なんだから、そりゃあ戸惑うのも仕方が無いでしょ。

そこで拒絶反応が出てしまう理由は簡単で、この映画はコミックと実写の壁を乗り越えることが出来ていないのだ。
コミックなら問題なく成立しても、実写だと不自然に思えてしまうケースは幾らでもある。そこを上手く消化するには、それなりの作業が必要になる。
この作品は、そこで失敗しているのだ。
序盤から効果音を文字で表示したり、異空間を現実世界と地続きで描いたりと、コミック的な表現は挿入している。それによって、「これはコミックの世界観をそのまま忠実に再現した映画です」とアピールしているのは分かる。
ただ、それでも全く足りないぐらい、設定のハードルが高かったということだ。

あと、マシューから戦いを挑まれたスコットは少し戸惑うものの、すぐに順応するんだよね。
せめて「スコットがヘンテコな世界観に困惑し、周囲の奇抜な奴らに翻弄される」という展開になっていれば、それが観客を引き込むための作業に繋がるだろう。でも、主人公が早々と順応しちゃうので、こっちは置いてけぼりを食わされる。
あと、スコットは簡単に順応するだけでなく、高い戦闘能力でマシューを軽く退治してしまうのよね。なぜ彼は、そんな戦闘能力があるのかと。
その強引さは、こっちの距離をさらに遠ざける要因になる。

スコットは自分からナイヴスとの交際をベラベラと周囲に喋り、ウォレスに至ってはわざわざ学校へ連れて行って紹介する。
ようするに、ナイヴスと付き合っていることを自慢したくて仕方が無いのだ。
また、ナイヴスがバンドについて絶賛すると、スコットは全く謙遜せずに「今でも充分に人気だけど」などと自慢げに言う。
オドオドした様子を頻繁に見せるが、実はプライドが高くて自信過剰な奴だ。
何となく、ウディー・アレンが主演作で演じていたキャラに似たモノを感じる。見た目は冴えないけど女にモテモテってのも含めてね。

スコットはビデオゲームについて饒舌に語るなど、一応はギークという設定だ。
ただし、決して「モテない」「冴えない」というタイプのオタクではない。オタク気質というだけで、女にはモテている。
人気バンドのボーカルが1年前まで交際していた元カノで、その次は17歳の女子高生と付き合って、さらにラモーナにアタックしたら全く拒否されない。
表面的には「まるでモテないタイプ」に描いているけど、実際は女に全く困っていないので、そこは大いに引っ掛かる。

っていうかさ、引っ掛かるか否かという問題以前に、そんな奴だと応援したい気持ちが湧かないんだよね。
しかも、ただ女にモテモテというだけでなく、スコットはナイヴスと付き合っているのに、ラモーナに惚れて浮気するのだ。
せめて少しぐらい苦悩してくれりゃ救いもあるが、まるで迷わずラモーナにまっしぐらだ。ナイヴスに対する罪悪感など皆無なのだ。
結局はナイヴスに別れを告げるけど、それだけでスコットの好感度が回復することなんて無いからね。
すぐにナイヴスのことなんて忘れてラモーナを思い浮かべるスコットを見ていると、「クズ野郎だな」としか思わないからね。

ナイヴスが身勝手だったり横柄だったり、そういう嫌な奴ならスコットが他の女性に走っても分かるよ。だけどナイヴスって、とってもいい子なのよ。
だからスコットの行動は、「身勝手な裏切り行為」でしかないのよ。
こいつの行動には、情状酌量の余地が無い。そして、共感できる余地もゼロだ。
せめて「ずっと夢に見ていた運命の女性がラモーナだから」ぐらいの設定があれば、少しは許せたかもしれない。でも、最近になって初めて見た夢に出て来ただけだからね。

じゃあラモーナがナイヴスを遥かに凌ぐほど素晴らしい女性なのかというと、それは全然だからね。スコットに比べりゃ不快指数は低いけど、まるで魅力的な女性だとは感じない。
ようするに、これって何の魅力も無い男女のラブストーリーなのよ。
そんな奴らがカップルになるための物語を見せられても、応援する気なんて湧かないよ。ひたすらナイヴスが可哀想だと思うだけだ。
元カレに勝つためにスコットは何の努力もしないから(なんせ最初から強いからね)、そこでも応援する意欲を喚起しないし。

身勝手なスコットに捨てられたナイヴスは、それでも彼のために協力してギデオンと戦う。
なんとギデオンとのラストバトルは、スコットとナイヴスがタッグで挑むのだ。
それって普通に考えれば、最終的にカップルになる2人じゃないとダメでしょ。
でもナイヴスは潔く身を引いて、スコットとラモーナを応援する立場に回るのだ。いじらしい子だよ。
そんなナイヴスを不幸にしたスコットとラモーナがカップになる結末を、ハッピーエンドとして受け入れることは無理だわ。

(観賞日:2020年2月5日)


2011年度 HIHOはくさいアワード:第6位

 

*ポンコツ映画愛護協会