『サボタージュ』:2014、アメリカ

麻薬取締局(DEA)の特殊班を率いるジョン・“ブリーチャー”・ウォートンは、覆面の男たちに捕まった妻が甚振られるビデオ映像を見て苦悶の表情を浮かべた。8ヶ月後、彼は部下のモンスター、シュガー、グラインダー、パイロ、ネック、トライポッド、スモークを率いて、要塞と化した麻薬組織の屋敷へ向かっていた。ジョンの部下でスモークの妻でもあるリジーが屋敷に潜入し、組織の男に近付いていた。ジョンはリジーと連絡を取った後、邸宅に乗り込んだ。
リジーは組織の男たちを射殺し、外へ飛び出した。リジーはチームに合流し、「金のある場所へ案内するわ」と告げる。チームは地下通路へ入り、大金を発見した。チームは取締局の上層部に内緒で、金を盗み出そうと目論んでいた。スモークが撃たれて瀕死の状態に陥ったため、チームは撤退することにした。チームは1千万ドルを袋に入れ、ロープに繋いで下水溝へ落とした。ジョンはチームを先に行かせ、部屋を爆破した。
チームが下水溝へ行くとロープが切断されており、1千万ドルは消えていた。下水溝に残された弾丸を見たリジーは、「犯人が誰か、想像は付くわ」と漏らした。スモークは死亡し、残る面々は取締局へ戻る。チームは金を盗んだ嫌疑で取り調べを受け、ジョンはデスクワークに異動させられた。彼は監視下に置かれ、同僚は辞めさせようとして圧力を掛けたり嫌がらせをしたりする。そんな中で上司のフロイドから呼ばれたジョンは、「調査は終わりだ。証拠は無く、政府も関心を失った」と告げられた。
元の仕事に復帰するよう指示されたジョンは、チームと合流した。リジーがドラッグをやっていると気付いた彼は、「辞めると約束したはずだ」と注意する。しかしリジーは「大丈夫よ」と軽く言い、戦闘訓練に参加した。信頼感が落ちていると感じたジョンだが、戦闘訓練によって昔の状態に戻った。彼らはストリップバーへ繰り出し、酒を飲んで盛り上がった。深夜にキャンピングカーで目を覚ましたパイロは、警笛の音を耳にした。車が線路の上にあると気付いたパイロだが、鍵が無くなっていて動かせなかった。キャンピングカーは列車の衝突を受け、パイロは死亡した。
ジョンが線路に駆け付けると、アトランタ市警の殺人課刑事であるキャロラインやジャクソンたちが現場検証を行っていた。翌日、ジョンの家にチームが集まっていると、キャロラインが現れた。彼女は事情聴取しようとするが、チームの面々は馬鹿にする態度を取った。彼女はジョンに、部下たちを事情聴取に応じさせるよう要求した。翌日、ジョンはキャロラインを呼び出し、ネックの家へ赴いた。するとネックは何者かに惨殺され、天井に釘で張り付けられていた。
ネックの死体を調べた検視官は別人の頭髪を発見し、それは鑑識に回された。キャロラインはジャクソンに、列車事故を洗い直すよう指示した。彼女はモンスターとリジーの元を訪れ、「容疑者を割り出すために特殊班の情報が欲しい」と言う。するとモンスターは、「特殊班の仕事を知っているのか?麻薬組織への潜入だ」と告げた。リジーは「麻薬組織に狙われたら、拳銃一丁では足りない」と脅すように述べ、モンスターは「関わらない方が利口だぜ」と口にした。
ジャクソンはキャロラインに、キャンピングカーのハンドルにパイロとは別人の指紋が残っていたことを報告した。犯行の手口などから、2人は麻薬組織のガルボが潜入捜査の報復としてパイロとネックを殺害したのではないかと考える。2人はDEAの上層部を訪れて協力を要請するが、軽くあしらわれてしまう。車に戻ったキャロラインたちは、ジョンに敵意を抱くスポルチェク捜査官が密かに置いたUSBメモリを発見した。キャロラインが中身を確認すると、特殊班が事情聴取を受ける様子を撮影した動画だった。
キャロラインは特殊班が窃盗の嫌疑を掛けられていたことを知り、ジョンの元へ赴いた。キャロラインから問い詰められたジョンは、窃盗行為を否定した。キャロラインは彼に、「DEAとガルボは盗んだと思っているわ」と言う。ジョンが辞職したトライポッドの元へ行くことを話すと、キャロラインは同行することにした。2人がトライポッドの山小屋へ行くと、彼は殺されていた。ジョンたちは山小屋の近くで、狩猟用の罠に掛かって死んでいる男を発見した。ジョンが腕を調べると、「カイビル」というタトゥーが彫られていた。
キャロラインが警察署にいるとモンスターが現れ、「カイビルは中米の特殊部隊だ。ガルボが人を殺す時に雇う。俺も消される」と告げる。キャロラインが「死ぬのが嫌ならジョンのことを話して」と持ち掛けると、彼は「2年前、俺たちはガルボのボスであるリオスを逮捕した。メキシコ政府に身柄を引き渡したが、組織の女に口封じで殺された。組織はジョンの有能さを恐れ、妻子を拉致して投降を要求した。妻子を惨殺されたジョンは犯人への復讐心を燃やしたが、見つけ出すことは出来なかった」と語る…。

監督はデヴィッド・エアー、脚本はスキップ・ウッズ&デヴィッド・エアー、製作はビル・ブロック&デヴィッド・エアー&イーサン・スミス&ポール・ハンソン&パラク・パテル、製作総指揮はジョー・ロス&アントン・レッシン&サーシャ・シャピロ&アルバート・S・ラディー&スキップ・ウッズ&ジェフリー・イム、共同製作はアレックス・オット&ジェイソン・ブルーメンフェルド、&ゲルノート・フリードヒューバー、製作協力はマイク・ガンサー&ポール・“スパーキー”・バーレラス、撮影はブルース・マクリーリー、美術はデヴォラ・ハーバート、編集はドディー・ドーン、衣装はメアリー・クレア・ハンナン、音楽はデヴィッド・サーディー、音楽監修はシーズン・ケント&ゲイヴ・ヒルファー。
主演はアーノルド・シュワルツェネッガー、共演はサム・ワーシントン、オリヴィア・ウィリアムズ、テレンス・ハワード、ミレイユ・イーノス、ジョー・マンガニエロ、ハロルド・ペリノー、マーティン・ドノヴァン、マックス・マーティーニ、ジョシュ・ホロウェイ、ケヴィン・ヴァンス、マーク・シュレーゲル、トロイ・ギャリティー、モーリス・コンプト、B・J・ウィンフレイ、ケンドリック・クロス、ハキーム・カレンダー、アラン・ギルマー、デウェイン・カルホーン、ジェイミー・フィッツシモンズ、ティム・ウェア、ゲイリー・グラブス他。


『フェイク シティ ある男のルール』『エンド・オブ・ウォッチ』のデヴィッド・エアーが監督を務めた作品。
脚本はデヴィッド・エアーと『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』『ダイ・ハード/ラスト・デイ』のスキップ・ウッズによる共同。
ジョンをアーノルド・シュワルツェネッガー、モンスターをサム・ワーシントン、キャロラインをオリヴィア・ウィリアムズ、シュガーをテレンス・ハワード、リジーをミレイユ・イーノス、グラインダーをジョー・マンガニエロ、ジャクソンをハロルド・ペリノー、フロイドをマーティン・ドノヴァン、パイロをマックス・マーティーニ、ネックをジョシュ・ホロウェイが演じている。

オープニングでは、リジーが大活躍して存在感を見せまくる。
見た目はケバケバしくてビッチ感たっぷりだが、組織の男たちを軽く銃殺して窓から飛び出すたくましさをアピールする。
チームで紅一点ということも手伝って、キャラが勃ちまくっている。
他の男どもは完全に霞んでおり、肝心のジョンも食われているぐらいだから、もはやリジーがメインでもいいんじゃないかと思うぐらいだ。
でも、実際は主役じゃないんだから、それは決して称賛できるようなことでもないんだよな。

この映画の大きな問題点として、「事前に『そして誰もいなくなった』がモチーフだという情報を知っていた場合、それがネタバレになっている」ということが挙げられる。
あくまでもモチーフであり、物語は全くの別物になっているが、でも『そして誰もいなくなった』のオチを知っていれば、この話の犯人についても何となく予想が付いてしまうのよね。
だから、本来なら「それが分かっていても充分に楽しめる」という内容が求められるのだが、そういう状態になっていない。
っていうか、そもそも『そして誰もいなくなった』のオチを知っているか否かに関わらず、かなり問題の多い出来栄えだと言わざるを得ない。

終盤の展開を知った上で振り返ると、色々と不可解だったり不自然だったりする描写が多い。
まず序盤、下水溝に置かれた弾丸をジョンが手に取り、確かめるように眺める描写があるが、これは変だ。
なぜなら、彼は誰が弾丸を置いたのか知っているからだ。
でも、そのシーンは「誰が弾丸を置いたのか」と疑問を抱いて考え込んでいるような描写になっているわけで。
誰も見ていないのに、「誰が置いたか知っているけど、知らないフリ」をするのは、観客を欺くためだけの不自然な芝居になっている。

後の展開を考えれば、っていうか普通に考えれば、金を盗んだ嫌疑がチームに掛けられた時、「ジョンは潔白である」と観客に感じさせる描写にしておくべきだろう。
しかし、ジョンが強く否定するような描写は無いし、何となく怪しさが匂うような状態になっているのだ。
「ジョンが金を盗んだのかもしれない」と疑念を抱かせるような状態にしておくことは、どう考えても得策ではない。

パイロが死ぬシーンは、かなり不自然な事故現場になっている。
列車が警笛を鳴らしまくっているのをパイロが聞いて、慌てて移動しようとするけど車の鍵が無くて、だから衝突するという流れなんだけど、「この事故って防げたんじゃないか」と思ってしまうのだ。なぜなら、線路は長い直線であり、かなり距離のある状態から列車が警笛を鳴らしているからだ。
だったら、ブレーキを掛ければいいんじゃないかと思うのよ。
なぜ猛スピードで突っ込んで来るのか、それがサッパリ分からないのだ。
「それも含めて犯人の仕業」ってことならともかく、そうじゃないからね。

特殊部隊の仕事に復帰したジョンは、まずチームに戦闘訓練を実施させる。ミスが起きて信頼感が落ちていると感じたジョンは、改めて訓練を命じる。
でも、わざわざ2度も訓練をさせるシーンで時間を使うのは、無駄にしか思えない。「チームが家族のような絆で結ばれている」ってことをアピールしたかったのかもしれないけど、だとしても効果は得られていないし。
キャロライン事情聴取に来た時にチームがヘラヘラして馬鹿にする態度を取るのは、何を見せたいのかサッパリ分からない。
仲間が死んだのにヘラヘラしているのも、ただ単にヘンテコだと感じるだけだし。

ジョンがキャロラインを呼び出してネックの家を訪れる理由が、まるで分からない。だから、あまりにも不自然な行動に見える。
もちろん「ネックの死体を発見する」という段取りを消化するための手順なんだけど、表向きの理由ってのは必要でしょ。
キャロラインが特殊班の情報を知るためにモンスターとリジーの家へ行くのも、これまた「なんで?」と思ってしまう。普通に考えれば、まずはジョンに要請するのが筋じゃないかと。
っていうか、特殊班も容疑者に入れるべきじゃないのか。なんで最初から完全に外すような状態になっているのか。
で、こいつらも容疑者と考えれば、特殊班の情報を得ようとして最初に赴く先は、DEAの上層部になるんじゃないかと。

キャロラインとジャクソンが捜査を進める中で、「麻薬組織のガルボによる仕業」という風に、急にガルボという組織の名前が出て来る。しかも急に出て来るだけじゃなく、組織であって個人ではない。
ぶっちゃけ、そこがミスリードとしての仕掛けであることはバレバレだが、「ミスリードがバレバレである」ってことが問題なのではない。
いや、ホントはそこも問題なんだけど、それ以上の問題があるので、そっちは「どうでもいい」って感じなのだ。
それ以上の問題ってのは、「個人ではなく組織としての容疑者が、唐突に浮上する」という形になっていることだ。
そういう形だと、ミステリーとしての面白味は出ないのよね。

そもそも、「特殊班の中に仲間を殺している犯人がいる」ってのは、かなり早い段階で何となく予想が付いてしまうのよね。
だから特殊班のメンバー各人に「観客が疑いを抱くような要素」ってのを用意して、そっち方面でのミスリードを図った方が良かったんじゃないかと思うのよね。
「フーダニット」のミステリーとしての仕掛けを持ち込んでいるはずなのに、そういう方向性での構成や展開から外れようとしている理由が、サッパリ理解できないのよ。

ジョンとキャロラインがトライポッドの山小屋へ行くと、「ジョンがトライポッドの名を呼ぶ」とカットの後、銃を持った4人組の姿を捉える映像になる。だからジョンたちが襲われるのかと思いきや、何も無いまま進んでいる。
で、こちらをトライポッドが見る映像の後、ジョンが「様子が変だ」と漏らすカットがあり、トライポッドと4人組の銃撃戦が始まる。でも、ジョンとキャロラインは全く気付いていない。
そして4人組が家へ逃げ込んだトライポッドを銃殺するシーンの後、ジョンとキャロラインが死体を発見するカットになる。
ここ、ちょっと混乱してしまうが、ようするに「同じ時間で起きている出来事ではない」という演出なのだ。

しかし、そんな風に時間軸をズラした演出にしても、何の効果も得られていない。
そもそも、「4人組がトライポッドを殺す」という映像を描くと、「カイビルの仕業」ってのがバレるという大きなマイナスがある。ジョンが男の死体を発見するのも、同じ意味でマイナスしか無い。
ただ、そんな風に思っていたら、「実はカイビルの4人組が列車事故の前に殺されていた」というのが判明する。
つまり4人組は殺しの罪を着せられて殺害されていたわけだが、ってことはトライポッドだけはカイビルに殺され、他の2人は罪を着せた犯人に殺されたということになる。
でも、すんげえ中途半端だし、腑に落ちないことになっちゃうんだよね。

キャロラインが警察署にいるとモンスターが現れるシーンは、たまたまキャロラインが1人でいるってのも含めて、ものすごく不自然だ。急にキャロラインが「死ぬのが嫌ならジョンのことを話して」と要求するのも、これまた不自然だ。
この作品は、とにかくキャラクターの言動がギクシャクしまくっているのだ。モンスターが2年前の出来事を語るのも、段取りとして消化するのは理解できるけど、そういう段取りからの逆算が下手すぎる。
それと、2年前の出来事に関しては、組織がジョンを恐れたことで「妻子を拉致して投降を要求する」という行動を取ったのなら、その大事なカードである妻子を拷問して惨殺しちゃったら意味が無いでしょ。
むしろ、妻子を殺されたジョンが怒りに燃えて復讐に来る恐れがあるわけで、なんちゅうアホな行動を取っているのかと。
そんで有能なジョンを恐れたくせに、肝心な彼を殺そうとはせずに放置しているわけだから、何がしたかったのかと。

2年前の出来事を知ったキャロラインがジョンに口説かれて肉体関係を持つのは、底無しのバカにしか見えない。っていうか、筋書きとしても、何がしたかったのかサッパリ分からない。
「ジョンがキャロラインを利用した」ってのを見せたかったのかもしれないけど、だとしても「同情したキャロラインがジョンに協力する」ということだけで充分なわけで。
濡れ場を描くわけでもないから「お色気サービス」という意味も無いし(オリヴィア・ウィリアムズの濡れ場がサービスになるかどうかは置いておくとして)、
「ベッドを共にしました」というのを示す描写があるだけなので、ホントに意味が分からないのだ。

残り時間が少なくなってから、ようやく「特殊班の中に仲間を殺した奴がいる」ってことになるが、あまりにもタイミングが遅すぎるので、そこのサスペンスやミステリーは全く膨らまない。
そんで、すぐにリジーが自ら「シュガーと浮気している」とバラして、その直後にはリジー&シュガーが連続殺人犯であることが明らかにされる。まあ雑で淡白なことで。
そんで目的は「金を盗まれたから」ってことなんだけど、まるで筋が通らないんだよね。
「仲間の中に金を盗んだ奴がいる」と確信したのなら、なぜ次々に殺すのか。殺したら金のありかは分からないでしょ。「金を手に入れたい」→「だから仲間を殺す」って、まるで目的と行動の整合性が取れていないでしょ。

その後には「金を盗んだのは自分だ」とジョンが告白するけど、それは『そして誰もいなくなった』を知っていれば何となく予想が付くことだ。
で、それはいいとしても、盗んだ目的が「妻子を殺された復讐のため」ってのは、良く分からない。大金はメキシコ警察に賄賂を送って情報を得るために盗んでいるんだけど、そのためにチームを巻き込んで欺くってのは、不可解極まりない。
いっそのこと、事情を説明して「だから大金を盗ませてくれ」と頼んだらどうなのかと思っちゃうし。
ファミリー同然に仲良くしていたんでしょ。

っていうかさ、無意味にしか思えないような戦闘訓練シーンまで入れて「特殊班はファミリーだ」ってのをアピールしていたのに、リジーとシュガーが残忍に仲間を殺していたことが明らかになると、「どういうことだよ」とツッコミを入れたくなるわ。
それは「意外な展開」として効果的に作用することなんて皆無で、ただ違和感を抱くだけだよ。
そんで最終的にはドンパチで強引に着地しようとして、見事に失敗して墜落しているし。

ちょっと調べてみたら、この映画って本来は全く違うエンディングを迎える予定だったらしい。
ところが出来上がったフィルムが長すぎて、おまけにラストも陰気な内容で、これでは観客動員が厳しいと判断したプロデューサー上映時間の短縮とエンディングの変更をデヴィッド・エアーに要求したらしい。
そのせいで当初とは全く異なる内容になっただけでなく、辻褄が合わないような状態になったという事情があるらしい。
でも、「だから仕方が無いよね」なんてことは思わない。観客からしたら「知らんがな」って話だからね。
あと、当初は3時間ぐらいあったらしいから、「そりゃあ編集を要求されるのは当然だろ」と言いたくなるし。

(観賞日:2016年5月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会