『サラマンダー』:2002、イギリス&アイルランド&アメリカ

12歳の少年クインは、母カレンが働くロンドンの地下鉄工事現場にやって来た。クインは地下に降り、奨学金が貰えなかったことを母に 報告した。現場では空洞が開いてしまうトラブルがあり、クインは中に入り込んだ。奥に進んだ彼は謎の巨大生物を発見し、慌てて穴から 出た。それはドラゴンだった。ドラゴンは穴から抜け出し、炎を吐いて襲ってきた。カレンはクインと共にエレベーターに乗り、地上に 脱出しようとする。だが、ドラゴンの攻撃を受け、カレンは命を落とした。
ドラゴンは凄まじい勢いで繁殖し、たちまち数を増やして世界中に散らばった。ドラゴンは人々を襲撃し、食い散らかした。やがて科学者 の研究によって、かつてドラゴンの炎が恐竜を絶滅させ、大量の灰が氷河期を招いたことが判明した。その後、地球上の命を焼き尽くして 飢えたドラゴンは冬眠に入ったが、そこから目覚めたのだ。人間は応戦したが、核兵器さえ効力が無かった。わずかに生き残った人々は 郊外にシェルターを築き、そこでドラゴンの攻撃を耐え忍んだ。
2020年、イギリスのノーサンバーランド。クインは砦の指導者として、子供達を守りながら暮らしていた。仲間のエディーが収穫に 行こうとするので、クインは「早すぎる。来年の種が取れなくなる」と反対する。エディーは「このままじゃ飢え死にだ」と主張するが、 クインは「皆で協力すれば何とかなる」と反論する。仲間のクリーディーも「門を出たら二度と戻るな」と、エディーの意見に反対した。 クインは鍵を預かり、エディーの外出を認めなかった。
深夜、エディーは鍵を盗み、仲間と共に砦を抜け出した。明け方、ドラゴン接近の警報が鳴り、クインは子供たちを地下シェルターに避難 させた。畑でトマトを収穫していたエディーたちは、ドラゴンの襲撃を受けた。数名が殺され、残った者も炎に包囲されて逃げ場を失った。 そこへ装甲車に乗ったクインが救出に駆け付け、エディーたちを拾って砦へと戻った。
無線に声が入ったのを耳にしたクインは、見張り役のバーロウに「近くで交信している。双眼鏡で確かめろ」と指示した。バーロウが周囲 を見回すと、戦車部隊が砦に近付いて来た。クインやクリーディーたちは、略奪に備えて武器を装備した。戦車から降りた指揮官のヴァン・ ザンは、自分達がケンタッキー義勇軍だと説明した。彼はクインに、「飛行機でマンチェスターまで来たが、122人が死んで燃料も底を ついた。翌朝には出発するので、しばらく休ませてほしい」と申し入れた。
クインが「帰れ」と冷たく告げると、ヴァン・ザンはドラゴンの爪を見せて「最初に倒した奴の物だ」と口にした。クインは信じなかった が、ヴァン・ザンは「奴らの目は薄明かりでは良く見えない」と言う。クインは「妙な真似をしたら殺す」と警戒したまま、彼らが砦に 入ることを許可した。少し遅れて、偵察に出ていた空挺部隊のヘリ操縦士アレックスもやって来た。
警報が鳴り響くと、義勇軍は戦車やヘリコプターで出撃した。ヴァン・ザンの指示を受けたピスカテラは、バイクで測量器の設置に向かう。 3つを三角の位置に据えて、ドラゴンの居場所を割り出すのだ。そしてヘリから2人の隊員が降下し、ネットを発射してドラゴンを捕獲 するのが義勇軍の作戦だ。だが、ピスカテラが攻撃を受けて死亡し、3つ目の測量器が設置できなくなった。それに気付いたクインは現場 へ急行し、代わりに測量器を設置した。
降下部隊の作戦が失敗に終わり、クインはヴァン・ザンの指示を受けて、囮となってドラゴンを引き寄せた。待ち受けていたヴァン・ザン は、ドラゴンの口に向かって矢を放った。墜落したドラゴンに近付いたヴァン・ザンは、ハンマーを振り下ろした。砦の人々はドラゴン 退治を祝ってパーティーを開くが、そこに現れたヴァン・ザンは「こんなことをしていたら、奴らがいなくなるまで何百年も掛かる」と 批判した。そんなヴァン・ザンに、クインは敵対心を剥き出しにした。
ヴァン・ザンとアレックスは、倒したドラゴンがメスだったことをクインに説明した。ヴァン・ザンは「今まで200頭は仕留めたが、全て メスだった。オスは一頭しかいない。オスを倒せばドラゴンは滅びる」と言う。彼はオスを倒すためにロンドンへ行くつもりだが、兵隊が 不足していた。ヴァン・ザンは兵士の補充を要請するが、クインは「出て行け」と鋭く告げた。ヴァン・ザンは義勇軍を募り、エディーたち が名乗りを挙げた。クインは「一人も連れて行かせない」とヴァン・ザンに殴り掛かるが、返り討ちに遭った。
ヴァン・ザンは兵士を補充し、ロンドンへ向かった。だが、圧倒的な破壊力を持つオスのドラゴンに襲われ、ヴァン・ザンとアレックスを 残して全滅してしまう。オスは砦に飛来し、炎を吐いて攻撃する。クインは子供たちを地下シェルターに避難させるが、仲間を救おうとした クリーディーが命を落とした。ドラゴンが去った後、ヴァン・ザンとアレックスがやって来た。クインはわずかに残された武器を手に取り、 彼らと共にロンドンへ向かうことを決意した…。

監督はロブ・ボウマン、原案はグレッグ・チャボット&ケヴィン・ペテルカ、脚本はグレッグ・チャボット&ケヴィン・ペテルカ&マット ・グリーンバーグ、製作はリチャード・D・ザナック&リリ・フィニー・ザナック&ゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム、 共同製作はディーン・ザナック&デレク・エヴァンス&レベッカ・ラッド&モーガン・オサリヴァン&クリス・クリサフィス、製作総指揮 はジョナサン・グリックマン、撮影はエイドリアン・ビドル、編集はトム・ノーブル、美術はウォルフ・クレーガー、衣装はジョーン・ バーギン、視覚効果監修はリチャード・R・フーヴァー、音楽はエドワード・シェアマー。
出演はマシュー・マコノヒー、クリスチャン・ベイル、イザベラ・スコルプコ、ジェラルド・バトラー、アリス・クリーグ、 スコット・ジェームズ・モウッター、デヴィッド・ケネディー、アレクサンダー・シディグ、ネッド・デネヒー、ローリー・キーナン、 テレンス・メイナード、ダグ・コックル、ランダル・カールトン、クリス・ケリー、ベン・ソーントン、マルコム・ダグラス、デジー・ ギャラガー、マーティン・リネイン他。


『X-ファイル ザ・ムービー』のロブ・ボウマンが監督を務めた作品。
日本では「SFパニック・スリラー」として宣伝されていたが、ジャンル的には明らかに「怪獣映画」の部類だ。
ヴァン・ザンをマシュー・マコノヒー、クインをクリスチャン・ベイル、アレックスを イザベラ・スコルプコ、クリーディーをジェラルド・バトラー、カレンをアリス・クリーグが演じている。

この映画、タイトルは『サラマンダー』となっているが、劇中に「サラマンダー」なる怪物は登場しない。
宣伝で「サラマンダー」とされているのは、実際にはドラゴンのことだ。
この邦題を付けた東宝東和は、1970年代から1980年代に掛けて、勝手な邦題を付けたり誇大宣伝を行ったりしていた。
その伝統は、今も受け継がれているようだ。
で、東宝東和がインチキな誇大宣伝をする時は、その映画はポンコツである可能性が濃厚だと解釈していいと思う。

冒頭、地下の穴からドラゴンが出現し、炎を吐いて暴れる。
なので、そこから「ドラゴンが地上に出て人々を襲い始める」という展開が待っているのかと思いきや、ナレーションによって「繁殖して 数を増やしたドラゴンが人類を殺しまくって世界は崩壊」というのを説明する。
いやいや、だったら、その「繁殖したドラゴンの群れが人々を襲う」という絵を見せろよ。
肝心な部分を描かずにナレーションでザックリと処理してしまったオープニングの段階で、もはや本作品はポンコツ映画に決定したと 言ってもいい。
その後も、ドラゴンはたまに1匹ずつ登場するだけで、世界中に大増殖しているはずなのに、複数が同時に現われることは無い。
予算が少なかったのかと思ったら、製作費は9千万ドル。
それだけあったら、「ドラゴンの大群が暴れる」という絵を描くことは可能だったと思うんだが。どこか別のところで、予算を無駄遣い してしまったのか。

「エディーが収穫に行く」と言うと、クインは反対する。
「皆で協力すれば何とかなる」と言うが、協力すれば飢え死にしないってことは無いだろ。
「食料を収穫しないと飢え死にする」とエディーは主張しているんだから、収穫しなくても飢え死にせずに済む対策を語るべき じゃないのか。
そもそも、砦の敷地内に畑を作ることは出来なかったのか。
もしくは、車を使って遠征しなくても済むように、畑の近くに砦を設置することは出来なかったのか。

クインは「このまま耐え忍べば奴ら(ドラゴン)は滅びるだろう」と語るが、どうして、そんな風に思えるのか根拠は不明だ。
放っておいたら、滅びるはずが無いと思うが。
クインは目の前で母親を殺されたのだから、復讐に燃えるにせよ、ショックから立ち直れないにせよ、そのことを引きずっていても 良さそうなものだが、そういう様子が見られない。

ヴァン・ザンは「ドラゴンの目は薄明かりでは良く見えない」と語るが、その弱点には大して意味が無い。
まず、薄暗くて見えなくても、防御力は変わらない。
ドラゴンは人間の攻撃を回避するのではなく、その強靭な肉体で無効にしてしまうのだから、見えにくいことは何のマイナスにも ならない。
また、攻撃に関しても、そもそもピンポイントで人間を狙うのではなく、炎のブレスを吐いて一面を焼くのだから、標的がボンヤリと 見えていれば事足りるのだ。

世界各国が最新兵器を投入し、核兵器まで使用したのに効果が無かったドラゴンを、ヴァン・ザンは弓矢やハンマーで退治 してしまう。
それならそれで、「なぜ最新兵器で歯が立たなかったドラゴンが弓矢で倒せるのか」という理由が必要だ。
一応、「口に向かって矢を発射し、臓器を潰すことで殺せる」という説明はある。
ただ、それなら銃火器や爆弾を使っても同じことは出来ただろうし、その退治方法を発見する各国の軍事関係者もいたはず。
「なぜヴァン・ザンだけが?なぜ弓矢?」というところの説得力は弱い。

大体さ、弓矢やハンマーで戦うのなら、中世ファンタジーとして作ればいいのよ。
ヘリコプターも戦車も、まるで活躍しないのなら、宝の持ち腐れだ。
近未来を舞台にするからには、やはり近代兵器を使って戦う様子が見たい。ドラゴン軍団と兵隊の激しいバトルが見たい。
いや、最悪、銃や爆弾じゃなくてもいいから、ともかく近代的な道具を使って戦ってほしい。

クインに何の魅力も無いというのは厳しい。
クインが砦のパーティーに出席していると、そこに現れたヴァン・ザンは「仲間が3人も殺害されたのに、自分たちだけで勝手に 浮かれやがって」という旨の発言をする。
彼の言葉には同意できる。
しかしクインは反省することも砦の住民を諌めることもなく、ヴァン・ザンに対して逆ギレ気味の態度を取るのだ。
サイテーだな。

ヴァン・ザンはクインに「今まで仕留めたのは全てメスだった」と言うが、なぜ、そんなことが分かるのか。
今までオスを見たことが無いのなら、それがオスかメスかを判別するポイントが何なのかも分からないはずだ。
また、「オスは1頭だけ」と言うが、それも何の根拠があって言っているのか分からない。
ロンドンにいるドラゴンがオスだと確定した理由も不明だ。
っていうか、「オスは1頭だから、それを殺せば滅びる」って、ものすごく分かりやすい御都合主義だよな。

クインが兵士の補充を断ると、アレックスは「ロンドンで母親が死んだから?」と尋ねる。
設定としては、「母がロンドンで死んだから、ヴァン・ザンの申し入れをクインは断った」という風に、言い訳にしているようだ。
だが、そんなの関係ないと思うぞ。
ロンドンじゃなくても、クインは断っただろう。
で、ヴァン・ザンが義勇兵を募っていると、クインは「一人も連れて行かせない」と殴り掛かるが、そこで戦うぐらいなら、ドラゴンと 戦えと言いたくなる。
大体、人間同士の内輪揉めなんか、どうでもいいのよ。
「そんなことよりもドラゴンを見せろよ」と言いたくなってしまう。

クインはヴァン・ザンが倒したドラゴンの死骸に関して、「これは燃やさない。ドラゴンは自分たちの死骸の匂いを嫌うから、これで数日は 来ない」と言うが、なぜ、そんな情報を知っているのか。
今までドラゴンが来ても、戦わずに避難していただけなのに。
で、クインはドラゴンの卵を発見するが、それが後の展開に関わってくるのかと思ったら、卵は二度と登場しない。
だったら、卵を発見するシーンには何の意味があったのか。

ロンドンへ赴いたヴァン・ザンたちはドラゴンにマシンガンを向けるが、そういう武器では何のダメージも与えられないんでしょ。だから 世界は壊滅状態に陥ったんでしょ。
だったら、そんな武器を持っていても無意味でしょうに。
で、砦に戻ったヴァン・ザンは「襲ってきたドラゴンはオスだった」と口にするが、なぜオスだったと分かるのか。
チンコでも見たのか。

終盤に入ると、クインが急に勇敢になり、一方で、今まで勇ましく戦っていたアレックスが急に臆病になる。
そんな不可解な彼らがロンドンに到着したところで、本作品で初めて「ドラゴンの大群」が映し出される。
だが、それは数秒程度のことであり、大群が暴れたり人を襲ったりする様子は描かれない。
ドラゴンは最後まで、1匹ずつしかクインたちを襲わない。
大コケが納得できる駄作。

(観賞日:2009年5月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会