『幸せのちから』:2006、アメリカ

1981年、サンフランシスコ。クリス・ガードナーは5歳の息子クリストファーを保育園に送り届け、医療機器のセールスに向かう。クリス は28歳になるまで、実の父親と会ったが無かった。自分は父のようになるまいと心に決めている。彼は医療機器で大儲けが出来ると考え、 それを大量に買い取った。それを1ヶ月に2台は売らないと、生活費が工面できない。しかし値段の割に性能は低く、最近は全く売れて いない。妻のリンダは一日16時間のパート労働を続けて家計を支えているが、苛立ちを募らせている。
ある日、クリスは真っ赤なフェラーリから降りてくる高級スーツの男性を見て、「どうすれば貴方のようになれるんだい?」と尋ねた。 すると男性は、自分が株のブローカーをやっていることを明かした。クリスは良い大学を卒業している必要があるのだろうと考えるが、彼 は「学歴が無くても証券会社の養成コースを受講すればブローカーになれる」と説明した。
クリスは研修生になるため、ディーン・ウィッター社の出張所に赴いた。医療機器を持ったままでは格好が悪いと考え、道でギターを 弾いていたヒッピーに1ドルを渡し、しばらく預かるよう頼んだ。クリスは出張所に入り、人材課の担当者ティム・ブロフィーから書類を 受け取った。ヒッピーが医療機器を持って逃亡したため、クリスは慌てて追い掛けるが、見失った。
研修生の定員は半年ごとに20名で、正社員として採用されるのは1人だけだ。クリスは定員に入るために自分をアピールしようと、本社へ 出向いて人事人材課長ジェイ・トゥイッスルに直接、書類を手渡した。ヒッピーを見つけたクリスは追跡し、医療機器を取り戻した。後日 、クリスはタクシーに乗り込むトゥイッスルに声を掛け、同じ方向へ向かうと嘘をついて同乗させてもらう。トゥイッスルはクリスの話に 関心を示さず、ルービック・キューブに没頭した。クリスはキューブを貸してもらい、全ての面を揃えた。
トゥイッスルが去った後、金の無いクリスはタクシー代を支払わずに逃亡した。自宅に電話を掛けると、リンダが「息子を連れて家を出て いく」と告げた。慌てて帰宅すると、もぬけの殻だった。そこへトゥイッスルから電話が入り、明後日の朝に面接をすると言ってきた。 筆記用具さえ無かったため、クリスはトゥイッスルに言われた番号を必死で暗記した。
翌日、クリスはリンダの職場へ行き、「クリストファーは俺が育てる」と言い放った。彼は保育園へ行き、クリストファーを連れ帰った。 そこへ大家が来て、「滞納している家賃が払えないのなら1週間以内に立ち退いてくれ」とクリスに宣告した。さらに駐車違反の罰金を 支払っていなかったため、警官に捕まって拘留された。クリスは罰金の支払い手続きを行うが、警官に「翌朝になって銀行の口座が確認 できるまでは釈放できない」と言われてしまう。クリスはリンダに電話を掛け、息子の世話を頼んだ。
翌朝、釈放されたクリスは汚い格好のままで、面接会場へと急いだ。ディーン・ウィッター社のマーティン・フロームはクリスの服装を 見て、「もし私がスーツを着用していない人間を雇用したら、君はどう思う?」と問い掛けた。クリスは「ズボンが素晴らしかったんだと 思います」と切り返した。トゥイッスルの推薦もあって、クリスは養成コースの定員に入ることが出来た。しかし研修中は給料が出ない ことを始めて知ったクリスは、返事を夜まで待ってもらった。
夜、クリスの家に、リンダがクリストファーを連れて来た。彼女は「妹の恋人がレストランを始めるので雇ってもらえるかもしれない」と 語り、ニューヨークへ引越しすることを告げた。クリスは「クリストファーは渡さない」と鋭く言い放った。リンダが去った後、クリスは ディーン・ウィッター社人材課に電話を掛け、養成コースを受講する旨を告げた。
クリスは14ドルを貸している友人ウェインに車を運転してもらい、クリストファーと共にモーテルへ移った。研修中の収入源は、売れ残り の医療機器を販売する以外に無い。クリスはようやく、医療機器を一つ売ることが出来た。研修が始まり、クリスは他の研修生と共に マネージャーのアラン・フレーケシュから説明を受けた。クリスはフレーケシュの使い走りも引き受けた。
研修生が指示された作業は、与えられた名簿を頼りに片っ端から電話を掛けることだ。クリスは息子を保育園へ迎えに行かねばならない ため、他の研修生より早く切り上げる必要があった。わずかな時間も惜しんで電話を掛けまくる中、クリスはウォルター・リボンという 大物とアポを取ることに成功した。しかし出掛けようとした時、フレーケシュから車を移動させる用事を押し付けられてしまう。その用事 に時間を取られたクリスがウォルターのオフィスに到着すると、彼は帰った後だった。
後日、クリスはクリストファーを連れて高級住宅街を歩き、ウォルターの家を訪問して詫びを入れた。ウォルターは息子を連れてNFLの 試合観戦に行くところで、クリスとクリストファーにも同行を持ち掛けた。ウォルターはクリスたちをボックス席に招待した。ウォルターは 「新人の君に資産運用を任せることは無い」と告げるが、クリスは彼の友人を紹介してもらえた。
研修が続く中、クリスは医療機器のセールスで生活費を工面していた。だが、税金支払いの期限が過ぎていたため、銀行口座から自動的に 金を引き落とされてしまった。口座の残りが21ドル33セントになったクリスは、ウェインの元へ行って「14ドルを返せ」と怒鳴った。 モーテルへ戻ると荷物が外に放り出され、鍵が交換されていた。ずっと代金を滞納していたため、締め出されたのだ…。

監督はガブリエレ・ムッチーノ、脚本はスティーヴン・コンラッド、製作はトッド・ブラック&ジェイソン・ブルメンタル&スティーヴ・ ティッシュ&ジェームズ・ラシター&ウィル・スミス、製作協力はクリストファー・P・ガードナー、製作総指揮はルイス・デスポジート &マーク・クレイマン&デヴィッド・アルパー&テディ・ジー、撮影はフェドン・パパマイケル、編集はヒューズ・ウィンボーン、美術は J・マイケル・リーヴァ、衣装はシャレン・デイヴィス、音楽はアンドレア・グエラ。
主演はウィル・スミス、共演はジェイデン・クリストファー・サイア・スミス、タンディー・ニュートン、ブライアン・ホウ、ジェームズ ・カレン、ダン・カステラネタ、カート・フラー、 タカヨ・フィッシャー、ケヴィン・ウェスト、ジョージ・K・チェン、デヴィッド・マイケル・シルヴァーマン、ドメニク・ボーヴ、 ジェフ・キャラン、ジョイフル・レイヴェン、スコット・クレイス、ラシダ・クレンデニング、エリック・シニーウィンド他。


ホームレスから証券会社のCEOにまで成り上がったクリス・ガードナーの実話を基にした作品。
原題「The Pursuit of Happyness」の「Happyness」は綴りが間違っているが、これはクリストファーが通う保育園の落書きのスペルミス を使っている。
映画化を熱望したウィル・スミスが製作と主演を兼ねており、息子のジェイデンをクリストファー役に起用した。
リンダをタンディー・ニュートン、トゥイッスルをブライアン・ホウ、フロームをジェームズ・カレンが演じている。

これは「ダメな父親が、息子との暮らしを維持するため一念発起する」という話ではない。主人公はダメな奴ではなく、たまたま不景気で あり、運が悪かっただけだという形にしてある。
医療機器の仕事も、たまたま自分に合わないセールスという仕事をやっていただけだということなんだろう。その合わない仕事にしたって 、最終的にはちゃんと全てを売りさばいている。
ちなみに、全く売れていなかった医療機器を、どうやって研修期間中に全て売り捌いたのかは、まるで分からない。今までクリスは、その 医療機器のせいで苦労していたのに、いつの間にやら売れている。
また、彼は研修で勝ち残って正社員に採用されるのだが、どのような才覚を発揮したから他の19人より高く評価されたのかは、全く 分からない。

クリスがタクシー料金を支払わずに逃げたり、アパートとモーテルの家賃を踏み倒したりするのは、そりゃ犯罪ではあるが、罪悪感を 抱いている様子が見られるので、そこは許容できる。
それよりも問題は、妻と息子に対する仕打ちだ。
性能の悪い医療機器を大量に購入して儲けようという目論みが失敗したのは自分のせいなのに、そのせいで妻に苦労させているのに、その 妻を罵る。息子を連れて家を出たことを、こっぴどく批判する。経済力が無くて息子にホームレス生活をさせても平然としている。
バスに乗り過ごしたくないので、息子が大切にしている人形を落としても無視する。後で手作りの人形を渡すとか、そういった類の フォローも無い。

クリスは息子を連れてウェインの元を訪れ、金を返せと詰め寄る。
金が必要だという必死な気持ちは分かる。だが、息子の前で、そんな殺伐とした様子を見せることに対して、クリスは何も考えていない。
後で悔やんだり反省したりすることも無い。
結局、彼は息子のことなんて、マトモに考えていない。
「息子と一緒にいて、息子を大事に思っている自分」のことしか考えていないのだ。

クリスは「息子は渡さない」とリンダに言い放ち、リンダが「私が母親よ」と静かに反論すると「経済力が無いだろ」と告げる。
自分も経済力は無いのだが、そんなことは棚に上げて、とにかく「息子は自分と暮らすべき」という主張の一点張り。
それは完全に彼のエゴだ。「自分の父親のようになりたくない」というのは、言い訳にならない。
「息子は父親と暮らすべき」というのが彼の考え方だが、「では母親と一緒に暮らさなくてもいいのか」という疑問に対して、彼はマトモ な説得力のある意見を持っていない。

「息子にとって本当の幸せとは何だろうか」ということに関して、クリスは全く揺らぎが無い。
「父親と一緒にいれば幸せだ」と、そういう考えに凝り固まっている。
「こんな貧しい生活は、ホームレスとしての暮らしは、息子の幸せを考えた時に、本当に正しいのだろうか」という葛藤は、まるで 無い。
「母親と一緒にいた方が幸せかも」という揺らぎもゼロ。
息子が「僕のせいでママは出て行ったの?」と尋ねた時には、「ママは勝手に出て行った」と、リンダを悪者扱いするぐらい徹底して いる。
「ママが出て行ったのは自分のせいだ」という考えは、まるで無い。

この映画は、人生の真理、現実の厳しさを教えてくれる。
幸せになるというのは、そんなに甘いものではない。
醜悪にならねば、幸せなど掴めない。
「幸せになるためには周囲の迷惑など考えるな。他人を傷付けても自分が幸せになれるなら構わない」というのが、この映画の メッセージだ。
クリスのせいで16時間の過酷な労働を強いられていたリンダは、息子との生活も手放し、最後まで幸せになれないが、でもクリスとしては 、自分が幸せになったので、どうでもいいことなのだ。

クリスが研修で勝ち残って正社員に採用されるところが本作品のラストだが(その後の大成功はモノローグで簡単に語られるのみ)、その ハッピーエンドだって、ライバル19人を蹴落として掴んだものだしね。
で、「じゃあクリスが追及した幸せって何なのか」ということだが、「株のブローカーになってマネーゲームをする」というのが答えだ。
えっ、違うの?

(観賞日:2009年3月16日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も過大評価の映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会