『ザ・レジェンド』:2014、中国&アメリカ&カナダ&フランス

12世紀の中東。十字軍の騎士であるジェイコブやガレインたちは、ムーア人の城を攻めていた。城内に女子供がいるのを見たガレインは、巻き添えにするのを避けるために撤退することを主張した。しかしジェイコブは「今さら引けない。決して傷付けない。敵の裏をかく」と反対する。「偽善的な聖職者のために殺すのか。こんな戦いはやめて東へ行こう」とガレインは持ち掛けるが、ジェイコブは「聖戦を疑うとは、貴方も変わった。東へ行くがいい」と告げた。ガレインが「お前のことを父親から頼まれた」と言うと、彼は「父は死んだ。もう縛られず、好きに生きるがいい」と話す。ジェイコブは部隊を突撃させ、ムーア人の国王を抹殺した。
3年後の極東。病を患った中国皇帝は死期を悟り、次男のジャオを呼んで後継者に指名した。シャオは兄のシンがいることから困惑するが、皇帝は「シンは優れた戦士だが、必要なのは平和な世の中だ」と述べた。シンが宮殿へ到着したことを知らされた皇帝は、側近の僧侶に玉璽を用意させる。彼は娘のリアンに玉璽を託し、弟のジャオを連れて興元府の将軍たちの元へ逃げるよう指示した。リアンとジャオは、シンに気付かれないよう大広間を出た。
宮殿へ入ったシンは、弟に跡目を継がせる噂について皇帝を問い詰めた。皇帝が国のための判断だと告げると、シンは激しい怒りを示した。皇帝を守ろうとする隊長に気付いた彼は、「指示に従わなければ妻子を殺す」と脅した。シンは部隊を大広間から退出させ、玉璽を渡すよう皇帝に要求した。皇帝が拒否するとシンは勝手に玉璽を探すが、もちろん発見できない。そこで彼は皇帝を抹殺してから部隊を呼び、「ジャオが皇帝を殺して玉璽を奪い去った。取り戻せ」と命じた。
リアンとジャオは興元府へ向かうため、ある村で案内役を見つけようと考えた。村の酒場では、アヘン中毒のジェイコブが朦朧としていた。店主から酒代を求められた彼は、金が無いので剣を差し出した。リアンは酒場を訪れて案内役を頼むが、誰も名乗りを挙げなかった。捜索部隊は外にいたジャオを捕まえ、酒場へ乗り込んだ。隊長は店主の持っていた剣を使い、リアンとジャオを始末しようとする。そこへジェイコブが歩み寄り、「それは俺の剣だ」と告げた。隊長に殴り倒されたジェイコブは反撃し、部隊を全滅させた。
剣を取り戻したジェイコブが店を出ると、リアンは「報酬を払うので興元府まで同行してほしい」と依頼した。しかしジェイコブは断り、馬で村を出た。川辺で休息していた彼は、別の捜索部隊が通過するのを目撃した。ジェイコブはリアンとジャオに部隊が迫っていることを教え、一緒に岩場へ隠れた。部隊が去った後、ジェイコブは報酬を受け取って興元府まで同行することにした。彼はリアンから極東へ来た理由を問われるが、何も答えようとしなかった。
ある村に近付いたジェイコブは、リアンとジャオに身を隠すよう指示した。捜索部隊が村人たちを殺害し、火を放つ現場を見たからだ。部隊が去った後、ジェイコブたちはシャオリーという少女が1人の兵士に追われるのを目にした。ジェイコブは無視して去ろうとするが、ジャオは兵士に向かって矢を放つ。しかし矢は命中せず、シャオリーは兵士によって連れ去られそうになる。ジェイコブは矢を放って兵士を殺害し、シャオリーを助けた。リアンたちがシャオリーを連れて行くと決めたので、ジェイコブは仕方なく承知した。
シンはガオ将軍を呼び、弟に従う将軍たちの数を尋ねた。ガオが「彼が玉璽を持っているなら明白かと」と答えると、シンは「弟は玉璽を盗んだのだ」と憤りを示す。彼は短剣を突き付けるが、ガオは全く動じず「それならば法に則って裁かれるべきかと」と述べた。シンは怒りを鎮め、ガオにジャオを捕まえるよう命じた。ジャオの一行は野営し、リアンはジェイコブの持っていたケシを奪って焼却処分した。リアンから「故郷を離れて逃げて来たの?」と問われたジェイコブは、「地獄を信じるか」と口にした。リアンが「信じるわ。罪によって罰は様々。貴方の罪は?」と言うと、彼は「数え切れない」と告げた。
翌朝、ジャオはジェイコブに、弓矢を教えてほしいと頼む。理由を問われたジャオが「父の仇を取りたい」と答えるとジェイコブは指導を引き受け、自分の師であるガレインとの稽古を思い出した。ジェイコブは敵兵との戦いを出来る限り避けるため、興元府への近道を使わず砂漠を通ることにした。「山にはシンを憎む盗賊がいると聞いた」と彼が話すと、リアンは「ホワイト・ゴーストのことね。味方かどうかは分からない」と述べた。
ジェイコブは砂漠を移動する途中、キャラバンを発見した。彼は隊列を率いる女主人のアニカに金を渡し、同行させてもらう。砂漠の町の入り口ではシンの兵隊が待ち受けていたが、ジェイコブたちはキャラバンに紛れて中に入ることが出来た。アニカは宿に到着すると、部屋を用意するので泊まっていくようジェイコブたちを誘った。彼女は昼食も御馳走し、ジェイコブには酒を飲ませた。アニカはジェイコブだけを食堂に残し、他の3人は部屋へ案内した。
アニカは召使いの女たちにジェイコブを接待させ、酒を飲ませる。酒に混入されていた薬によって、ジェイコブは眠りに落ちた。彼が目を覚ますと両手を縛られ、部屋に監禁されていた。ジェイコブは見張りの男を倒し、「連中を売って金を山分けしよう」と誘うアニカを殴り倒した。彼はリアンたちに、「川で舟を探せ。山で俺を待て」と指示した。ジャオが「盗賊がいる」と言うと、ジェイコブは「承知の上だ。俺が来なかったら、自分たちで興元府へ向かえ」と告げた。
ジェイコブはリアンたちを村から脱出させ、アニカの手引きで現れた兵隊と戦う。リアンたちは舟で川へ出るが、すぐに兵隊が追って来た。ジェイコブは戦いで傷を負うが、村を出て舟を漕ぎ始める。リアンたちは着眼し、森を逃走した。すると盗賊が現れて追っ手を全滅させ、リアンたちを取り囲んだ。ジェイコブは岸に辿り着くが、意識を失って倒れた。彼が目を覚ますと、盗賊の頭であるガレインが不快そうな表情で見下ろしていた…。

監督はニコラス・パウエル、脚本はジェームズ・ドーマー、製作はアラン・チャン&ジェレミー・ボルト&クリストファー・ミルバーン&カリン・マーティン&ゲイリー・ハミルトン&イン・イェー&ジョージ・ミゼン&レナード・グロウィンスキー&トーヴ・クリステンセン&クン・チャン、製作総指揮はマーク・カントン&マイク・ガブラウィー&マーク・スローン&ジャン=フランソワ・ドレイ&エリーゼ・ブーレ&マーク・シャレット&リー・チェン&アンドリュー・マン、製作協力はフレデリク・グアリーノ&アーサー・タルノウスキー、撮影はジョエル・ランサム、美術はヤン・ハオユー&ナイジェル・チャーチャー、編集はニコラス・トレンバジウィック、衣装はチュー・ヨンチョン&チュー・ヨンフェン、視覚効果監修はエティエンヌ・ダイグル、音楽はギヨーム・ルーセル、音楽監修はアリソン・バッターズ。
出演はヘイデン・クリステンセン、ニコラス・ケイジ、リウ・イーフェイ、アンディー・オン、チーケ・チュンイー、ビル・スー・ジアハン、ココ・ワン、アニョハ・ディアス・ボルト、シュー・ウェイ、シー・リアン、チュー・ウェイグァン、バイロン・ローソン、サイモン・チン、フェルナンド・チェン、チャオ・リクシン、ダクシン・ツァン、アラー・サフィー、カヒーナ・カリーナ、ジャワド・エル・バーニ、アレクサンドレ・ベイリー、ポール・フィリップ・クラーク、マイケル・チャン・ガオ、ブライアン・ホー、ハロルド・ワン、ツェン・ツァン他。


中国のYunnan Film Groupが、ハリウッドの俳優やスタッフを招聘して製作した映画。
脚本はTVドラマ『ストライクバック』シリーズのジェームズ・ドーマー。
スタント・コーディネーターのニコラス・パウエルが、初監督を務めている。
ジェイコブをヘイデン・クリステンセン、ガレインをニコラス・ケイジ、リアンをリウ・イーフェイ、シンをアンディー・オン、ガレインの妻のメイをチーケ・チュンイー、ジャオをビル・スー・ジアハン、シャオリーをココ・ワン、アニカをアニョハ・ディアス・ボルトが演じている。
ちなみにアニョハ・ディアス・ボルトは、プロデューサーの1人であるジェレミー・ボルトの妻だ。

浪費癖の酷いニコラス・ケイジは金のために仕事をしている状態なので、こういう映画に出演するのは大いに理解できる。
一方でヘイデン・クリステンセンの方は、完全にトップスターへの階段を踏み外したという印象だ。
彼は『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』 でアナキン・スカイウォーカー役に抜擢され、輝かしい未来が約束されていたはずだ。しかし、その後も『ジャンパー』や『リセット』など主演作は続いているが、今一つパッとしない。
ただし考えてみると、『スター・ウォーズ』旧三部作で主演を務めたマーク・ハミルだって、それ以降は低迷したんだよね。

聖十字軍の騎士が離脱しようと決めたからって、その行き先が遥か遠い中国ってのは、なかなか無理のある設定だ。
実はローマ帝国の時代、カルラエの戦いで自害したとされているプブリウスが部隊を率いて東方へ逃れ、前漢の捕虜になったという伝説がある。
それを考えると、「突拍子も無い話」とは言い切れない。
だが、最初に「東へ行こう」とジェイコブを誘ったガレインが理由を問われて「ここよりはマシだ」と口にした時に「こりゃテキトーな設定だな」と感じるのだ。

西洋人が中国を訪れるのだから、普通に考えれば「言葉が通じない場所」ってことになるはずだ。
しかし劇中に登場する中国人は普通に英語を話しているので、言葉が通じずにコミニュケーションで苦労するといったことは無い。
王族の人間だけでなく、田舎村の人々でさえベラベラと英語を喋ることが出来るのだ。
でも、ハリウッド映画なら「どんな国でも人々は英語を喋る」ってのが当たり前だし、いちいちツッコミを入れる気にもならない。

西洋人が中国へ来たのなら、「東洋の文化や哲学に驚いたり感化されたりする」という要素がありそうなモノだが、そんなのは全く無い。それどころか、この映画において、主役2人が白人である意味は皆無だと断言してもいい。
それは日本人や韓国人なら意味があるということでもない。ようするに、中国人であっても成立するような内容ってことだ。
「アメリカ市場を狙っているので、どうしてもハリウッド俳優は起用したい」「だけど中国を舞台にした物語にしたい」という2つの条件をクリアするために、「白人が中国へ来た」という設定を使っているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。

冒頭で描かれる戦いでは、ムーア人の王がどういう人物なのかが分からない。
妻に子供を連れて逃げるよう指示する様子を描いているのは、「家族を大切にする人間味ある男」ってことをアピールしたいのかもしれないが、そんなに影響力は無い。
なので、ガレインは退却を主張しているが、それが「間違った戦い」であるかどうかは判然としない。ジェイコブは女子供を傷付けないと言っており、実際に彼が手を出す様子は描かれていないし。
「ガレインは戦いそのものに嫌気が差した」ってことなのかもしれないが、だとすると彼が山賊となって戦っているのは筋が通らない。

やはり冒頭の戦いは、いかに十字軍が身勝手であり、残忍で卑劣な行動を取っているかを分かりやすくアピールしておくべきだ。そのためには、対立関係にあるジェイコブとガレインがどちらも悪玉ではないというのはバランスが上手くない。
ガレインが十字軍に疑問を抱いて離脱を考えるのであれば、それに対峙する人物は十字軍の悪辣さを象徴するような言動を取らせた方がいい。
ただしジェイコブは主人公なので、そういうわけにもいかない。
ってことは、そこはジェイコブとガレインの対立だけを描くのではなく、「十字軍を率いて残忍な行動を指示するリーダー」的な存在を配置した方が良かったんじゃないかと。

シンは皇帝に詰め寄る時、隊長だけに「従わなければ妻子を殺す」と告げているが、近くには部隊も控えている。だから彼らは、そこにジャオがいないことも知っている。
なのでシンが「ジャオが皇帝を殺して玉璽を奪った。取り戻せ」と言った時、その全員が嘘だと知っていることになる。
「それだと絶対に嘘が露見するだろ。シンはアホすぎる」と思っていたら、なぜか「嘘だと知っているのは隊長だけ」ということになっているのだ。
それは無理があるでしょ。

格闘アクションのシーンではカットを細かく割り、アングルを変えまくっている。そのせいで動きがゴチャゴチャしてしまい、何がどう動いているのかサッパリ分からない。
これはアクション映画で陥りがちな失敗だ。
役者がアクション俳優でない場合、カット割りの細かさで工夫するのは良く使われる演出方法だ。そしてヘイデン・クリステンセンやニコラス・ケイジは、アクション俳優というわけではない。
ただ、本作品の細かいカット割りは、アクション能力を誤魔化す狙いで使われている手法じゃないのよね。 単に「細かくカットを割った方がイケてんじゃね?」という、ポール・グリーングラスの悪影響が出ているとしか思えない。

ジェイコブが中国でアヘン中毒になっているのは、「どういうことだよ」と言いたくなる。
冒頭シーンで東へ行こうと持ち掛けていたのはガレインなのだから、そのポジションは彼が担うべきじゃないのかと。
そんな風に思っていたら、川辺に来たジェイコブが死体となっている女子供を回想するカットが挿入される。つまり、彼は戦いで女子供が犠牲になるのを見て十字軍を離脱したようだが、そんなのは冒頭のシーンで描かれていなかったよね。
聖戦で心の傷を負った設定にするのなら、冒頭シーンで描いておくべきじゃないのか。

ジェイコブは村を出た後で捜索部隊をを目撃すると、なぜか簡単にリアンとジャオの居場所を見つけ出して知らせる。
そんなに早く2人の元へ到着するってことは、別行動を取ったのに都合良く近場にいたってことなのね。
その辺りの不自然さを考えると、リアンから案内役を頼まれた時点で「アヘンを手に入れる金が欲しいから引き受ける」という展開にでもしておけば良かったんじゃないのか。
どうせ村を出た直後に2人を助けて案内役を引き受けるんだし、断る手順の意味が乏しいわ。

アニカはジェイコブを薬で眠らせ、リアンたちをシンの兵隊に売って儲けようと目論む。ジェイコブが目を覚ますと、金を山分けしようと誘う。だけどアニカはジェイコブから、「リアンは主人」と聞いている。
だったら、主人を売り飛ばす話に乗るわけが無いと思わないのか。「目を覚ましたので、咄嗟に取引を持ち掛けた」ってことだとしてもアホすぎる。
っていうか、そんなに簡単に起きる程度の薬なのかよ。普通に寝て起きたのと、大して変わらんぞ。
あと、リアンたちを売り飛ばそうとしているならジェイコブは邪魔なだけなんだから、薬で眠らせて始末すればいいだろ。生かしておく意味が全く無いだろ。

ジェイコブがガレインと再会した後、女子供を殺したことを問い詰められて「俺は殺していない。子供は母親の手で殺され、女たちは自殺した」と主張するシーンがある。
そうであったとしても、自分で「俺は殺してない」と言い逃れをするようなことはカッコ悪い。
それと、そのことでガレインがジェイコブに強烈な嫌悪感を抱き、ジェイコブは罪の意識に苦悩しているという設定を持ち込むのなら、なぜ該当する映像を冒頭で描いておかないのか。
後になって回想としてチラッと見せるだけにしてあるから、話が無駄にボンヤリしてしまっている。そんなの、何の得も無いでしょ。

ただし、「ムーア人の子供たちが母に殺され、女は自殺する」という様子を冒頭で描いておいたとしても、それで全ての問題が解決するというわけではない。
ジェイコブがガレインの要求した退却を拒絶し、城に攻め込んで敵兵を次々に殺害した時点で、大して変わらないんじゃないかと。
「聖戦という名目の下、女子供じゃなければ大勢を惨殺しても許されるのか」という問題を提起したくなる。
少なくともガレインは、女子供を巻き添えにすることだけじゃなくて、「聖職者のための戦い」自体に疑問を唱えたわけだから。

終盤、ジェイコブからシンの軍勢と戦うための協力を要請されたガレインは、過去の問題があるので拒否する。しかし、少し説得されると簡単に翻意し、戦うことを決める。
ガレインの手下たちは金目当てで盗賊になっているはずだが、なぜか最後まで命を張って戦い抜く。それはジャオを守るための戦いなのに、何の義理も得も無い盗賊が逃げずに戦う。
それぐらいガレインへの忠誠心が強いってことなのか。
なかなか無理のある理由だが、そうとでも考えないと難しい。

シンは大軍を率いてジェイコブたちを攻め込み、圧倒して追い込む。
ところが、簡単にジェイコブを殺すなりジャオを捕まえるなりという行動を取れたはずなのに、なぜかシンはジェイコブとのタイマンを始める。
そのシンがジェイコブに殺されるのを、兵士たちは黙って見ている。
その前に兵士がジェイコブに矢を放った時、ガオが「また矢を抜いたら命は無い」とは言っているけど、だからってテメエの親分が殺されるのを見ているだけって、どういうことだよ。

っていうか、ガオが存在意義を見せるのって、「また矢を抜いたら命は無い」と言うシーンだけなんだよね。登場した時には「仁義のある兵士」というキャラクター造形を感じさせたので、もっと出番があって大きな役目を果たすのかと思ったら、ホントに申し訳程度の扱い。
冒頭でシンから恫喝された兵士にしても、「シンの卑劣な行為を暴露する」という展開があるのかと思ったら、まるで出て来ない。
あと、ジャオはジェイコブから弓矢を教わったのに、一度も実戦で使うことは無いままだ。
そのように、伏線になりそうな要素は幾つかあるのに、ことごとく無造作に放り出されている。

(観賞日:2017年12月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会