『死霊の盆踊り』:1965、アメリカ

ホラー小説家のボブは恋人のシャーリーを車に乗せ、夜の墓場へ向かっていた。シャーリーは「戻りましょう」と嫌がるが、ボブは「いいアイデアが浮かぶんだ。夜の墓場こそホラー小説の構想には最適なんだ」と口にする。「なぜホラーばかりなの?」と尋ねるシャーリーに、彼は「僕の小説は売れない。でもホラーだけは好評なんだ」と告げた。「怖いわ、引き返して」とシャーリーが言うので、ボブは広い場所でUターンすることにした。しかしボブが運転を誤り、2人は車外に投げ出されて意識を失った。
夜の帝王が墓場に現れ、闇の女王を呼び寄せた。帝王は「もしも今宵の宴に満足しなければ、彼女たちを永遠に地獄へ突き落す」と告げる。「最初は誰だ?」という帝王の問い掛けに、女王は両手を打ち鳴らした。すると炎を愛した女の死霊が現れ、女王は「恋人を炎に殺され、自らも炎に飛び込んだ女」と説明した。炎が焚かれる近くで、女は踊りを披露した。一方、ボブとシャーリーは意識を取り戻した。
墓場では孤独にさすらう女が登場し、踊り始めた。その様子を、ボブとシャーリーも眺めた。2人は場所を移動することにした。3番目に登場したのは、黄金を崇拝した女だ。帝王は手下2人に命じて、彼女に黄金を与えた。手下たちは女をドラム缶に沈め、その全身を金粉で覆った。ボブとシャーリーはミイラ男と狼男に捕まり、帝王と女王の元へ連行された。帝王は女王に、「侵入者たちに試練を」と命じる。女王は「縛ってて、良く見させます」と言い、ボブとシャーリーを柱に縛り付けた。
4番目に登場したのは猫を愛する女で、猫に成り切って踊る。次は奴隷の女で、帝王の手下が鞭で背中を叩いてから踊り始めた。ボブは怖がるシャーリーに、「騒いではダメだ、とにかく時間を稼ぐんだ」と告げる。その会話を耳にしていたミイラ男と狼男は、女王に報告する。女王がシャーリーの腹を短刀で突き刺そうとすると、帝王は「やめろ。まだ我々の仲間にするのは早い」と制止した。
次に登場したのは、闘牛と闘牛士を愛し、自らの死のために踊る女だ。その次は、恋人の死を嘆いて火山の炎に身を投じた女が登場した。帝王はミイラ男と狼男を呼び寄せ、「平凡な祭りは退屈だ。何か変わったことをしろ」と命じる。女王は月が沈みそうになっているのに気付き、「残り時間はわずかです。夜明けが来れば私たちは消滅する」と焦った態度を示す。しかし帝王は余裕の表情を浮かべ、「残りの死霊は次の満月まで待たせておけ」と述べた。
ミイラ男と狼男が「まだ時間あります。あと1人か2人は踊らせては?」と提案すると、帝王は「分かった。残りは帰せ」と命じた。次に登場したのは初夜に夫を殺した女で、骸骨と一緒に踊った。踊りが終わった後、帝王はシャーリーに「狼男は君を欲しがっているようだ。私はあの2人に褒美を約束した。その褒美とは、君かもしれない」と告げた。女王が「彼女は私に下さる約束のはず」と抗議すると、帝王はシャーリーに「女王は君を痛め付けたがっている。しかし君のような美女には気の毒だ。それよりも、一思いに痛みも無く始末してやりたいのだ」と語った。
シャーリーが「嫌よ」と激しい拒否姿勢を示すと、帝王は「嫌なのか。それならば、思うまま死ねばいい」と言い放った。ボブは両手を縛っていた縄を外し、シャーリーに「何も無かったようにしてろ。しばらく様子を見よう」と告げた。女王は「もうすぐ月が沈みます」と焦燥感を露わにするが、帝王は「まだ時間はある」と告げる。帝王は「闇を支配するのは私だ。私の言葉が絶対の掟だ」と鋭い口調で告げ、反発する女王を黙らせた。帝王の命令を受けた女王は、次の死霊を呼び出した…。

製作&監督はA・C・スティーヴン、原作はエドワード・D・ウッドJr.、脚本はエドワード・D・ウッドJr.、製作協力はウィリアム・ベイツ&L・S・ジェンセン&ニール・B・ステイン、撮影はロバート・カラミコ、美術はロバート・ラスロップ、衣装はロバート・ダリュー、振付はマーク・デズモンド。
主演はクリスウェル、共演はファウン・シルヴァー、パット・バリンジャー、ウィリアム・ベイツ、ミッキー・ジネス、バーバラ・ノーディン、バニー・グレイサー、ナジェジダ・ドブレフ、コリーン・オブライエン、テキサス・スター、ステファニー・ジョーンズ、デーン・スターンズ、ルイス・オジェナ、ジョン・アンドリュース、エドワード・トンティーニ、ウィリアム・ボナー、ロッド・リンデマン、ジョン・ビーリー、アーリーン・スプーナー他。


アメリカが誇るポンコツ映画監督、エド・ウッドの小説『Orgy of the Dead』を彼自身の脚本で映画化した作品。
ドライブイン・シアター向けのソフト・ポルノ映画として作られている。
夜の帝王を演じているのは、エド・ウッドの最後の監督作品『プラン9・フロム・アウター・スペース』にも出演していたクリスウェル。
闇の女王をファウン・シルヴァー、シャーリーをパット・バリンジャー、ボブをウィリアム・ベイツが演じている。

『死霊の盆踊り』という邦題は、この作品を日本に持ち込んだ江戸木純が付けたものだ。仮の題名としてテキトーに付けていた邦題だが、そのまま正式採用された。
何の間違いか、第3回東京ファンタスティック映画祭の上映候補作に挙がったが、結局は不合格となった。
しかし監督は不合格になったことを配給会社のギャガから知らされないまま自費で来日し、上映イベントに参加したらしい。それどころか、なんと中身がほとんど変わらない続編を企画していたそうだ。
ある意味、すげえ監督だな。

冒頭、鉄の門をマッチョな2人の男が開き、室内に入って棺桶の蓋を開ける。カットが切り替わると、棺桶の中でクリスウェルが上半身を起こしている。
「棺桶からクリスウェルが体を起こす」というシーンさえ無い辺りからして、既に本作品のチープさが見え隠れする。
で、クリスウェルが棺桶の中から観客に向かって語り掛けるという、『プラン9・フロム・アウター・スペース』と全く同じ形で映画は始まる。彼は「私はクリスウェル」と言うが、「誰だよ」と言いたくなる人もいるだろう。
それはさておき、彼は「信じられぬ物語の語り手。これから話す物語は気を失うほどに恐ろしい」とクリスウェルは口にする。
その言葉、解釈次第では一部分だけ正解だ。
その一部分とは「気を失うほどに」という箇所。
あまりに退屈なので、気を失いそうになる人もいるだろう。

ちなみに「クリスウェルが観客に向かって語り掛ける」と説明したが、それは微妙に違っている。
語り掛けている相手は観客のはずだが、クリスウェルはチラチラと別の方向を見ているのだ。
なぜなら、彼は全くセリフを覚えていないのだ。カンペを読みながら台詞を喋っているので、視線がカメラとは別の方向に向いているわけだ。
カンペを読みながら喋るってのは、三木のり平イズムの体現者ということだろう(違うわい)。
ただ、三木のり平と違って、この人は台詞回しや演技も下手だ。

場面は移動し、若い作家と恋人が登場する。最初に引いた絵で車を捉えた時には明るいが、ボブとシャーリーがアップになると周囲が暗くなっている。
2人は夜の墓場へ向かっているのだが、カットが切り替わってロングショットになると、また周囲は明るくなっている。
再び車内の2人の様子が写し出されると、シャーリーが「何も見えないわ。戻りましょう」と口にする。だが、またロングショットになると、やっぱり昼間なのだ。
カットが切り替わるごとに、昼と夜を行ったり来たりする。

ボブが運転を誤って2人とも車外へ投げ出されると、墓場に夜の帝王が現れ、また観客に向かって話し掛ける。
もちろん、ここもカンペを呼んでいるので、視線はカメラから外れている。
周囲にスモークが立ち込めているが、そのままだとカンペが見えないので、クリスウェルが喋り出す時にはスモークが薄くなっている。
大根役者の上に台詞も覚えて来ないのに、降板させずに使うんだから、実はクリスウェルって観客動員が見込めるような人気者だったのかもしれない(ホントは単に代役を用意する時間も金も無かっただけ)。

さて、夜の帝王によって闇の女王が呼び出されると、死霊の宴が始まる。
原題を訳すと「死霊の底抜け騒ぎ」なので、『死霊の盆踊り』ってのは、そんなに大きく外れてはいない。
ただ、劇中で死霊が披露しているのは、盆踊りじゃなくて裸踊りだ。死霊は全て女性で、次々に現れては服を脱ぎ、パンツ一枚になって踊り出す。
ようするに、ストリップを披露するのである。
そんな死霊を演じている女性の大半は、女優志望のストリッパー。
あと、パット・バリンジャーはシャーリー役だけでなく、3番目に登場する「黄金を愛した女」も演じている。でも物語の上で、1人2役を演じていることの意味は全く無い。

さて、その裸踊りだが、なんと10人も続く。それも1人につき数分を使っている。だから当然、その裸踊りのシーンで上映時間の大半が費やされている。
映画開始から8分ほどで宴が始まり、最後の10人目が踊り終わった時点で残り時間は6分ほど。
しかも、集団舞踊でミュージカル調に仕上げるとか、場所を移動するとか、そういうことは無くて、同じ場所で1人ずつ登場し、順番に踊っていくだけ。 一応はそれぞれに異なる曲で異なる踊りを披露するが、まあ退屈だわな。ストリッパーの面接ビデオじゃないんだからさ。

一応はホラーとしての体裁を整えているのだが、今までの解説で分かる通り、ちっとも怖くない。
「ボブとシャーリーが死霊の宴を目撃する」という展開があるのだから、2人が見つかって逃げ出すとか、闇の女王や死霊たちに襲われるとか、そういう方向へ話が転がっていくのかと思っていたら、しばらくは死霊の裸踊りが続く。
なぜかボブとシャーリーは逃げ出すことも無く、ずっと裸踊りを見物している。
で、途中で2人が見つかり、捕まってしまうが、さてどうなるのかと思っていたら、柱に縛り付けられて死霊の裸踊りを見せられる。
シャーリーは踊りを見せられて「怖いわ」と言うが、もちろん、そんな展開に怖さなど微塵も感じない。

夜が明けると死霊たちは消滅するので、ボブとシャーリーを始末するなら急いで遂行する必要がある。
それなのに10人の裸踊りが終わるまで、夜の帝王は2人を殺そうとしない。
途中で帝王が「狼男は君を欲しがっているようだ」と言うと、シャーリーは悲鳴を上げる。
「私はあの2人に褒美を約束した。その褒美とは、君かもしれない」で再び悲鳴を上げるが、その大根芝居はクリスウェルに匹敵する。

闇の女王は「月が沈むと消滅してしまう」と焦っており、何度か帝王に意見を述べる。
却下されて仕方なく裸踊りの見物を続けているが、最後の10人目が踊り終わった後、帝王から「お前のための時間が無い。早く殺すのだ」と言われると(時間が無くなったのはアンタのせいだろうに)、短刀を持ってボブとシャーリーの前で踊り始める(彼女は脱がない)。
その後、ようやくシャーリーに短刀で襲い掛かろうとするが、モタモタしていたせいで夜が明けてしまい、死霊たちは骸骨になる。
っていうか、「夜が明けた」というシーンのはずなのに、なせか太陽は高い場所に見えている。
どう考えても、それは夜明けの太陽の位置ではない。

前述したようにソフト・ポルノ映画であり、女性の裸を見せるってのが第一の(っていうか唯一の)目的なので、裸のシーンが多いのは仕方が無い。
ただ、それにしても見せ方ってモンがあるだろ。ここまで何の工夫も無い見せ方って、どんだけやる気が無いのかと。
しかも、裸の女性が踊りまくっているけど、ちっともエロくないんだよな。
ホラーの体裁なのに怖くないし、ソフト・ポルノなのにエロくないし、ホントに何も無い。
ツッコミを入れて「バッカでえ」と笑いながら見るような面白さも無い。ただひたすら退屈なだけだ。
ってなわけで、真の意味でのクズ映画である。

(観賞日:2013年8月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会