『Gガール 破壊的な彼女』:2006、アメリカ

ブルガリの宝石店を襲った強盗団が車で逃走すると、スーパーパワーを持つGガールが現れた。彼女は車を持ち上げて警察署まで運び、発砲して来る強盗団を軽く退治した。そんな活躍を報じる新聞記事を、会社員のマットは電車の中で読む。彼は半年前に恋人に振られて以来、未だに新しい恋へ踏み出せずにいる。同僚のヴォーンは車内にいる地味で硬そうな女性に気付き、「ああいう女が実は男を求めてる。声を掛けろとマットに促した。その女性、ジェニー・ジョンソンがGガールだとは知らずに。
マットはジェニーをコーヒーに誘うが、冷淡に断られた。それでもマットは話し続けようとするが、後ろにいた男がジェニーのバッグを奪って電車から逃走した。マットは電車から飛び出し、犯人を追い掛けた。犯人がバッグを置いて走り去ったので、マットは「尻尾を巻いて逃げやがれ。命拾いしたな。帰って来るな」と偉そうなことを言う。しかし犯人が鉄パイプを握って追い掛けて来たので、慌てたマットはバッグを抱えて逃げ出した。
マットはゴミ箱に隠れるが、犯人にはバレバレだった。鉄パイプでゴミ箱を激しく叩かれたマットは、落ちていたドライヤーを武器にして抵抗しようと考える。しかし思い切ってゴミ箱を開けると犯人の姿は無く、ジェニーが立っていた。彼女が犯人を退治していたのだ。何も知らないマットはジェニーを食事に誘い、OKをもらった。ただし電話番号を教えてもらおうとすると「プライバシーは守りたいの」と断られ、逆に電話番号を尋ねられた。
出社したマットは、同僚のハンナが交際している相手を気にする。恋人が下着モデルだと知ると、マットは「僕の方が筋肉があると思うけど」と対抗心を示す。ハンナの尻を凝視していたマットは、上司のカークに気付かれて叱責された。マットはジェニーから電話でデートに誘われ、インド料理店へ赴く。ジェニーは美術品の展示企画を担当していることを話し、そこからセックスの話に持ち込む。「上手いかどうかは貴方が決めて。でも今日は初デートだからダメ」と、彼女は下ネタを放り込む。
マットはジェニーに仕事を問われ、設計会社のプロジェクト・マネージャーをやっていることを話す。ブロードウェイで大火災が発生していることを特殊能力でキャッチしたジェニーは、「トイレに行って来る」と告げて席を立った。マットがヴォーンに電話を掛け、ジェニーが予想外にお喋りだったことへの困惑を口にした。ヴォーンは火災現場を見物していたが、そこへGガールが来たことをマットに教える。Gガールは火災を鎮火させて飛び去り、市民は喝采を送った。ジェニーは何事も無かったかのようにレストランへ舞い戻り、マットとのディナーを続けた。
翌日、マットからジェニーとのディナーについて聞かされたハンナは、「その女、絶対にイカれてる」と感想を述べた。恋人のスティーヴが来ると、ハンナはマットの目の前で彼と熱烈なキスをした。ハンナはマットに「貴方も自分の良さを分かってくれる人を見つけないと」と告げる。マットはヴォーンから、「彼女に電話すべきだ。必ずモノに出来る」と言われる。「何となく神経症っぽいし、よそよそしい」とためらうマットに、ヴォーンは「最高じゃないか。神経症な女はセックスが激しい」と告げた。
マットがジェニーをデートに誘うと、彼女はギャラリーに立ち寄ることを求めた。「私は毎日、人を救わなきゃならない。でも私を救ってくれるのは貴方だけ。私のヒーローよ」とジェニーは言い、2人はキスを交わした。しかしジェニーは不満そうに、「舌の使い方が全くダメ。もっと上手く使わなきゃ」と告げる。ジェニーは熱いキスをして、マットの部屋へ行く。2人の様子を、カラスのロボットを使ってベッドラム教授が覗いていた。
興奮したジェニーは力が上手くコントロールできず、マットの服やズボンを脱がそうとして破ってしまう。さらに彼女のセックスがベッドを激しく揺らすので、マットは戸惑った。翌朝、マットはヴォーンと会い、「ジェニーは予想と違って、ものすごく激しかった。刺激が強すぎる。ベッドを壊したんだ」と話す。「でも良かったんだろ」とヴォーンが訊くと、「ああ、もちろん」とマットは答えた。「一度寝たら、次の女に行かなくちゃ」とヴォーンが言うと、彼は「もしも最高のジェットコースターに乗ったとしたら、また列に戻って並ぶだろ?」と口にした。そこへハンナが来て、ネットでダウンロードしたプレゼン用の中国語テープをマットにプレゼントした。
マットがジェニーの元へ行こうとすると、ベッドラムの手下であるレオとレニーが立ち塞がった。彼らがマットを車に押し込むと、そこにベッドラムがいた。彼はマットに、新しいガールフレンドの詳しい情報を教えるよう求めた。マットが拒否すると、ベッドラムは自由の女神像に逆さ吊りにした。ベッドラムからのメールでマットのピンチを知ったジェニーは、すぐに救出へ向かった。だが、決して自分の顔は見せないようにした。その間にベッドラムはジェニーの部屋へ忍び込み、毛髪を採取した。
ジェニーはマットと歩いている途中、道路に飛び出した少女が車にひかれそうになるのを目撃した。ジェニーは瞬時に移動して少女を救うが、自分が車にはねられて吹き飛んだ。それを見ていたマットは驚くが、何のダメージも受けていないジェニーは「平気よ」と軽く言う。ジェニーはマットを部屋に連れて行き、まだ心配している彼に「私たちの関係は特別な物だから、言うべきだわ。貴方を信じてる」と告げ自分がGガールであることを打ち明けた。興奮するマットに、ジェニーは誰にも言わないよう釘を刺した。
ジェニーはマットに、ベッドラムが自分を目の仇にしていることを話す。高校時代にジェニーとベッドラムは同級生で、2人とも仲間外れということで仲良くなった。ベッドラムとの交際を続けたジェニーは、そろそろ処女を失ってもいい頃だと考えるようになった。しかし車でセックスに及ぼうとした時、2人は隕石が降って来るのを目撃した。ジェニーはが落下した隕石に興味を抱いて手を触れると、いきなり爆発が起きた。その影響で彼女の体格は変貌し、スーパーパワーを身に付けた。
それがきっかけで人生が楽しくなったジェニーは、ベッドラムと疎遠になった。卒業後、その関係はさらに険悪なものになり、ジェニーは正義のヒロインに、ベッドラムは悪の道へ進んだのだという。マットはジェニーに頼んでGガールに変身してもらい、彼女に捕まって空を飛ばせてもらう。するとジェニーは空中でズボンのジッパーを下げ、セックスを始めた。一方、ベッドラムは隕石を使い、Gガールのパワーを無力化する研究を行っていた。
マットが建設現場でハンナと一緒にいると、いきなりジェニーが現れた。ジェニーはマットにキスをして、ハンナへの激しい嫉妬心を示す。マットは「ハンナの恋人のスティーヴも誘ってダブルデートに行かないか」と提案するが、ジェニーの険しい表情は変わらなかった。マットたちはディナーに行くが、スティーヴは撮影で来られないとう電話が入った。マットとハンナか楽しそうに話すと、ジェニーは露骨に苛立ちを示した。
テレビで「軌道を外れた実験用ミサイルがニューヨークに接近中。迎撃は全て失敗」というニュースが報じられるが、ジェニーは全く出動する気配を見せない。マットが「誰かが何とかしないと」と言っても、「ええ、例えば空軍とか」と軽く聞き流し、ハンナにマットとの関係を質問する。略奪が起きているという続報がテレビで報じられ、店外の道路では交通事故が起きる。店の客たちも騒然とする中で、ジェニーはディナーを続けようとする。
マットが必死でお願いすると、ジェニーは不満そうな表情で出て行った。Gガールに変身した彼女はミサイルを方向転換させ、空中で爆破処理した。レストランへ戻ったジェニーは、危機回避に喜ぶマットとハンナが抱き合っている様子を目撃した。帰りの車中で、ジェニーは「彼女と寝たいんでしょ」とネチネチした口調でマットを責める。マットが否定しても、ジェニーは納得しようとしない。激怒した彼女は窓を叩き割るが、直後に泣き出して「ごめんなさい、貴方をものすごく愛してるんだもの」と口にした。
マットはヴォーンと一緒にスポーツジムへ行き、「ジェニーは欲深く、嫉妬深い」と愚痴をこぼす。さらに彼は「気付いたけど、もう彼女を愛してない。他の人を愛してる」と言い、「でも、どうやってジェニーと別れたらいいんだ」と嘆く。するとヴォーンは、「少し冷却期間を置いて、僕らの関係を見直そう」と持ち掛け、1年間は連絡を取らないようにしろと助言した。ジェニーが「アバズレのハンナと寝てるんでしょ」と激昂するので、マットは「別れたい理由はハンナじゃなくて君だ。欲深くて嫉妬深くて支配的で、もう耐えられない」と声を荒らげた。するとジェニーは「アンタは一生、後悔することになるわ」と言い放ち、その場から飛び去った。
翌日、出勤したマットはハンナにジェニーと別れたことを話し、恋心を打ち明けようとする。だが、窓の外にジェニーが浮かんでいるのを目にした彼は、慌ててハンナを突き飛ばした。すぐにジェニーが飛び去ったので、マット以外の社員は彼女に気付かなかった。ジェニーは駐車場の壁を壊して突入し、マットの車を盗み出した。ジェニーは夜中に天井を突き破ってマットの部屋へ突入し、宙吊りにした彼の車を望遠鏡で覗かせた。
マットは「明日は大事なプレゼンなんだ。もう帰ってくれ」と怒鳴り、ジェニーを激しく罵倒した。するとジェニーは光線を発射し、彼の額に「DICK(チンポコ)」という文字を刻み付けた。翌朝、北京から来た客との大事なプレゼン会議に遅れて到着したマットは、ニット帽で額を隠していた。覚えた中国語でプレゼンを開始したマットだが、ジェニーが猛スピードで部屋に突入して立ち去り、誰にも気付かれずに彼を真っ裸にしてしまった。そのせいでプレゼンに失敗しただけでなく、マットはクビを宣告された。そんな彼にベッドラムが接触し、ジェニーのスーパーパワーを無力化するための協力を持ち掛けた…。

監督はアイヴァン・ライトマン、脚本はドン・ペイン、製作はギャヴィン・ポローン&アーノン・ミルチャン、製作総指揮はビル・カラッロ、撮影はドン・バージェス、編集はシェルドン・カーン&ウェンディー・グリーン・ブリックモント、美術はジェーン・マスキー、衣装はローラ・ジーン・シャノン、視覚効果監修はエリック・ナッシュ&パトリック・フーリハン、音楽はテディー・カステルッチ。
出演はユマ・サーマン、ルーク・ウィルソン、ワンダ・サイクス、アンナ・ファリス、エディー・イザード、レイン・ウィルソン、ステリオ・サヴァンテ、マイク・イオリオ、マーク・コンスエロス、マーガレット・アン・フローレンス、キャサリン・ライトマン、タラ・L・トンプソン、ケヴィン・タウンリー、エヴァ・ヴェロニカ、ローレンス・フィーニー、ルー・ボナッキ、ジェフ・ノリス、グレッグ・ノサップ、ファロン・ブルッキング、リチャード・ケネス・ブレヴァードJr.、ロン・モレノ他。


『6デイズ/7ナイツ』『エボリューション』のアイヴァン・ライトマンが監督を務めた作品。
脚本のドン・ペインは主にTV業界で活動していた人で、本作品が初めての劇場用映画。
ジェニーをユマ・サーマン、マットをルーク・ウィルソン、カーラをワンダ・サイクス、ハンナをアンナ・ファリス、ベッドラムをエディー・イザード、ヴォーンをレイン・ウィルソン、レオをステリオ・サヴァンテ、レニーをマイク・イオリオ、スティーヴをマーク・コンスエロスが演じている。

導入部からして、幾つも引っ掛かる部分がある。
まず、Gガールのアピールが物足りない。冒頭で宝石店強盗を捕まえるシーンを描き、それを報じる新聞記事を読むマットの様子に繋げるというのは、入り方としてはスムーズだし悪くないんだけど、それだとGガールが1つしか事件を解決していない。
だからって幾つかの活躍を丁寧に描けと言っているわけではなくて、例えばGガールの活躍を取り上げた複数の記事を画面に並べることで、「Gガールは今までに多くの事件を解決し、広く知られている」ということを示してもいいんじゃないかと。
宝石店強盗を捕まえるシーンで野次馬がGガールの名を呼んでおり、既に有名人であることは示されているんだけど、ちょっと淡白になっている印象を受ける。

それよりも引っ掛かるのは、マットがジェニーと親しくなる経緯。
まず、「半年前の失恋を引きずっていて、他の女に声を掛けられない」と言っていたマットが、ヴォーンから促されたので仕方なくジェニーに声を掛ける、というところまでは別にいい。しかし、冷たく拒絶されたのに、それでもマットが粘るってのは違和感がある。
そこで執拗にアプローチできるってことは、ちっとも前の失恋を引きずっていないじゃねえか、次の恋に進む気があるんじねえか、と思ってしまうのだ。
そこは本当に「前の失恋を引きずって新しい恋に踏み出すことが出来ずにいる」という設定なら、冷たく拒否されたら、それで退却してしまう方がスムーズじゃないかと。
もし何だったら、「引き下がろうとしたら、ヴォーンが諦めるなと言って来たので、仕方なく再び声を掛ける」ってことでもいいだろう。また、冷たく断られて引き下がろうとしたタイミングで、男がバッグを奪って逃げる事件が発生するという展開にしてもいいだろう。

ジェニーの態度にも引っ掛かる。
彼女は地味で硬い雰囲気を醸し出しており、マットの誘いを冷淡に拒絶する。ところが彼が犯人を追ってバッグを取り返すと、ガラリと態度を変えてデートの誘いをOKする。そこは違和感がある。
バッグを取り戻しに行ったから、マットを「いい奴」と判断して態度を急変させたってことなんだろうけど、それにしてもガラリと変わり過ぎ。
食事に行くと、いきなり下ネタ満開で饒舌に喋り、積極的な態度を示すけど、これも同様。その変化がスムーズじゃない。
「急にキャラが変わる」というところの面白さを見せたいのだとしても、デートの段階だと早いし。
しかも、そういう面白さを見せようとしているようにも感じないし(それを見せようとするのなら、マットのリアクョンが薄い)。

そんなジェニーを食事に誘ったマットだが、会社ではハンナに自分の存在をアピールしたり、スカートの中を覗こうとしたりする。
すげえ軽いんだよな、この男。ヴォーンに「半年前の失恋を引きずっている」と話していたのは、ありゃ何だったのかと。こいつを軽薄で誠実さに欠けるキャラクターにしておくことのメリットなんて、何も無いでしょうに。
「失恋を引きずっている」という設定にしておくと、早い段階からジェニーと恋人関係になる展開には色々と邪魔だから、そこは外しても構わない。っていうか、まるで意味が無いので外した方がスッキリする。
ただ、それでもマットを簡単に複数の女に目移りするようなキャラにすべきではない。例えば、冴えない会社員とか、モテない会社員とか、そういうことにでもしておいた方が色々と便利だと思うんだけどね。
でも実際は、「もしも最高のジェットコースターに乗ったとしたら、また列に戻って並ぶだろ?」とヴォーンに話しているように、ジェニーをナンパしたのは体だけが目当てってことなんだよな。

しかもマットの軽薄さは、それだけに留まらない。ジェニーがGガールだと打ち明けて「誰にも言っちゃダメよ」と告げると、すぐに「ああ、言うのはヴォーンだけだ。あいつがスーパーモデルと寝た話を延々と聞かされ続けてきた。これで勝てる」と平気で言い放つのだ。
つまり、Gガールと寝たことを吹聴し、自慢しようという腹積もりなのだ。
完全にクズ野郎じゃねえか。
そういう軽薄なキャラ設定が、物語においてプラスに作用しているとは到底思えないぞ。

一方、ジェニーの動かし方にも疑問があって、彼女はマットにGガールだと打ち明けて空中セックスをした次のシーンで、ハンナへの強烈な嫉妬心を見せる。そこからは、ジェニーの嫉妬深さを使った展開が続くことになる。
「パワーだけでなく嫉妬心も隕石の影響で増強された」ということだろうし、嫉妬心が強いのは喜劇のネタとして持ち込んでいるんだから、それは構わない。
ただ、ちょっと展開として慌ただしいと感じるのだ。
だから、Gガールと告白するタイミングを早めて、「ジェニーが嫉妬心を示すが、最初はマットも自分への愛が強いのだと感じる」→「嫉妬深さが異常だとマットが感じる」という風に、1つ手順を経た方がいいんじゃないかなあと。

マットがジェニーを部屋に連れ込むとカラスのロボットが飛んで来て、それを使って部屋を監視しているベッドラムの様子が写し出される。
でも、こいつの登場すべきタイミングは、そこじゃないよ。
そのシーンは、まだジェニーとマットの関係に集中しておくべきだ。
そこでベッドラムを登場させることのメリットなんて何も無いし、むしろジェニーとマットの初情事に意識が集中できないというデメリットが大きくて、ものすごく邪魔だ。

ジェニーとベッドラムの高校時代が描写される過去のシーンは、その必要性を感じない。そこでは2人の関係やジェニーがスーパーパワーを手に入れた出来事が描かれているのだが、そんなの無くても大して支障は無い。「どうやってジェニーがスーパーパワーを入手したか」なんて、この映画に必要不可欠なものではない。
しかも、「どういうきっかけでGガールになったのか」という部分は説明しないんだから、そんな中途半端な説明なら無くてもいい。
ジェニーとベッドラムの関係性にしても、「高校時代の因縁が今も続いている」ということを描いているんだが、それがストーリーに厚みをもたらすのではなく、むしろ散漫な印象にしているようにも感じる。
そうじゃなくて、もっとジェニーとマットの関係性に絞り込んで、ヴィランなんて登場させなくてもいいんじゃないかと。
大体さ、スーパーパワーを手に入れたジェニーが冷たくあしらうようになったせいでベッドラムは恨みを抱いたってことだから、ジェニーにも非がある形になっちゃってるし。

マットはジェニーの異常な嫉妬深さを知り、ウンザリしてしまう。
それは別にいいとして、でも「彼女を愛してない。他の人を愛してる。だからジェニーと別れたい」と言い出すのは、あまりにも軽薄だ。彼はジェニーが異常だから別れたいと思ったのではなく、それとは別にハンナを愛するようになっていて、だからジェニーとは切れたいと思っているのだ。
それはキャラの動かし方として引っ掛かるぞ。
まだ「ジェニーの欲深さや嫉妬深さに疲れてしまい、優しいハンナに心が揺れ動く」ということなら分からんでもないが、仮にそうだとしても「揺れ動く」という程度に留めるべきで、「もうジェニーを愛してない」と断言させるべきではない。

しかもマットは「僕は嘘つきじゃない。別れたい理由はハンナじゃなくて君だ」とジェニーに言っているけど、ハンナを好きになったから彼女と別れたいとヴォーンには語っているわけだから、ジェニーに言ったことは嘘なのだ。
「マットをクソ野郎にしているおかげで、ジェニーが過剰な復讐に動き始めても、ある程度は酷い奴に感じない」ということには繋がるかもしれない。
だが、その一方で「その復讐劇にマットが苛立つ様子を見ても笑えない」という問題が生じている。
っていうか、ジェニーの仕打ちがあまりにも酷過ぎて、もはや許容できる「ある程度」を完全に超越してしまっているから、やっぱり酷い奴にしか見えないし。

ひょっとするとマットとジェニーの喧嘩は『うる星やつら』の諸星あたる&ラムの関係みたいなのを狙ったのかもしれない(製作サイドが『うる星やつら』を認知していて意識したとは思えないが)。
だけど、そういうノリの良さは無いんだよな。
不必要にトゲトゲしさが強いし、何よりも嫉妬深さから来るジェニーの行動や表情がまるで可愛いと思えないのがツラいわ。
同じような行動を取らせるにしても、もっとキュートに表現しようと思えば出来たはずなので、そこは演出方針が間違っていたんじゃないかなあ。

あと、根本的に失敗してると思うのは、「そこに愛が無い」ってことだな。
マットとジェニーは、もう互いに相手に対する愛情が完全に無くなっているのよね。
マットはハンナを好きになってジェニーに別れを告げ、ジェニーは恨みを抱いてマットを攻撃するのだ。そういうことでジェニーの攻撃を描いていることが、失敗なんじゃないかと思うのよ。
そうじゃなくて、マットは他の女に惚れたわけじゃないのにジェニーが嫉妬深さから彼と他の女の関係を割くための妨害作戦を行い、それでマットがオタオタしたり呆れたり怒ったりする、という展開にした方が良かったんじゃないかと。

最終的に「実はベッドラムがジェニーに惚れていたことをマットが指摘し、2人をカップルにする。自分はスーパーパワーを手に入れたハンナとカップルになる」という決着が待っているわけだが、メインの男女が他のパートナーと結ばれるエンディングは、全くの予想外だった。
ただし、それが歓迎すべき意外性なのかというと、そうじゃないんだよな。
ベタでいいから、マットとジェニーにヨリを戻させるべきだと思うんだよなあ。
ただし、そのためには大幅に内容を改変する必要があるけど。

(観賞日:2014年6月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会