『戦艦バウンティ号の叛乱』:1935、アメリカ

1787年、英国のポーツマス。バウンティ号の一等航海士であるクリスチャン中尉は海軍の兵隊を引き連れ、酒場へ乗り込んだ。彼は酒場の男たちに対し、2年間の徴兵を強制した。妻と幼い赤ん坊のいるエリソンも、有無を言わさず連行された。ロジャー・バイアム卿が士官候補生としてバウンティ号に乗り込むことを、母親は悲しんでいた。知人であるジョセフ・バンクス卿は相談を受け、「英国の利益になる任務だ。君の息子は適任だよ」と告げる。当人のバイアムも、その任務に誇りと喜びを感じていた。そんな息子の様子を見て、母親も笑顔で送り出すことにした。
エリソンは脱走を図って捕まり、「2年間も身に出るなど耐えられない。投獄された方がマシだ」とクリスチャンに吐露する。「海は確かに厳しいが、乗り越えれば誰よりも立派な男になれる。何かあったら私に相談しろ」とクリスチャンは告げた。彼はエリソンの妻子を港に呼んでおり、「別れを告げて来い」と促した。クリスチャンはバイアムに声を掛け、自分の下で勉強するよう告げた。酒好きで義足の船医バッカス、士官候補生のスチュワートとヘイワード、艦長食事係のスミス、艦長書記のマグスといった面々も、船に乗り込んだ。
ブライ艦長はバウンティ号に乗船すると、船員以外の人間を立ち去らせる。ブライは指令書を確認し、艦長に暴力を振るった罪人たちの鞭打ち刑を行うことを知る。1隻につき24回の鞭打ちなので、全艦隊だと300回以上ということになる。そのことをエリソンが指摘すると、ブライは「秩序を守るためだ。船上での階級は絶対だ」と告げた。小舟で罪人たちが連行されて来ると、ブライは甲板長のモリソンに刑の執行を命じた。罪人の内の数名は既に死亡していたが、それでもブライは構わずに刑を執行するよう要求した。
鞭打ちが終了すると、ブライは出港を指示した。船が港を出ると、ブライは3度目のコンビとなるクリスチャンに「実は私が指名した。女房役は賢くて紳士的な人物が望ましい」と告げた。クリスチャンが航海計画を確かめると、チリのホーン岬からタヒチへ直行することになっていた。「西風が吹かなければアフリカ経由にして、サイモン湾に立ち寄る」と言うブライに、クリスチャンは「この船の食料は少なすぎます。貴方の部下のミスです」と指摘した。
「船員が飢えては航海は出来ません」とクリスチャンが告げると、ブライは「悪党や海賊を働かせるには鞭打ちで充分だ」と述べた。「厳しすぎるのは逆効果だ」とクリスチャンが語っても、ブライは「恐怖で抑え付けることで奴らは従順になる」と意見を変えなかった。風向きは良く、船は順調に進んでいた。ブライはクリスチャンに、「2人ずつ舵を取れ、勝手な計画変更はするな」と指示した。バイアムはヘイワードに尻を蹴られたので、仕返しとしてパンチを浴びせる。それを見たブライは叱責し、帆柱に登って頭を冷やせと命令した。海が荒れているのでクリスチャンは反対するが、ブライは「君が甘すぎるから、こういうことになるんだ」と告げる。
嵐の中でバイアムは失神し、それを見たクリスチャンは彼を救助して医務室に運ばせる。するとブライは「降ろせと許可していない」と激昂し、バイアムを帆柱に戻すようクリスチャンに命じた。嵐は過ぎ去り、船はスペインのテネリフェに差し掛かった。ブライは船員たちを集め、「海軍条例は絶対だ。私には船員を罰する正当な権利がある。諸君の仕事ぶりには落胆した。処罰する」と述べた。彼は水夫のバーキット、マスプラット、そしてエリソンの3人に対し、10日間の配給を減らすと告げた。
マスプラットは不満を抱き、船を殴り付けた。その音を耳にしたブライは、エリソンに対して「誰の仕業だ」と尋ねる。エリソンが返答を拒むと、ブライはモリソンに鞭打ち刑を命じた。マスプラットが「俺がやった」と名乗り出たので、ブライは彼への鞭打ちをモリソンに指示する。さらに犯人を言わなかったことを理由に、エリソンへの鞭打ちも命じた。その後もブライは何かに付けて、鞭打ちの罰を与えた。膝を負傷した水夫が水で洗いたいと訴えると、ブライは縛って海に放り込んだ。水夫は船底に体を叩き付けられ、命を落とした。
南アメリカ沖を過ぎた辺りで風が吹かなくなり、水夫たちがボートでバウンティ号を引っ張ることになった。ブライはフライヤーに対し、ボートの人員交代を命じた。バッカスは衰弱している2名の水夫をクリスチャンの元へ連れて行き、「彼らに労働は無理だ」と告げる。クリスチャンは2人に休息を指示し、交代を急ぐよう命じるブライに対して「まだ食事中だし、働けない者もいます」と説明する。しかしプライは耳を貸さず、衰弱している面々も含めてボートに乗せた。配給のチーズが減っているという報告を受けたブライは、「盗まれた」とクリスチャンたちの前で怒りを示す。「配給を中止しろ」と彼が言うと、水夫のマッコイが「出発前に艦長の家へ運びました」と訴える。するとブライは嘘つきだと罵り、マッコイの手足をロープで柱に縛り付けるようモリソンに命じた。
ブライはクリスチャンやバイアム、バッカス、フライヤーたちと夕食を取り、そこにスミスがチーズを運んで来た。クリスチャンから批判されたブライは激昂し、「だったら水夫と食事を取れ」と声を荒らげた。クリスチャンは部屋を立ち去り、バイアムも同調して後に続いた。わずかな馬肉しか食料を与えられなかったバーキットやマスプラットたちは、それを餌にして鮫を釣り上げた。そこにモリソンが来て、鮫肉を一切れ寄越せばブライたちには内緒にしてやると持ち掛けた。バーキットはモリソンを殴り付けるが、それを目撃したブライの命令で鞭打ちの刑に処された。
バウンティ号がタヒチ沖に差し掛かった頃、ブライはクリスチャンに配給リストへの署名を指示した。クリスチャンが量の違いを理由に署名を断ると、ブライは「積み荷のリストには署名したはずだ。どの艦長も多めに記載する。経費を節減しなければ自分の首を絞めることになる」と言う。クリスチャンは「このままでは船員が飢え死にします」と言い、暴力ばかり振るうことも含めてブライを責めた。するとブライは「艦長の権力を思い知らせてやる」と激怒し、船員を甲板に集合させた。
ブライは「上級者に背く者は死刑または相応の処罰を与える」という規則を作成し、クリスチャンに署名を要求した。クリスチャンは上級者の義務として署名を承諾するが、「帰国したら審問会を要求します」と告げた。船はタヒチ島に到着し、船員は島民たちの歓迎を受けた。首長のヒティヒティが小舟で近付くと、10年ぶりの再会となるブライは丁重に迎えた。船員に対しては横暴なブライも、彼の前では徹底して低姿勢だった。
ブライはパンノキの苗木を1000株を受け取る取引を済ませ、数ヶ月の滞在と食料の補給をヒティヒティに要請した。バイアムが島の子供に物資をプレゼントしている様子を見たヒティヒティは、彼を気に入って「君は親友だ」と告げる。「島に来てくれ。一緒に暮らそう」とヒティヒティが誘う、ブライは「特別扱いは出来ない」と拒む。しかしヒティヒティが「島のリーダーは私だ。特別に許可してほしい」と告げると、ブライも承諾せざるを得なかった。
ブライは船員たちに、「ここは夢の島ではない。しっかり働け。私の許可が無い限り、島には行くな」と命じた。彼は苗木を運ぶ仕事の指揮をフライヤーに、船を修理する仕事の指揮をクリスチャンに命じた。他の船員たちが仕事に励む中、バイアムはタヒチ語辞書の製作に打ち込んだ。島の娘であるテハニは、彼に興味を抱いた様子だった。ヒティヒティの要請で上陸を許可されたクリスチャンは、彼の孫娘であるマイミティに好意を寄せた…。

監督はフランク・ロイド、原作はチャールズ・ノードホフ&ジェームズ・ノーマン・ホール、脚本はタルボット・ジェニングス&ジュールス・ファースマン&ケイリー・ウィルソン、製作はフランク・ロイド、製作協力はアルバート・リューイン、撮影はアーサー・エディソン、編集はマーガレット・ブース、美術はセドリック・ギボンズ、音楽はハーバート・ストサート。
出演はチャールズ・ロートン、クラーク・ゲイブル、フランチョット・トーン、ハーバート・マンディン、エディー・クィラン、ダドリー・ディッグス、ドナルド・クリスプ、ヘンリー・スティーヴンソン、フランシス・リスター、スプリング・バイイントン、モヴィータ、マモ、バイロン・ラッセル、パーシー・ウォラム、デヴィッド・トーレンス、ジョン・ハリントン、ダグラス・ウォルトン、イアン・ウルフ、デウィット・ジェニングス、アイヴァン・シンプソン、ヴァーノン・ダウニング他。


18世紀末にイギリス海軍の武装船で起きた反乱事件を基にした作品。アカデミー賞作品賞を受賞している。
監督は『情炎の美姫』『大帝国行進曲』でアカデミー賞監督賞を受賞し、本作品でもノミネートされたフランク・ロイド。
ブライをチャールズ・ロートン、クリスチャンをクラーク・ゲイブル、バイアムをフランチョット・トーン、スミスをハーバート・マンディン、エリソンをエディー・クィラン、バッカスをダドリー・ディッグス、バーキットをドナルド・クリスプが演じている。

冒頭、「1787年12月、英国の戦艦バウンティ号はポーツマス港からタヒチに向けて出港した。西インド諸島の奴隷に与える食料として、パンの木の苗木を調達することが目的だ。しかし苗木が届くことは無かった。虐げられた船員による反乱が起きたからである。この事件がきっかけとなって、英国の海軍士官と水平の関係が向上した」という説明が入る。
それが無かったとしても、これが何を描いた作品かというのは、事前に分かっている観客も少なくないだろう。
つまり、この映画は「バウンティ号で虐げられた船員が反乱を起こす」ということが最初から分かっているので、それを隠しても意味が無い。それを考えれば、もう出航する時点で「いずれ反乱が起きる」という予兆を匂わせておいた方が得策と言えるだろう。
素晴らしい航海になるように見せておいて、落差を付けるというやり方もあるだろうが、この映画の場合、あまり効果的とは言えないだろう。

しかし、この映画は、その効果的ではないことをやっているように感じる。っていうか、あまり落差を付けるなんてことを深く考えずに演出しているだけなのかもしれないが、ともかく出航する時点では、不穏な空気は薄い。
バイアムが航海に対して夢と希望に満ち溢れているような様子を見せるとか、エリソンが船員に気遣いを示す一面を見せるとか、そういった様子はいいとしても、例えばバッカスのキャラなんかを使ってユーモラスな雰囲気を漂わせるのは、ちょっと緩和が過ぎると感じる。
また、せめてブライが来たら一気に空気を変えるべきだろうに、そこもヌルい。
指令通りに刑を執行するシーンも、ホントなら「ブライは杓子定規で冷徹で非人道的な男」という部分をアピールして不穏なく空気を漂わせるべきだろうに、バイアムが気絶する描写で、何となく緩和が生じてしまう。

「船員が飢えては航海は出来ません」「悪党や海賊を働かせるには鞭打ちで充分だ」「厳しすぎるのは逆効果だ」「恐怖で抑え付けることで奴らは従順になる」といったクリスチャンとの会話シーンで、ブライがいかに酷い艦長であるかが分かりやすく示されている。
ブライの横暴に対して反乱が起きることを観客に予感させるという意味では、そういうアピールが無いわけではない。ただし、前述した鞭打ち刑にしてもそうだが、何となく鋭さに欠けるのだ。
ブライが登場しないシーンで、さらに緊迫感や不安感を打ち消すような描写が幾つも登場する。バッカスは桶で海に水を捨てようとするけど、風向きを考えなかったので戻って来て顔に浴びる。ロジャーはヘイワードをからかうような態度を見せ、真面目に勉強しようとするスチュワートが文句を言っても軽い態度を取る。揺れるランタンを見つめた3人は全員が船に酔ってしまい、甲板へ行ってゲロを吐く。
そういう緩和の部分を削除して、尺を短くした方がいいんじゃないかと思うんだけどね。132分の上映時間は長いと感じるし。

バイアムを嵐の中で帆柱に登らせる辺りから、「ブライの恐怖による支配」という色が一気に濃くなる。でも、今度は「エスカレートするペースが早すぎる」と感じる。
と言うのも、バイアムに帆柱へ登ることを強要するシーンが終わるのが、映画開始から30分ほどの地点。で、マスプラットとエリソンの鞭打ちがあって、合図を聞き逃した水夫と彼を庇ったバイアムの鞭打ちがあって、吊るされた水夫が死亡する出来事が描かれる。これがバイアムの一件から約6分後なのだ。
でも、もはや死人が出たら、そのまま反乱に突入してもいいぐらいじゃないかと思ってしまうんだよね。
それなのに、そこは淡白に処理されている。前述したバイアムの一件や、エリソンたちの鞭打ちより軽い扱いなのだ。
そりゃあ、その水夫は名も無きキャラだけど、起きている出来事は「吊るされて死亡する」という内容なんだぜ。かなり酷い出来事でしょうに。

ぶっちゃけ、何度も繰り返される鞭打ちの刑に関しては、あまり厳しい罰に見えないんだよね。
と言うのも、鞭で打たれるシーンは描写されるけど、それによって体が傷付けられている様子は弱いのよ。
モリソンを殴り付けたバーキットが鞭打ちの罰を与えられるシーンでは、ようやく「鞭で打たれたバーキットが痛みで苦しそうな表情を浮かべて休んでいる」という描写が入るけど、それまでは痛みが続いて苦しむ様子も無く、背中が激しく腫れ上がっているような描写も無く、そんなに肉体的なダメージは無さそうな感じだったし。

それと、バーキットの時は痛みと苦しみを伝えようとする描写があるけど、前述した「水夫が吊るされて死んだ」という描写の後なので、「今さら鞭打ちを見せられても」という印象はあるんだよな。
もちろん、その前に「わずかな食事しか与えられない」という扱いの酷さはあるんだけど、その後で「鮫を釣り上げたらモリソンから取引を持ち掛けられ、激怒して殴り付けたら鞭打ちの刑になる」という流れにすると、「わずかな食料しか与えられない」という待遇の悪さに対する印象が薄まってしまうのだ。
だから、そこはチーズを盗んだのに配給を中止し、自分たちだけ食べようとするというブライと、わずかな食事しか与えられない水夫たちの違いを見せることに集中した方がいいんじゃないかと。

ぶっちゃけ、タヒチ島での様子は全て要らないと感じる。
「タヒチ島に到着した」というところでバウンティ号の船員に喜びや解放感が生まれるし、島民たちが登場することで緩和が生まれる。
島の娘との恋愛劇なんて、まるで必要性が無い。そんなトコでヌルい雰囲気を出すのは、マイナスでしかない。
せっかくブライが恐怖での支配を目論み、船員たちが不満を募らせていく様子を描写してきたのに、そこで溜まっていたメーターを下げてしまうのは勿体無い。

タヒチを去った後の展開も、ダラダラ&モタモタしているという印象を受ける。
ぶっちゃけ、「ブライの横暴に耐えかねて反乱が勃発し、船員たちが勝利した」という内容にしておけば、何よりもスッキリする形なんだよね。
だけど実際には、反乱が起きた後に「クリスチャンが報復を望む水夫たちを制止してブライと仲間たちをボートで追放する」→「クリスチャンと同調した水夫たちはタヒチに戻る」→「英国の船が来たので逃げることにする」→「帰郷を望むバイアムら数名が投降する」→「船長はブライだったのでクリスチャンの居場所を聞き出そうとしてバイアムたちを拘束する」→「船が座礁して脱出する」→「裁判でバイアムやエリソンたちは有罪になる」→「クリスチャンはピトケアン諸島に辿り着く」→「バイアムは恩赦で海軍に復帰する」という手順を踏む。
すんげえ長いわ。

ブライは軍法会議長に嫌味を言われて握手を拒否されるだけで、犯した罪に見合うだけの罰を受けることも無い。バイアムは海軍に復帰するけど、エリソンは絞首刑の判決を受ける。
長くてモタモタするだけじゃなくて、どうにもスッキリしない。
史実としては、タヒチを出た後に反乱が起きているし、ブライは何の罰も受けずに済んでいる。だけど映画としては、タヒチへ向かう途中で反乱が勃発する展開に突入してしまった方がいいし、ブライが明確な形で罰を受ける、もしくは報復される形にした方がいい。
どうせ史実を全てそのまま描いているわけじゃなくて脚色しているんだし、それも有りじゃないかと。
史実と大きく離れる内容にすることが気になるなら、最初に「史実をベースにしているけどフィクションです」という断り書きでも入れればいいんじゃないかと。

(観賞日:2015年3月1日)

 

*ポンコツ映画愛護協会