『その女諜報員 アレックス』:2015、アメリカ&南アフリカ

南アフリカのケープタウン。4人の強盗が銀行を襲撃し、行員と客を人質に取った。リーダーは女性のアレックスで、メンバーは元恋人のケヴィン、その仲間のレイモンドとウェインだ。4人は支店長を脅して金庫を開けさせ、大量のダイヤモンドと1つのUSBメモリを盗む。ウェインが警備員を射殺しようとすると、アレックスが制止して従うよう命じた。反抗的なウェインが銃を向けたため、アレックスも発砲した。アレックスはウェインと揉み合いになり、マスクが外れて素顔が露呈した。
アレックスを始末しようとするウェインをケヴィンが射殺し、3人は車で逃亡した。ウェインの親友であるレイモンドは怒りを示すが、アレックスが怒鳴り付けた。レイモンドは1ヶ月後に分け前を受け取ることを確認し、アレックスたちと別れた。アレックスはケヴィンに、「もう足を洗ったの。私を巻き込まないで。明日中に私を国外へ逃がして」と告げた。ケヴィンは「もう思い出の家に準備してある」と言い、夜になってからアレックスをホテルの部屋へ呼んだ。するとケヴィンは、「昼間に話したことよりも、もっと良い案を思い付いた。そのために君の開錠スキルが必要だ」と述べた。
アレックスが冷たい態度を取ると、ケヴィンは「今まで嘘をついてきたが、今度は信じてくれ」と言う。ドアがノックされると、ケヴィンは慌てて「彼女が来た。隠れてくれ」とアレックスに頼んだ。アレックスがベッドの下に隠れた後、ケヴィンはコールガールのジェシカを招き入れた。するとジェシカはケヴィンに謝罪し、彼女を脅した3人組が乗り込んできた。リーダーのワシントンと手下のクリントン&ジェファーソンは、抵抗するケヴィンを取り押さえた。
ワシントンはジェシカのバッグにあった携帯電話を手に取り、情事の動画を確認した。彼は「これで脅迫するつもりだったのか」と言って動画を消去し、ジェシカを始末した。「あの議員はクソだ」と言うケヴィンは、ワシントンからダイヤの隠し場所を教えるよう要求された。ケヴィンが拒否すると、ワシントンは「正直に言おう。本当に欲しいのはダイヤと一緒にあったUSBメモリだ」と口にした。「白状しないと家族を見つけ出し、妻をレイプして殺す。子供は奴隷として売り飛ばす」と脅した彼は、手下たちにケヴィンを拷問させる。だがケヴィンが死んでしまったため、彼は「住所を突き止めろ。きっとダイヤは自宅だ」と告げた。
ワシントンはボスである上院議員に電話を掛け、「女とビデオを消去しました」と報告する。議員が「重要なのはUSBメモリだ」と言うと、ワシントンは見つけ出すことを約束する。アレックスはベッドの下から這い出し、ワシントンに銃を向けた。しかし弾は入っておらず、手下たちに追われた彼女は部屋から脱出した。ワシントンは待機させていた手下のマディソンとモンローを呼び、アレックスを追った。アレックスは駐車場へ入り、車を奪って逃走する。しかしパトカーに追われて事故を起こしたため、途中で車を捨てた。
アレックスはレイモンドの家へ行き、「暗殺者に追われてる。ケヴィンが死んだ」と訴える。レイモンドは家へ招き入れ、ショットガンを構えて「隠れていても仕方ない。迎え撃つ」と告げる。アレックスは寝室の電話を借り、ケヴィンの妻であるペニーに電話して「今すぐ逃げて。隠し場所があるでしょ。私の荷物を届けて」と言う。しかしアレックスが夫の元恋人だと知っているペニーは強い敵対心を向け、「彼は私を選んだの」と怒鳴って電話を切った。
ワシントンたちはレイモンドを銃殺し、部屋へ乗り込んだ。アレックスは窓から逃げたように見せ掛け、天井に張り付いて身を隠した。ワシントン電話のリダイヤル機能を使うと、ペニーの息子であるマシューが出た。ワシントンはマシューを騙して住所を聞き出し、手下を連れてペニーの家へ向かった。ペニーは地下室で大量のダイヤを見つけ、息子を連れて家を出ようとする。そこへワシントンたちが乗り込み、ペニーが持ち出そうとしていた鞄を奪った。彼は手下たちにペニーとマシューの始末を命じ、家を後にした。
モンローは居間へ逃げたマシューを追い詰めるが、そこへアレックスが駆け付けた。アレックスはモンローを抹殺し、マディソンに強姦されそうになっているペニーを救った。アレックスがマディソンにナイフを突き刺し、ペニーが何度も椅子で殴って殺害した。アレックスはペニーにパソコンを借り、USBメモリを繋いで中身を確認しようとする。しかしGPSが作動して居場所を知られたため、彼女は逃走の準備をするようペニーに指示した。
ワシントンは議員から、別の手下であるダグ・マッカーサーを差し向けたと聞かされる。彼は「必要ありません。必ず解決してみせます」と約束し、議員は「マッカーサーには休みを取らせよう」と告げた。ワシントンがホテルへ戻ると、アレックスから電話が入った。彼女は「警察に通報したわ」と嘘をつき、バイクに乗ってホテルを観察する。ワシントンはクリントンとジェファーソンに指示し、遺体をホテルから運び出す。尾行したアレックスは、一味のアジトである廃工場を突き止める…。

監督はスティーヴン・S・カンパネッリ、脚本はアダム・マーカス&デブラ・サリヴァン、製作はドナルド・A・バートン&メシャック・モロプ&アントン・エルンスト、製作総指揮はタイ・ダンカン&ポール・シフ&ラジャ・コリンズ&コレット・アギラー&シャール・ヴァン・ダー・マーヴ&アレン・イヴァジアン&キム・ジャワンダ、製作協力はキンバリー・サットン&クリス・コクラン、撮影はグレン・マクファーソン、美術はトーマス・ガブ、編集はドゥービー・ホワイト、音楽はローレン・イケム。
出演はオルガ・キュリレンコ、ジェームズ・ピュアフォイ、フロムラ・ダンダーラ、リー=アン・サマーズ、ブレンダン・マーレイ、カール・タニング、グレッグ・クリーク、シェリー・ニコール、リチャード・ロシアン、モーガン・フリーマン、コリン・モス、ジェナ・サラス、キングズレイ・ピアソン、ヘニー・ボスマン、エイダン・ワイトック、ジョー・ヴァス、ダニエル・フォックス、ディラン・エディー、モー・マライス、ウェイン・ハリソン、ムズキシ・ンタンティソ、スワララ・ボンゴレチュ・ムブタマ、リー・ラヴィヴ、ヨランド・ボタ、デヴィッド・ジョンソン他。


『ゴッド・ランド』『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』のアダム・マーカスとデブラ・サリヴァンが脚本を務めた作品。
ステディカム・オペレーターやカメラ・オペレーターとして活動してきたスティーヴン・S・カンパネッリが、初監督を担当している。
アレックスをオルガ・キュリレンコ、ワシントンをジェームズ・ピュアフォイ、マディソンをフロムラ・ダンダーラ、ペニーをリー=アン・サマーズ、レイモンドをブレンダン・マーレイ、ダグをカール・タニング、モンローをグレッグ・クリーク、クリントンをシェリー・ニコール、ジェファーソンをリチャード・ロシアンが演じている。

英国でのオープニング週末の興行成績がわずか46ポンド(約69ドル)ということが、一部で話題となった作品。
そもそも10スクリーンという小規模公開ではあったのだが、それにしても46ポンドは酷い。無名俳優ばかりの低予算映画ならともかく、ボンドガールだったオルガ・キュリレンコ、TVシリーズ『The Philanthropist』で主演を務めたジェームズ・ピュアフォイ、モーガン・フリーマンといった面々が出演しているわけでね。
ちなみにアメリカでは、限定公開とインターネット公開だけで終わっている。
シリーズ化を狙って製作された映画だが、もちろん続編の企画など完全に無くなった。

原題から程遠い邦題は、たぶん国内外で絶賛されたピエール・ルメートルのミステリー小説『その女アレックス』を意識したのだろう。
原題を直訳すると「気運」とか「契機」という意味になるので、それだと何の映画だかサッパリ分からない。だから全く異なる邦題を用意するのは、決して悪いことだとは思わない。無関係の小説のタイトルを真似るのも、まあ良しとしよう。
だけど「その女諜報員」ってのは絶対にダメだろ。アレックスは「強盗の一味」として登場し、その過去については隠したまま物語を進めているんだから。
この邦題だと、もう見る前からネタバレしているようなモンでしょうに。

冒頭で銀行強盗に入っている4人組は、ダフト・パンクのPVに登場しそうな近未来的な全身スーツとマスクを装着している。ライトの部分は色が違うが、それ以外は全く同じコスチュームなので、誰が誰なのかは良く分からない。
それより気になるのは、「そんなスーツにしている意味って何なのか」ってことだ。
その意味は、特に何も無い。ただ顔さえ隠れれば事足りるわけで、やたらと近未来チックな格好にしているのが「狙ったのかもしれないけど外している」と感じる。
あと、そんな格好なのに、ちょっと揉み合っただけで簡単にマスクが脱げてしまうので、すんげえカッコ悪い。

銀行は最新のセキュリティーで守られているらしいが、すぐ仲間割れするようなボンクラな強盗4人組にダイヤを奪われている。
それだけでなく、なぜか防犯カメラも設置されていないらしく、だからアレックスの素顔が露出したのに人質の目撃証言だけに頼らざるを得ないという始末。
だからアレックスが全く似ていない別人を強盗犯人に偽装しても、それが何の問題も無く成立してしまう。
「別人だと露呈するのを避けるため顔を焼いて原形を留めないようにする」とか、そんな必要さえ無いのだ。

ワシントンがジェシカを脅して携帯のパスコードを聞き出し、セックス動画を消去してから始末するという手順がある。それは全く不要な手間にしか思えない。
まずセックス動画が写し出された時点で、相手男性の顔が隠れているので「誰を脅そうとしている動画なのか」ってことが分からない。議員なのかもしれないけど、でもモーガン・フリーマンなので違和感がある。
あと、ケヴィンとジェシカの関係性もボンヤリしているし。そこは「ケヴィンの恋人がジェシカで、部屋へ乗り込むために利用したけど、用済みになったから始末した」ってことでいいんじゃないかと。
ジェシカが動画で脅そうとしていたとか、どうでもいいでしょ。どうせ彼女は簡単に始末されてしまい、そのことは後の展開に全く繋がらないんだから。

ワシントンがケヴィンを脅してダイヤのありかを聞き出そうとするのは、どういうことは意味が良く分からない。
ケヴィンは自分の考えで銀行を狙ったわけじゃなくて、依頼を受けて襲ったんじゃないのか。「ダイヤ目当てで銀行を襲ったら、たまたま議員の秘密が隠されたUSBメモリも同じ貸し金庫に入っていた」ってことではないはずでしょ。
だったら、その依頼主はワシントン(っていうか議員)じゃないのか。それなら、わざわざ襲わなくても、普通に引き渡してもらえるんじゃないのか。
ケヴィンが銀行を襲った事情がボンヤリしているので、その辺りで大いに引っ掛かってしまうわ。

アレックスは足を洗ったのに、ケヴィンに頼まれて銀行強盗に参加したらしい。
その理由を推測するに、「ケヴィンが元カレで、まだ好意を持っているから」ってことだろう。本人はノリノリで参加しているわけではなく、むしろ「嫌だったけど仕方なく」みたいな態度なので、それ以外の理由は考えられない。弱みを握られているわけでもないしね。
ただ、「元カレに頼まれたから仕事を引き受ける」という甘さが、人間的な魅力ではなくカッコ悪さに繋がっているのよね。
っていうか、そもそも銀行強盗にアレックスって必要だったのかと。3人だけでも普通に成功できていたように思えるぞ。

ワシントンはケヴィンを取り押さえてダイヤのありかを教えるよう要求した時、「正直に言おう。本当に欲しいのはダイヤと一緒にあったUSBメモリだ」と余計な情報を喋る。
まだケヴィンはUSBメモリの隠し場所を白状していないのに、拷問で殺してしまう。
そもそも、なぜ議員の秘密が隠されたUSBメモリが存在するのか。なぜ南アフリカの銀行に預けてあるのか。なぜダイヤと一緒なのか。そのダイヤは議員にとって、どういう物なのか。
不可解な点が多すぎる。

アレックスはペニーに電話を掛けた時、何も事情を説明しないまま「今すぐ逃げて」と言ったり、「私の荷物を届けて」と要求したりする。
そりゃあペニーが怒って電話を切っても仕方が無いわ。
なぜアレックスは「殺し屋が貴方を狙っている」とか「ケヴィンが殺された」といったことを伝えようとしないのか。それを言わない理由が何も思い付かない。
少なくとも、殺し屋が家を探していることは教えるべきでしょ。
あと、リダイヤル機能でケヴィンの自宅を知られるのが、アレックスのヘマにしか見えないのもマイナス。

ペニーの家へ乗り込んだワシントンは鞄を手に入れると軽く振り、「見つけたぞ」と言う。そして手下たちに、ペニーとマシューの始末を指示する。
だけど、その鞄にUSBメモリとダイヤモンドが入っているかどうかは分からないでしょ。
しかも重要なのはUSBメモリの方だから、ますます「軽く振ったら何かが入っている音がしたから」ってだけでは分からないでしょ。
なぜ中身を確認しない内に、ペニーとマシューの始末を命じるのかと。あまりにも軽率でしょ。

アレックスがケヴィンの家で敵を退治すると、ペニーは彼女に感謝して和解する。
そりゃあレイプされて殺されそうになっていたピンチを救ってくれたのだから、何の迷いもなく和解するのは当然っちゃあ当然だ。
ただ、そんなに簡単に関係が良くなるのなら、そもそもペニーがアレックスを嫌悪している設定なんて要らなくないか。
それは「ペニーがアレックスの電話を無視して切る」「リダイヤルの時は息子が出る」という手順を成立させるための設定なんだけど、「ケヴィンの妻と元カノ」という設定は、ほぼ無効化されている。

アレックスは電話でワシントンを騙してアジトを突き止め、忍び込んでクリントンを捕まえる。ワシントンとの電話でクールに脅しを掛け、車に仕掛けておいた爆弾を起動させる。余裕を見せていたワシントンに拳銃を突き付け、その動きを制する。
もう反撃のターンに入っているのだから、そこまで冴えた動きが続くのなら、最後まで徹底して「敵の一枚上を行く」という形にしておけばいい。
ところが、彼女が頭を殴られて昏倒し、拘束されて拷問を受ける展開になってしまうのだ。
もうアレックスのピンチなんて無くてもいいのだが、どうしても「ヒロインが窮地に追い込まれる」という状況を用意したいのなら、本人の失態で捕まる展開は避ければいい。
その拷問を受けてもUSBメモリの隠し場所を吐かないアレックスに対して、ワシントンが「ペニーとマシューを殺す」と脅す手順があるんだから、最初からそういうことにしておけばいいでしょ。アレックスが捕まる前の段階で、その脅しを掛けられて仕方なく要求に応じるという形にしておけばいいでしょ。

っていうか、まだペニーとマシューの安全が確保されていない段階でアレックスが行動している時点で、手落ちがあるだろ。
一度は敵に狙われたんだから、まずは2人を安全な場所へ避難させるべきだろ。
アレックスは空港のロッカーに隠しておいた爆弾を爆発させてからワシントンに「このために、わざと捕まった」と言っているけど、そんな必要は全く無いので下手な後付けにしか聞こえない。
そんな場所で大きな騒ぎを起こしたせいで銃撃戦が発生し、無関係な大勢の人々が巻き込まれているし。

ワシントンの一味が全滅した後、ダグが姿を見せる。アレックスは仲間の協力でUSBメモリの中身を確認し、議員がテロを起こすことで地位を得ようと目論んでいることを知る。ダグからの電話で取引を持ち掛けられたアレックスが拒否すると、議員は始末するよう命じる。
つまり、まだ何も解決しておらず、尻切れトンボの状態で話が終わるのだ。
続編を構想していたにしても、そこまで露骨に食べ残しを作るかね。
そんで映画がコケて続編の企画がポシャるんだから、すんげえカッコ悪いぞ。

(観賞日:2017年12月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会