『幸せの教室』:2011、アメリカ

大型スーパーマーケットの「Uマート」で働くラリー・クラウンは、これまで8度も「今月の人」として表彰されたことのある店員だ。ところが本幹部社員たちから呼び出された彼は、不況の影響で本社からリストラ指令が出ていると聞かされた後、突如として解雇を宣告されてしまう。困惑するラリーに、幹部は「貴方は大学を卒業してないので、本社の昇進基準では出世できない」と冷淡に告げた。
ラリーは新たな就職先を探し始めるが、なかなか見つからない。彼には別れた妻から買い取った家のローンが残っており、銀行の融資係であるウィルマから所持品を売り払うよう促される。ラリーがガレージ・セールで始めようとしていると、中古品販売業を営んでいる隣人のラマーが文句を言いに来る。ラリーが会社を首になったことを明かすと、ラマーは「まずは就職より教育だ。知識は武器になる」と言い、イースト・ヴァレー・コミュニティー・カレッジのパンフレットを見せた。
コミュニティー・カレッジへ出向いたラリーは、学生部長のビューシックから声を掛けられた。ラリーと同じ海軍出身者のビューシックはスピーチ217の授業を推薦し、「先生のことも気に入るだろう」と言う。さらにビューシックは、「就職活動ならスピーチ217と経済学1と作文1がいい。話し方とビジネスと書き方の勉強になる」と語った。ラリーはガソリン代を考えて自動車の使用を取り止め、ラマーから安値でスクーターを購入した。
翌日、スピーチ217の講師を務めているメルセデスは、朝8時からの授業に向けて準備する。同僚のフランシスから「講師で良かった?」と問われた彼女は、「生徒の役に立っているか自信が無いわ」と答えた。するとフランシスは、「今や生徒たちの興味は、フェイスブックやツイッターよ」と言う。スクーターで登校したラリーは、同じようにスクーターに乗っている生徒のタリアから話し掛けられた。
メルセデスが教室へ行くと、受講者はスティーヴやデイヴ、ナタリー、ララなど9人しかいなかった。彼女は「今日はキャンセルよ。10人以上じゃないと採算が合わないらしいの」と言い、さっさと立ち去ろうとする。しかし遅れてラリーが教室に入って来たので、メルセデスは仕方なく授業を始める。彼女は「私のクラスで教えるのは気配り。それが出来ない人は出て行って」と言い、恫喝するような態度を取る。それでも誰一人として出て行かないので、彼女はため息をついた。
メルセデスは生徒たちに、「次回の授業では、得意なことをスピーチしてもらいます」と告げた。スティーヴは「たった2日でスピーチを考えるの?」と生意気な態度を取り、携帯電話で話し始めた。メルセデスは彼に近付き、高圧的な態度で携帯を切らせた。ラリーが経済学の授業に行くと、ララも一緒だった。ララはメルセデスについて、「あの先生、怖い」と漏らした。そこにタリアが現れ、「ギャングになる?スクーター仲間でつるんでるの」とラリーに言う。彼女はラリーの携帯電話を奪い取り、勝手にメールアドレスを交換した。経済学の講師であるエド・マツタニは、「私のテキストと講義で、諸君は経済通になれる」と自信たっぷりに述べた。
メルセデスは次の授業がある教室へ行くが、4人しか受講者がいなかったので「中止よ」と告げて立ち去る。彼女が帰宅すると、ブロガーで売れない作家でもある夫のディーンがいる。ディーンは朝からこなした仕事について語るが、メルセデスはネットでポルノサイトを閲覧していたことを見抜いていた。ディーンが「誰だって何かある」と開き直ると、メルセデスは「私は無いわ。その日の出来事を洗いざらい話してる」と言う。酒を飲む彼女に、ディーンは「君は完璧主義者だが、苛立ちを隠している」と告げた。
スピーチ217の2回目の講義で、ラリーはレストラン級のフレンチ・トーストの作り方についてスピーチする。しかし内容が退屈なので、すぐにメルセデスはチャイムを鳴らして終わらせた。ラリーはタリアから「走らない?」と誘われ、スクーター・ギャングのリーダーであるデルや仲間たちと会った。ラリーが目的地を訊くと、タリアは「お腹が空くまで走って、どこかで軽く食べる」と答える。そこでラリーは、海軍時代の仲間であるフランクが営むレストランにタリアたちを連れて行った。
スクーター・ギャングが食事をしている中、ラリーは「宿題があるから」と帰ろうとする。中古品を見たがるメンバーがいたので、ラリーはスクーター・ギャングをラマーの店に案内した。ラリーが帰宅して宿題を始めようとしていると、タリアが仲間のサルを連れて入って来た。ラリーが困惑していると、タリアは「サルが散髪してくれるわ。カッコ良くなるわよ」と言う。ラリーはバスルームへ移動し、サルに散髪してもらうことになった。
タリアは仲間たちを呼び寄せ、散らかっていた部屋を片付ける。彼女は風水に従い、部屋を模様替えした。散髪を終えたラリーは、部屋の様子が一変しているのを見て驚いた。タリアは「前よりずっと良くなった」とラリーにキスし、家を出て行った。ラリーは晴れやかな気分になり、「髪型一つで変わるもんだ」と告げてタリアに礼を述べた。するとデルは、「男なら誰だってタリアに惚れる。だが、俺が一番愛してる。忘れるな」と忠告した。
次の講義の日、ラリーは学校へ行く途中でメルセデスと遭遇した。メルセデスのカーナビが壊れているのを知ったラリーは、設定をやり直して自動音声機能を停止させた。タリアは自分のガレージにラリーを連れて行き、大量にある服の中から1着を選んで着替えさせる。フランクはラリーに、「勉強しながら稼ぎたいなら言ってくれ」と持ち掛ける。コック経験の長かったラリーは、フランクの店の厨房で働かせてもらうことになった。
ラリーはメルセデスの講義に遅刻し、マツタニの講義は途中で滑り込んだ。その日の講義を終えたラリーかマツタニに質問していると、メルセデスが現れた。彼女は講義を休んだラリーに腹を立てており、「次は貴方がトップよ。テーマを決めるから2分間スピーチして」と告げた。ラリーがタリアと一緒にドーナツ店へ入る様子を目撃したメルセデスは、彼が若い女性目当てで学校へ来ていると感じた。
メルセデスの講義に出席したラリーは、インテリア・デザインというテーマでのスピーチを要求された。全く知識の無いテーマだったが、ラリーはタリアに部屋の模様替えをしてもらった経験を語った。タリアは手頃な貸し店舗を発見し、ラリーにメールを送る。厨房で仕事中だったラリーは、店に来るよう返信した。タリアの相談を受けた彼は開業を想定して試算し、「きっと利益が出るよ」と告げた。タリアは「大好きよ」と言い、笑顔で彼の頬にキスをした。そこへデルが来て鋭い視線を向けたので、ラリーはそそくさと仕事に戻った。
メルセデスはディーンの車に乗っている最中、言い争いになった。彼女はディーンを激しく非難し、車を降りた。ラリーや仲間たちとスクーターを走らせていたタリアは、1人で佇んでいるメルセデスに気付いた。タリアは「ここで出会ったのも運命よ」と言い、ラリーを連れてメルセデスの元へ行く。タリアは「いいトコ見せて」とラリーに告げ、仲間と共に走り去った。ラリーは悪酔いしているメルセデスをスクーターの後ろに乗せ、家まで送って行くことにした。
ラリーのスクーターで帰る途中、メルセデスは飲酒運転でパトカーに捕まっているディーンを目撃して大笑いした。彼女は自宅に到着すると、「キスしたい?それならツキがあるわ。私は酔っ払ってるし、旦那はしばらく帰って来ない」とラリーに言う。熱烈なキスの後、彼女は興奮した様子で「体も触っていいわよ」と誘う。ラリーは「今日はこれで止めておこう」と言い、メルセデスを家に入れた。玄関のドアを閉めた後、ラリーは全身で喜びを表現した。
翌日、メルセデスの講義に出席したラリーは、彼女に笑顔を向ける。メルセデスは彼を呼び、「昨日はお酒を飲み過ぎたせいで、不適切なことがあった。おぼろげな記憶だけど、前にも同じようなことがあったの。昨夜のことは水に流して。噂にでもなったら講師としての地位が終わるわ」と告げた。ラリーはショックを受け、堅い表情でうなずいた。ラリーは家の譲渡書証と登記簿を持ってウィルマの元へ行き、「銀行が交渉に応じてくれないから不良債権になる。それで譲渡することにした」と言う。ウィルマは「債務不履行になるし、貴方の信用に関わる」と困惑するが、ラリーは「30日以内に退去する。物事は変化するんだ」と告げた…。

監督はトム・ハンクス、脚本はトム・ハンクス&ニア・ヴァルダロス、製作はトム・ハンクス&ゲイリー・ゴーツマン、共同製作はカッタリー・フローエンフェルダー、製作総指揮はフィリップ・ルスレ&スティーヴン・シェアシアン&ジェブ・ブロディー&ファブリス・ジャンフェルミ&スティーヴ・シェアシアン&デヴィッド・コートスワース、撮影はフィリップ・ルースロ、編集はアラン・コーディー、美術はヴィクター・ケンプスター、衣装はアルバート・ウォルスキー、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はトム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ブライアン・クランストン、セドリック・ジ・エンターテイナー、タラジ・P・ヘンソン、ググ・ンバータ=ロー、ウィルマー・バルデラマ、パム・グリア、リタ・ウィルソン、ジョージ・タケイ、ロブ・リッグル、イアン・ゴメス、ホームズ・オズボーン、ラミ・マレック、マルコム・バレット、グレイス・ガマー、マリア・カナルス=バレッラ、カーリー・リーヴス、クローディア・ステッドリン、デイル・ダイ、ボブ・スティーヴンソン、A・B・フォファナ、サラ・レヴィー、ジュリア・チョー、チャド・スマザース、デヴィッド・L・マーフィー、ランダル・パーク他。


トム・ハンクスが1996年の監督第1作『すべてをあなたに』以来、15年ぶりにメガホンを執った作品。
脚本は『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』『connie & carla コニー&カーラ』のニア・ヴァルダロスとトム・ハンクスの共同。
ラリーをトム・ハンクス、メルセデスをジュリア・ロバーツ、ディーンをブライアン・クランストン、ラマーをセドリック・ジ・エンターテイナー、ベラをタラジ・P・ヘンソン、タリアをググ・ンバータ=ロー、デルをウィルマー・バルデラマ、フランシスをパム・グリア、ウィルマトム・ハンクス夫人であるリタ・ウィルソン、マツタニをジョージ・タケイが演じている。

まずラリーがUマートを解雇される導入部に引っ掛かる。
アメリカには強烈な学歴差別があるってことは理解するとして、だからって彼がクビになるのは良く分からない。
「大卒じゃないから本社の昇進基準では出世できない」って言われているけど、ラリーは出世を要求しているわけではないのだ。大卒じゃなくても、その店舗では8度も表彰された優秀な店員だ。
それほどの戦力を「不況でリストラ指令があるから」というだけでクビにするかね。個人的にラリーを嫌っている幹部社員がいるとか、そういうことでもないし。
あと、そんな理由で有能な男を簡単にクビにしているUマートが「愚かしい会社」として描写されないまま放置されるのも手落ちだと感じるし。

原題が「Larry Crowne」、つまりトム・ハンクスが演じる男の名前なのに、ラリーがスクーターを購入した後、メルセデスの様子を描くターンに入るのは違和感がある。
その後も、何度かメルセデスのパートがある構成なのだが、これは要らないなあ。ラリー視点からの物語に絞って進行すべきだ。
メルセデス側からも描くことによって、話が散漫になっている。
ラリーの人生やり直しストーリーだけでなく、メルセデスの人生やり直しストーリーも描こうとしていることは分かるが、ちゃんと消化できていない。

ラリーが「大卒じゃないから」という理由でクビになった後、コミュニティー・カレッジへ通い始めるというのは、ちょっとズレがあるように感じられる。
コミュニティー・カレッジを卒業しても、Uマートの出世条件を満たす大卒の資格は得られないわけだし。
それを理由に解雇を通告されたのなら、普通大学へ通おうとするのがスムーズな流れじゃないかと思うんだよな。
そうじゃなくてコミュニティー・カレッジに通い始めるなら、全面的にラリーの意思で積極的に行くのではなく、「何となく成り行きで」とか、「仲間に誘われて一緒に」とか、そういう形にでもしておいた方が良かったかなと。

それと、コミュニティー・カレッジでスピーチと経済学の講義を受けても、それが再就職に繋がるようには、あまり思えないんだよなあ。
講義を受けることで生徒が少しずつスキルアップしているような様子は全く見えない。
スピーチにしろ経済学にしろ、それなりに能力は向上しているようだ。しかし、講義の内容描写が薄っぺらいので、メルセデスやマツタニの教えがラリーの心に響き、それが身に付いているという感覚が薄い。
あと、作文の講義はどうなったんだよ。取らないのなら、ビューシックに推薦させるなよ。

そんなわけだから、講義のシーンは、ほぼ人間関係を描くための器でしかない。
特に経済学の講義に関しては、ラリーとマツタニの交流や、マツタニのキャラクター描写が乏しいので、ラリーとタリアが仲良くしている様子を描くためだけに用意されていると言ってもいい。
ラリーとタリアの関係は面白いので、ここをメインに据えて映画を構築するなら、それでも悪くない。
でも、そうじゃなくて、タリアは都合良く利用されて捨てられる。

コミュニティー・カレッジでメルセデスの授業を受け始めたのなら、その授業や彼女との交流によって、ラリーの考え方や人生が変化していくという筋書きにすべきだろう。
しかし実際には、それより前にタリアとの出会いがラリーにとって大きな出来事になっている。タリアと知り合い、スクーター・ギャングと仲良くなることで、ラリーは健やかな気分になることが出来ている。
その後はメルセデスとの関係描写が増えるが、ぶっちゃけ、メルセデスよりタリアの方がキャラとして魅力的だし、そこの交流の方が面白くなりそうなのだ。
でも前述したように、タリアは都合良く使い捨てにされちゃうんだよな。

ラリーに好意を寄せていたタリアが、なぜ彼とメルセデスをくっ付けようとするのかサッパリ分からない。
で、そういう行動をタリアに取らせているってことは、ラリーがメルセデスに惹かれてるってことでもあるのだが、ここも腑に落ちない。
カーナビを修理した後の講義でラリーがメルセデスを見つめてニコニコしている描写があって、その時は「不自然な描写だなあ」と感じたけど、既に惹かれていたってことなのか。
そんなの、全く伝わって来なかったけど。

ラリーがメルセデスとキスして大喜びしているってことは、やはり以前から彼女に惚れていたってことだ。だけど、ラリーがいつの間に、メルセデスのどんな部分に好意を抱いたのか、サッパリ分からんぞ。
一方のメルセデスも、いつの間に、ラリーのどんな部分に好意を抱いたのか、これまたサッパリ分からない。
送ってもらって、キスして惚れたのか。それとも、カーナビを修理してもらって惚れたのか。
どこで惚れたと仮定するにしても、ラリーにしろメルセデスにしろ、惹かれる要素があまりにも少なすぎる。

ラリーとメルセデスの関係描写がペラッペラなので、この2人を恋愛劇で結び付ける展開は、不自然さがハンパない。
むしろ恋愛の要素なんてバッサリと削り落としてしまった方が、よっぽどスッキリする。
ラリーとタリアの関係も、そこを膨らませるにしても、恋愛関係ではなく「年の離れた良き友人」ということでの面白さを感じるのだし。
だから、「ラリーが年の離れた友人と交流することで感化され、セカンド・キャリアについて考え直す」という話を厚くすればいい。

っていうか導入部からすると、少なくとも「ラリーが生き方について考え直し、人生をやり直す」という話にすべきだろうに、なんで途中から完全に恋愛劇へと傾いちゃうんだよ。
そりゃあ確かに、恋愛だって人生を形成する上で1つの要素ではあるだろうよ。だけど、この映画で描くべきは、それじゃないだろ。コレジャナイ感が強いわ。
ラリーがメルセデスに惚れる展開になると、「お前は何のために学校へ通っているんだよ。スキルアップのためじゃねえのか」と言いたくなるし。
タリアと一緒に居るのを見たメルセデスが「若い女が目当て」と思い込むシーンがあるけど、メルセデスが目当てなら、まんざら間違ってもいないってことになるし。

ラリーが家を譲渡するのは、メルセデスに振られてショックを受けたことが引き金になっているようにしか見えない。
そもそも、「なんでメルセデスに振られて家を譲渡することを決意するんだよ」ってのはサッパリ分からんけど、他にきっかけとなるような出来事が何も見つからないのだ。
単純に「そろそろ所持金がヤバいから家を手放すことにした」というだけであれば、メルセデスから「昨晩のことは無かったことに」と言われた直後に家を譲渡するシーンを配置するのは、変な誤解を招くだけなので避けるべきだし。

家を譲渡する理由がどうであろうと、映画としてラリーとメルセデスの恋愛劇が途中からメインになっていることは確かだ。
ラリーが学校へ通うことでスキルアップを目指すという目的意識は、完全に消滅しているわけではないが、ものすごく希薄になっている。
それは完全にダッチロールとしか思えない。
いっそのこと、メルセデスもスピーチのクラスもバッサリと削ぎ落として、ラリーとタリアの交流をメインに、マツタニを重要な脇役に据えて、主人公の人生観の変化を描く内容にした方が遥かに面白くなりそうだぞ。

最後のスピーチ217の講義で、ラリーは見事な演説を披露する。
しかし、そこまでに成長の経緯が全く描かれていないから、メルセデスの教えによって上達したという印象は皆無。「急に上手くなったな」という感じに見える。
ラスト、ラリーはメルセデスに「私の授業で人生変わった?」と問われて、「ああ、変わったよ」と答える。
確かに変化はあったが、それは「メルセデスという恋人が出来ました」という変化でしかない。
講義によって人生観が変化したとか、スキルアップしたとか、そういう印象はゼロだ。

(観賞日:2014年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会