『スティーブン・キングのキャッツ・アイ』:1985、アメリカ
3話形式のオムニバス。第1話は、禁煙教会のビルに行ったディック・モリソンの話。気が進まない彼は帰ろうとするが強引に引き止められる。そして彼は面接した医師から、これから行動をずっと監視して、もし煙草を吸ったら妻や娘が痛い目に遭うと脅される。
第2話では、ギャンブル好きの金持ちクレスナーが、自分の妻と駆け落ちしようとしたテニス選手ノリスを捕まえ、車にヘロインを仕込んで罠にハメると脅す。ただし高層ビルの屋上の周囲にある出っ張りを一周できたら、警察にも言わないし妻と一緒になるのも許すと告げる。
第3話では、少女アマンダが迷い込んできた野良猫と仲良くなり、“将軍”という名前を付ける。しかし母親は将軍を家の中に入れたがらない。アマンダは夜中に壁から現れた小さな怪物トロルに命を狙われるが、駆け付けた将軍によって助けられる…。監督はルイス・ティーグ、脚本はスティーヴン・キング、製作はディノ・デ・ラウレンティス&マーサ・シューマッカー、共同製作はミルトン・スボツキー、撮影はジャック・カーディフ、編集はスコット・コンラッド、美術はジョルジオ・ポスティグリオーネ、衣装はクリフォード・カポネ、クリーチャー製作はカルロ・ランバルディ、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はドリュー・バリモア、ジェームズ・ウッズ、アラン・キング、ケネス・マクミラン、ロバート・ヘイズ、キャンディ・クラーク、ジェームズ・ノートン、トニー・ムナフォ、コート・ミラー、ラッセル・ホートン、パトリシア・ベンソン、メアリー・ダーシー、ジェームズ・レブホーン、ジャック・ディロン、スーザン・ホーズ他。
全て同じ猫が目撃者になっているという共通点で繋がった、3話の短編で構成されるオムニバス映画。それぞれニューヨーク、ニュージャージー州アトランティック・シティ、ノース・キャロライナ州ウィルミントンが舞台になっている。
『キャッツ・アイ』という別タイトルもある。大物ディノ・デ・ラウレンティスのプレゼンツなのだが、小品である。
脚本はスティーヴン・キングが担当しており、第1話と第2話はそれぞれ「禁煙挫折者救済有限会社」「超高層ビルの恐怖」という彼の短編小説を元にしている。
第3話は映画だけのオリジナル。スティーヴン・キング作品を使った、細かい遊びが織り込まれている。
例えば、冒頭で猫を追い掛けるのは、『クジョー』に登場するようなセントバーナード。
そこに通り掛かった赤い車には、『クリスティーン』と書かれている。他にも、第1話でジェームズ・ウッズ演じるディックがテレビで観賞して、「くだらない映画」と言うのは『デッドゾーン』。第3話でキャンディ・クラーク演じるアマンダの母親がベッドで読んでいる小説は『ペットセメタリー』。
遊び心はあるが、肝心の映画自体がね。第1話と第2話は、意外な展開は無いし、オチへと持って行く流れは淡白だ。
2作品とも、最後の場面は見せる必要が無い。その一歩手前で物語を終わらせた方が、ブラックな味わいが効いた作品に仕上がっていたはずだ。
両作品とも、ホラーというよりはブラック・コメディー。一捻り足りないと感じさせるが、まあテレビ映画ならアリかもしれんというレベルには達している。で、そこにくっ付けた第3話が、子供向けの甘ったるいファンタジー。
なんというバランス感覚の無さ。
そして、第3話の質の低いこと。第1話と第2話の最初にもアマンダを演じるドリュー・バリモアが登場し、第3話の前振りをするのだから、最も力が入っているのは第3話ということになる。
なんせキングがドリュー・バリモアのために書き下ろした作品だ。
力が入らないわけが無い。登場する怪物トロルの製作に、カルロ・ランバルディーまで引っ張り出した。
どれだけキングがドリュー・バリモアに御執心だったかが分かるというもの。
しかし、描かれるストーリーは、子供騙しのショボクレまくった童話なのである。単純で何の面白味も無い物語だし、気の利いたオチがあるわけでもない。
そもそもミニサイズのトロルが全く怖くない。
むしろ、ヒステリックな態度で猫を殺そうとするアマンダの母親の方が怖い。
何より、この程度の作品を自身満々で最後に持ってくるキングの感覚が怖い。音楽はアラン・シルヴェストリが担当したとは思えない質の低さなのだが、映画のレヴェルには合っている。そういう意味では、優れた仕事をしていると言えるかもしれない。
監督はルイス・ティーグ。
この程度の脚本なら、B級職人の彼が監督としてはお似合いかも。