『ジャングル・クルーズ』:2021、アメリカ

アマゾンでは「月の涙」と呼ばれる花が万病を癒やし、どんな呪いも説くという伝説があった。スペイン人のロペ・デ・アギーレは月の涙を手に入れるため、探検隊を率いてジャングルに分け入った。アギーレはジャングルで倒れたが、巨木を守る部族に命を救われた。部族が花を探す鍵となる「聖なる矢尻」を持っていると知った彼は、引き渡しを要求した。部族が拒否すると、アギーレと探検隊は村を焼いて皆殺しにした。怒ったジャングルは、二度と川の近くを離れられずに死ぬことも出来ない呪いを彼らに掛けた。
1916年、大戦2年目のロンドン。マクレガー・ホートンは王立人類学冒険協会の建物を訪れ、月の涙について演説した。その内容は全て姉のリリーが考えており、彼は持参したメモを読んでいるだけだった。マクレガーはアギーレたちがクリスタルの涙と呼ばれる場所の近くで呪われたことを語り、月の涙を見つけるための協力を要請した。協会はフォールズ探検隊が発見した聖なる矢尻を回収しており、貸し出しをマクレガーは要請したのだ。しかし理事長は相手にせず、即座に却下した。
その様子を見ていたリりーは資料室に侵入し、木箱に保管されていた矢尻を盗んだ。理事長はドイツ帝国のヨアヒム王子から多額の寄付を受け、矢尻を引き渡す約束を交わしていた。正体を隠して資料室に来たヨアヒムは、木箱が空になっているのを知った。リリーはヨアヒムに見つかるが、何とかマクレガーと合流して逃亡した。理事長が不用意に名前を呼んだため、ヨアヒムは職員たちに正体が露呈した。彼は職員たちを惨殺し、矢尻を盗んだ女の情報を教えるよう理事長に迫った。
リリーはマクレガーとブラジルに渡り、アマゾンを探検するためのクルーズ船長をポルト・ヴェーリョで探すことにした。オンボロのクルーズ船「ラ・キーラ号」の船長を務めるフランク・ウルフは、観光客を乗せて川を進んでいた。彼は事前に用意した仕掛けや現地部族に扮した仲間を使い、クルーズツアーを実施した。リリーはマクレガーを伴い、汽車でポルト・ヴェーリョに到着した。1人の男がマークしていることに、彼女は全く気付いていなかった。
フランクは酒場と船会社を経営するニーロから、借金の返済を迫られた。フランクは客から受け取った金を差し出すが、借金の額には全く足りていなかった。ニーロは部下たちに命じて、船のエンジンを没収した。リリーはニーロに会うため、酒場へ赴いた。フランクはニーロが外出するのを見計らい、彼の事務所に潜入した。フランクは船の鍵が入っている箱を開けようとするが、施錠されていた。リリーがドアをノックすると、フランクはニーロを装って対応した。
フランクはドアを開けず、リリーに立ち去るよう要求した。しかしリりーが「報酬は弾む」と言うと、ドアを開けて事務所に招き入れた。リリーがクリスタルの涙に行きたいと告げると、フランクは「誰も行けない。行けても行かない」と冷たく言う。リりーは詳しい地図を持っており、父の物だと語った。リリーは船の鍵が入っている箱をピンセットで開錠し、下の酒場でフランクと報酬の交渉に入った。彼女が2万円で手を打つと、そこへマクレガーがニーロを連れて戻って来た。フランクが騙していたことを知り、リリーは非難した。
リリーが首から聖なる矢尻を下げているのに気付いたフランクは、「1万で引き受ける」と持ち掛けた。そこへジャガーが現れて暴れ出すと、フランクが格闘して追い出した。それを見たリリーは、1万2千でフランクを雇うことにして「10分後に出発よ」と告げた。フランクは船に戻り、少年のザケウに準備を手伝わせた。彼は船倉へ行き、先程のジャガーを「プロクシマ」と呼んで可愛がった。プロクシマはフランクが船で飼っているペットで、酒場での一件は全て芝居だった。
マクレガーが大量の荷物を船に運ぶと、フランクは次々に川へ捨てた。その間にリリーは男たちに捕まり、檻に閉じ込められて連行された。彼女は隙を見て檻から飛び出し、男たちと格闘した。フランクが駆け付けて加勢し、リリーと共に船へ戻った。男たちを雇ったヨアヒムは、部下のアクセルから失敗の報告を受けた。彼はドイツの戦勝のため、巨木が必要だと考えていた。彼は矢尻を奪うために潜水艦を浮上させ、ラ・キーラ号をガトリング銃で攻撃した。さらに彼は魚雷まで発射するが、フランクは回避して潜水艦を座礁させた。
港を出たラ・キーラ号は、川が2つに分岐している地点に差し掛かった。リリーは舵を任されたマクレガーに、危険だが早く着く右ルートを進むよう指示した。フランクは安全な左ルートを選ぶべきだと主張するが、彼女は聞き入れなかった。ヨアキムは矢尻を手に入れるため、行き先を変更した。リリーはフランクからアマゾンに来た理由を問われ、「月の涙を手に入れるため」と答えた。「多くの命を救える」と彼女が語ると、フランクは「そのために家族の命を危険に晒している。大切な人が1人でもいれば、それは幸せだ」と咎めた。
船倉に入ったマクレガーは、プロクシマと遭遇して逃げ出した。プロクシマが甲板に上がって来たので、リリーはフランクが酒場で自分を騙したと知って腹を立てた。ヨアキムは洞窟に到着し、アギーレの石像に川の水を垂らした。蛇が飛び出すと、彼は「手を組もう。聖なる矢尻を探してくれ。月の涙を手に入れよう」と持ち掛けた。蛇が取引を承諾すると、ヨアキムは仕掛けておいた装置で崖を爆破して洞窟に川の水を注ぎこんだ。
洞窟を出た蛇は、ラ・キーラ号を監視した。船は激流に突入し、滝壺に落下しそうになる。しかしフランクが必死で舵を切り、何とか回避した。フランクはウカヤリの入り江でマクレガーと休憩を取り、なぜリリーに付いて来たのかと尋ねた。マクレガーは「結婚を勧められた。でも相手がどんな女性でも、僕が惹かれるのは他なんだ。誰を愛そうが自由なのに、社会は僕を除け者扱いする。でもリリーは違う」と語り、だからリリーに付いて行くのだと告げた。リリーはフランクの部屋へ勝手に入り、中を調べた。すると矢尻の説明図があり、リリーはフランクが星の涙を探しているのだと知った。
フランクはリリーから追及され、「以前は探していたが、もう諦めた。伝説を追い掛けても無駄だった」と話した。するとリリーは、「今はこれがある」と矢尻を見せた。船に乗り込んだカ・ミチュナ族が吹き矢で3人を眠らせ、村に連行した。フランクは部族の言葉で酋長に話し掛け、リリーに「持ち物を全て置いて行かせるから2人を解放してくれ。俺は残る」と喋ったのだと説明した。酋長が何か話すと、彼はリリーに「矢尻を渡せと要求している」と説明した。
リリーはフランクに通訳を頼み、「矢尻は返すけど、その前に星の涙を探す旅に使わせて」と訴えた。しかしフランクはリリーの言葉を無視し、「頑固で扱いにくい女だ。彼女は喜んで死ぬ。俺は殺さないでくれ」と告げた。リリーは拘束のロープを切断して部族の槍を奪い、戦闘態勢を取った。すると部族の面々は笑い出し、酋長のサムは仮面を外してフランクに「今後も同じことをやるなら、報酬を上げて。こんな出し物はウンザリだよ」と文句を付けた。フランクが騙したと取ったリリーは、激怒して殴り付けた。
リリーはサムと交渉し、矢尻に記された言葉を解読してもらう。その結果、「月の涙が咲くのは、泣く月の下に巨木が入る2日後」「場所は西の方角、蛇が自らの尾を噛む所」という答えが判明した。リリーは1人でカヌーに乗って向かうと言い、フランクに今までの報酬を叩き付けた。フランクが「危険だ。みんなで行くんだ」と反対すると、リリーは「貴方には信用も誠意も無い」と冷たく告げた。アギーレと部下のサンチョ、メルヒオール、ゴンサロたちが村に現れ、リリーに矢尻を渡すよう要求した。リリーは矢尻を奪われ、フランクが取り戻すためにアギーレと戦った。彼は矢尻を奪還してリリーに投げ渡すが、剣で腹を刺されて高所から転落した。
サムはリリーに、矢尻を持って川から離れるよう告げた。リリーが彼女の指示に従うと、アギーレたちは追って来ることが出来ず川に引き戻された。アギーレはヨアヒムに矢尻を入手させようと考え、蜂の群れを差し向けた。翌朝、リリーは倒れているフランクを発見し、駆け寄って声を掛けた。するとフランクは元気だったが腹に剣が刺さったままであり、血が一滴も出ていなかった。リリーとマクレガーが動揺していると、フランクは「本名はフランシスコ・ロペス・デ・エレディア。年齢は400歳ぐらいだ」と語った。一方、蜂の群れは潜水艦に辿り着き、ヨアヒムに矢尻の場所を教えた。フランクはリリーに剣を抜いてもらい、詳しい経緯を語り出した…。

監督はジャウム・コレット=セラ、映画原案はジョン・ノーヴィル&ジョシュ・ゴールドスタイン&グレン・フィカーラ&ジョン・レクア、脚本はマイケル・グリーン&グレン・フィカーラ&ジョン・レクア、製作はジョン・デイヴィス&ジョン・フォックス&ボー・フリン&ドウェイン・ジョンソン&ダニー・ガルシア&ハイラム・ガルシア、製作総指揮はスコット・シェルドン&ダグラス・メリフィールド、共同製作はペトラ・ホルトーフ=ストラットン、製作協力はレイシー・ダーリーン・ポールソン&デヴィッド・H・ヴェングハウスJr.、撮影はフラヴィオ・ラビアーノ、美術はジャン=ヴァンサン・プゾス、編集はジョエル・ネグロン、衣装はパコ・デルガド、視覚効果監修はジム・バーニー&ジェイク・モリソン、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
出演はドウェイン・ジョンソン、エミリー・ブラント、ポール・ジアマッティー、ジェシー・プレモンス、エドガー・ラミレス、ジャック・ホワイトホール、ヴェロニカ・ファルコン、ダニ・ロヴィラ、キム・グティエレス、ダン・ダーカン・カーター、アンディー・ナイマン、ラファエル・アレハンドロ、シモーヌ・ロックハート、ペドロ・ロペス、シューレム・カルデロン、セバスチャン・ブラント、マーク・アッシュワース、アラン・ポップルトン、キャロライン・ペイジ、ジェームズ・クアトロッチ、スティーヴン・ダンレヴィー、フィリップ・マクシミリアン他。


ディズニーランドの同名アトラクションをモチーフにした作品。
監督は『ロスト・バケーション』『トレイン・ミッション』のジャウム・コレット=セラ。
脚本は『オリエント急行殺人事件』『野性の呼び声』のマイケル・グリーンと『フィリップ、きみを愛してる!』『フォーカス』のグレン・フィカーラ&ジョン・レクアによる共同。
フランクをドウェイン・ジョンソン、リリーをエミリー・ブラント、ニーロをポール・ジアマッティー、ヨアヒムをジェシー・プレモンス、アギーレをエドガー・ラミレス、マクレガーをジャック・ホワイトホール、サムをヴェロニカ・ファルコン、サンチョをダニ・ロヴィラ、メルヒオールをキム・グティエレス、ゴンサロをダン・ダーカン・カーターが演じている。

リリーがフランクを雇ってからラ・キーラ号が港を出発するまでの手順が、無駄にモタモタしていると感じる。
拉致されたリリーが反撃し、フランクが加勢するアクションシーンがあるが、すぐに船へ戻ればいいものを、なぜか「リリーが屋根の上を歩き、落下してフランクが軽く笑う」という必要性が見えない手順を踏む。
船に戻ったら出航かと思いきや、ヨアキムが潜水艦で攻撃する展開に入るので「まだ続くのかよ」と言いたくなる。
トータル10分程度だから、そこまで長いわけではない。しかもアクションシーンだから、普通なら退屈なんて無いはずだ。
それを感じてしまうのは、「まだジャングル・クルーズか始まっていない」ってのが大きいだろう。

ヨアキムは潜水艦が座礁すると「行き先を変更する」と言い、洞窟へ行く。そこにはアギーレの石像があり、川の水を垂らすと蛇が現れる。ヨアキムが話し掛けると蛇が交渉を受け入れ、ラ・キーラ号の監視に向かう。
わざわざ説明しなくても分かるだろうが、蛇にアギーレの魂が入っているってことだ。
でも、なぜヨアキムは「そこに石像があり、川の水を垂らす蛇が出現し、そこらアギーレの魂がある」という情報を全て知っていたのか。
後から「実は」と説明があるかと思ったが、何も無いんだよね。

フランクはリリーが事務所に来た時、ニーロを装って仕事を受けている。その嘘がバレると、今度はプロクシマを使った芝居でリリーが雇うよう仕向ける。
星の涙を探していることかバレると、「それは昔のことで、もう諦めた」と嘘をつく。リリーが矢尻を見せると、部族との芝居で矢尻を手に入れようとする。
合計4度に渡って、フランクはリリーを欺いている。短期間で4度も騙しておいて「俺を信じろ」とか言われても、それは無理な相談だよな。
まあ出来レースみたいなモンだから、当然の流れとして「結局、リリーはフランクを信じる」という展開になるんだけどさ。

フランクを「胡散臭い奴、食えない奴ではあるが、根っ子の部分は正義感がある好人物」として描きたいのは分かる。
だけど、さすがに4度も騙して反省の色ゼロってのは、不快指数が高すぎるわ。
そこは「ドウェイン・ジョンソンだから許せるでしょ」みたいに演者に頼る部分もあるんだろうけど、それが充分な助けになっているとも思えないし。
終盤になって「実はこんな事情が」ってのが明らかになるけど、だからって全てがチャラにになるとも思えんよ。

粗筋でも書いたように、フランクはカ・ミチュナ族の村でリリーから通訳を頼まれた時、全く違う言葉を喋っている。
でも、それって全く意味が無いんだよね。
だってさ、全てはサムたちと示し合わせた芝居なんだから。つまり、何があってもフランクたちが殺されないことは確定事項なのだ。
それなのに「彼女は喜んで死ぬ。俺は殺さないでくれ」とか、そんなことを言うのは意味不明だ。
観客の笑いを取るためのギャグシーンなんだろうけど、そのためにフランクの行動が奇妙なことになっている。

ヨアヒムは冷徹非道なヴィランなのかと思いきや、蜂の群れから矢尻の場所を教わるシーンでは、部下たちが「蜂と喋るなんて頭が変だ」と呆れた様子を見せている。
このシーンの描写は、明らかにコミカル方向へ傾いている。
でも、そんなコミカル要素なんて無くていいよ。ヨアヒムにもコミカルの要素を入れるなら、もっと早い段階から見せておくべきだし。
そこで急にコミカルなテイストが強くなると、途中でキャラ変更したようにも感じる。

粗筋で触れているように、アギーレは命を救ってくれた部族を皆殺しにするような奴だ。だから徹底して極悪非道なクズ野郎として描けばいいものを、フランクの説明で「幼い娘の病気を治すために月の涙を手に入れようとしていた」という事実が明らかにされる。
でも、そこで中途半端に同情を誘うような要素を持ち込んで何の意味があるのか。それが情状酌量の余地にならないぐらいの悪党なので、そんなのは邪魔なだけだよ。
あと、救おうとした娘がどうなったのかを全く描いていないのは手落ちに感じるし。
あと手落ちと言えば、族長が矢尻を持たせて逃がした娘のアナがどうなったのかも説明が無いんだよな。

冒頭、王立人類学冒険協会の理事長は、マクレガーの演説内容が受理を断ったリリーの論文と酷似していることを指摘する。論文の作者が女性であることを、彼は馬鹿にした態度で話している。
リリーがアマゾンに着くと、ズボンを履いていることで奇異の目を向けられる。リリーが船の舵を引き受けようとすると、フランクは「女だから」という理由で認めずマクレガーに任せる。
リリーは勝ち気でサバサバした性格で、荷物は少ない。マクレガーは臆病で肌の手入れに気を遣っており、大量の荷物を船に持ち込もうとする。
古臭い「ステレオタイプの男女」の描写からすると、そこは完全に逆転している。

ディズニーのアニメーション作品は、行き過ぎたポリティカル・コレクトネスによって歪みが生まれている。
そして、この実写映画でも、どうやら同じような現象が起きているようだ。
しかも、必要性や必然性を無視してでもポリコレに関わる要素を持ち込んでおきながら、その扱いは適当に済ませている。
世間の声を過剰に意識して持ち込んでいるであり、本気で女性蔑視やLGBTQの問題をテーマにする気なんて、これっぽっちも無いからだ。

粗筋で触れた「相手がどんな女性でも、僕が惹かれるのは他なんだ。誰を愛そうが自由なのに、社会は僕を除け者扱いする」という台詞で分かるように、マクレガーは同性愛者という設定だ。
だが、彼をゲイにしている意味は全く無い。それがストーリー展開において、大きな意味を持つ箇所なんて何も無い。
女性差別の問題にしても、リリーの活躍で何か変化が起きるのかというと、そんなことは無い。
前半では臆病で逃げ腰だったマクレガーが、後半に入って勇敢に戦うように変化するのも、「男はタフでなくてはいけない」というステレオタイプにハメ込んだ展開だと感じるし。

リリーとフランクが出会いのシーンで険悪になった段階で、ここで恋愛劇を描くんだろうってのは容易に予想できる。ハリウッドでは古くからスクリューボール・コメディーで使われて来たパターンだが、それを使うのが悪いとは思わない。
ただ、この映画では安っぽさしか感じないんだよね。
幾つか理由はあるんだけど、一番は「ジェンダーが云々」みたいなネタを持ち込んでおいて、そこは古臭い価値観に基づいた恋愛劇を描いているからだろうなあ。

(観賞日:2024年3月18日)


2021年度 HIHOはくさいアワード:第12位

 

*ポンコツ映画愛護協会