『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』:1986、アメリカ

ニューヨークの大手銀行で送金係を担当するテリー・ドリトルは、課長のペイジから毛嫌いされている。同僚のシンシアは複数の男たちと積極的に関係を持っており、そのことをテリーに話す。同僚のカールがシンシアの男関係を茶化したので、テリーは注意する。テリーはコンピュータに向かって仕事を始めるが、途中で個人的な交信も挟む。今週になって3度もソ連のテレビ電波がコンピュータに入るので、テリーは「仕事にならない」と愚痴る。彼女は接続を確認し、コンピュータを復旧させた。
ペイジはテリーを呼び出し、仕事相手と個人的な交信を繰り返していることを厳しく批判した。それはテリーにとって円滑に友好を深める方法だったが、ペイジは「仕事中は機械として働け。それが分からなければクビだ」と通告した。妊娠している同僚のジャッキーが退職することになったため、テリーは涙を流す彼女と抱き合った。その日の勤務が終わり、テリーはレンのお別れパーティーに向かおうとする。しかしコンピュータに「誰か応答して」という通信が入ったので、テリーはシンシアに知らせる。「課長のイタズラよ」とシンシアは言い、テリーは「貴方は?」と質問する。相手が「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」と名乗ると、シンシアは「答えちゃダメよ」と告げてオフィスを去った。
テリーが交信を続けると、ジャックは銀行回線を使っていないことを明かして「危険なので、これ以上は言えない」とメッセージを送って来る。暗号入力にしてパスワードを示すようテリーが要求すると、ジャックは「歌ってキーを探そう。明日の夜7時、君が必要だ」と書き込んで一方的に通信を終わらせた。帰宅したテリーは、ザ・ローリング・ストーンズの『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』に手掛かりがあるのではないかと考えてカセットテープを再生した。彼女は深夜まで歌詞をチェックし、キーワードを絞り込んだ。
翌日の夜7時、テリーはオフィスのコンピュータで思い付いた言葉を次々に打ち込むが、まるで反応は無かった。しかし曲の「キー」が答えだと悟った彼女は、Bフラットと入力した。すると画面が変わり、フラッシュから「頭がいい。合格だ」とメッセージが入る。「時間が無い。交信の記録は破棄せよ。パスワードは秘密に」という言葉に、テリーは「なぜ用心を?」と訊く。ジャックは「危険が迫ってる」と説明し、英国領事館に行ってC部門を訪ねるよう要請した。ジャックは「犬が吠えている。傘が無いと飛べない」と意味不明な言葉を残し、交信を終了した。
翌日、テリーは英国領事館を訪ねて大使代理のジェレミー・タルボットと会い、「犬が吠えている。傘が無いと飛べない」というジャックの言葉を伝えた。しかしジェレミーは「何のことだ?」と怪訝な表情を浮かべ、「C部門の人なら分かるはず」とテリーが言うと「そんな部門は無い」と述べた。テリーは困惑し、「受付の女性にC部門の人と言ったら貴方を呼んだのよ」と説明する。「誰の伝言かね?」と問われた彼女は、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」と答えた。しかしジェレミーが何も分からないと言うので、「きっとタチの悪い悪戯ですわ」とテリーは謝って領事館を後にした。
銀行ではジャッキーの後任として、マーティン・フィリップスという男がメリーランド支店から転勤してきた。シンシアは彼を誘惑しようとするが、家族写真を見てガッカリした。その夜も残業と称して夜7時まで銀行に残ったテリーは、ジャックと交信する。「タルボットは貴方を知らないと言ったが、知っている様子だった」とテリーが送ると、ジャックは「状況は複雑だ」と返す。説明を求められたジャックは、「英国諜報員で、東欧から出られない」と明かした。
「領事館に直接の連絡を」とテリーが勧めると、ジャックは「僕を認知しない」と言う。「仲間の諜報員に連絡を。私はただのOLよ」とテリーが送ると、ジャックは「僕のアパートへ行き、フライパンを探してくれ」と依頼した。そこへコンピュータ整備の男が現れたので、テリーは驚いた。男は「たぶん配線の不良です」と説明し、作業を始めようとする。テリーが「私の機械に触らないで。貴方の会社に確認するわ」と言って電話を掛けている間に、男は姿を消した。
テリーはジャックから聞いたアパートへタクシーで出向き、消火栓に隠してある鍵を見つける。部屋に入った留守電を聞いてノンビリしていたテリーだが、ゆっくりドアが閉まったので緊張する。彼女は急いでフライパンを見つけ出し、部屋を後にした。彼女がタクシーに乗り込むと、運転手が別の男になっていた。男は拳銃を向けてテリーを脅し、車を発進させる。テリーはフライパンで男を殴り付け、ドアを開けて脱出した。タクシーは事故を起こし、テリーはその場から逃亡した。
帰宅したテリーは、フライパンにカールソン、リンカン、ケイン、バンミーターという4人の名前と電話番号が書いているのを見つけた。テリーはバンミーターに電話を掛け、会う約束を取り付けた。指定の場所へ出向いたテリーは、バンミーターに事情を説明した。そこへ殺し屋が現れ、バンミーターはテリーを逃がして射殺された。テリーは警察署で事件を説明するが、刑事は全く信じなかった。ポケットに名刺が入っていたのでマーティーが身柄引き受け人として呼び出され、テリーを連れて警察署を去った。
殺人事件は全く報道されず、バンミーターは心臓発作による急死として処理されていた。テリーが葬儀の場へ出向くと、ジェレミーの姿があった。ジェレミーが早々に去った後、テリーはカールソンの妻であるリズから声を掛けられる。彼女は「主人はジャックと一緒にいるはずよ」と言い、協力を約束した。車椅子で通り過ぎた男がリンカンだと知ったテリーは慌てて追い掛けるが、彼は車で走り去った。リズはテリーを自宅に招き、「きっとKGBがパスワードを知りたがっているのよ」と話した。
テリーはジャックと交信し、「ケインとは連絡が付かない。リンカンは非協力的。カールソンは貴方と一緒にいると奥さんが言ってる」と伝える。ジャックは「彼とは別れた。帰国したと思っていた」と返し、また領事館へ行って国外脱出を助けてくれる者の名を調べてほしいと頼む。テリーが女性だと知ったジャックは、「連絡員を変えよう。危険すぎる」と送る。テリーは反発し、変装して領事館のパーティーに潜入した。サラという女性と遭遇したテリーはジャックの部屋に飾ってあった写真の人物だと気付く。テリーが怪しまれていると、リズが来て上手く誤魔化した。リズはテリーに、サラがジャックの恋人だったが貴族のマルコム卿と結婚したことを教えた。
テリーが3階へ行きたいと言うと、リズは協力してくれた。テリーは警備の目を盗んでコンピュータ室へ忍び込み、電算機に細工を施した。彼女がアパートに戻ると玄関のドアが開いており、部屋は激しく荒らされていた。そこへマーティーが現れ、「身柄引き受け人として何度も電話したんだぞ」とと言う。説明を求めるマーティーを追い払い、テリーはジャックと交信して作戦の成功を伝えた。しかし電算機が作動を開始した直後、コンピュータ室に来たタルボットが電源を切った。
ジャックは出国不能になるが、テリーは「何か方法があるはず」と送信する。彼女リズの邸宅を訪ねるが誰もおらず、空き家になっていた。そこへリンカンと部下が現れ、車に乗るよう促した。テリーが車に乗って質問すると、リンカンはリズの家族を別の場所に移したこと、カールソンが死んだことを話す。「ジャックのことは放っておくの?」とテリーが抗議すると、彼は「スパイは最初から犠牲になることを覚悟している。君は舞台を降りた方がいい」と告げた。
テリーはサラに協力してもらおうと考え、素性を偽って電話ボックスから彼女の自宅へ電話を掛けた。美容院にいることを聞いたテリーだが、殺し屋がレッカー車で電話ボックスごと連れ去ろうとする。レッカー車はカーブを曲がる際、電話ボックスを落とした。パトカーが駆け付けたのでテリーは助けを求め、殺し屋を捕まえるよう頼む。しかしパトカーに乗っていたのは警官に化けた殺し屋で、彼女に自白剤を注射する。テリーは殺し屋を撃退し、サラのいるアーデン美容院へ向かった…。

監督はペニー・マーシャル、原案はデヴィッド・H・フランゾーニ、脚本はデヴィッド・H・フランゾーニ&J・W・メルヴィル&パトリシア・アーヴィング&クリストファー・トンプソン、製作はローレンス・ゴードン&ジョエル・シルヴァー、製作協力はリチャード・マークス&ジョージ・バウアーズ、撮影はマシュー・F・レオネッティー、美術はロバート・ボイル、編集はマーク・ゴールドブラット、衣装はスーザン・ベッカー、音楽はトーマス・ニューマン。
出演はウーピー・ゴールドバーグ、スティーブン・コリンズ、ジョン・ウッド、キャロル・ケイン、アニー・ポッツ、ピーター・マイケル・ゴーツ、ロスコー・リー・ブラウン、サラ・ボッツフォード、ジェローン・クラッペ、ヴィトー・ルギニス、ジョナサン・プライス、トニー・ヘンドラ、ジョン・ロヴィッツ、フィル・E・ハートマン、リン・マリー・スチュワート、レン・ウッズ、トレイシー・レイナー、チノ・ファッツ・ウィリアムズ、ジム・ベルーシ、パクストン・ホワイトヘッド、ジューン・チャドウィック、トレイシー・ウルマン、ジェフ・ジョセフ、キャロライン・ダクロック他。


TVドラマ『ラバーン&シャーリー』にラバーン役でレギュラー出演していたペニー・マーシャルの、映画監督デビュー作。
脚本を担当した面々の内、J・W・メルヴィル&パトリシア・アーヴィングは『ペーパー・ファミリー』を手掛けたチャールズ・シャイアとナンシー・マイヤーズの変名。
テリーをウーピー・ゴールドバーグ、マーティーをスティーブン・コリンズ、タルボットをジョン・ウッド、シンシアをキャロル・ケイン、リズをアニー・ポッツ、ペイジをピーター・マイケル・ゴーツ、リンカーンをロスコー・リー・ブラウンが演じている。
ジャック役でジョナサン・プライス、修理工に化けた殺し屋役でジム・ベルーシが出演している。

ジャックは銀行のコンピュータにメッセージを送り、応答を要請する。でも彼は「危険だから」ってことで、詳しいことを話そうとしない。
そこでテリーが「暗号入力にしてパスワードを」と持ち掛けるのだが、それって本来はジャック側から求めることじゃないのか。
自分から助けを求めておいて「これ以上は危険だから言えない」って、そうなると応答した相手は何も出来ないでしょ。
たまたまテリーから「暗号入力でパスワードを」と持ち掛けたから先に進んだけど、そういう提案が無かったらジャックはどうする気だったのか。

あと、ジャックはパスワードを教えようとせず「歌ってキーを探そう」と言うけど、そのクイズは何のつもりなのかと。
繰り返しになるが、自分から助けを求めておいて、なんで謎解きを要求してんだよ。
しかも、その表現だと、ちょっと楽しんでいる感じもあるし。実際は切羽詰まっていて必死のはずなのに、そういう切迫感は全く伝わらない。
コメディー・タッチで進めようとしているんだろうけど、「それはそれ」だからね。

そもそも、暗号入力にしている意味も全く無いしね。
最初にテリーが応答した時点で、そのままジャックが「こういうことをやってくれ」と依頼する流れにしちゃっても全く支障は無い。
「謎を解いて答えを入力する」という手順が、映画を面白くする効果としては全く貢献していない。
あと、「たまたまテリーがザ・ローリンズ・ストーンのファンで曲のテープを持っていた」という偶然は置いておくとしても、彼女の能力にジャックが頼り過ぎているのよね。

相手が何者か全く分からず、おまけに謎のメッセージまで託されたのに、テリーは全く迷わず英国領事館へ出向いている。「好奇心旺盛な人物」か、あるいは「お人好しな人物」ということなんだろう。
ただ、どっちにしても、それを充分にアピールできているとは言えない。また、「ド素人が国際的な陰謀に巻き込まれる」というサスペンスとしての吸引力も弱い。
しかも「ズブのド素人が巨悪を相手に奮闘」というトコに面白味があるはずなのに、途中でリズという協力者の存在がデカくなっちゃってんのよね。
リズも旦那はCIAだけど本人は素人なわけで、そんな素人のおかげでテリーが助かるということが繰り返されると、テリーの「素人」としての意味が薄れる。協力者を配置するにしても、何かしらのプロにした方がいい。
まあホントはテリーだけで頑張る方がいいと思うけど。

テリーがジャックの部屋でノンビリしていると、玄関のドアが閉まる。ドアの内側には、室内のテリーを撮った写真が貼り付けてある。つまり侵入者がテリーを撮影し、その写真をドアに貼って立ち去ったということだ。
そんな行動を取る理由がサッパリ分からない。
その男はタクシーで待ち受けているが、運転手を始末しておかないと「事件があった」と露呈するリスクがある。なのでプロなら運転手も始末すべきだと思うが、そこは判然としない。
っていうか、1人で待ち受け、タクシーにテリーを乗せて運転している時点で杜撰だよね。それだとテリーの動きを封じられない状況で、背中を向けて両手は塞がっているわけで、すんげえ不用意でしょ。なぜ2人で行動しないのか。
そもそもタクシーで待つんじゃなくて、部屋へ乗り込んだ時にテリーを捕まえればいいだけのことでしょ。

テリーがバンミーターと接触すると、殺し屋が現れる。殺し屋はバンミーターを始末するが、テリーは逃げ延びる。
この時も、殺し屋は1人しか現れない。そしてテリーがバンミーターに突き落とされた海も、ろくに調べず立ち去る。
こいつも行動がヌルすぎる。
あと、ここで殺し屋が迷わず発砲するってことは、テリーも死ぬ可能性があるのよ。だけど、彼女からパスワードを聞き出そうとしているんでしょ。
それを考えると、彼女も犠牲になるリスクのある行動は避けなきゃダメだろうに。

テリーは領事館のパーティーに侵入しようとするが、招待状を持っていない。どうするのかと思ったら、受付で「私は歌手よ」と言い出す。隠しておいたカセットテープの歌を再生して口パクを始めると、なぜか会場に入れてしまう。
メチャクチャな展開だが、それが問題なのではなく「統一感が無い」ってことが問題なのだ。
それをOKにするのなら、どのシーンでも同様のデタラメを喜劇として描くべきなのだ。
でも、その場その場で基準がバラバラだから、喜劇としてのリズムが悪くなってスウィング感が弱いのだ。

領事館のコンピュータ室に潜入したテリーは、シュレッダーにドレスが挟まってしまう。ドレスがどんどん裁断されてしまい、彼女は必死になって引き抜く。
この説明を読んだだけで分かるだろうけど、ここは完全なる喜劇として描かれている。サスペンスではあるが、喜劇としてのテイストを多く含んでいる。
でも、そうやって喜劇としてのネタを用意しているシーンが少ないのよね。
テリーが殺し屋に狙われるシーンなんかは彼女が騒ぎまくっているだけで、それ以外は普通のサスペンスなのよ。

テリーを始末しようとする連中は、あまり派手に動きたくないはずだよね。それにしては白昼堂々と、電話ボックスごとテリーを連れ去る。パトカーで駆け付けた殺し屋も、堂々と自白剤を打ってテリーを脅す。
それは大勢の目撃者がいる中での犯行だし、どう考えても目立ちすぎるだろ。
派手なアクションシーンで話を盛り上げたい、観客を引き付けたいという気持ちは分からんでもないけど、それによって敵の行動がデタラメになりすぎちゃダメでしょ。ある程度は許容できても、それはバランスを崩しすぎている。
あとさ、喜劇として作っているはずなんだから、見栄えのするアクションばかりに頼らず、もっとコメディーのネタにも頼ろうぜ。

(観賞日:2020年5月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会