『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』:2018、イギリス&フランス&アメリカ

MI-7、英国秘密情報部。夜勤のエージェントがスマホのゲームに没頭していると、突如としてコンピュータがサイバー攻撃を受けた。MI-7部長のペガサスは英国首相の元へ行き、全エージェントの情報が漏洩したことを報告した。ロンドンで開かれるG-12サミットは1週間後に迫っており、首相は一刻も早く犯人を突き止めて事件を解決するようペガサスに命じる。情報が漏れていないのは引退したエージェントだけだが、首相は年寄りを呼び戻すよう指示した。
ジョニー・イングリッシュはエージェントを引退した後、小学校の地理教師に転職していた。彼は生徒に地理を教えることより、スパイの知識を教えることに力を入れていた。ジョニーは校長に内緒で、子供たちにスパイのトレーニングを積ませていた。MI-7からの手紙を受け取ったジョニーは、本部へ赴いた。引退したエージェントの多くは復帰できない状況にあり、候補はジョニーの他にエージェント7、9、5の3名だけだった。
ジョニーたちは一室に集められ、秘書のレスリーから秘密保持の書類にサインするよう指示された。ジョニーは万年筆に仕込まれた催眠弾を誤って作動させてしまい、他の3人は眠りに落ちた。事情を知らないペガサスは、ジョニーに任せることにした。ジョニーは元相棒のボフと再会し、秘密道具担当のPから支給品を見せられる。スマホと拳銃を手に入れたジョニーは、既に過去の遺物となっていた車を使うことにした。ジョニーが用意してもらった支給品には、緑色の超速効のスーパー精力剤や赤色の速効睡眠薬、噛むと頭が吹っ飛ぶゼリーなどが含まれていた。
ジョニーはボフを引き連れ、攻撃元であるアンティーブ岬のホテル・マグニフィークへ移動した。ホテルに着いた2人は、本部から客に関する情報のファックスを受け取った。ボフはジョニーに、セバスチャン・リンチという情報屋が怪しいことを教えた。レストランで夕食を取るリンチに接近するため、ジョニーとボフは給仕に変装した。ジョニーは隙を見てリンチのスマホを盗もうとするが、なかなか成功しない。海老のフランベを頼まれたジョニーは失敗して目立ってしまうが、リンチが彼を見ている間にボフがスマホを盗んだ。サイバー攻撃と同じ日に撮影されたスナップを見たジョニーとボフは、、ドット・カーム号という船が写っていることに注目した。
ロンドンでは首相がパソコンを開き、IT長者のジェイソン・ヴォルタの映像を見ていた。ヴォルタは「ビッグデータを活用して途上国が先進国になれる」と演説し、自社で開発した新システムのザンダーを紹介した。首相はヴォルタと組みたいと考え、官邸に呼ぶよう秘書に指示した。ジョニーは誤ってレストランで火事を起こしてしまい、ボフと共に逃げ出した。2人は深夜を待ってドット・カーム号に潜入するが、オフィーリアという女に見つかってしまった。
ジョニーとボフは船内の倉庫に監禁されるが、ドアを爆破して脱出する。彼らは送信機を取り付け、甲板に出た。オフィーリアが来て拳銃を向けると、ジョニーは「本気なら、とっくに殺してただろ?」と指摘した。オフィーリアは拳銃を下ろし、ジョニーとボフは船から逃げ出した。ボフはジョニーに、海軍で原子力潜水艦の艦長をしているリディアと結婚したことを明かした。オフィーリアが鍵を握る人物だと考えたジョニーとボフは、電気自動車で移動する彼女を尾行した。
オフィーリアはジョニーたちの動きを見抜いており、ボスに「食い付いたわ」と報告した。ジョニーは自転車の集団を催眠弾で蹴散らすが、ガス欠で車が停まってしまった。オフィーリアはジョニーに声を掛け、ホテルのレストランで酒を飲む約束を交わした。首相はペガサスから、サイバー攻撃で交通管制がやられてロンドン中の信号が全て赤になっていることを知らされる。ヴォルタと合った首相は「ロンドンは渋滞が酷い」と言われ、信号に問題が起きていることを釈明する。ヴォルタは「見てみましょうか」と提案し、ザンダーを使って簡単にシステムを復旧させた。
ホテルに着いたジョニーは、ボフから「1人が彼女の相手、1人が部屋を探る」と言われる。ジョニーは「名案だ」と告げ、オフィーリアの元へ向かう。オフィーリアは少し話しただけで、すぐにレストランを去った。ボフはジョニーの元へ戻り、彼女の部屋にルーマニア、ブルガリア、ロシアのパスポートが別名義で置いてあったことを知らせた。さらに彼は、絞殺用ワイヤーと銃弾があったことも付け加える。ボフはオフィーリアがスパイだと確信するが、彼女に惚れたジョニーは一笑に付した。
ロシアのスパイであるオフィーリアは、モスクワの本部と連絡を取った。彼女はジョニーに関するデータが何も無いことを知らされ、すぐ始末するよう命じられた。深夜、オフィーリアは部屋を抜け出し、拳銃を用意してジョニーの抹殺に向かった。なかな寝付けないジョニーは赤色の速効睡眠薬に頼ろうとするが、間違ってスーパー精力剤を服用してしまった。部屋に忍び込んだオフィーリアは、ジョニーが勢いよく開けたドアに頭をぶつけて気絶した。
ジョニーはクラブへ行き、楽しく踊り出す。意識を取り戻したオフィーリアは狙撃しようとするが、ジョニーが動き続けているので焦点が合わなかった。狙撃を諦めた彼女はジョニーに近付き、ワイヤーで絞め殺そうとする。しかしジョニーが踊っている流れで背負い投げを浴びせたため、オフィーリアの仕事は失敗に終わった。朝まで踊り続けたジョニーの元へボフが来て、船主がヴォルタと判明したことを伝える。ジョニーは車を飛ばし、ロンドンへ戻った。
ペガサスと会った彼は、犯人がヴォルタだと告げる。「彼は首相の救世主だぞ。証拠は?」と言われたジョニーは、証拠を探すために屋敷へ潜入することを希望した。ペガサスが許可すると、ボフはPが作った屋敷内部の3D画像をVRで疑似体験するようジョニーに告げる。ボフとPが席を外している間にゴーグルを装着したジョニーは、そのまま本部の外へ出てしまった。VRの世界に入り込んだ彼は、敵と戦っているように思い込んで市民を次々に攻撃した。まるで気付かないまま、ジョニーは本部に戻った。
首相から連絡を受けたヴォルタはホログラムで面会し、国のセキュリティーを担う要請について返事を求められた。ヴォルタが「英国はインフラが古すぎる。安全確保には全データをウチのサーバーに移行しないと」と語ると、首相は「貴方との提携をG-12で発表したい」と告げた。ジョニーはヴォルタの屋敷に潜入し、オフィーリアと遭遇する。オフィーリアはジョニーに拳銃を突き付け、「覆面捜査を初めて2年よ。邪魔は困る」と脅す。2人は一時休戦を約束し、手を組むことにした。
サイバー攻撃の標的を選ぶヴォルタの姿を覗き見たジョニーは、オフィーリアの携帯を借りて撮影しようとする。ジョニーが誤って音楽を流したので、オフィーリアは彼に拳銃を突き付けてヴォルタの前に出て行く。彼女は「2階を嗅ぎ回ってた」と言い、ヴォルタはジョニーに手錠を掛けた。ジョニーは「外に精鋭部隊が待機してる」と嘘をつくが、ヴォルタはボフが番犬に追われて逃げ出す映像をモニターに出した。ジョニーは隙を見て逃走し、通り掛かった教習所の車に乗り込。車を降りる時、彼は誤って生徒の携帯を持ち去った。
ジョニーは首相とペガサスにヴォルタが犯人だと報告するが、まるで信じてもらえなかった。彼は証拠として携帯の動画を見せようとするが、ヴォルタと無関係の内容だった。首相はジョニーが起こした問題行動の数々を指摘し、クビを通告した。ボフは落胆して去ろうとするジョニーを呼び止め、「名案があります」と告げる。ジョニーはリディアが艦長を務める潜水艦に乗り、スコットランドのネヴィス湖を進んでサミット会場のガロッホ城へ向かう。ジョニーはヴォルタを捕まえるため、ボフと共に城へ潜入した…。

監督はデヴィッド・カー、脚本はウィリアム・デイヴィス、製作はティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&クリス・クラーク、製作総指揮はライザ・チェイシン&ウィリアム・デイヴィス、共同製作はアンドリュー・ウォーレン、撮影はフロリアン・ホーフマイスター、美術はサイモン・ボウルズ、編集はマーク・エヴァーソン、衣装はアニー・ハーディンジ、音楽はハワード・グッドオール、音楽監修はニック・エンジェル。
出演はローワン・アトキンソン、エマ・トンプソン、ベン・ミラー、オルガ・キュリレンコ、ジェイク・レイシー、マシュー・ビアード、アダム・ジェームズ、チャールズ・ダンス、エドワード・フォックス、マイケル・ガンボン、ヴィッキー・ペッパーダイン、ロジャー・バークレー、ポーリーン・マクリン、ノア・スピアーズ、ケンドラ・メイ、ピッパ・ベネット=ワーナー、アミット・シャー、ケヴィン・エルドン、ガス・ブラウン、イレーナ・タイシャイナ、ミランダ・ヘネシー、ジャック・フォックス、マリア・パヴェリン、アラン・エミリーズ、ニール・エドモンド他。


『ジョニー・イングリッシュ』シリーズ第3作。
監督はTVドラマ『フレッシュ・ミート』『インサイド No.9』のデヴィッド・カーで、これが劇場映画デビュー作。脚本は『ジョニー・イングリッシュ』『ヒックとドラゴン』のウィリアム・デイヴィス。
3作連続での出演は、ジョニー役のローワン・アトキンソンのみ。ボフ役のベン・ミラーは1作目からの復帰。
首相をエマ・トンプソン、オフィーリアをオルガ・キュリレンコ、ヴォルタをジェイク・レイシー、Pをマシュー・ビアード、ペガサスをアダム・ジェームズが演じている。7役でチャールズ・ダンス、9役でエドワード・フォックス、5役でマイケル・ガンボンが出演している。

導入部では、ジョニーが子供たちにスパイのトレーニングを積ませている様子が描かれる。
もちろん現役時代のジョニーはお世辞にも優秀なスパイとは言えなかった男なので、そこでもバカなヘマをやらかしている。
ただ、「決して有能な先生ではない」ってことは置いておくとして、そういうシーンを見せられると「だったら、そこで話を膨らませればいいのに」と思っちゃうんだよね。
どういうことかって言うと、ようするに「引退したジョニーが子供たちにスパイの技術を教える先生になった」というトコで物語を構築すればいいんじゃないかと。ジョニーと小学生の子供たちの交流を軸にして、喜劇を描けばいいんじゃないかと。

「子供が相手だと喜劇としてヌルくなっちゃうんじゃないか」と思うかもしれないが、そんな心配は要らない。
それは、「ハリウッド映画ならヌルくなるかもしれないけど、イギリス映画だから大丈夫」ってことではない。そもそも幼稚な笑いに満ち溢れているシリーズなので、子供が相手でも全く影響は無いのだ。
「ジョニーは自信満々で子供たちに指導し、ヘマをしても落ち着き払って屁理屈をこね、それが正解のように説明する」ってな感じで描けば、喜劇としての方向性は明確になるし。で、学校絡みで何か大きな事件が起きて、ジョニーと子供たちが解決するために行動する展開にでもすればいいんじゃないかと。
今さらボフとのコンビを復活させるよりは、そっちの方が引き付ける力がありそうなんだよね。

「これまでの2作と路線が違いすぎないか」ってのが問題ではあるけど、ジョニーと生徒たちが楽しそうにスパイの訓練を積んでいる様子を見ていると、こっちも何となく楽しい気分にさせられるんだよね。
ジョニーはオツムがガキンチョなので、ちょっと大人びた子供でも登場させて交流させれば何かドラマが生まれそうだし。
どうせ「なんでわざわざ3作目を作ったのかねえ」と首をかしげてしまうシリーズなんだし、そこで大きな路線変更があっても別に構わないんじゃないかと。

大まかに言っちゃうと、今回のジョニーがやっていることは今までの2作と同じなんだよね。
偉大なるマンネリズムが歓迎されるタイプの作品もあるだろうけど、この映画がそれに該当するようには思えないわけで。
だからこそ、彼が行動する舞台や関わる面々の種類を大きく変えることで、そこにハッキリとした違いを生み出せるんじゃないかと。
「ジョニー・イングリッシュが登場するだけで満足できる」って人が、そんなに大勢いるとは思えないしね。前作だって、決して評価が高かったわけじゃないんだし。

「アナログの逆襲」ってのは原題から離れた日本語サブタイトルだが、内容からはそんなに大きく離れていない。
ジョニーは昔ながらのスパイ道具を欲しがり、スマホから何か武器が出ることを期待する。
Pが「何も発射しません。電話ですから」と一蹴すると、ペガサスが慌てて「ITを駆使する相手だからこそ、アナログで対抗した方が発見されにくい」と語る。
つまり、「時代遅れのアナログなジョニーが、最先端のデジタル犯罪者と戦う」という図式にしているわけだ。

だけど、そもそも最先端のスパイがどういうモノなのかを描いていないから、「それと比較してジョニーの場合は」というトコでの面白さは出ていないんだよね。
ただジョニーがスパイ道具を使って行動する様子だけを描かれたところで、それだと「今までと同じジョニー・イングリッシュ」を見せられているだけであって。
そういうのを「時代遅れのロートル」として描き、最先端のスパイを登場させてこそ、ジョニーの特異性が伝わるわけで。
その上で「そんな時代遅れのジョニーが、アナログに道具でハイテク犯罪に対抗する」ってのを描いていかないと、この映画が用意している図式の面白さは充分に発揮されないでしょ。

オフィーリアはロシアのスパイなので、それが判明するとジョニーとは「最先端のスパイ」としての対比を描ける状況になる。
でも、そこを掘り下げていく方向性は全く見えない。
また、ヴォルタはハイテク産業のトップなので、ここで「デジタルとアナログ」の対比を描くことも可能だ。しかし、ここも充分に使っているとは到底言えない。
そういうトコで大きな特徴やセールスポイントを出せていないので、ますます「今までと一緒」という印象が強くなっている。

出演者の顔触れを見ると、エマ・トンプソン、元ボンドガールのオルガ・キュリレンコ、チャールズ・ダンス、エドワード・フォックス、マイケル・ガンボンと、無駄に豪華なんだよね。だから、そこを最大限に活用してセールスポイントにするってのも1つのやり方ではある。
どういうことかと言うと、「大物俳優が出ています」ってのをアピールして、その人にバカをやらせることを売りにするという方法だ。
でもチャールズ・ダンス、エドワード・フォックス、マイケル・ガンボンは1シーンで退場してしまうし、エマ・トンプソンとオルガ・キュリレンコのギャグへの参加も中途半端なんだよね。
「ローワン・アトキンソンのスター映画であり、ジョニーだけが目立てばいい」ということなのかもしれないけど、それでは明らかに力不足なんだよね。

(観賞日:2020年7月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会