『ジョニー・イングリッシュ』:2003、イギリス&アメリカ&フランス

ジョニー・イングリッシュは英国秘密諜報局(MI7)の有能なエージェントとして深夜の屋敷に潜入し、拳銃を構えて待ち受けていた美女をクールに口説いてキスを交わす。だが、それは彼が仕事中に膨らませていた妄想に過ぎない。実際の彼は、ただの事務職に過ぎない。部下のボフに声を掛けられて我に返ったイングリッシュの元へ、スパイとして活動するエージェント1号がやって来た。イングリッシュは指令書を渡し、「潜水艦のハッチの暗号は私が調べました」と自信たっぷりに告げた。
潜水艦のハッチが開かなかったため、エージェント1号が命を落とした。スパイ仲間が参列する葬儀の警備を、イングリッシュとボフが任された。安全対策に自信満々のイングリッシュだったが、仕掛けられた爆弾によってMI7のスパイは全滅した。MI7局長のペガサスは首相から「1号が掴んだ情報を見つけろ。他のエージェントを使え」と言われ、「全員死にました」と告げた。生き残ったのがイングリッシュだけだったので、彼はスパイとしてのIDを与えられた。
ペガサスはイングリッシュに、1号が戴冠用宝玉の強奪計画を察知していたことを告げる。宝玉はスポンサーの援助で巨費を投じた修復を終え、ロンドン塔で公開されることになっている。スポンサーはフランス人実業家のパスカル・ソヴァージュで、彼は400以上の刑務所を経営している。イングリッシュはお披露目会の警備を命じられ、ボフを伴ってロンドン塔へ向かった。彼はスナイパーを各地に配置し、窓を防弾ガラスに交換した。
イングリッシュはローナ・キャンベルという女性に目を奪われ、声を掛けた。会場へ来た用件を訊くと、ローナは宝石の修復師だと告げた。ソヴァージュが挨拶している最中、急に停電が起きた。イングリッシュは誤って王室警備長官のシェヴェニクス大佐を殴り倒してしまい、慌てて誤魔化そうとする。招待客がイングリッシュに注目している間に、ローナは会場から姿を消した。ケースに展示されていた宝玉は、いつの間にか無くなっていた。
イングリッシュが賊に襲われたと嘘をついたので、ペガサスはデータ支援局のロジャーを呼んでモンタージュを作る。イングリッシュはデタラメな特徴を並べ立てるが、出来上がったモンタージュを見て「間違いありません」と告げた。ロンドン塔へ戻ったイングリッシュとボフは、展示ケースの下に穴が掘られているのを目にした。穴に入った2人は、真っ暗な地下通路を進む。通風孔から地上へ出た彼らは、宝玉を盗んだカルロス・ヴェンデッタとディーター・クラインを発見した。
ヴェンデッタたちは霊柩車で逃亡し、イングリッシュとボフは走って後を追う。ローナもバイクで霊柩車を追跡していた。イングリッシュは愛車のアストン・マーチンを停めた場所に辿り着くが、レッカー車で移動されそうになっていた。イングリッシュはレッカー車を奪い、霊柩車を追う。イングリッシュはボフに運転を任せ、自分はアストン・マーチンに乗り込んだ。レッカー車からアストン・マーチンを降ろすタイミングを逸している内に、霊柩車は走り去った。
ようやくアストン・マーチンで走り出したイングリッシュは、霊柩車を見つけて墓地に乗り込み、葬儀に参列している面々を逮捕しようとする。だが、彼らは本当に葬儀を行っていただけだった。そこにボフが駆け付け、「彼は精神病の患者なんです」と誤魔化して、その場をやり過ごした。その頃、ソヴァージュはヴェンデッタたちが運んで来た宝玉を見て、浮かれていた。200年前、彼の一族の党首はイギリス国王の座に就くはずだったが無視された。そこで彼は宝玉を手に入れ、自分がイギリス国王になろうと目論んでいたのだ。
戴冠式にはカンタベリー大司教の認証が必要だが、ソヴァージュは手はずを整えていた。大司教の顔を模ったマスクを作成していたのだ。ヴェンデッタたちがイングリッシュのことを気にすると、ソヴァージュは「アホだから心配は無い」と軽く言う。「まとわりついて邪魔です」とヴェンデッタたちが言うと、ソヴァージュは始末するよう指示した。イングリッシュはペガサスに、実行犯のヴェンデッタたちがソヴァージュの部下だと語る。彼はソヴァージュが黒幕だと告げるが、ペガサスは信じず、捜査対象から外せと命じた。
イングリッシュはペガサスの指示に従わず、ソヴァージュの本拠地へ乗り込むことにした。イングリッシュは駐車場でヴェンデッタの襲撃を受け、上の階へ移動した彼を捕まえようとする。だが、またヘマをやらかし、逃げられてしまった。イングリッシュは寿司バーでローナと会い、「君の経歴が政府のデータに無い」と言う。ローナの正体を知りたがるイングリッシュだが、彼女は「ちょっと失礼」と席を外し、そのまま店を出てバイクで走り去ってしまった。
その夜、イングリッシュとボフは輸送機に乗り込み、ソヴァージュの本拠地であるビルへ向かう。先にボフがパラシュートて降下し、ビルに潜入した。後からイングリッシュが降下し、建物の奥へ進む。だが、彼は間違えて隣の病院に侵入していた。本拠地ビルへ移動したイングリッシュはボフと合流し、研究員たちが一人の男に大司教のマスクを被せている現場を目撃した。奥の部屋に入った彼らは誤ってモニターを作動させてしまい、ソヴァージュが王座に就こうとしていることを知った。
イングリッシュはクラインに拳銃を突き付け、自白剤を投与して情報を聞き出そうとする。しかし誤って筋肉を麻痺させる薬を投与した上、自分にも注射してしまう。そこへ警備員2名が駆け付けるが、ローナが昏倒させた。彼女は国際警察の特別捜査官で、ソヴァージュを監視していたのだ。イングリッシュは薬の効果が抜けないまま、ビルで開かれている歓迎会のパーティーに潜り込んだ。ローナが何とかフォローするが、クラインがソヴァージュに報告を入れていた。
ソヴァージュは歓迎会の会場に来ていたペガサスに声を掛け、イングリッシュがオフィスへ侵入して部下に暴行を加えたので困っていると話す。ペガサスはイングリッシュを叱責し、ライセンスを取り上げて3ヶ月の停職処分を下した。イングリッシュは落ち込み、部屋に引き篭もってしまった。一方、ソヴァージュは計画を変更して偽者の大司教を始末し、ヴェンデッタたちを女王の宮殿へ乗り込ませた。脅しを受けた女王は、その座と王家の権利を放棄する契約書に署名した。女王が退位したため、ソヴァージュの思惑通り、彼は正当な王位継承者を調べた首相から国王になることを要請される…。

監督はピーター・ハウイット、脚本はニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド&ウィリアム・デイヴィス、製作はティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー&マーク・ハッファム、共同製作はデブラ・ヘイワード&ライザ・チェイシン&ジョー・バーン、製作協力はクリス・クラーク、撮影はレミ・アデファラシン、編集はロビン・セールス、美術はクリス・シーガーズ、衣装はジル・テイラー、視覚効果監修はピーター・チャン、音楽はエドワード・シェアマー、音楽監修はニック・エンジェル、タイトル曲歌唱はロビー・ウィリアムズ。
主演はローワン・アトキンソン、共演はナタリー・インブルーリア、ベン・ミラー、ジョン・マルコヴィッチ、ティム・ピゴット=スミス、ケヴィン・マクナリー、オリヴァー・フォード・デイヴィス、ダグラス・マクフェラン、スティーヴ・ニコルソン、グレッグ・ワイズ、ニーナ・ヤング、ローランド・デイヴィス、ティム・バーリントン、ターシャ・デ・ヴァスコンセロス、サム・ビーズリー、ケヴィン・ムーア、マーク・ダンバリー、ネヴィル・フィリップス、マーティン・ロートン、フィリッパ・フォーダム、ボンド他。


『スライディング・ドア』『サベイランス -監視-』のピーター・ハウイットが監督を務めた作品。
イングリッシュをローワン・アトキンソン、ローナをナタリー・インブルーリア、ボフをベン・ミラー、ソヴァージュをジョン・マルコヴィッチ、ペガサスをティム・ピゴット=スミス、首相をケヴィン・マクナリー、大司教をオリヴァー・フォード・デイヴィス、ヴェンデッタをダグラス・マクフェラン、クラインをスティーヴ・ニコルソン、1号をグレッグ・ワイズが演じている。

インテリが喜劇を演じる時の悪い癖が出てしまったのか、「やり過ぎている」と感じたのよね。
この映画のテイストやジョニーのキャラを考えると、「本人はクールに決めているつもりだが、ことごとくズレている」「本人は真剣にやっているつもりなのに、結果としてはヘマばかり」という形にすべきだと思うのだ。ところが実際には、「おバカなキャラを演じてますよ」「ここは笑うポイントですよ」という表情や仕草がクドいのだ。
ミスター・ビーンならともかく、ジョニー・イングリッシュに顔芸は要らないんじゃないかと。顔芸をやるとすれば、むしろ「スカした顔でバカをやる」という類の顔芸にした方がいい。
イングリッシュは凄腕スパイに憧れており、妄想の中では自分が凄腕スパイとして活躍している自信過剰な奴なんだから、「本人はすっかりその気」ということでいいんじゃないかと。「失敗しても気付かない」とか、もしくは「失敗しても失敗じゃないかのように淡々と対処する」とか、そういうことでいいんじゃないかと。

お披露目会で停電になった時、イングリッシュは誤って王室警備長官のシェヴェニクス大佐を殴り倒してしまい、オロオロする。
出席者の前で「賊の仕業だ」と嘘をつき、奥の部屋に入ると異常者に襲われている一人芝居をする。
それは喜劇の作り方として、大きく間違った方程式を使っているわけではない。合っていることは合っている。
ただ、その方程式を使うこと自体が、どうだったのかなと。

イングリッシュが霊柩車を追って葬儀の場に乗り込むシーンでは、もう乗り込んで「逮捕する」と自信満々に言い放った時点で、間違えていることは分かっている。
で、分かった上で、イングリッシュが勘違いしたまま、死を悼んでいる人々に対して失礼な態度を取りまくる様子を描いて、それで笑わせようとしているわけだ。
笑いの作り方としては、間違えているわけじゃない。
ただ、駆け付けたボフに「彼は精神病の患者なんです。さあ帰ろう」とフォローしてもらい、それに合わせて患者の芝居をするってのは、ジョニー・イングリッシュというキャラの動かし方として、果たしてどうだったのかなと。

いや、もちろん「そういうキャラクターとして最初から造形しており、その設定に従って動かしているのだ」ということは分かるのよ。
キャラクター設定とズレた動かし方をさせているわけじゃないってことはね。
でも、ヘマをやらかす度にアタフタしたり、美女を見つけると警備そっちのけでフラフラと追い掛けたりという動かし方をすると、どうしてもMr.ビーンを連想してしまうんだよなあ。
まあ、その辺りは「こっちが求めたキャラやテイストと違っていた」というだけだから、ホントにチョー勝手な意見なんだけどね。

で、そんな風にヘマばかり繰り返しているイングリッシュだが、「カルロスを使っているパスカルが事件の黒幕」ということは簡単に突き止める。それに対してペガサスは「そんなことは無いから捜査対象から外せ」と命じる。
ここはキャラクターの動かし方が違うでしょ。
イングリッシュをアホな奴にするのなら、黒幕を簡単に言い当てちゃダメだわ。
仮に突き止めるにしても、その根拠は見当外れなモノにしておくべきだわ。で、「見当外れだからペガサスは信じないが、でも根拠はともかく犯人の正体だけは正解だった」ということにしておくべきだ。

基本的には、「イングリッシュが得意げに仕事をするが失敗し、アタフタする」「失敗をやらかし、それを取り繕って誤魔化す」というパターンで笑いを取りに行っているのだが、同じパターンばかりが続くと、オチへの流れが予測できてしまう。
吉本新喜劇みたいな感じじゃないから、予定調和が笑えるわけではないんだよな。
イングリッシュが寿司バーでローナと日本酒を飲む時に、日本語で「キミノムスメサンタチニ、チイサイチンチンがツイテマスヨウニ」と言うようなパターンを外れたネタが飛び込んで来ると、そういうのは予想外で笑えるんだけどね(っていうか正直、笑えたのはそれぐらいだ)。
パスカルの本拠地へ乗り込むシーンでも、先に「これがパスカルの本拠地で、隣は病院」と、なぜかソックリな形のビルが並んでいるのを先に見せるので、先にボフが本拠地のビルへ乗り込み、次にイングリッシュがパラシュートで降下した段階で、「ああ、イングリッシュは間違えて病院の方へ行ってしまうんだな」ってことがバレバレになっている。
そして、それが分かった上で「イングリッシュは本拠地だと思っていたけど、そこは病院だった」というオチを見せられても、もう笑えないのよ。

イングリッシュは実験室や神経科という表示を見ても間違いに気付かず、「奴は何かの実験をしている」と言う。
注射を打たれた患者を発見し、実験台に使われたと思い込んで連れ出そうとする。
医者や職員たちに拳銃を構え、「ボスの元へ案内しろ」と言い放つ。
で、そこで窓の外を見て、ようやく間違いに気付くんだけど、勘違いしたまま行動するイングリッシュの様子を描かれても、「そこを掘っても何も出て来ないよ」と言いたくなるだけだ。

イングリッシュがスパイのライセンスを取り上げられ、3ヶ月の停職処分を命じられる経緯は、ものすごく勿体無いと感じる。
ペガサスがイングリッシュを叱責するのは、パスカルが「オフィスに侵入して部下を暴行した」と告げたからなのだ。せっかく「まだ薬の効果が抜けらないままのイングリッシュが歓迎会の会場に乗り込む」という展開を用意したのなら、「薬の影響で上手く動けず、そのせいで客に迷惑を掛けまくり、歓迎会をメチャクチャにしてしまう」という大掛かりなヘマをさせるべきでしょ。
ところが実際は、大臣の服にワインを浴びせてしまうだけなんだよな。
そこはドタバタ喜劇を派手に盛り上げる絶好のチャンスなのに、なぜ活かさないかねえ。

(観賞日:2014年6月24日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ジョン・マルコヴィッチ]
ノミネート:【最もインチキな言葉づかい(男性)】部門[ジョン・マルコヴィッチ]

 

*ポンコツ映画愛護協会