『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』:2018、イギリス&カナダ

ジョン・F・ドノヴァンの部屋を訪れたエイミー・ボスワースは、ドアをノックするが返事が無かった。ドアが開いていたのでエイミーが中に入ると、悪臭が漂っていた。2006年、ニューヨーク。11歳のルパート・ターナーは母のサムに、「手紙の内容を知らないのにホテルのフロントに返したの?」と詰め寄った。サムが「別の人の手紙よ。フロントが間違えたの」と言うと、彼は「僕に見せずに返すのは酷いよ。初めて彼に会えるチャンスだったかも」と非難した。嘘をついているサムは、「ホテルに帰れば手紙が待ってる」と告げた。テレビのニュースを見たルパートは、アイドル的な人気があった若手俳優のジョン・F・ドノヴァンが死んだことを知った。
2017年、プラハ。政治記者のオードリー・ニューハウスは、著書を出版したルパートをインタビューする仕事を指示された。しかし彼女は本を読んでおらず、ルパートの名前さえ覚えていなかった。出版社に電話して取材を断ろうとしたオードリーだが、渋々ながら承諾した。彼女はネットを調べ、ルパートが俳優で作家であること、2006年に英国へ移住したこと、過剰摂取で死去したジョンと文通していたこと、彼とは一度も会っていないことを知った。
オードリーはカフェでルパートと会い、「取材は予定に無かったので本は読んでいない」と素直に告げる。彼女が「飛行機に間に合うよう始めましょう」と言うと、ルパートが「録音しないの?」と訊くと、オードリーは馬鹿にするような態度で面倒そうにレコーダーを出した。飛行機に乗って早く帰りたい彼女は、インタビューを急かした。ルパートが送ったファンレターにジョンが返信し、2人のやり取りは始まっていた。オードリーはルパートに、ジョンとの関係の始まりから話すよう求めた。
ジョンは学園ドラマで注目を集め、若者たちを熱狂させる存在になった。同じ頃、ルパートはクラスメイトのセドリックたちから嫌がらせを受けていた。担任教師のクレイシは生徒たちに、来週に「自分の感情に影響を与えたこと」というテーマで発表するよう告げた。当時のルパートにとって、ジョンと彼の番組が全世界だった。彼はジョンの番組を見る度に興奮していた。2歳の頃に父が家を出て行き、彼は母と2人で暮らしていた。
ルパートはジョンの番組のパイロット版を見てファンになり、手紙を書いた。そこからジョンが死ぬ間際まで、1人の文通は続いた。彼は取り上げられることを恐れて、文通のことをサムには内緒にしていた。ジョンには一緒にニューヨークへ出て来た女優になったエイミーという親友がいたが、ずっと孤独を感じていた。彼は兄であるジミーの元を訪れ、夏に会ったウィルに惚れていることを打ち明けた。ジミーは冗談を飛ばしながらも、彼の恋を応援した。
ルパートがセドリックに暴行されて倒れていると、クレイシが通り掛かった。クレイシが心配して抱き起すと、ルパートは「転んだ」と嘘をついた。ルパートがクレイシと話していると、サムが迎えに来た。サムはイジメだと悟り、犯人の名前を教えるようルパートに要求した。ルパートが「クレイシ先生は無視が最大の武器と言った」と拒むと、サムは「私が物足りないなら自分で何とかしなさい」と語る。彼女が立ち向かうよう説くと、ルパートは「最初に父さんからも演技からも逃げたくせに」と反発した。
ジョンは予定をキャンセルと、エイミーを伴って久しぶりに実家を訪れた。実家では母であるグレースの他に叔母のフェイスとアン、叔父のパトリックも待っており、ジョンを歓迎した。しかし悪酔いしたグレースがフェイスやアンの触れられたくないことばかり喋るので、ジョンは「もう帰る」と告げる。彼に注意されたグレースは、激しく怒鳴り散らした。パトリックに口汚く罵られた彼は、憤慨して壁を殴り付けた。ジョンはウィルとクラブへ繰り出し、激しく踊ってキスを交わした。ウィルはジョンに「僕を覚えてる?」と告げ、学生時代に会っていることを打ち明けた。ジョンはウィルから家族のことを訊かれ、「この関係を続けるのは無理だ」と立ち去った。
オードリーはルパートの話に戸惑いを見せ、「ドノヴァンには同情したいけど、私には先進国の不幸な出来事でしかない」と言う。するとルパートは「貴方はコンゴ出身だよね?僕とは別の惑星から来たと思ってる?貴方の戦いは正義のためで、僕の戦いはクソのため?」と責めるように語り、オードリーが「ムキになり過ぎよ」となだめると激しい怒りを示した。オードリーがカセットテープを裏返して取材を続けようとすると、ルパートは「どこから?」と質問した。
11歳のルパートは「自分の感情に影響を与えたこと」に関する発表で、ジョンとの文通について語った。セドリックに嘘つきだと罵られた彼は反発し、クレイシが仲裁した。しかしクレイシも創作だと決め付けており、ルパートの話を信じなかった。ルパートは証拠の手紙をリュックから出そうとするが、セドリックに盗まれていた。ルパートは手紙を取り戻すためにセドリックの家へ忍び込むが、見つかって警察署に連行された。警官が勝手に手紙を読み始めたので、ルパートは苛立った。
ジョンは楽屋で自分の噂が広まっていると気付き、共演女優のリズ・ジョーンズに詳細を尋ねた。するとリズは、ウィルと密会している噂が広まっていることを教えた。ルパートはサムから叱責され、ジョンとの文通を明かした。「何年も嘘をついていた」とサムが怒鳴ると、彼は「演技のことも、オーディションのことも、一度も聞いてくれない。もうウンザリだ。何のために英国へ来たんだよ。こんな人生、何の意味も無い」と泣いて抗議した。警察が手紙の情報を外部に漏らしたため、マスコミがジョンとルパートの関係を大きく報じた。これを受けて、ルパートの自宅には大勢の記者が押し寄せた。
ジョンはリズとスタジオで台詞の稽古をしている最中、突然の苦痛に見舞われた。ルパートとの文通に関する報道を知った彼は、それを揶揄するスタッフのビリーに殴り掛かって罵倒した。ジョンは騒ぎを収めるためにトーク番組に出演し、記事の内容を否定した。ルパートの元には、ジョンから謝罪と説明の手紙が届いた。ルパートは馬鹿にされるのを恐れ、外に出るのを嫌がった。サムは彼を説得し、学校の老人ホーム慰問に参加するよう告げる。しかしルパートはスクールバスに乗らず、クレイシに「ロンドンのオーディションに行く」という手紙を残して姿を消した…。

監督はグザヴィエ・ドラン、脚本はグザヴィエ・ドラン&ジェイコブ・ティアニー、製作はリズ・ラフォンティーヌ&ナンシー・グラン&グザヴィエ・ドラン&ミヒェル・メルクト、製作総指揮はジョー・ヤーコノ&パトリック・ロイ&アニク・ポワリエ&ナサニエル・カーミッツ&エリシャ・カーミッツ&ピーター・カールトン&バリー・ライアン、撮影はアンドレ・タービン、美術はコロンブ・ラビ、編集はグザヴィエ・ドラン&マシュー・デニス、衣装はグザヴィエ・ドラン&ピエール=イヴ・ゲロー&ミシェル・クラプトン、音楽はガブリエル・ヤレド。
出演はキット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、ジェイコブ・トレンブレイ、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツ、マイケル・ガンボン、タンディー・ニュートン、ベン・シュネッツァー、アマラ・カラン、ジャレッド・キーソー、クリス・ジルカ、サラ・ガドン、エミリー・ハンプシャー、スーザン・アルムグレン、ジェーン・ウィーラー、クレイグ・エルドリッジ、ルーカス・ロルフ、アリ・ミレン、ハイス・ブロム、ロブ・ベイカー、エレン・デヴィッド、パット・キーリー、アン・ムロコウスキー、ジェームズ・マーチャント、スザンヌ・ヴァーディー他。


『Mommy/マミー』『たかが世界の終わり』のグザヴィエ・ドランが監督を務めた作品。
レオナルド・ディカプリオにファンレターを書いた8歳の頃の思い出から着想した作品で、彼にとって初めての初の英語作品。
脚本はグザヴィエ・ドランと『少年トロツキー』のジェイコブ・ティアニーによる共同。
ジョンをキット・ハリントン、サムをナタリー・ポートマン、11歳のルパートをジェイコブ・トレンブレイ、グレースをスーザン・サランドン、バーバラをキャシー・ベイツ、オードリーをタンディー・ニュートン、21歳になったルパートをベン・シュネッツァーが演じており、ダイナーの老人役でマイケル・ガンボンが出演している。

同性愛者であるグザヴィエ・ドランは、ジョンとルパートを自分と同じゲイに設定している。それは当然で、グザヴィエ・ドランは自分を主人公に投影する人だからだ。
そんなジョンもルパートも孤独を抱えているが、それは「ゲイであるがゆえに」という部分が大きい。
それなら、「ゲイとしての孤独」という共通項でジョンとルパートがシンパシーを抱く話として進めていくのかと思いきや、途中でジョンがグレースと口論するシーンが描かれ、これまたグザヴィエ・ドランのテーマである「息子と母親の関係」が提示される。
まあ彼がブレていないってことではあるのだが、だったらもっと早い段階から、ジョンとルパートを結び付ける要素として「母との複雑な関係」を押し出した方が良かったんじゃないかと。

っていうか、そもそも母との確執があることは分かるが、その理由はフワッとしている。ジョンの方は、たぶんグレースが酒浸りで余計なことばかり言うのが嫌なんだろうが、あまり明確に見えて来ない。
一方、ルパートの方は、サムに怒鳴るシーンで、初めて「新しい人生と嘘をついて、僕を友達や学校から引き離した。敗者の自分に気付いたからだ。母さんのような小さな夢や考え方が嫌だ」と言うが、これが事実だとして、「なるほど」と納得できるような描写は、そこまでに全く無いのだ。サムがオーディションを受けさせようとしない理由も、良く分からないし。
子供の夢を奪おうとするサムの背景に何があるのか、心境が見えない。
で、そこでルパートがサムと揉めたのに、手本というテーマの作文で「尊敬できるのは母」と書く心境も、これまたサッパリ分からないし。

少年時代のルパートは子役俳優という設定なのだが、実際に仕事をしているシーンは全く無い。オーディションを受けている様子も、過去に出演した作品の挿入も、全く無い。
後半に入って「ロンドンのオーディションに行く」という展開はあるが、子役という設定の意味は、ほとんど感じられない。
ルパートを子役という設定にしている理由は、もちろん分かり切っている。それはグザヴィエ・ドランが子役俳優出身だからであり、自身を投影したキャラだからだ。
でも、それが劇中で活用されない設定になっているのであれば、それは無意味だと言わざるを得ない。ルパートが子役であるがゆえの悩みを抱えている様子も、ほとんど見えないし。

ジョンがウィルに別れを告げた時点では、その理由が良く分からない。
その後にルパートの「ジョンのルールが今なら分かる。永遠に続く嘘の人生を生きる云々」という説明が入り、何となく推測は出来るようになる。
ジョンは自分を全て偽って役者活動をしており、だから過去を知るウィルとは付き合えないってことなんだろう。
ただ、そこまでの展開の中で、ジョンが過去に触れられることを異常に嫌がるような描写なんて、まるで見当たらなかった。なので、そこは唐突な展開に感じる。

ルパートがオードリーの反応に対し、激しい怒りを示すシーンがある。
オードリーがインタビューに全く気乗りしていないことは明白だが、そんなのはルパートからすれば知ったこっちゃないし、仕事を受けた以上はプロとしてキッチリと遂行すべきだろう。
なので、さっさと切り上げることしか考えていないオードリーの態度は、批判されても当然だ。
ただし、オードリーの「ムキになりすぎよ」という指摘も、これまた尤もなのである。

どうやらオードリーは普段、後進国の紛争や貧困問題などを取材しているようだ。そんな彼女からすれば、ルパートが語るジョンとの話は、そりゃあ「先進国の不幸な出来事でしかない」ってことになるだろう。
それに対して、ルパートは「これは不寛容の物語。大衆の支持を失うことを恐れる業界が、何十年間も無知で狭量な体質を変えない物語だ」と怒鳴るが、バカバカしいとしか感じない。
社会的メッセージを発信したいのなら、ルパートの説明は無駄に回りくどいし、ダラダラしていて一向に核の部分へ辿り着かないのだ。
ルパートは「同性愛に対する恐怖や偏見を無くしたい」と強く訴えるが、その目的からすると、そこまで彼が喋っていた内容は、あまりに曖昧模糊としている。何が言いたいのか、良く分からなくなっている。

終盤に入ってから、サムが妊娠してから夫が女を作って出て行ったこと、役者活動をしていた彼女が引退してルパートがオーディションを受けるようになったことが、ルパートのモノローグによって説明される。
でも、それって早い段階で観客に知らせておいた方がいい情報じゃないのか。
終盤まで隠したまま引っ張っておいて、「実は」と明かすことで何かしらの効果を狙うような要素ではないでしょ。
実際、それが明かされた時に、プラスの効果なんて何も得られていないんだし。

(観賞日:2021年10月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会