『ジョン・カーター』:2012、アメリカ

地球人が火星と呼ぶ惑星バルスームは、エネルギーを食い荒らすゾダンガ王国によって滅亡の危機に瀕していた。唯一、ヘリウム王国だけ がゾダンガに抵抗し、1千年に渡って激しい空中戦を繰り広げていた。そんな中、ゾダンガの皇帝サブ・サンの前に、女神の下僕と称する マタイ・シャンが現れ、光線を放つ強力な武器を授けて「我らの言う通りにすれば、お前はバルスームの支配者になれる」と告げた。
1881年のニューヨーク。元南軍大尉の大富豪ジョン・カーターは、甥のエドガー・ライス・バローズに「至急来られたし」という電報を 送った。バローズが駅に到着すると、執事のトンプソンが迎えに来ていた。屋敷に行くと弁護士ダルトンが待っており、カーターが死んだ ことをバローズに伝える。それまで元気だったのに、書斎で急死したという。ダルトンによると、カーターは世界中を巡って穴を掘って いたという。調査だと称していたが、ダルトンには何かを探しているように見えたらしい。
カーター本人の希望により、遺体は火葬はされず、棺は蓋を開けたまま礼拝堂に安置されていた。ダルトンはバローズに、「財産は死後 25年間は信託管理され、貴方が利益を受け取ることになります」と説明した。ずっと会っていなかったのに自分が遺産の権利を得たことに 、バローズは疑問を感じる。するとダルトンは、日記を差し出した。カーターからは、バローズ以外の誰にも読ませるなと指示されていた という。ダルトンは「これを読めば、理由が分かるかもしれません」と告げた。バローズは日記を開き、それを読み始めた。
1868年、カーターはアリゾナ州で黄金の眠る洞窟を見つけようとしていたが、酒場のツケも払えなくなっていた。洞窟にすむクモの餌も 売ってもらえなくなり、店主から追い払われそうになる。カーターはバカにした客たちを殴り飛ばし、店主に拳銃を突き付けた。そして 黄金を差し出し、「一昨日、これを拾った。ツケを返しても釣りが出るだろ」と告げた。そこへ騎兵隊の下士官たちが現れ、フォート・ グラント駐屯地への出頭をカーターに命じる。カーターは暴れて逃げ出そうとするが、すぐに捕まった。
駐屯地に連行されたカーターは、パウエル大佐と面会した。カーターは南軍として幾つもの勲章を貰い、数々の功績を上げていた。そこで 米国政府としては、アパッチと戦う第七騎兵隊にカーターを加入させようとしていた。カーターはパウエルに殴り掛かろうとするが、すぐ に取り押さえられて牢屋に収監される。改めてパウエルが騎兵隊への参加を求めるが、彼は「戦ってばかりの連中とは縁を切りたい」と 拒絶した。カーターは護衛を殴って牢を破り、馬を奪って逃走した。
カーターはパウエルたちに追跡され、その行く手にアパッチが現れた。騎兵隊とアパッチは戦争になり、パウエルが負傷した。カーターは パウエルを馬に乗せ、岩場に避難した。カーターが岩場を見上げると、そこには蜘蛛の洞窟があった。洞窟に足を踏み入れたカーターは、 そこで金塊を発見した。喜ぶ彼の前に謎めいた男が出現し、いきなり襲い掛かった。男を倒すと、その手から落ちたメダルが輝いた。 カーターがメダルを拾い上げると、男は「バルスーム」と呟いた。その直後、カーターは閃光に包まれた。
カーターが目を開けると、見知らぬ荒野に倒れていた。立ち上がると、重力が地球と違っており、上手く歩けない。カーターが走ると、 自分では制御できない力によって体が高く浮き上がった。そこへ謎の言葉を話す未知の種族が出現し、槍を投げて来た。カーターが跳躍 して回避すると、種族のリーダーは驚いて仲間に攻撃中止を命じた。彼は武器を捨てて有効的な態度を示し、カーターに歩み寄った。彼は サーク族のタルス・タルカスだった。
タルカスが「ジェダック。タルス・タルカス」と言うと、カーターは相手が自己紹介しているのだと理解する。カーターも「俺はジョン・ カーター。ヴァージニアから来た」と自己紹介するが、タルカスは彼の名前をヴァージニアだと勘違いした。タルカスが身振り手振りで 跳躍を求めるので、カーターは高く飛んだ。彼は武器を取ってタルカスを攻撃しようとするが、サーク族に取り押さえられた。
ヘリウム王国の王女デジャー・ソリスが宮殿にいると、父である皇帝タルドス・モリスが評議会のメンバーと共に戻って来た。ヘリウムは ゾダンガの新兵器によって狙われており、今や滅亡寸前となっていた。タルドスは「サブ・サンから出された条件について、我々に断る 余地があるか」と深刻な表情で告げ、将校のカントス・カンに現状報告を求めた。カントスは「東の国境が壊滅状態にあり、防衛部隊は 焼き尽くされました。我が国の精鋭部隊は、まるで歯が立ちません」と告げた。
タルドスはヘリウムの敗北を認めるが、デジャーは「希望はあります」と割って入った。彼女は「無限の力を持つ光、第九光線をサブ・ サンは殺戮に使っていますが、上手く利用すればヘリウムは生まれ変われます。砂漠を緑にすることも。もう少し待ってくれませんか」と 言い、ヘリウム王立科学院理事である自らの研究成果を見せる。タルドスは評議会メンバーに席を外させてから、デジャーに「サブ・サン から、お前を妻に出来ればヘリウムを滅ぼさないと条件が出た」と明かす。デジャーは「嫌よ。断って下さい」と拒絶するが、タルドスは 「もうこちらへ向かっている。この結婚がヘリウムを救うのだ」と有無を言わせなかった。
カーターはサーク族の砦に連行され、タルカスにメダルを奪われた。カーターの処遇を巡り、タルカスは前皇帝タル・ハジュスと対立した 。タルカスはカーターを「ヴァージニア」と呼び、仲間たちの前で高く跳躍させようとする。カーターが拒否すると、タルカスは地下に 監禁した。世話役のサラは、カーターに薬を飲ませた。地上へ脱出したカーターは、一撃でサーク族の1人を殴り殺した。カーターは サーク族の言葉が理解できるようになっているので驚いた。サラの飲ませた薬の効果だった。
カーターはタルカスに殴られて失神し、気が付くと荒野で縛り付けられていた。カーターに逃げられた罰として、サラは焼印を押された。 その直後、ゾダンガの船が飛来し、サーク族は隠れて様子を観察した。サブ・サンはデジャーの船を追っており、攻撃を指示する。だが、 マタイが「デジャー・ソリスは生かしておけ。操縦不能にしろ。エンジンにパルス一発で充分だ」と告げたので、サブ・サンは部下たちに 「操縦不能にしろ」と命令した。
ヘリウムの船を不時着させたサブ・サンはデジャーを捜すが、その姿が見当たらない。デジャーは密かに抜け出し、船で逃亡を図った。 だが、すぐに敵船と激突し、投げ出されて地上へ墜落しそうになる。それに気付いたカーターは彼女を救い、敵船に乗り込んで戦った。彼 はサブ・サンに追い詰められるが、タルカスの指示によってサーク族が船に攻撃を仕掛け、その間に脱出した。サブ・サンたちは撤退し、 サーク族はカーターの戦いぶりを称賛した。
タルカスはカーターを「我々の戦士だ」と称え、他の種族との戦いに参加させようとする。カーターは「他人のためには戦わない」と拒絶 するが、タルカスはデジャーを示して「辞退するなら、あの女の安全は保障できないぞ」と告げる。カーターはサーク族の戦士となること を承諾した。戦利品を漁るサーク族を見ながらカーターが「戦争は醜いものだ」と呟くと、デジャーは「大義を果たすためなら別だわ。 今日の貴方がそうだわ」と告げた。
デジャーから「ジャンプの方法を教えて。その技術をヘリウムに教えてくれたら幾らでも払う」と言われたカーターは、「雇われるのは柄 じゃない。金も要らない」と返す。カーターは彼女との会話で、そこが火星だと知る。地球はジャスームと呼ばれていた。デジャーから 「どうやって来たの?」と問われ、カーターは「あれで来た」とメダルを示す。デジャーは「貴方はサーンだわ。自分のいるべき場所へ 戻りたいんでしょ。だったら、さっさと片を付けましょう」と述べた。
デジャーはカーターを連れて、サーク族の神殿へ向かった。サーク族以外の入室が禁じられているため、慌ててソラが止めに来た。しかし デジャーは構わず奥へ進み、そこにあった古代の経典を読み解いた。経典には「永遠の癒やしを求める者、イス川を下り、聖なる門を くぐれば、イサスに抱かれ永久の平和を見出す」と記されていた。イサスとは女神のことであり、サーンは女神の使者である。
デジャーはカーターに、「私が門まで案内すれば、貴方はジャスームに戻れる。その代わりに私を逃がして」と持ち掛ける。カーターは 取り引きを承諾するが、サーク族の忠臣サルコジャに見つかって拘束された。2人が神殿に入るのを止められなかったソラは、掟に従って 競技場で処刑されることになった。タルカスは「もうソラは焼印を押す場所が無い。死ぬしかないんだ」と、カーターに怒りをぶつける。 その様子を見たカーターは、タルカスがソラの父親だと見抜いた。
カーターから指摘を受けたタルカスは、タルカスは人払いした後でメダルを渡し、「逃がしてやる代わりに、イス川を下る時にソラも 連れて行け」と告げる。カーター、デジャー、ソラはサーク族の砦を抜け出し、砂漠を縦断した。同じ頃、サブ・サンはマタイに、「もう 結婚式はいいじゃないか。俺は勝ったんだ」と告げていた。しかしマタイは「ダメだ。一つの国を潰すには、民衆の前で花嫁が屈服する姿 を見せ付けるのだ。理解できなければ他の者と変える」と静かに述べた。
カーターはソラから、デジャーがイス川ではなくヘリウムへ向かっていることを知らされる。カーターがデジャーを問い詰めると、彼女は 「ヘリウムに到着すれば我々か正義だと分かるはずよ」と言う。カーターが置き去りにして去ろうとすると、デジャーは「嫌なのよ、あの 男と結婚なんて」と叫ぶ。カーターが「誰だ、あの男って」と訊くと、デジャーは事情を説明した。カーターが「王女様が嫁に行きたく なくて、家出したのか」と呆れると、デジャーは「そうね、弱かった。結婚すべきかもしれない。でもバルスームを滅ぼすことになるのが 怖い」と泣き出した。
デジャーは「ホントのことを言うわ。聖なる門なんて無い。あれは作り話よ」と言うが、カーターは「悪いね、これは本物だ」とメダルを 指し示す。やがて一行がイス川に辿り着くと、ソラは女神に命を捧げようとする。カーターが制止に入ると、ソラは「最後ぐらいは皇帝の 役に立ちたいの」と告げた。カーターはソラにタルカスが父親であることを教え、「娘としての務めを果たして俺を送り届けろ。門を探す のを手伝え」と指示した。
カーターたちは川を船で移動し、謎の巨大建造物を発見する。カーターとデジャーが上に立つと、地面が変化した。それが聖なる門だった 。カーターはデジャーと共に、建物の中に入った。メダルを床に近付けると、地面に9本の光線が出現した。デジャーは「第九光線よ。 この門全体が第九光線で動いてるんだわ」と興奮する。そして彼女は、本当にカーターが地球から来たことをようやく信じた。
床に技術的な図表が出現し、デジャーの解説を聞いたカーターは、自分が電信で地球から送られた複製ではないかと推測する。デジャーは が「謎を解く鍵はヘリウムの科学院にある」と語ると、カーターは「ヘリウムへ帰りたいだけだろ」と反発した。するとデジャーは「貴方 は故郷へ帰りたいだけの人じゃない。貴方は他人のために命を投げ出せる男。大義のために喜んで戦う男」と言う。カーターは彼女にキス し、死んだ妻を思い出した。
カーターとデジャーは、ソラの声で外へ出た。船に戻ると、ソラは「ワフーン族よ」と崖の上を指差した。マタイがワフーン族に襲撃を 指示したので、カーターたちは急いで逃げ出す。その途中、カーターは妻を救えなかったことを思い出す。彼はソラに「デジャーを逃がせ 。前は間に合わなかった。今度こそ」と指示し、その場に残って敵と戦う。多勢に無勢でカーターが苦戦していると、そこへタルドスの船 が来てワフーン族を蹴散らした。カーターは倒れて気絶していた。
船からサブ・サンが出て来たので、デジャーは激昂する。タルドスは娘を制し、「サブ・サンは一人で私の元へ来た。彼はお前の身を 案じていた」と言う。サブ・サンはデジャーに、「私がバルスームを生かすも殺すも貴方次第。私と結婚すれば何でも叶う」と告げた。 カーターが意識を取り戻すと、そこはゾダンガだった。カントスが彼に近付き、護衛のいる前で「人質に取れ」と囁く。カーターは彼と共 に脱出した。
カントスはカーターをデジャーの元へ連れて行く。デジャーが結婚することを知ったカーターは、「結婚なんてやめろ」と言う。しかし デジャーから「他にどうすればいいの?ヘリウムのために戦ってくれるの?」と問われ、彼は言葉に詰まる。デジャーは「メダルの記号は 解読できたわ」と告げ、戻るための呪文を教えた。カーターは呪文を唱え、その場から姿を消す。だが、彼は地球へは戻らず、宮殿の中で 身を隠していた。
侍女に化けていたマタイは、カーターを捕まえた。カーターが「お前はサーンか」と尋ねると、マタイは「サーンは神話だ」と告げる。 彼は様々な人物に変身しながら、カーターを連れ歩く。マタイは結婚式の行列を眺め、「勿体無い。あの娘の頭脳なら、あと少しで発見 できたのに」と呟いた。カーターが「第九光線か」と訊くと、マタイは「どこまで知ったにせよ。婚礼の誓いが交わされたら、そこまでだ 。第九光線のことを知る者は全て殺される。これで調和が保たれる」と述べた。
カーターの「何の権限でお前が介入する?」という問い掛けに、マタイは薄笑いで「気にするな。お前には何の義理も、戦う理由も無い だろう」と言う。彼は「歴史は我々が決めた通りに進む。次の指導者をサブ・サンに決めた。第九光線は扱いやすい奴の手に委ねておいた 方がいい。ゲームはこの星が生まれる前から続いていたし、お前が死んだ後も続く。我々は滅亡の原因になるわけではない。導くだけだ。 どの星も滅亡への道筋は同じ。社会が分裂し、戦争が広がる」と語った…。

監督はアンドリュー・スタントン、原作はエドガー・ライス・バローズ、脚本はアンドリュー・スタントン&マーク・アンドリュース& マイケル・シェイボン、製作はジム・モリス&リンジー・コリンズ&コリン・ウィルソン、撮影はダン・ミンデル、編集はエリック・ ザンブランネン、美術はネイサン・クロウリー、衣装はメイエス・C・ルベオ、視覚効果監修はピーター・チャン&スー・ロウ、 アニメーション監修はイーモン・バトラー、音楽はマイケル・ジアッキノ。
出演はテイラー・キッチュ、リン・コリンズ、サマンサ・モートン、マーク・ストロング、ウィレム・デフォー、トーマス・ヘイデン・ チャーチ、キアラン・ハインズ、ドミニク・ウェスト、ジェームズ・ピュアフォイ、ブライアン・クランストン、ポリー・ウォーカー、 ダリル・サバラ、 ニコラス・ウッドソン、ルパート・フレイザー、ドン・スターク、アート・マリク、アイリーン・ペイジ、ダーウィン・ショー、ケイト・ ファウラー、ショーン・キャリガン、ダスティー・ソーグ、クリストファー・グッドマン他。


1917年に発表されたエドガー・ライス・バローズのデビュー作であるSF小説『火星のプリンセス』を基にした作品。
原作小説は「火星」シリーズの第1作に当たる(全11巻)。
第3作『火星の大元帥カーター』までは3部作の構成で、この映画版も3部作として企画されている。
ただし、この1作目が北米の興行で約1億8千ドルの赤字を出すほど大コケしたので、たぶん続編の製作は無いだろう。

ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作である本作品に(110周年って、中途半端だなあ)、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズは 2億5千万円という製作費を投じている。
そんな超大作の監督を務めたのは、『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』のアンドリュー・スタントン。
これが実写映画は初めてとなる。
そもそも彼が『火星のプリンセス』の映画化を希望し、スタジオに映画化権の取得や自分が監督することを働き掛けたらしい。

カーターをテイラー・キッチュ、デジャーをリン・コリンズ、ソラをサマンサ・モートン、マタイをマーク・ストロング、タルカスを ウィレム・デフォー、ハジュスをトーマス・ヘイデン・チャーチ、タルドスをキアラン・ハインズ、サブ・サンをドミニク・ウェスト、 カントスをジェームズ・ピュアフォイ、パウエルをブライアン・クランストン、サルコジャをポリー・ウォーカー、バローズをダリル・ サバラが演じている。
顔触れを見て分かる人もいるだろうが、いわゆる「トップスター」はいない。
これだけの超大作で、大物スターがいないってのは、相当に厳しいものがある。ハリウッド映画に限らず、それなりに規模のデカい映画 ってのは、名前だけで大勢の客を呼べるスターがいないとキツいよ。
そりゃあスターがいなくても、監督によっては「この人の撮った映画なら」ということで客が来てくれる場合もいるだろうけど、 アンドリュー・スタントンは、そういう人じゃないでしょ。
アニメ映画ならともかく、初めての実写映画で、アンドリュー・スタントンの訴求力ってのは、そんなに期待できるモノではない。

で、そんなアンドリュー・スタントンなんだけど、映画に大物スターを起用しないことを希望したのは、彼らしいんだよね。
まあ、そりゃそうだわな。映画会社の上層部にしてみりゃあ、そりゃ赤字を出さないためには、有名俳優を起用したがるわな。
どうしてスタントンはスターを起用しなかったのか、理解に苦しむなあ。
作品によっては有名なスターを起用するとマイナスに作用するケースもあるだろうけど、この映画の場合、そういうモンでもないでしょ。
むしろ有名俳優の人気やスター性を利用した方がいいと思えるぞ。

この作品にとって厳しいのは、『スター・ウォーズ』や『アバター』を始めとして、『火星のプリンセス』に影響を受けた映画が今までに 幾つも公開されているってことだ。
そういった作品群の元祖が『火星のプリンセス』ではあるのだが、映画としては後発なので、そこにある世界観やキャラクターや筋書き などが、「どこかで見たような」「ありふれている」と感じさせるようなモノになってしまうのだ。
「これが元祖なんだよ」と言い訳してみたところで、観客からすると「そんなのは知ったこっちゃないよ」って話だからね。
せめて、クリーチャーやマシーンや異星人の造形に関しては、クラシカルなイメージから離れても良かったんじゃないか。

序盤、カーターが駐屯地への出頭を拒否して暴れ、すぐに捕まるという展開がある。パウエルの元へ連行されたカーターは、また暴れて、 すぐに捕まる。パウエルが騎兵隊に入るよう要求すると、またカーターは暴れて、すぐに捕まる。
このように「暴れて、すぐに捕まる」というのを3度も繰り返している。
なぜ短いスパンで3度も繰り返すのか、理解不能。
喜劇における「天丼」のテクニックとしてやるのなら、まだ理解できたかもしれんけど、そういうことでもないんだよな。
この段階で、「おやっ、この映画の演出は、ちょっと変だぞ」という印象を抱いてしまう。
それぐらい、ただダメな意味での引っ掛かりだけを感じさせる演出になっている。

主人公であるジョン・カーターに、ヒーローとしての魅力も、人間的魅力も、全く感じられないってのはキツい。
まず、酒場でツケを払えずに追い出されそうになった時、暴力を振るったり銃で脅したりしているが、そんなことをする必要性がどこに あるのか。
普通に黄金を渡して、ツケを支払えばいいだけのことでしょ。
やたらと暴れたがる主人公に、野蛮な魅力を感じろとでも言いたいのだろうか。

パウエルから騎兵隊に入るよう勧誘されたカーターは、「戦ってばかりの連中とは縁を切りたい」と口にする。
やたらと暴れまくっている奴の言うセリフじゃないでしょ。
厭戦の気持ちに包まれているという設定なら、そんなに好戦的な態度ばかり取るのは整合性が取れない。
「お前、さっきから戦ってばかりじゃねえか」とツッコミを入れたくなる。
「暴れるのは逃げるためだ」と言いたいのかもしれんけど、ホントに争いを望まないのなら、隙を見て逃げ出そうとすればいいわけで。
相手に殴り掛からなくてもいいでしょ。

カーターが火星へ行くまでの経緯を丁寧に描いているが、無駄に時間を掛けているとしか思えない。
そこに10分ぐらい使っているんだけど、どうせ荒唐無稽な話なんだし、さっさと火星へワープしちゃえばいいのに。
っていうか、むしろ荒唐無稽だからこそ、そうすべきなんじゃないの。
さっさと火星に移動して、問答無用のパワーやエナジーで、観客を世界観に巻き込めば良かったんじゃないの。

カーターが火星へ行くまでの西部劇って、ホントに必要なのか。 そこで「カーターは妻子を失ってから生きる意欲を失っている」とか、「妻子を失ってから人付き合いを避けている」とか、そういうこと が描かれているわけでもない。黄金を探していることや、騎兵隊への参加を求められていることを描くのに、そこまで尺を使う意味が理解 できない。
そこを削れば、もっと上映時間は短く出来たんだし。あるいは、他の部分に時間を使うことが出来たんだし。
いっそ「ある日、天井から光が差してきて、それに包まれたら火星にワープした」とか、それでも別に構わないんじゃないかと。
それでワープした理由については、火星に到着した後で説明すればいいんだし。

火星に移動したカーターが上手く歩けずに、何度も体が浮き上がって倒れるっていう描写も、しつこいんだよね。
そこは最初から、「普通に歩こうとするだけで体が弾む」というのを、「上手く歩けない」というマイナスではなく、「重力が弱いから 跳躍力がアップしている」というプラスとして見せればいい。慣れて高く跳躍するまでに、時間を掛ける意味が無い。
高く跳躍した時にカーターが喜んでいるのかというと、そうでもないんだよな。そこで「戸惑いから高揚感へ」という変化も無いん だったら、ますます「慣れるまでに何度も倒れ込む」というのを見せる必要性を感じない。
いきなり「高くジャンプしたことへの驚き」だけで処理すればいい。

火星に到着してからも、相変わらずカーターは好戦的だ。タルカスが友好的な態度で接して来たのに、カーターは隙を見て武器を手に取り 、殺そうとしている。
こいつは常に戦うことばかり考えているのだ。
「戦ってばかりの連中とは縁を切りたい」と言わせるんだったら、こいつは「何かに巻き込まれて仕方なく」とか、「誰かを救うために 立ち上がる」とか、そういうきっかけに至るまでは、自分から好戦的な姿勢を見せるべきじゃないでしょ。
未知の種族を見てビビったとしても、攻撃して蹴散らそうとするんじゃなくて、とにかく逃げ出そうとすべきだよ。

実はバルスームにおける相関関係って、そんなに簡単なわけではない。でも、その説明が上手くないんだよね。
それは何を見せるかという順番に大きな問題があって、まずカーターがサーク族に捕まった段階で、そこがどこなのか、そいつらが何者 なのかという説明は無い。
カーターが捕まった後、デジャーが登場し、父親と評議会の面々が深刻な様子で来るんだけど、その時点では、そいつらが何者なのか 分からない。
つまり、分からないことだらけのままでどんどん物語が先に進んでいくわけで、それってどうなのかと。

映画の最初にバルスームの状況説明を入れたのは、そこで先に説明しておこうっていう狙いがあったんだろう。
ただし、そこでは軽く触れただけだしなあ。しかも、カーターはまるで状況を理解できてないしね。
カーターが未知の場所に赴き、未知の種族に会い、それを一つずつ理解していく流れに伴い、観客にも説明されるという形を取った方が 良かったんじゃないかと。
なんかねえ、この映画って、「観客は原作を知っている」という前提で作られているような印象を受けるんだよなあ。

それと、カーターが会う前にデジャーやカントスたちを登場させていることによって、大きな問題も生じている。
それは、デジャーたちが英語で会話を交わしているってことだ。
サーク族は謎の言語を喋っており、カーターはソラに薬を飲まされて初めて、言葉が通じるようになる。デジャーは最初からサーク族と 普通に喋っているので、そこは同じ言語ってことなんだろう。
だったら、カーターがサーク族と会話を交わせるようになるまでは、その言語も我々には理解できないはず。
それなのに、カーターが薬を飲む前の段階で、デジャーや父親たちが英語で喋っているのは変でしょ。

カーターはサーク族の砦に連行された後、メダルをタルカスから奪い返そうとして、すぐに取り押さえられる。で、跳躍を拒否して、また 取り押さえられる。
騎兵隊に連行された時と同じように、また「暴れて取り押さえられる」というのを繰り返している。
この映画、そのパターンを何度もやっているんだよな。やたらとカーターが捕まるのだ。
だけどさ、「暴れて捕まる」っていうパターンを繰り返しても、映画に勢いやテンポは生まれないでしょ。

火星の重力が違うからカーターが高く飛べるとか、重い物を軽々と持ち上げられるとか、そういうのは分かるけど、鎖を引き千切るとか、 一撃で敵を殴り殺すとか、そういうのは変でしょ。なんで腕力が異常に強くなっているのか。
で、サーク族を一撃で殴り殺せるぐらい腕力はアップしているけど、その一方、タルカスに殴られると一撃で失神している。どうやら 防御力は全く上がってないのね。
っていうか、圧倒的に強いのかと思ったら、ワフーン族との戦いでは、相手が多いとは言え、すぐに失神させられているしね。
あと、考えてみると、この映画って「カーターが気を失う」っていうパターンも、何度も出て来るよな。

カーターは船から落ちそうになったデジャーを救った時、彼女を抱えて逃亡すればいいのに、すぐに剣を抜いて戦い始める。その後も、 敵船へジャンプして戦いに行く。
デジャーを助けるだけなら、そんなことをする必要はない。自分からノリノリで戦いに赴いているのだ。
戦いたくてウズウズしていたとしか思えない。
「他人のためには戦わない」と言っていたけど、まるで説得力が無いぞ。
しかも、彼は剣の扱いに慣れているわけでもないはずなのに、なぜか迷わず剣を抜いて戦い、それを簡単に使いこなしている。

カーターがイス川へ行くとか、聖なる門を探すといった展開があるが、そういう手順が無駄にしか思えない。そこで完全に話が停滞して しまうもんなあ。
だってさ、こっちはサブ・サンがヘリウムを攻撃しているとか、デジャーを嫁にして屈服させようとしているとか、そういうのを先に 見せられているわけよ。
だから、「ああ、カーターが戦いに関与してヘリウムに味方し、デジャーを助けるんだろうな。そんでデジャーと恋仲になるんだろうな」 ってのも、もう見えてるのよ。
それなのに、カーターがなかなかヘリウムとゾダンガの対立の図式に絡まず、デジャーを政略結婚から救ってやろうとせず、自分が地球に 戻ることばかりを考えているってのが、だんだんイライラしてくる。
あと、行き当たりばったりという印象も受けるし。

「カーターは妻と娘を救えなかった」という過去の傷を設定しているけど、まるで効果的に機能していない。
それを使うのなら、もっと早い段階で、もっと明確に示しておいた方がいい。
短い断片だけで、ものすごくボンヤリとした形でしか示していないのね。
でも、それが彼の「もう戦わない」という考えの原因であり、そして「デジャーを助けるために戦おう」と決意するきっかけであるわけで 、主人公の行動原理に影響を与える重要な要素なんだから、もっとハッキリと示した方がいいと思うよ。
ただし「妻を失った過去の傷」を設定したことにより、「妻を救えなかったことでカーターはずっと思い悩んでいたのに、すぐにデジャー に惚れる」ってのは、どうなのかと思ってしまうけどね。

後半、カーターを捕まえたマタイが「知性は増幅していないようだ」と言うが、その通りで、カーターって底抜けのボンクラ なんだよね。
それも、ただ単に「知恵を使わずに何でも力ずくで解決しようとする」とか、「細かい作戦を立てずに正面突破を狙う」とか、そういう昔 のシュワちゃんみたいなキャラというだけに留まらない。
カーターはデジャーを婚礼から救い出そうとするのだが、なんと結婚式の場所を間違えて到着するのだ。
いやいや、そこでコメディーみたいな展開を用意してどうするのか。

カーターはデジャーを結婚式から救うためにサーク族の援助を求めに行くが、ハジェスがタルカスを捕まえて皇帝に返り咲いていたため、 捕まってしまう。
カーターって、どんだけ捕まったら気が済むんだよ。
その前にもマタイに捕まっているし、何かに付けて「カーターが捕まる」→「逃げ出す」というのを繰り返すんだよな。
だけどさ、もう婚礼の行列は始まっているわけで、今さら他のエピソードを挟んでチンタラやってる場合じゃねえだろ。

「カーターがタルカスと一緒に行動する」という展開を用意したいのなら、「捕まっている2人が競技場で怪物と戦う」ということを 挟むんじゃなくて、他の方法でタルカスと遭遇させようよ。
もしくは、競技場でのエピソードは、デジャーの結婚が決まる前に処理しておいて、カーターがデジャーを救いに行くと決めた時には、既 にタルカスと協力関係になっている方がいい。
怪物とのアクションでテンションを盛り上げたり迫力を出したり緊張感を高めたりしようとしているけど、「そんなことより、さっさと デジャー救出ミッションに移ろうよ」と言いたくなるのよ。

(観賞日:2012年9月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会