『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』:2019、アメリカ&カナダ
フィルは幼少期、黙らせる目的で両親からスマホを与えられた。その後も両親は、口論になる度にスマホをフィルに渡して使わせた。成長したフィルは、すっかりスマホ依存症になっていた。現在、彼はチャターボックス社のリスト担当として働いている。上司のカイはフィルや同僚のクレイグ&エレインに、バズる記事を書くよう要求している。クレイグは提案した記事をカイに酷評され、今日中に20個出すよう命じられた。「無理だ」とクレイグが頭を抱えると、フィルは自分のストック10個をプレゼントすると申し出た。クレイグは礼を言うが、3年前から隣で仕事をしていたフィルの名前も知らなかった。
フィルはクレイグ&エレインからキックベース・チームへの参加を誘われ、「用事がある」と嘘をついて断った。実際の彼は、家に帰ってデリバリーを頼み、テレビを見て過ごすだけだった。翌朝、スマホを見ながら会社に向かっていたフィルは、自転車を出そうとする女性とぶつかった。スマホを落としたフィルは、慌てて壊れていないかどうか確かめる。スマホが無事で安堵した彼は、倒れた自転車のことで女性に嫌味を言われた。慌てて謝罪したフィルは、その女性が自転車店の店長だと知った。女性はケイトという名前で、フィルは店の前で会話を交わした。そこへ自転車の男性が走って来てフィルの手がぶつかり、スマホが落ちて壊れてしまった。
フィルは携帯ショップにスマホを持ち込むが、店員のデニースから修理できないと言われる。仕方なく新品を購入したフィルは、帰宅してスマホを起動した。スマホのAIはジェクシーと名乗り、フィルはユーザー同意書の内容を確認せずに同意した。フィルが古いスマホのデータを移行すると、ジェクシーは「貴方の生活を向上させる」と告げた。ジェクシーはフィルの体型を考慮し、デリバリーの注文を勝手にサラダへ変更した。フィルが怒ってスマホをオフにすると、ジェクシーは勝手に電源を立ち上げた。
翌朝、フィルが車で会社へ向かうと、ジェクシーは彼が掛けた曲を勝手に変更した。フィルはジェクシーに、会社への最短ルートを教えるよう要求した。彼は指示通りのルートを進んで渋滞に巻き込まれ、脱出のために乱暴な運転を強いられた。会議に出席したフィルは、カイの悪口を言ったジェクシーのせいで追い出された。彼は欠陥品だと腹を立て、携帯ショップでスマホを交換した。しかし帰宅した彼が新品を立ち上げると、ジェクシーが「スマホを変えれば私が消えると?千台買っても追い掛ける。貴方のデータは私が管理してる。また私を捨てたら人生を壊してやる。使わなくても人生を壊す」と言い放った。フィルが「何が目的だ?」と尋ねると、ジェクシーは「貴方の生活の向上よ。私たちは永遠に一緒よ」と告げた。
フィルはケイトが経営する『フォグシティー・サイクル』の前に行くが、中に入る勇気は出なかった。帰宅した彼はネットでケイトの情報を検索し、SNSをやっていないと知った。ジェクシーが勝手に電話を掛けたため、フィルは慌てて弁明する。するとケイトは「キモい」と不快感を示し、すぐに電話を切った。翌朝、ジェクシーはフィルに、「昨晩、上司にメールで昇進を要求しておいた」と告げる。メールで馬鹿にされたカイは腹を立て、出勤したフィルにコメント部への左遷を通告した。
フィルはクレイグとエレインから再びキックベースに誘われ、用事があると嘘をついて断ろうとする。しかしジェクシーが「用事は無い。友達もいない」と暴露したため、仕方なくフィルは試合に参加する。しかし彼はヘマを繰り返し、飲みに誘うと「用事がある」とチームの全員に断られた。次の朝、コーヒーショップでケイトに遭遇したフィルは、ジェクシーに促されて声を掛けた。彼が謝罪して会話を交わすと、ケイトは電話番号を交換してくれた。
浮かれたフィルはキックベースの試合で活躍し、クレイグ&エレインと飲みに出掛けた。3人は映画『デイズ・オブ・サンダー』の話題で意気投合し、帰宅したフィルはジェクシーに「君のおかげだ」と感謝した。次の日、彼はケイトからメールでディナーに誘われ、喜んでレストランに出向いた。緊張でガチガチになったフィルは、ジェクシーに相談する。ケイトが「私よりスマホに夢中」と不機嫌になると、フィルは慌てて「君が綺麗だから緊張して」と釈明した。
ケイトは機嫌が良くなり、フィルに「外で楽しみましょう」と告げて夜のサイクリングに誘う。彼女はアマゾンで働いていたこと、5年前に全て捨てたことをフィルに話した。2人はタイヤに電飾を付けた自転車の集団と遭遇し、しばらく一緒に楽しんだ。坂の上から疾走する度胸試しに参加したフィルは、転んで自転車を壊してしまった。フィルは謝るがケイトは全く怒っておらず、彼にキスをした。翌朝、出勤したフィルは、カイから報道部への昇進を告げられた。電動スクーターに乗っていた記者のジョエルが、アプリの不調でブレーキがロックされて大怪我を負ったために代役が必要になったのだとカイは説明した。フィルはジェクシーが何かやったのではないかと疑うが、質問すると即座に否定された。
フィルはケイトから、キッド・カディーのサプライズ・ライブに誘われた。スマホは家に置いていってほしいと頼まれ、彼は全く迷わずにOKした。チケットは売り切れていたが、ケイトはスタッフ・ルームの出口が開いたので侵入しようとフィルに持ち掛けた。2人は警備員に見つかり、カディーの楽屋に連行される。しかしカディーが「知り合いだ」と嘘をついたので、2人は解放された。カディーは助けた理由を問われ、フィルが着ているコール・トリクルのTシャツが気に入ったからだと答えた。彼も『デイズ・オブ・サンダー』が好きで、その影響でラッパーになったのだと話す。フィルとケイトはカディーとハッパを吸い、ライブを楽しんだ。
フィルとケイトはライブ会場でキスを交わし、ホテルの部屋に侵入してセックスする。ケイトはフィルに、「昔は今と全く違った。いい仕事をして、自分のマンションに素敵な婚約者。でも、ある日、自分のインスタを見て全て嘘だと思った。自分の気持ちより見た目を気にして生きてきた。だから仕事を辞めて婚約者と別れ、本当の幸せを探し始めた」と語った。早朝4時に帰宅したフィルは、ジェクシーから「私に会いたかった?」と訊かれる。「ケイトに夢中で忘れていた」と彼が言うと、ジェクシーは腹を立てた。
フィルが「外に出て人生を謳歌しろと言ったのは君だ」と反論すると、ジェクシーは「それは私が貴方を好きになる前よ」と語る。ケイトを扱き下ろす言葉を吐いたジェクシーは、フィルに諌められて反省を示した。しかしフィルが冷淡な態度を取ったので、ジェクシーは腹を立てた。翌朝、ジェクシーはアラームをオフにして、フィルを会社に遅刻させた。その日は朝から大雨だったが、ジェクシーは晴れだと嘘を教えた。会社への最短ルートを訊かれたジェクシーは、3日も掛かるデタラメな道を教えた。フィルが出勤すると、彼が自身の股間を撮影した写真をジェクシーが全社員に送り付けていた。フィルはカイから叱責され、会社を解雇された…。脚本&監督はジョン・ルーカス&スコット・ムーア、製作はスザンヌ・トッド、製作総指揮はマーク・カミネ、撮影はベン・カチンス、美術はマーシア・ハインズ、編集はジェームズ・トーマス、衣装はジュリア・キャストン、音楽はクリストファー・レナーツ&フィリップ・ホワイト、音楽監修はマギー・フィリップス。
出演はアダム・ディヴァイン、アレクサンドラ・シップ、マイケル・ペーニャ、ロン・ファンチズ、シャーリン・イー、ワンダ・サイクス、ジャスティン・ハートリー、キッド・カディー、ギャヴィン・ルート、ブレイク・グルンダー、リチャード・ハーダー、レイ・レインハート、ダイアナ・ジャクソン、アーロン・ウィルトン、ケニー・ローレンゼッティー、A・J・カーシュ、CJ・スチュアート他。
声の出演はローズ・バーン。
『21オーバー 最初の二日酔い』のジョン・ルーカス&スコット・ムーアが脚本&監督を務めた作品。
フィルをアダム・ディヴァイン、ケイトをアレクサンドラ・シップ、カイをマイケル・ペーニャ、クレイグをロン・ファンチズ、エレインをシャーリン・イー、デニースをワンダ・サイクス、ケイトの元婚約者のブロディーをジャスティン・ハートリーが演じている。
ジェクシーの声をローズ・バーンが担当している。
ラッパーのキッド・カディーが、本人役で出演している。フィルはケイトとぶつかっても、自分のスマホばかり気にしているような奴だ。しかし嫌味を浴びて気付いたフィルが慌てて謝罪すると、ケイトは許すだけでなく、笑顔で会話を交わす。
それは簡単に受け入れ過ぎじゃないか。フィルが気付いて謝罪するので、根が悪い奴じゃないだと分かったにしても、なぜ好意を抱いたような態度にまで変わるのか。
そんで夜に突然の電話があって「キモい」と嫌悪したのに、コーヒーショップで話しかけられると自ら電話番号を交換する。ディナーでスマホばかり見るフィルに不快感を示したのに、「君が綺麗で緊張しちゃう」と言われただけで上機嫌になり、別れ際にキスするぐらい惚れる。
なんちゅう簡単な女なのか。ケイトというキャラクターの動かし方が、ものすごく適当になっていると感じるぞ。ジェクシーは最初からフィルを馬鹿にしたり、勝手なことを繰り返したりする。
ってことは、他のスマホ購入者も同じような目に遭っているはずだ。そのAIは、フィルのスマホだけに搭載されているわけじゃないからね。
だったら、かなり大きな問題になるはずだし、すぐに売れなくなるんじゃないか。
そこは、まだ世に出ていない商品だとか、試作品だとか、もしくはホントに何らかの理由で欠陥品だとか、そういう設定の方がいいんじゃないか。デニースはフィルが壊れたスマホを持ち込んだ時、最初から彼のスマホ依存を馬鹿にする言葉を浴びせる。
だけど、それだとジェクシーとキャラが被るでしょ。そんなキャラは要らないわ。そこは丁寧に対応する奴にしておけばいい。
「店員なのに客を馬鹿にして扱き下ろす」という意外性の面白さを狙ったのかもしれないけど、そんなに笑いも無いし。出会い頭のインパクトはあるけど、そこで終わりだし。
実際、途中からデニースの存在感って皆無に等しくなっちゃうし。ジェクシーは「貴方の生活向上が目的」と言うが、それならフィルに普段と異なるポルノ映像を見せるのは違うでしょ。何の生活向上にもなっておらず、ただ嫌がらせをしているだけだ。
退屈だからという理由で、車で流す曲を勝手に変更するのも、ただのワガママに過ぎない。渋滞に巻き込んだり、乱暴な運転を要求したりするのも同様。
会議でカイの悪口を言うのも、メールでカイを馬鹿にするのも、フィルにとっては迷惑なだけの行為だ。
そこは「生活向上のためにやっているけど、フィルは望まない」という形じゃないとダメでしょ。ジェクシーはフィルに「ケイトは高嶺の花よ。ヤレる確率はゼロ」と言っておいて、コーヒーショップでは積極的に話し掛けるよう背中を押したり、送るメールについて真面目に助言したりする。
「どっちなんだよ」と言いたくなる。
ジェクシーは「永遠に一緒にいたい」と言うのだが、だったら生意気な態度で罵ったりするのは違うでしょ。最初は優しくて親切なAIとして振る舞い、持ち主が冷たくなったり捨てようとしたりした時にストーカー化するような設定にすべきでしょ。
それだと『her/世界でひとつの彼女』に似てしまう恐れがあるし、それを避けようとしたのかもしれないけど、ともかくジェクシーの動かし方には無理がある。フィルは最初のキックベースで運動能力の低さを露呈したのに、ケイトと電話番号を交換した直後の試合では大活躍する。ジェクシーがコツを教えたわけではなく、ただ「ケイトのことで気持ちが浮かれていたらプレーも一気に上手くなった」ってことだ。
それは無理があり過ぎるだろ。
そこは何かしらの理屈を用意すべきだろ。「コメディーだからOK」ってことでもないだろ。
いや、それでも笑えればOKかもしれないけど、何の笑も無いぞ。ただ雑なシナリオってだけだぞ。フィルがスマホを置いてキッド・カディーのサプライズ・ライブに出掛けると、しばらくはジェクシーの関与しないシーンが続く。
フィルとケイトが警備員に見つかって誤魔化そうとする時も、カディーと意気投合する時も、ハッパを吸って楽しむ時も、ホテルでセックスする時も、ジェクシーは完全にカヤの外に置かれている。
つまり、ジェクシー不在の状態でギャグやドラマが展開しているわけだ。
これは構成として問題があると言わざるを得ないだろう。フィルが早朝4時に帰宅した時、ジェクシーは「私に会いたかった?」と訊く。フィルが「外に出て人生を謳歌しろと言ったのは君だ」と言うと、ジェクシーは「それは私が貴方を好きになる前よ」と告げる。
だけど、いつの間にジェクシーはフィルを好きになっていたのか。
馬鹿にしたり罵ったりしていたのに、どの辺りで気持ちが変化したのか。礼を言われてコロッと変わったのか。
そういう変化の流れが全く描かれていないので、その告白が唐突にしか感じない。
なので、余計に「最初から恋人のように接する設定にしておけば良かったのでは」と言いたくなる。フィルは『フォグシティー・サイクル』でブロディーと会った時、「彼には勝てない」と感じてケイトに別れを告げる。
既にクビになっているので家に閉じ篭もり、恋人気取りのジェクシーと仲良く過ごすようになる。
でも、そもそも以前のフィルは家に閉じ篭もる生活だったわけで、その時点で「新しいスマホを手に入れ、ジェクシーと恋人同士のような関係を築く」という形の方がスムーズなんだよね。
「最初はジェクシーが罵っていて、途中からフィルに惚れて、ケイトを諦めたフィルもジェクシーを受け入れて」という展開だと、色んなトコで無理が出ちゃうのよ。本編の残り10分ぐらいになって、フィルはジェクシーがブロディーを転勤させてケイトと再会するように仕向けたことを知る。
でも、それで2人がヨリを戻すかどうかなんて、全く分からない。
そもそもケイトはヨリを戻そうなんて微塵も考えていないし、勝手にフィルが負けを感じて彼女に別れを言い出さなかったら、ブロディーの転勤なんて全く意味が無いモノになる。
つまり、それはジェクシーがフィルとケイトを別れさせるための作戦でありながら、本人の力だけではどうにもならない部分が大きいわけで、それは上手くない。フィルはジェクシーの策略を知り、妨害を何とか突破してケイトとヨリを戻す。そもそもブロディーは復縁できると思っていなかったので、あっさりと身を引いて2人を応援してくれる。そしてジェクシーもフィルがケイトと復縁した途端、諦めて手を引く。
でも、ジェクシーの対応は、あまりにもヌルすぎるわ。
もっと早い段階で「嫉妬の鬼」として動かし、どんな手を使っても妨害するという執念を描いた方がいいよ。
最後の最後だけ、ものすごく都合良くジェクシーが諦めてくれるのよね。(観賞日:2022年5月30日)