『ジェイソン・ボーン』:2016、アメリカ&イギリス&中国
ジェイソン・ボーンはギリシャとアルバニアの国境へ車で赴き、賭け格闘技の試合に参加した。大勢の客が金を賭ける中、ボーンは対戦相手を一発のパンチでKOした。アイスランド・レイキャビク。ニッキー・パーソンズはクリスチャン・ディソルトが率いるハッカー集団のアジトへ行き、CIA本部の機密データにアクセスした。CIAのサイバー対策局員であるヘザー・リーは廃棄されたはずのデバイスを使用したハッキングに気付き、仲間と共に逆探知を開始した。
トレッドストーン作戦の資料を調べたニッキーは、ボーンの父であるリチャード・ウェッブが関与していたことを知って驚いた。ヘザーはシャットダウンするが、既にニッキーは必要なデータをダウンロードしていた。彼女はアジトのパソコンに火を放ち、ハッカーたちを拳銃で脅して立ち去る。CIA長官のロバート・デューイは部下のクレイグ・ジェファーズからハッキングの報告を受け、ディープドリーム社やアイアンハンド計画にも影響が出たと聞かされる。ディープドリーム社のCEOであるアーロン・カルーアもハッキングの報告を受け、「事を荒立てるな」と諭す側近のバウメンにデューイと会うセッティングを命じた。
ヘザーは犯人がニッキーであること、ボーンと繋がっていることを突き止めた。彼女はデューイやエドウィン・ラッセル国家情報長官と会い、まだ運用されていないアイアンハンドを含むブラック・オペレーションズのファイルを盗まれたと報告する。彼女がニッキーがアテネへ向かっていることを話すと、デューイは抹殺を口にした。ヘザーは自分を責任者にしてほしいと売り込み、ファイルにマルウェアを仕掛けたので追跡できると言う。「生きているならボーンも捕まえます」と訴えると、デューイは承諾した。
デュースはローマにいる殺し屋のアセットに連絡を取り、アテネへ向かうよう命じた。アテネで地下格闘技の試合に出たボーンは、観客の中にニッキーの姿を発見した。試合を終えるとニッキーは消えていたが、ボーンのバッグにはシンタグマ広場のキオスクへ来るよう書いたメモが残されていた。シンタグマ広場では大規模なデモが始まっており、デモ隊の中にニッキーは紛れた。デューイは彼女の動きを知り、ボーンと会うつもりだと確信した。
広場でデモ隊と特殊部隊が衝突する中、CIAの差し向けたチームが到着した。ボーンはニッキーと接触し、「クリスチャン・ディソルトのためにCIAをハッキングした。ブラック・オペレーションズのファイルをネットで公表する」と聞かされる。ヘザーは監視映像にニッキーの姿を捉え、デューイは拘束を命じた。ニッキーはアイアンハンドという新しい作戦が始まったことを告げるが、ボーンは協力に難色を示した。するとニッキーは、リチャードがトレッドストーンに関与していたこと、ボーンが計画の前から監視されていたことを教える。CIAはボーンの姿も確認し、デューイはチームに攻撃を指示する。
ボーンは一時的にニッキーと離れ、チームを倒して白バイを奪う。彼はニッキーと合流するが、駆け付けたアセットが車で追い掛ける。ボーンは追跡を撒いて広場へ向かうが、ヘザーの指示を受けたアセットは先回りして狙撃する。銃弾を受けたニッキーは、再び狙撃されて死亡した。ボーンは彼女が残したコインロッカーのキーを手に取り、その場から逃亡した。ヘザーから「アセットはボーンと因縁があるのでは?」と問われたデューイは、ボーンがブラックブライアー計画を暴露したせいでシリアに潜入していたアセットが捕まって拷問を受けたことを話した。
ボーンはコインロッカーを開け、ファイルの入ったUSBメモリやニッキーの手帳を入手した。カルーアは大勢の株主を集めた発表会を開き、新しく開発したプラットフォームについて説明する。このサービスで監視されることは絶対に無いと彼は断言するが、それは真っ赤な嘘だった。デューイと会ったカルーアは、「もう辞めたい」と訴える。彼はデューイと密約を交わし、ディープドリームのプラットフォームを利用して人々を監視することを承諾していた。するとデューイは脅しを掛け、密約の続行を強要した。
ボーンはベルリンのコルヴィッツプラッツを訪れ、ディソルトと接触してファイルを開くよう告げる。ディソルトがファイルを開いたことで、CIAはボーンの居場所を知った。ディソルトから手を組もうと提案されたボーンは、「俺はお前の味方じゃない」と拒否した。陰謀を後悔するためファイルを残すようディソルトは求めるが、ボーンは断った。ファイルを見たボーンは、リチャードがトレッドストーンの発案者だったこと、マルコム・スミスという男が自分を監視していたことを知った。
ディソルトかファイルを奪おうと襲って来たため、ボーンは反撃して退治した。ヘザーがファイルを削除すると、デューイはボーンに電話するよう命じた。ボーンは電話を取るが、デューイの呼び掛けを無視した。ヘザーはデューイに内緒で、暗殺チームが派遣されたことをボーンに伝えた。暗殺チームがディソルトのアパートへ到着するが、ボーンは平然と逃亡した。マルコムがロンドンの民間警備会社に勤務していることを知ったデューイは、アセットに準備させるようクレイグに指示した。
ヘザーは「ボーンを殺さずに連れ戻す方が得策では?」と言い、説得するチャンスを求めた。ラッセルは検討の余地を認め、デューイに後を任せた。デューイは司法省を動かしてディープドリーム社を独占禁止法違反で起訴し、カルーアに圧力を掛けた。カルーアはバウメンにデューイとの会談記録を全て集めるよう指示し、「保険が必要だ。ラスベガスへ行く」と告げた。バウメンはカルーアを裏切り、デューイに「彼がラスベガスで何かを企んでいます」と密告した。
ボーンはロンドンへ行き、マルコムに電話を掛けてパディントン・プラザへ呼び出した。ヘザーは追跡装置をアセットに渡して待機するよう指示し、チームにマルコムを尾行させる。アセットは追跡装置を捨て、尾行チームを全て始末する。デューイはアセットから報告を受けていたが、ボーンの仕業だとヘザーに吹き込んで「私が指示を出す。アセットにボーンを始末させる」と告げた。ボーンは火災報知機を作動させ、群衆の混乱に紛れてマルコムと接触した。マルコムはボーンからリチャードのことで詰問されるが、デューイが取り付けた通信機を使って「何も言うな」と指示される。しかしボーンに拳銃で脅され、「リチャードはお前が選ばれたと知り、計画を暴露すると脅して殺された」と白状した。
そこへアセットが現れてマルコムを始末するが、ボーンは姿を消した。デューイはアセットに「ボーンは必ず戻って来る。その時に片を付ける」と言い、空港へ行くよう命じた。ボーンはヘザーの車を見つけて拳銃で脅し、出発するよう要求した。彼がデューイの行き先を尋ねると、ヘザーはカルーアと会うためラスベガスのコンベンションへ向かうと答える。アイアンハンドについてボーンが訊くと、彼女は「デューイの新しい計画よ。全世界的な監視網。それにはカルーアの協力が必要だわ」と告げた。
ヘザーは「私が手を貸す。デューイを葬りたい。これを使って」とスマホを差し出し、ボーンは「ベガスで会おう」と告げて彼女と別れた。ヘザーの裏工作で、ボーンは無事にアメリカへ入国することが出来た。デューイはクレイグたちを伴ってコンベンション会場に入り、アセットもベガスに到着する。デューイはアセットに連絡を入れ、「カルーアを仕留めたら横に立っている私の左手も撃て。私も狙われたと思わせた方がいい」と指示した…。監督はポール・グリーングラス、キャラクター創作はロバート・ラドラム、脚本はポール・グリーングラス&クリストファー・ラウズ、製作はフランク・マーシャル&ジェフリー・M・ワイナー&ベン・スミス&マット・デイモン&ポール・グリーングラス&グレゴリー・グッドマン、製作総指揮はヘンリー・モリソン&クリストファー・ラウズ&ジェニファー・トッド&ダグ・ライマン、共同製作はクリス・カレラス、製作協力はエイミー・ロード&コリン・オハラ、撮影はバリー・アクロイド、美術はポール・カービー&ポール・イングリス&マーク・スクラットン&キャティー・マキシー、編集はクリストファー・ラウズ、衣装はマーク・ブリッジス、視覚効果監修はチャーリー・ノーブル、音楽はジョン・パウエル&デヴィッド・バックリー。
出演はマット・デイモン、トミー・リー・ジョーンズ、アリシア・ヴィカンダー、ヴァンサン・カッセル、ジュリア・スタイルズ、リズ・アーメッド、アトー・エッサンドー、スコット・シェパード、ビル・キャンプ、ヴィツェンツ・キーファー、スティーヴン・クンケン、グレッグ・ヘンリー、ベン・スタイリアヌー、カヤ・ユズキ、マシュー・オニール、リジー・フィリップス、パリス・スタングル、マット・ブレア、エイミー・デ・ブラン、アキエ・コタベ、ロビン・クラウチ他。
ロバート・ラドラムの小説を基にした“ジェイソン・ボーン”シリーズの第5作。
シリーズ3作目までの主演だったマット・デイモンとニッキー役のジュリア・スタイルズ、2作目&3作目の監督を務めたポール・グリーングラスが復帰している。
脚本は、グリーングラスと編集マンのクリストファー・ラウズによる共同。
デューイをトミー・リー・ジョーンズ、ヘザーをアリシア・ヴィカンダー、アセットをヴァンサン・カッセル、カルーアをリズ・アーメッド、クレイグをアトー・エッサンドー、ラッセルをスコット・シェパード、マルコムをビル・キャンプ、ディソルトをヴィツェンツ・キーファー、バウメンをスティーヴン・クンケン、リチャードをグレッグ・ヘンリーが演じている。“ジェイソン・ボーン”シリーズは、最初の3部作で綺麗に完結したはずだった。ロバート・ラドラムの原作小説も全3作で完結しており、『ボーン・アルティメイタム』は最終作である『最後の暗殺者』を基にしていた。3作目ではボーンの過去が明らかになり、そこで話としては完全に終わりを迎えていたのだ。
ところが3部作の大ヒットを受け、まだ稼げると踏んだユニバーサル・ピクチャーズは続編を企画した。
原作のシリーズを引き継いだエリック・ヴァン・ラストベーダーが2004年に第4作『ボーン・レガシー』を発表したので、まさに渡りに船という状況だった。
しかしポール・グリーングラスが監督を降板し、それに伴ってマット・デイモンにもオファーを断られた。それでも4作目を作りたかったユニバーサルはジェレミー・レナーを主演に据えて「ボーンとは別の主人公」「原作小説とは全く内容の異なるシナリオ」を用意した。
そんなバッタモンのシリーズ4作目は、3部作ほどの評価や興行成績を得ることが出来なかった。
さすがにユニバーサルもシリーズ続行を断念するかと思いきや、まるで諦めなかった。そしてラッキーなことに、ポール・グリーングラスとマット・デイモンが続編の企画に乗ってくれた。
こうなれば、もうユニバーサルに怖い物など無い。
こうして、5作目が作られることになったのである。最初の3部作からボーンを除けば唯一の皆勤賞であるニッキーを、前半で簡単に殺している。3部作におけるフランカ・ポテンテが演じたマリーと、似たような扱いだ。マリーは1作目でヒロインだったのに、2作目の前半で簡単に殺されていた。
もっと大事に扱ってもいいようなキャラクターなのだが、まるで気にせずに使い捨ててしまう。
「このシリーズはジェイソン・ボーンさえいれば、他の連中は次々に入れ替えても構わない」ってことなんだろう。
そこが良くも悪くも、スパイ映画の大先輩である007シリーズとの大きな違いだね。
あっちの方は、「ただの飾りでもいいからミス・マネーペニーは出すべき」とか「秘密道具と同じぐらいQは必要」と感じるからね。既に最初の3部作でジェイソン・ボーンの「アイデンティティーを巡る冒険」は終わっているし、CIAが彼を追う理由も消滅している。
だからシリーズを続けるならば、それぞれに「新たな行動理由」を用意する必要がある。
っていうか、「CIAがボーンを始末しようと目論んで追い掛ける」というパターンを使わなければ、双方に行動理由を用意する必要は無い。
しかし、そこのパターンは踏襲したかったようだ。
まあ同じパターンを使った方が、何かと便利だからね。大きく変化させることでファンに拒絶されるリスクを避けた結果として、「御馴染みの」という安心感は得られている。
しかし、何から何まで3部作の模倣に頼ってしまったことで、見事なぐらい「焼き直し」という状態に陥っている。
わざわざ最初の3部作を仕切り直して再スタートさせておいて、すっかりマンネリズムに陥っているのでは続編の意味が無い。
もちろん今までのパターンやテイストを大事にすることも必要だが、やはり何かしらのアップデートを持ち込むべきだ。それが本作品には見当たらないのだ。
「昔の名前で出ています」という状態なのだ。CIAがボーンを追い掛けて始末しようとする理由としては、「ボーンが極秘計画のファイルを手に入れて暴露するに違いないから、それを阻止するため」という設定を用意している。
それは最初の3部作と全く同じ理由であり、「またかよ」と言いたくなる。
ボーンが行動する理由は、「自分の父親が死んだ事情について調べるため」という設定を用意してある。
でもザックリ言っちゃうと、これまた3部作と大して変わらないんだよね。そもそも3部作の頃から、「ジェイソン・ボーンが自分の過去を探る」という要素については全く牽引力を感じていなかった。「こういう話なら、こういう答えに辿り着く」という定番の法則があって、「隠されている真相」は容易に想像できるからだ。
第3作で「研究所の訓練で殺人マシーンになった」という答えが明らかにされても、「そんなの、とっくの昔に分かっていたことなので」という印象でしかなかった。何の驚きも無い答えなので、「さんざん引っ張った結果が、それですか」と言いたくなった。
今回は自分じゃなくて父親の過去だけど、それも結局はボーンに関わる問題であって。
そして今回も真実が明かされた時に、何の驚きも無い。「ボーンを守るために計画を暴露しようとして父親が殺された」と説明されても、「で、だから?」と言いたくなる。ニッキーが「貴方は長く苦しんで来たけど、彼らに何をされたか知らない。あのファイルを読むべきよ」と促し、それにボーンは動揺している。
そりゃあ本人からすると、自分の過去に関わる情報が書いてあると聞いたら気になるだろうとは思うのよ。だけど観客という立場からすると、もはや「CIAがボーンに何をしたのか」という情報なんて全く興味が湧かないのよね。
「ボーンの過去に何があったのか」ということで観客の興味を引き付けようとしても、それは難しいんじゃないかと。
もはや最初の3部作で、「所詮は誰でも思い付くような答えしか用意できないでしょ」という底が見えちゃってるわけでね。
実際、その通りだったし。CIAがボーンを追い掛ける目的も、ボーンが行動する理由も、大まかに言えば3部作と同じ。ボーンを始末しようとするCIA長官と、それに疑問を抱いてボーン側へ寄って行く部下の女性というキャラの配置も、やはり3部作と同じ。
ボーンが群衆に紛れて情報提供者と接触するとか、CIAがコンピュータでボーンを追跡するけど撒かれるとか、ボーンがCIAの差し向けた殺し屋とカーチェイスを繰り広げるとか、様々な展開も3部作を連想させる。
この映画って、最初の3部作が残した遺産を早々と食い潰しているだけなんだよね。
まだ3作目が公開されてから10年も経たない内に、もう遺産を使い果たしちゃうのかと。あえて3部作からの変化を探すとすれば、「アクションへの傾倒が強くなった」ということぐらいだろうか。
しかも、そんな唯一と言ってもいい変化は、映画の魅力に全く貢献していない。むしろマイナスしか感じない。
そもそもポール・グリーングラスのアクション演出は「手持ちカメラを無闇に動かしまくり、カットを細かく割りまくり、そのせいで映像がガチャガチャしていて何がどう動いているのかサッパリ分からない」というモノだ。それは今回も健在なので、そんなアクションシーンが増えても目が疲れるだけなのよね。
しかも厄介なことに、ポール・グリーングラスってアクションシーン以外でも同じような演出を持ち込むし。
あと、そういう映像演出も、これまたマンネリズムに陥っており、「もう飽きたよ」と言いたくなってしまうのだ。今回の実行部隊であるアセットには、ボーンとの因縁を用意して「恨みを晴らすため」という強い行動目的を設定してある。
だが、それがキャラクターの魅力や映画の面白さに貢献しているのかというと、答えはノーだ。むしろ、それがキャラの薄っぺらさに繋がっているという印象さえ受ける。
何しろ、彼が恨みを抱くに至る出来事は、過去の3部作で描かれているわけではない。今回の作品中で、回想シーンとして描かれるわけでもない。
つまり、デューイが台詞で申し訳程度に「こんなことがあったからボーンを恨んでいる」と言うだけなのだ。
「狂気の復讐者」として振り切ったキャラになっているわけでもないし、だったら「デューイの忠実な下僕として冷徹に任務を遂行する殺し屋」でも大して変わらんでしょ。
しかも、強い復讐心を抱き、そのために命令を無視しようとする態度さえ見せていたのに、なぜか終盤にはボーンからの逃亡を図るんだよね。それはヌルすぎるし、キャラがブレてるでしょ。(観賞日:2018年2月12日)
2016年度 HIHOはくさいアワード:第5位